SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ バレンタインは犠牲になったのだ…勇パルでホワイトデーする犠牲に…


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 太陽の光さえ届かぬ地の底。
 幻想郷の地上と地底を繋ぐ巨大な洞穴の中に、その橋はあった。

 ――渡る者が途絶えた橋。

 つけられた名の如く、この橋を渡る人間、あるいは妖怪は存在しない。夜
の闇よりも濃い暗闇に浮かび上がる橋は不気味の一言で、進んでここを訪れ
る者は、よほどの酔狂の持ち主か、はたまたこの橋と強い縁を持つ者か。

 しかし、誰もいないと思われた橋の上に、一つの人影があった。
 ややウェーブがかかった金色の髪に、鋭角的に尖った耳、ペルシャの民族
衣装によく似た装束を纏った少女。緑色の瞳に憂鬱を滲ませて、彼女はたっ
たひとりで、洞穴の上を見上げる。その視線の先にある〝何か〟を、求める
ように。

 彼女の名は、水橋パルスィ。
 『嫉妬心を操る程度の能力』を持ち、ここ幻想郷に生きる有象無象の妖怪
のひとつ、橋姫である。

 ――橋姫。
 橋に奉られ橋を守護する女神、あるいは嫉妬に狂い橋から身を投げた人間
が成り果てた鬼神であるとも伝えられる妖怪。有名なのは京に伝わる『宇治
の橋姫』だろうか。最愛の夫を別の女に奪われ嫉妬に狂い、呪いの成就を祈
願し宇治の水底に沈んだ〝ある女〟は、妖怪橋姫に変じ、憎い恋敵と縁を結
ぶ者の悉くを憑り殺したあげく、その時代に生きた稀代の陰陽師に調伏され
たという。

 その『宇治の橋姫』とパルスィの間にどんな関連性があるのか、誰も知ら
ない。この橋に訪れる者はいないし、何より、パルスィが過去を語りたがら
ないためだ。ただ、パルスィが『宇治の橋姫』と同一ではなくとも、似たよ
うな過去を経てきたことは推察できる。

 ――彼女は、この橋から離れることができない。
 強力な呪いにも似た縁が、パルスィをこの橋に縛っている。

 橋姫は数々の伝承に残っているように、橋と縁を持ち、嫉妬に狂った人間
が変じた妖怪だ。この場所から動けぬほど強い由縁が橋とパルスィとの間に
在る以上、彼女が胸に秘するにはあまりにもつらい想い――おそらくは大切
な人を奪われた悲しみからくる嫉妬――を遺して死んだ人間だったことはわ
かる。

 パルスィは何も語らず、ずっと橋の上を見つめている。
 その先にある、暗闇蠢く地底とは違い、美しき蒼穹が広がる地上を想う。

「……きっと今頃、地底と地上の妖怪たちで宴会でもやってる最中かしらね。
ふん、『過去の諍いは忘れて仲良くしましょう』、か。その能天気ぶりが嫉
ましいわ」

 妖怪の賢者は謳う。『幻想郷はすべてを受け入れる』と。
 だが建前では『すべてを受け入れる』と謳っていても、実際には偏見や差
別や争いがないわけではない。よく楽園と呼ばれる幻想郷ではあるが、ヒエ
ラルキーの頂点にいる妖怪の中には人喰いを嗜好するものもいるし、人里に
は妖怪退治の知識を蒐集してきた退魔の末裔が暮らしている。

 どんなに大層なお題目を掲げても、決して綺麗なままでは生きられない。
地上に住む以上、穢れを免れることはできない。清濁白黒すべてを内包する
小さな世界、それが今の幻想郷だった。

 そして地底に棲む妖怪たちは、その幻想郷の黒い部分の象徴とも言えた。

 地底――人間と妖怪から忌み嫌われる者達の掃き溜めとも言える場所。
 すべてを受け入れると謳う幻想郷においても、人間や妖怪から疎まれ、忌
避された妖怪たち。屍骸を集める妖怪、他人の心を読む妖怪、疫病をもたら
す妖怪、どれも普通の人間や妖怪との共存が難しいものたちだ。

 屍骸を蒐集して悦ぶ妖怪と仲良くしたいと思う者がいるだろうか。自分の
心を曝け出されて不安に思わぬ者はいるだろうか。身体が病魔に蝕まれても
手を取り合いたいと思う者がいるだろうか。

 彼らの居場所は幻想郷には存在しなかった。人間はもちろん、朋友である
はずの妖怪からも見捨てられた。そんな現状を憂慮したひとりの妖怪の賢者
と、現在の地霊殿の盟主である妖怪〝覚〟との間で、苦肉の策がとられた。

 幻想郷の地下に存在する、広大な空間。旧地獄街道も在るその場所に、忌
み嫌われる妖怪たちを集めて、地上とは別のコミュニティを造る。そして地
上へと続く洞穴を閉ざし、地底と地上の接触を永久に禁止する。『こっちは
こっちでやるから、そっちはそっちで楽しくやってくれ。もう何も奪わない
でくれ』ということだ。

 かくして妖怪の賢者と地霊殿の盟主との間で秘密の約定が結ばれ、以後、
ながらく地底と地上は断絶状態にあった。

 しかし最近になってその事情も幾らか変化してきた。
 間欠泉の異変以後、地底と地上の交流が再開されたのだ。

 『楽園の素敵な巫女』博麗霊夢と、
 『普通の魔法使い』霧雨魔理沙によって。

 突如として地上に噴出した間欠泉に亡霊が紛れていたことを不審に思った
ふたりは、その謎を解明するために、封印されていた地底への道を拓き、異
変の首謀者たちを叩きのめした。それによってなし崩し的に地上と地底の交
流は再開された。パルスィ自身としては、そんな適当でよいのだろうかと感
じたものだが、地上と地底の共存は思いのほか上手くいっているらしい。

 件の異変の首謀者であった妖怪とその友人はしょっちゅう地上に顔を出し
ているとのことだし、反対に地底にくる妖怪も多くなった。
 妖怪の山の四天王の一角、『小さな百鬼夜行』伊吹萃香がその筆頭だろう。
 彼女は、地上を棄てて地底に住むようになった鬼たちが築いた旧都に、よ
く飲み比べをするために足を運んでいる。どう見ても幼女にしか見えない伊
吹萃香が、屈強な鬼たちを酔い潰し屈服させていく様はまさに圧巻の一言だ
ったと、パルスィは風の噂に聞いていた。

 これまでの確執が嘘のように、地底と地上は友好を結んでいる。
 それだけ幻想郷の住人の精神が豊かになったということの証左なのだろう
か。パルスィにはわからない。ただ、上位妖怪の間に限って言えば、地底妖
怪の対する偏見は既に取り払われたと見ていいだろう。

 地底の妖怪たちは、暖かな光を手に入れたのだ。
 しかし自分はそうはいかない。手を取り合って輪に入りたくても、橋の呪
いがそれを赦してくれない。どれだけ焦がれこの手を伸ばそうと、暖かな光
を掴むことはできない。この暗く湿った地底に永劫留まり続け、光が降り注
ぐ地上に生きる幸せな者達を嫉み続ける――それが妖怪橋姫に堕した自分に
お似合いの運命だ。

 ……そう、パルスィはずっと思っていたのだが。

「また今日も辛気臭い顔してるなパルスィ、そんなんじゃせっかくの美人が
台無しだぞ!」

「ぐわらば!?」

 どすぅ! 突然背中に生じた衝撃によって、パルスィは空に吹っ飛んだ。
緩やかな放物線を描いてパルスィはゆっくりと落下し、橋の手すりと激突。
「ぶしゃあああ」と額から盛大に血飛沫を撒き散らしながら、ごろごろと橋
の上を転がり、そのまま橋の下を流れる川に転落。哀れ水橋パルスィは地底
の迷宮に散った。

「いきなり背中ブッ叩いてなに考えてんだこの馬鹿鬼がァ! おかげで三途
の川のむこうでおいでおいでする元夫の姿が見えたわ!」

 いや生きてた。頭からだくだくと血を流しながら這い出してきた。まるで
貴船神社へ祈願しに行った時のように鬼気迫る表情で、自分の背中を叩いた
誰かを睨みつける。

「すまんすまん。しかしパルスィは貧弱だなあ、私は軽く撫でただけだぞ?」

「人を虚弱児みたいに言うな! ハッ! さすがは『語られる怪力乱神』の
異名の持ち主、あんたにかかればどんな人妖も指先ひとつでダウンでしょう
ね! 私なんて、あんたからすれば路傍に転がる石ころみたいなモンでしょ
うね!」

「ははは。あんな酷い仕打ちをされたのに、私のことを褒めるだなんて、や
っぱりパルスィは他人のいいところを見つける天才だなあ」

「自覚してやがったよこいつ! しかも皮肉がまったく通じてねえ――!」

「まあまあ気を静めなよ。じゃないといつまでたっても血が止まらないよ?」

「だれの所為だよくそったれ! ――うわあ、これまじで致命傷だよ。血が
だくだくって止まる気配ないもの。……うふふ、また三途の川が見えてきた
わあ。小町さんは相変わらずシエスタしてるのね。ああ、あの人がいる……
ああ、あの人も……なんだ、みんな、幸せにしてたのね……」

「モルヒネの麻酔のまぼろしさ~、そうでなきゃきっとうわごと~」

「まぼろしでも夢でもいいじゃない~、あ~、モモコは~、しあーわーせ~
――って何を歌わせてる!? ってかモモコってだれ!?」

「世を儚み生まれ変わるため空へと飛んで、最後に救われた少女さ。きっと
ね(キリッ」

「なにが(キリッよ! こっちは死に掛けたってのに! ってかまぼろしでも元
夫が幸せそうにのうのうと天国で暮らしてるのが嫉ましい! くそ、「世界
で君だけを愛している」ってほざいたくせにすぐ別の女に乗り換えやがって!
 また祟り殺してやろかあの野郎――!」

「ただあのアルバムの恐るべきところはちょっと救いが見えた瞬間に、何の
救いもない楽曲を最後に据えて一気に突き落とすところにあるね。私は嘘も
バッドエンドも大嫌いで、あのバンドとは絶対に相容れないと思っているけ
れど、そんな個人的な感情は抜きにしても、『レティクル座』は名盤だと思
っているよ」

「無視された!? けっこう重い話なのにどうでもいいCDの感想で華麗に
スルーされちゃったよ私の過去設定! あんたが来た所為でこれまでのシリ
アスな空気がすっかり迷子よ! このシリアスブレイカー! どう責任とっ
てくれんのよ! ってかあんたも私も地底で数百年は過ごして来たって設定
でしょうが! 何で外の人間の、しかもいまではコアな音楽ファンしか知ら
ないグループの楽曲なんて知ってるのよ!」

「きっと絶望少女辺りの楽曲聴いて久しぶりに筋少熱がぶり返した作者が、
境界の妖怪にメタの境界をいじくらせてゴリ押しした結果だろうなあ」

「作者の都合にあわせて能力行使しなきゃいけないなんて八雲紫も大変ね!?
 あげく大体の東方SSではくろまく(笑)的扱い。クロスオーバー作品での
他作品間の接着剤、『境界を操る程度の能力』で、どんなキャラもお手軽に
幻想入り! ああ、世のSS作家から便利屋扱いされる優遇っぷりが嫉まし
い!」

「パルスィ、メタ発言は禁じ手だ。無闇に使っていいものじゃない。その発
言はいろんな人を敵に回す。それになにより、サマサさんに失礼だろう!」

「知らないわよ! サマサって誰よ!」

「謝れ! サマサさんに謝れ!」

「ぬぐ……ゴ、ゴメンナサイ……」

「んん? 聞こえんなあ~」

「~~ッ! ……失礼な発言をして本当に申し訳ありませんでしたっ! ど
うよ、これで文句ないでしょ!?」

「ああ。しかし本当に、メタ発言は控えるんだぞ、パルスィ」

「真っ先にその禁じ手を破ったあんたにだけは言われたくなかったご忠告ど
うもありがとう! 有難すぎて涙と血が止まらないわ!」

「むう、確かにこのままほっとくと不味いことになるな。よしわかった、つ
きっきりで看病してあげよう、私のお姫様。まずは悪いばい菌が入り込まな
いよう傷口を酒で消毒しよう」

「くそっ、結局それが目的かよこのエロ鬼がァ! 何かにつけて私の身体に
触ろうとしやがって、その大胆さが嫉ましい! って頭にぶっかけられたお
酒が傷口に染みてくきぃぃぃぃぃ!?」

「……パルスィ。濡れそぼってるあんた、中々エロティックだな……」

「おいやめろ、そんな熱っぽい視線で私を見るな、ってあんた私の上着に手
をかけて何をしようとしてるやめろ馬鹿――!!」


 少女格闘中……。


「はー、はー、はー、はー、はー……」

「悪ふざけが過ぎたことは謝るよ、パルスィ。だからそろそろ機嫌をなおし
てくれないか?」

「ふん!」

 鼻息荒くそっぽを向くパルスィと、両手を合わせて謝罪の意を示す女性。
 額からそそり立つ紅の角、腰までかかる鮮やかな金色の髪。体操着に酷似
した装束はややサイズがあってはいないらしく、ぴったりと彼女の肢体に張
り付き、その豊満なバストを強調している。

 彼女の名は、星熊勇儀(ほしくま・ゆうぎ)。旧都に棲む鬼たちの総元締め
として、地霊殿の盟主である古明地さとりとともに、この地底を治める妖怪
である。

 『心を読む程度の能力』によって地底の妖怪からも避けられている古明地
さとりとは違い、勇儀は豪放磊落で姉御肌な性格のため、仲間の鬼だけでは
なく多くの地底妖怪に慕われていた。

「……で、今日はいったい何の用よ?」

 やっと血が止まり、平静さを取り戻したパルスィが問う。

「いやなに、パルスィと一杯飲もうかと思ってね」

「……またなの? まったく、酒さえ飲めれば万事オッケーなそのポジティ
ブさが嫉ましいわ」

「そういうパルスィだって鬼じゃないか」

「私は橋姫よ。貴船さまの加護で鬼神に変じたとはいえ、元は人間だもの。
根っからの酒豪じゃないの。あんたのペースにあわせてちゃ身が持たないし、
そもそも私は酒が苦手で……」

「まあまあ、とにかく呑もう!」

「話聞いてたのかこの馬鹿鬼!」

 こちらの都合を一切省みない彼女の姿勢に、パルスィは少しだけ苛立つ。
星熊勇儀という妖怪はいつもこうだ。己の力で万事解決すると思っている。
こちらの憂鬱な気分を粉々に打ち砕いてくれる。別に頼んだわけでもないの
に、この妖怪は、自分の傍にいてくれる。そんなマイペース極まる彼女に振
り回されるのは一度や二度だけではなかった。

 だが、大江山にこの鬼ありと怖れられた彼女に抗えるだけの力は、自分に
はない。今日も記憶がなくなるまで酒を飲まされ、明日は二日酔いに苦しむ
ことになる――そんなのは毎度のことで、もう慣れっこだったが。
 だが、今日はいつもと違うようだ。パルスィは、勇儀がいつもの酒とは別
に、他の〝何か〟を持ってきていることに気がついた。

「なによそれ」

「ん、ああこいつかい?」

 それは小さな紙箱だった。異国風の装飾が施されたもので、日本生まれの
妖怪である勇儀には少々似合わない代物だった。
 パルスィにはその紙箱に見覚えがあった。それと似たような箱を見た記憶
があった。

「あ、それもしかして……バ、バレリオン?」

「どこの砲撃戦型AMだいそれ。バレンタインチョコだよ、バレンタイン」

「そ、そう、それそれ。あの黒白の魔法使いが広めたっていう」

「あの時はたまげたなあ。彗星がパルスィの真上に落っこちて爆発したと思
ったら、パルスィの後頭部にちっこい紙箱が埋まっててさ」

「リアルメテオストライクで死に掛けたけどね……怪力を発揮したり、隕石
から地球を救ったりとかはなかったけど」

 ――バレンタイン。外の世界の男女間で行われているというそれは、何年
か前に起こった星降る夜の砂糖菓子の流星と、それに呼応して八雲家が主催
した遊惰な星隠しというただの馬鹿騒ぎによって、幻想郷の住人の知るとこ
ろになった。いまではすっかり、バレンタインは幻想郷の恒例行事となって
いる。

 おかげでチョコの材料の調達に境界の妖怪が奔走する羽目になったとか、
鈍感な片思い相手に対する日ごろ溜まった鬱憤……いや、純粋なる想いをチ
ョコとして伝えるべく集まった同士たち――中心人物は七色の人形遣い――
による、お料理教室が開かれていたりとか、そのたびにアクシデントが発生
しチョコが大爆発を起こして台無しになったりとかは、それはまた別のおは
なしである。

「ふーん。もうそんな時季なのね。知らなかったわ」

「ずっと地底にいると時間の流れも曖昧になっちまうのかね。地上じゃすご
い騒ぎだったよ」

「悪かったわね。どうせ引き篭もりみたいなものよ、私は。でもあんただっ
てつい最近まで同じようなものだったじゃない。自由に地上に行けるように
なったからって偉そうにすんな」

「すまんすまん、そう腐りなさんな」

「で、そろそろ私は理由が聞きたいわね。どうしてあんたは、〝今になって
〟チョコを持ってきたりしたのよ」

 今日は3月14日。バレンタインデーはもうとっくの昔に過ぎている。今
頃になってチョコを渡す理由がわからない。もし彼女がバレンタインをすっ
かり忘れていて、その埋め合わせをするためだけにチョコを持ってきたのだ
としたら、興ざめを通り越して怒りを覚えてしまうところだ。
 ……本当は。バレンタインの日、ずっとずっと、彼女が来るのを待ってい
たというのに。

「実はなパルスィ、誰かに親愛を示すためチョコを渡すイベントは、バレン
タインデーだけじゃないんだ」

 ――ホワイトデー。
 バレンタインデーにチョコを貰ったひとが、お返しとしてプレゼントを渡
す日。

「……な、なによそれ。私、勇儀にチョコなんて渡してないわよ。お返しだ
なんて……」

「パルスィは私と酒を飲んでくれるじゃないか。無理を言って押しかけてる
に、パルスィは絶対に断らない。これはそのお礼だよ」

「そんなこと言って……ただ酒が飲みたくて、そんな口実作ってるだけじゃ
ないの?」

「そうかもしれん。地底に咲く可憐な花を愛でながら味わう酒は、千年の月
日を閲した名酒が霞むほど格別だからね」

「……そんな恥ずかしい台詞がぽんぽん出てくるあんたの言語中枢が嫉まし
いわ」

 そんな風に憎まれ口を叩きながら、パルスィはチョコを受け取った。
 ――本当は飛び上がって抱きつきたくなるほど嬉しかったのだが、意地っ
張りな彼女は、寸での所で自分を押し留めた。

「ありがとう、私、とってもうれしいわ」――だなんて、絶対に言ってあげ
ない。そんな顔から火が出そうな台詞を吐いて、彼女を喜ばせてたまるもの
か。いつも彼女に振り回されているのだ、そのくらいの意地悪をしても別に
ばちは当たらないだろう。

「では、パルスィと私のこれからに幸多からんことを祈って」

「……目の前の馬鹿がいつか治癒されることを祈って」

 言葉と酒盃を交わして、パルスィと勇儀はホワイトデーのチョコを味わった。




<了>



 少女飲酒中……。

 少女飲酒中……。

 少女飲酒中……。

 少女泥酔中……。


「ふあああああぁああん、ゆうぅぎぃいい、いつも私なんかにかまってくれ
てありがとぉぉぉぉぉぉぉ! 私、ぜんっぜん素直じゃないからいつもツン
ツンしてるけど、ゆうぎと会えるのとっっっっっっっても楽しみにしてるん
だかりゃあ!」

「パルスィ。呑みすぎだ」

「にょませた当人がにゃあにいってるのよぉ、ヒック。――ふわあ、ゆうぎ
のおっぱいやわらかぁい。もふもふ! もふもふぅ! なによぉこの生意気
なおっぱい、ぺったらな私をばかにしてんの? 嫉ましい! でもさわっち
ゃう! つんつくつんつくつんつくつん!」

「や、やめなよパルスィ。くすぐったいよ……」

「なによ! 私におっぱいさわられるのがイヤなの!? 嘘だっ! どうせ
さわられたいから私のところに夜這いにきてんでしょ? 私のことが大好き
で大好きで仕方がないんでしょ!?」

「ああ。大好きさね」

「私も大好きぃ! ゆうぎのことを世界でいっっっっちばん愛してりゅのぉ!
でもどう愛したりゃいいかわからにゃいのぉ! また裏切られるかもしれに
ゃいって不安でたまらにゃいのぉ! もうあんにゃ想いはしたくにゃいのぉ!
もうひとりはぜったいにいやぁ!」

「私はパルスィのことをひとりにはしないよ。ずっとパルスィの傍にいる」

「……それ、ほんと? 嘘じゃない?」

「私が嘘が大嫌いってことは、パルスィだって知っているだろう?」

「う……ひっぐ。ゆうぎぃ、愛してるぅっ! 大好きっ! 私、ゆうぎから
絶対に離れない! ずっといっしょにいるぅ!」

「ははははは。パルスィは甘えんぼだなあ」

「そう! 私は甘えんぼらのぉ! だからこれからはたっくさん甘えるのぉ!
 世界中が私に嫉妬するくらいに! 勇儀から愛されて幸せな私に世界中が
嫉妬するくらいにぃ! ……んみゅ、ふわぁ」

「眠くなったのかい、パルスィ」

「……うん」

「もう遅いから休みな、私が傍にいるから」

「そうするぅ……わあぃ、勇儀の膝枕、きもちいい……zzz」

「……ふふ」

「――成る程、『パルスィの寝顔がかわいすぎて生きるのがツライこのまま
ちゅっちゅしたい』、ですか」

「んな!? ――なんだいびっくりさせないでおくれよ、古明地」

「これは失礼、私の能力は自動的ですので」

 氷のような無表情で、どこぞの死神のようなことをのたまう少女。 
 癖毛のある薄い紫色の短髪、淡い空色をした部屋着、そして胸のあたりに
ある、ぎょろりと開いた第三の瞳……。

 彼女の名は、古明地さとり。
 旧灼熱地獄跡に建造された地霊殿に盟主として君臨し、この地底を治める
妖怪覚(さとり)。そして忌み嫌われる妖怪たちの筆頭でもある。

 彼女の能力――『心を読む程度の能力』に恐れを抱かない者はいない。そ
れは幻想郷最強種と謳われる鬼とて例外ではない。旧都の鬼は、さとりが棲
む地霊殿に決して近づかない。

 ただ勇儀とさとりの両名に関してだけは、けっこう仲が良かった。
 勇儀の頼みを聞いて、さとりが重い腰を上げて地上へ赴く程度には。

「まったく、こんないたいけな幼女に重労働させるなんてあなたは鬼ですか。
……なになに、『あんただってウン百歳はいってるババアじゃないか』、で
すって? 失礼な、どうみても小五にしか見えない私とBBA(Beautiful B
eing Alliance)の御三方と一緒にしないでください。それに実際きついんで
すよ、あなたと違って私はデスクワーク派ですし、しかも地上は煩悩まみれ
の者が多くて歩くだけで心が削られて……」

「あー、わかったよ古明地。ちゃんと感謝してるよ。私の頼みを聞いてくれ
て、ありがとうな」

「……嘘は言ってないようですね。ま、あなたに限って嘘をつくことなどあ
りえませんが」

 ふう、とさとりは疲れたように息をついた。そして勇儀の膝の上ですやす
やと眠るパルスィを、醒めた目つきで見つめる。

「しかし最初に聞いた時は耳を疑いましたよ。まさか、あの星熊勇儀がチョ
コを作りたいなんて、ねえ」

 勇儀の頼み――チョコレートのレシピを教えて欲しい。
 さとりは思わず椅子からこけるほど驚いたが、彼女の真剣な表情と心を視
て、旧友のために一肌脱ぐことに決めた。

 まずは地上に赴き、七色の人形遣いからレシピを入手。次は境界の妖怪の
トラウマを自分の能力の応用で刺激、「れんこぉぉぉぉぉぉ!」と叫び涙を
流す境界の妖怪の隙をついて、チョコの材料を強奪。ここまでは順調にいっ
た。問題は調理の段階で起こった。

 『語られる怪力乱神』星熊勇儀。生れ落ちてざっと数百年、生まれてこの
方料理をしたことがない。刃物を持ったことがない、そもそも酒とつまみだ
けで生きているような妖怪である。そんな彼女がチョコを作る――道のりは
あまりにも険しく、ゴールは遥か彼方にあった。

 砂糖と塩を間違えたりするのは可愛いもので、調理過程で「正体不明の種」
を混ぜてしまい名状し難きもっと別の何か的な代物が出来上がったり、火加
減を盛大に誤ってあわや地霊殿が核融合の炎に包まれる大惨事にまで発展し
そうになったり。

 そんなこんなで、ようやくチョコが出来上がったのは昨日。完成したチョ
コを手に意気揚々とパルスィの元へ向かった勇儀と、灰燼と化した地霊殿を
背にそれを見送ったさとりとその家族。自分たちの住居が壊滅する羽目にな
ったが、普段見られないような勇儀の慌てた表情だったりとか乙女らしい表
情とかを見られたので、さとり個人として満足していた。

「それにしても、ふふ。チョコの出来で一喜一憂するあなたの心を視るのは
痛快でしたね。本当にごちそうさまでした」 

「相変わらず趣味が悪いね、古明地」 

「失礼、私はひねくれているのでね。……しかし、わかりませんね、勇儀。
なぜあなたがパルスィにチョコを渡したいと……何々、『簡単なことさ、パ
ルスィの笑顔が見たかっただけだよ』……はいはいバカップルバカップル。
ああいや、質問の仕方を間違ったようですね。あなたは何故そんなにも水橋
パルスィに入れ込むのですか?」

「パルスィが幸せなことを積み重ねることでさ、橋の呪いが解けるかと思っ
て」

「…………」

「こいつは、自分は絶対に幸せにはなれないって思い込んでる。どんなに他
人を愛しても、いつか裏切られるんじゃないかって、怖くてたまらないんだ。
誰かを愛することで自分が深く傷つくなら、もう愛なんていらない。この橋
で、誰とも会わず、孤独に生きる……橋姫と橋の縁ももちろんあるだろうが、
パルスィがこの橋から離れられないのは、無意識下で他人を拒絶しているからさ。
 ……私はパルスィの過去に何があったのか知らない。別に無理に知ろうと
も思わない。でもさ、過去に囚われたまま孤独に生きるなんて、あまりにつ
らいことじゃないか。だから私は、パルスィに教えてやるって決めたのさ。
あんたは絶対に幸せになれる、私がしてやる、ってね」 

「それで、バレンタインデー……いや、ホワイトデー、ですか」

「ああ。――私はパルスィを世界で一番の幸せものにしてやりたい。膨大な
不幸せな過去を、膨大な幸せな現在が粉砕し、パルスィを笑顔でいっぱいに
させてやりたいんだ」

「……しかし、そんな日が本当に来るのでしょうか」

「来るさ。地底が解放され、人妖問わず、みんな笑って暮らせてるいまの幻
想郷なら。――古明地。いや、さとり。あんたとあんたの妹だって、きっと
〝そう〟なるさ」

「……ふ。鬼たるあなたがそう言うのなら、それは嘘ではないでしょうね」

「嘘なもんか。知ってるだろう? 私は、嘘が大嫌いなんだ」

 そう言って勇儀は笑った。それは地底には存在しないはずの、地上の蒼天
にて輝く太陽のようだった。そんな勇儀を見て、さとりの氷のように冷たい
無表情が、僅かに変わった。それは微笑。――地底が閉ざされ、そして彼女
の妹が心を閉ざしてから、一度も浮かべたことがなかったもの。

 胸に生まれた暖かなものを感じながら、さとりは思う。地底は変わった。
地底に棲む者たちも変わりつつある。パルスィも、そして、自分も。

「いつか、地霊殿で宴会を開きましょう。その時は、必ずパルスィを連れて
来てくださいね。あなたも知っているように、彼女は素直ではありませんか
ら」

「ああ、見せ付けてやるよ。私とパルスィの仲を、嫌になるくらいにね」

「ふふ。楽しみにしています。それでは、また」

 そう言って古明地さとりは去っていった。
 後には勇儀とパルスィだけが残された。

 ――渡る者が途絶えた橋。

 その名の如く、誰も此処を訪れる者はいなかった。けれど、今は違う。
 孤独な橋姫の傍らには優しい鬼がいる。きっと彼女が呪いから解放される
のも、そして地底の妖怪が幸せに笑えるようになるのも、そう遠い日のこと
ではないだろう。


――to be contined 〝HAPPY END of All Touhou Chireiden Characters!〟