SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 序


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其処は幻想郷―――其れは、全てを受け入れる楽園。
現実世界から忘れられ、弾き出された者達が集う最後の場所。
これより始まるは、この妖しくも美しき世界で繰り広げられる物語―――


―――それは、現代から遡る事、実に数百年。

幻想郷にて。小雨が降り注ぐ中秋の頃。
庭先に巨大な桜の木を臨む純和風の屋敷。その縁側で雲に隠れた月を想うように天を仰ぐ、三人の女性。
「中秋の名月…とはいうものの、実際には天気が悪くて見られないのが普通なの。十年のうち、九年は雨が降って月
を隠してしまうのよ」
そう語るのは青白い死に装束に身を包む、儚くも清楚な雰囲気を持った少女。
肩口で綺麗に揃えた髪は、光の加減で雪のように白く―――或いは桜の花のように薄紅にも見える。
彼女はこの屋敷の主にして、名を西行寺幽々子(さいぎょうじ・ゆゆこ)。
その立ち居振る舞いは優雅にして幽雅。確かにここにいるというのに、今にも消えてなくなってしまいそうな程に存在
が希薄だった。
しかし、それも当然の事―――彼女は既に生命の輪廻から解き放たれた存在なのだから。
死してなお現世を彷徨う亡霊。

それが<天衣無縫の亡霊>西行寺幽々子だ。

幽々子は傍らの月見団子を手に取り、微笑む。
「だから昔の人は、このお団子のように丸い物を見てそれを満月と結び付けたの。雨に隠れて見えないお月様を心に
描いていたのね。見えない月に想いを馳せる―――それが雨月(うづき)。
想像し、創造される幻想の月は、現実の月よりもずっと美しく、風流な物なのよ」
そしてむんず、と団子を数個まとめて掴み、口一杯に頬張る。
幽雅なる亡霊・西行寺幽々子。まだ冒頭だというのに食いしん坊キャラが確立された瞬間だった。
「ああ、おいひい。風流、風流」
「大層に語って、結局食い気?太っても知らないわよ」
くすくすと笑いながら茶化したのは、鈴が鳴るように軽やかな少女の声。
白磁の肌に艶やかな長い髪。千人いれば千人が認める美麗な容姿ではあるのだが、どうにもこうにも胡散臭い空気
の持ち主である。彼女を知る者であれば、その人格について誰もがこう語るだろう。
<異常なまでに掴み所のない、よく分からない女>だと。
言葉による説明は困難だが、どこもかしこもとにかく嘘臭いのだ。
例えていうなら、こちらを笑顔で見つめていたかと思えば急に右を向く。つられてそちらに顔を向ければ、今度は天を
仰いでいる。こちらも空を見上げれば、いつの間にか彼女は地面に視線を落としている。
そうやってせわしなくキョロキョロしている人間を、嘲るでもなくただ、楽しげに見つめている―――
何が面白いのか、ただ静かに笑っている―――
そんな類の<よく分からなさ>を、彼女は存分に備えていた。
彼女こそは幻想郷の創世に携わりし妖怪の賢者にして、世界の法則を根底から揺るがす<境界を操る程度の能力>
の持ち主。

<神隠しの主犯>八雲紫(やくも・ゆかり)―――それが、彼女の名。

「丸い物を見て月を連想するのなら、別に団子でなくても何でもいいじゃない。だというのに、何故貴女は団子を選ぶ?
答えは唯一つよ、幽々子。貴女はお月見を口実に団子を貪り食いたいだけでしょう」
「いいじゃないの、別に。食べる事と寝る事が私の人生においていつも最優先なの」
「亡霊が何を言うか。イヴ、貴女も幽々子を諭してあげなさいよ」
「え?んーっと、お野菜も食べないと健康に悪いよ」
「更に食べさせる方向にいってどうする」
紫からツッコミを入れられた、最後の一人―――
それは、月光の化身のような女性だった。輝くような金髪碧眼に、柔らかな美貌。
そのたおやかな姿は幼い少女のようにも、成熟した大人にも見える。
「どうしたのかしら、イヴ。いつも賑やかな貴女が、随分大人しいじゃないの」
「んー…何ていうか折角のお月見なのに、お月様が見えないのはやっぱり寂しいかなって」
月光を遮る雲を見やり<イヴ>と呼ばれた彼女は溜息をつく。
「ゆゆちゃんの言う事も分かるんだけどねー。ここはやっぱり、満月の下で皆で大騒ぎしたかったな。ぼくは明日には
また、出発しないといけないし…」
その寂しげな横顔を、二人は静かに見守るしかできない。
「ずっと幻想郷にいたらいいじゃない…とは、言っちゃいけないわよね」
幽々子は一抹の未練を込めつつ、そう呟く。
「最も偉大な存在である<真祖混沌>と並び称される母なる吸血鬼<賢者イヴ>―――その血の導くままに世界を
流離(さすら)うが宿命」
「そう。だから貴女を引き留めてはならない。この世に存在するモノには全て、与えられた役割がある―――他の何を
捨てたとしても、その役割だけは放棄してはならない。故に、ずっと此処にいろとは言わないわ」
紫と幽々子はそっと<イヴ>の手を握った。
「だけど、いつかまた、幻想郷に来てね」
「その時は満月の下で、一緒にお酒でも飲みましょう―――我等が親愛なる友人<賢者>アリス・イヴ」」
「そうだねえ」
彼女は、本当に嬉しそうに微笑んだ。まるで、何処にでもいる少女のように。
「楽しみだね。いつか来る、その時が」


―――それから、幾星霜の時を経て。

何処かの国の、満月の下。
伝説の大吸血鬼アリス・イヴは、傍らに寄り添う青年に熱く語っていた。
「…と、まあ。ぼくは紫ちゃん、そしてゆゆちゃんと約束したわけさ…<ドンチャン騒ぎしようぜ!>と」
「なるほど」
その青年の名は、望月ジロー。
<賢者イヴ>より直々にその尊き血を賜り、月下の世界に足を踏み入れた若き吸血鬼だ。
「しかし人外魔境の楽園・幻想郷とは…私も風の噂には聞いた事がありますし、あなたが言うからには実在するの
でしょうが―――俄かには信じ難い話ですね」
「確かにね。ぼくだって、あそこに行けたのは偶然みたいなものだったし…だけど、確かに在ったんだ」
力強く、アリスは言う。
「人も、そうでない者も、全てを受け入れてくれる世界―――幻想郷を、ぼくはこの目で見た」
何を思い出したのか、にへら、と笑う。
「そうそう、ぼくたちと同じ吸血鬼もいたんだよ。レミリアちゃんっていってねー、お人形さんみたいですっごく可愛い
子だったんだ。それ以外にも、面白い子たちがたくさんいたの」
目を輝かせて、彼女は語った。
曰く、自然そのもののように無邪気な妖精。
曰く、ケンカっぱやいのが玉に瑕だけど陽気で酒好きな鬼達。
曰く、いじめっ子だけど本当は優しい究極加虐生物。
アリスの唇から紡がれる幻想世界の御伽噺。ジローはただ言葉も忘れ、彼女の物語に聴き入っていた。
「でも、ジローには行ってほしくないかな。幻想郷」
「何故です、我が君」
「…………」
「我が君?」
「アリスって」
唇を尖らせ、睨み付けてくる。
「そう呼ばないと返事しないって、いつも言ってるでしょう?それとも何?持ちネタのつもりなの?」
「申し訳ありません、我がき…アリス」
「よろしい。では答えてあげよう」
柔らかに微笑み、アリスは続けた。
「幻想郷はね、恐ろしい事に美幼女か美少女か美女しかいないんだよ」
「は…はあ?」
「少なくとも、ぼくが見た限りは妖怪だろうが何だろうが、全員すっごい可愛い子ばっかだった」
「それが何故、幻想郷に行ってほしくない理由になるのでしょう?」
「可愛い女の子達に囲まれたら、浮気するんじゃないかなあ。ジローは」
その言葉にジローはキョトンとして、次に笑った。
「そんな不貞を働くつもりはありませんよ、アリス」
「ふーん、どうだか。ぼくの目が黒い内は、浮気なんて許さないんだからね!」
あなたの目は碧いじゃないですか、とは言えないし、言う気もない。
「私は、貴女の物です。アリス」
身も心も、血の一滴に至るまで、全て。
「この命、尽きようと―――永遠に」


―――そして、現在。
それは未だ色濃く残る真夏の暑さと、僅かに吹き始めた秋の涼しい風が入り乱れる季節の物語。

鬱蒼とした夜の森の中に、その四人はいた。
天体戦士サンレッド。望月ジロー。望月コタロウ。そしてヴァンプ将軍。
「…何故、我々はこんな場所にいるのか。状況を整理してみましょう」
ジローの意見に、反対の声はない。
「最初は…確か、俺とコタロウがラーメン食ってたんだよな」
「そうだよ、レッドさん」
パチンコで勝った帰り道、たまたま出会ったコタロウに、ラーメンを奢ってやったのだ。
「宝来軒だよね。で、そこにヴァンプさんもいたんだ」
「ああ。別に一緒に食おうとも言ってねーのに俺らの隣に移動してきやがって」
「いいじゃないですか。皆で食べた方が美味しいですもん」
毎度ながら、悪の将軍の言う事ではなかった。
「ちなみにぼくは、チャーシュー麺を食べたんだ…レッドさんとヴァンプさんはメンマラーメンだった」
コタロウはラーメンの味を思い出したのか、唾を飲み込む。
「力強く打たれた麺のコシは天下一品。さっぱりしていながら素材の味がしっかり染み込んだスープとよく絡んで
舌を蕩かすんだ。チャーシューは脂身の少ない部位を使いつつ、味付けをクドくならない絶妙のバランスで濃い目
に仕上げてあって、たっぷり十枚も乗っていながらまるで飽きない。最高のラーメンだった」
「それでいて値段も懐に優しいんだから、本当に恐れ入るよねー」
「いや、そこまで詳細に説明する事じゃねーだろ…で、食い終わったらもう夕方だった」
「ええ。店を出た所で、コタロウくんを探しに来てたジローさんと出くわしたんですよね」
「はい。こやつが連絡もなしに門限を過ぎても帰ってこないものですから」
「夕食の前にラーメンなんか食べちゃダメだって、兄者のゲンコツをもらっちゃった…」
まだ少々痛む脳天を押さえ、コタロウは涙目になる。
「お前って案外と躾には厳しいよな、ジロー」
「これでもまだ甘いぐらいですよ。私が子供の頃や、吸血鬼になったばかりの頃などは―――おっと、話が逸れる
所でしたね。ともかく、レッドにヴァンプ将軍。あなた方もあまりコタロウを甘やかさないでいただきたい」
「へいへい。分かりましたよっと」
「えーと…それから、家に帰るところですよね」
四人は長く伸びた影を引き連れ、紅く染まった街を歩いていた。
ひぐらしの鳴き声がどこか物悲しい、夏の夕暮れ。
近道しようと、人通りの途絶えた路地に入った。

そこに―――彼女はいた。

紫色の典雅なドレスを纏う美しい少女だった。真っ白い日傘を差した彼女は、妖艶に微笑む。
四人は声を出す事もできず、その微笑に魅入られたように立ち尽くす。
害意も敵意も感じない。恐怖感や威圧感も皆無だ。
なのに―――まるで磔にされたように、動けない。
「お前は…誰だ。いや―――<何>なんだ、お前は」
ようやく言葉を発したレッドに対して、少女はからかうように答える。
「スキマ妖怪。神隠しの主犯。割と困ったちゃん。八雲紫。好きなように呼べばいいわ」
「…八雲…紫…!?」
その名に反応したのはジローだった。
「まさか…あなたが、あの…!?」
「あら、私を知っているのね―――<彼女>から聞いたのかしら?<賢者イヴ>直系の子・望月ジロー」
「―――!」
虚を突かれてたじろぐジローを気に留める素振りもなく、少女はクンっと軽く指を振った。

「―――<境界を操る程度の能力>」

空間に突如現れた亀裂。仮にスキマ―――とでも呼ぼうか?
どこに繋がっているのか、或いはただの行き止まりに過ぎないのか。
その中には、無数の目が存在していた。その全てが、レッド達をじっと見つめている。
スキマは分裂でもしているかのように、次々と世界を侵食していく。
やがて、視界は全て埋め尽くされ―――

「…そして、今に至るってわけか」
レッドは大きく舌打ちする。
「全然分かんねー。何だよ、賢者イヴだのなんだの…」
「―――私の<闇の母(ナイト・マム)>です」
ジローは、レッドにだけ聴こえる声で語った。
「私を吸血鬼へと転化させた存在…それが古の吸血鬼<賢者イヴ>」
「…?ああ。そういや、前にも言ってたな。確か…レミリアってのが来た時だっけ?」
かつて川崎市に現れた幼き姿の吸血鬼をレッドは思い出していた。ジローは軽く頷く。
「その通りです。八雲紫についても、その時に説明していたでしょう?」
「ああ。幻想郷を創った妖怪…だっけ?」
「そう。境界の妖怪・幻想郷の母―――それが、八雲紫…」

「あら、随分褒めてくれるのね?嬉しいわ」

突如響く声に周囲を見渡すが、何処にも誰の姿も見えない。
「ふふ…このままじゃ話しづらいかしら?」
空間が、音もなく裂けた。その中から何の気負いもなさそうにヒョイ、と出てきたのは例の少女。
木々の隙間から僅かに降り注ぐ月光に照らされたその姿の、何と美しい事か。
その美しさこそが、まさに彼女の人外性を証明していた。
人間ではない。怪人ですらない。
彼女はもっと―――まるで<別の何か>だ。
「月のいい夜にこんばんわ…此処は我等にとって最後の楽園・幻想郷。そして私は八雲紫。永遠の十七歳よ」
ジョークのつもりかもしれなかったが、誰一人クスリともしなかった。
「れ、れ、れ、レッドさん…」
ヴァンプ様はすっかり怯えて、レッドさんの背後に隠れてしまう。
「お前…悪の将軍が真っ先にビビってんじゃねーよ、ったく」
悪態をつきながらも、レッドは己の全身が緊張している事に気付いた。
(こいつは…なんつーバケモンだ…!)
意志の疎通も問題なく行える。いきなり妙な世界に引きずり込んできたとはいえど、こちらに危害を加えようとする
つもりもなさそうだ。
それでも―――レッドは、警戒心を解く事ができない。
隣にいるジローも、いつでも刀を抜けるように柄に手をかけている。
「そんなに怖い顔しないでよ、別に取って喰おうというわけじゃないんだから」
レッド達とは対照的に、紫は笑顔で手をヒラヒラさせる。
「もしかして、いきなり幻想郷に引き込んだ事を怒ってるのかしら?だったら謝るわ、ごめんなさい」
彼女に邪気はないと、頭で理解はできる。だが、疑念は未だに拭えない。
今にもたおやかな少女の仮面を脱ぎ捨て、牙を剥いて襲いかかってくるのではないか―――
そんな風に思えてならない。
レッドは傍らにいる三人を横目で見る。
この中で一番強いのは自分だという自負はあった。あくまで一対一の勝負なら、この怪物が相手でも後塵を拝する
気は更々なかった。だが今は、自分一人ではない。
ジローは百年を生きる歴戦の吸血鬼で、剣士としても一流だ。相手が八雲紫といえど、簡単にやられはすまい。
問題は、残る二人。
(ヴァンプとコタロウなんざ、こいつにかかったら逃げる間もなく殺されちまう…!)
彼等を守りながらでは、ジローと二人がかりでも厳しい闘いになるだろう。
もしも、守り切れなかったら―――
「…くそっ」
最悪の事ばかり考えてしまうのは、やはり恐れているからなのか。
<境界の妖怪>八雲紫を―――!

「怖がらなくて大丈夫だよ、みんな」

その声は、コタロウのものだった。
「この人は、悪い人じゃないよ」
彼はまるで恐れる様子もなく、じっと、紫を見つめていた。
視線に気付いたのか、紫もコタロウに顔を向ける。
そして、彼の碧い瞳と視線を交錯させた。
「はじめまして、紫ちゃん」
コタロウは屈託のない笑顔を浮かべ、そう言った。
「ぼくは、望月コタロウだよ」
「…はじめまして、コタロウ」
コタロウに向けて紫は、微笑みを返した。
先程までの人を喰ったような表情ではなく。まるで古くからの友人を迎え入れるような、優しい笑顔だった。
細くしなやかな手を、コタロウに差し出す。コタロウは迷うことなく、その手を握った。
「会えて嬉しいわ。これから仲良くしましょうね」
「うん!ぼくたちきっと、いい友達になれるよ」
それを見た瞬間、ほんの少しだが彼女に対する警戒と不信感が消えるのをレッド達は自覚した。
少なくとも―――<邪悪>ではない。
そう思えた。
「さて…このまま立ち話もなんだわね。私の友達の家が近くにあるわ。お話しはそこでしましょう…何故にあなた達を
この世界へ呼んだのか、そこで教えて差し上げるわ」
返事を待たず、さっさと紫は歩いていく。
「あ、待ってよ紫ちゃん!ほらみんな、紫ちゃん行っちゃうよ。追いかけないと!」
「お前が仕切るんじゃねーよ、ったく…」
コタロウを先頭に、四人は紫の後を追う。
その先に何が待つのか、彼らはまだ知らない。

幻想世界の不思議な夜は、まだ始まったばかりだった。