第九十二話「前夜・2」
「あれ?」
魔王宅から出たところで、ドラえもんが人影に気付いた。
「ムウさんじゃない。何やってるの?」
「ああ・・・ちょっとな」
陽気な彼にしては歯切れが悪い答え方だ。彼はなにやら変テコな道具を弄くっているようだった。
「・・・以前から、薄々と疑問に思っていたことがある。もしかしたらとんでもないことに繋がるんじゃないか・・・
そんな疑問が頭から離れないんだ。最後の戦いを控えて、こんな気分を抱えたままなのはどうもよくないからな。
通信機でタイムパトロール本部の方に問い合わせてたんだが・・・どうも要領を得ないな」
「・・・?どういうこと?今回の戦いに関係あるの?」
ムウは頭を振った。
「さあな。関係はあるといえばあるが・・・君らは知らない方がいいかもしれない。<狐>のことがあるってのに、
こっちの問題にまで巻き込ませるのはよくないしな」
そう言って、再び通信機を弄繰り回す。どうやら彼は彼で、深刻な問題を抱えているようだ。その顔は、いつになく
真剣そのものだった。
邪魔をしても悪いので、その場を離れることにした。
魔王宅から出たところで、ドラえもんが人影に気付いた。
「ムウさんじゃない。何やってるの?」
「ああ・・・ちょっとな」
陽気な彼にしては歯切れが悪い答え方だ。彼はなにやら変テコな道具を弄くっているようだった。
「・・・以前から、薄々と疑問に思っていたことがある。もしかしたらとんでもないことに繋がるんじゃないか・・・
そんな疑問が頭から離れないんだ。最後の戦いを控えて、こんな気分を抱えたままなのはどうもよくないからな。
通信機でタイムパトロール本部の方に問い合わせてたんだが・・・どうも要領を得ないな」
「・・・?どういうこと?今回の戦いに関係あるの?」
ムウは頭を振った。
「さあな。関係はあるといえばあるが・・・君らは知らない方がいいかもしれない。<狐>のことがあるってのに、
こっちの問題にまで巻き込ませるのはよくないしな」
そう言って、再び通信機を弄繰り回す。どうやら彼は彼で、深刻な問題を抱えているようだ。その顔は、いつになく
真剣そのものだった。
邪魔をしても悪いので、その場を離れることにした。
―――そして、亜沙の家。
ここには亜沙や亜麻がいるのは勿論、フー子と何故かバカ王子一行がいるはずだ。
ピンポーン、と鳴らすと、中から「はーい」と、亜沙が顔を見せた。
「あら、のびちゃんにドラちゃん。いらっしゃい!フー子ちゃん、のびちゃんたちが来たよ」
呼びかけに応えるように、フー子が奥からやってくる。その姿に少々違和感を覚えたが、すぐに理由が分かった。
「あれ?服が変わってる?」
「うん・・・」
フー子は疲れたような顔をしていた。
「亜沙お姉ちゃんに、着せ替え人形にされた」
「ボクが子供の頃の服を着せてみてるんだけど、どれもすっごく似合うんだもん。やっぱ可愛いと得だよねー」
対照的に亜沙は、心の底から楽しそうであった。以前も買い物に出た際にフー子に色々着せていた亜沙だが、彼女は
女の子を着せ替え人形代わりにする趣味でもあるのかもしれない。
そんな彼女のお人形さんにされるフー子に同情を禁じえなかった。
「ところで、亜麻さんは?」
「ああ・・・お母さんだったら、その・・・奥の部屋だよ」
亜沙の顔が曇った。どうかしたのだろうか?
「何だか知らないけど、バカ王子さんたちとやけに仲良くなってる」
「・・・・・・」
確かに嫌だった。嫌だったが、挨拶くらいしておこうと思って、奥の部屋の扉を開けた。
「えーと・・・日番谷冬獅郎!」
「う・・・う・・・うーん、中々難しいな・・・」
亜麻とバカ王子、そしてクラフトたちが輪になって、何やら人名を言い合っていた。
「あの・・・こんばんわ、亜麻さん」
「あら?」
亜麻がのび太とドラえもんに気付き、笑顔を向けた。
「二人ともお久しぶり。また会えて嬉しいな。の~ちゃんはちょっと背が高くなったかな?タヌちゃんは・・・相変わらず
コロコロしてて可愛い~」
語尾に(はぁと)が付きそうな口調でドラえもんの頭をナデナデする亜麻。タヌちゃん呼ばわりされたドラえもんは
悲しみに打ち震えそうになったが、何とか堪えた。
「で、今のは何やってたの?」
それにはバカ王子が答えた。
「ああ、<大物かと思ったら実はへぼかったキャラ限定しりとり>をやってたんだ。中々面白いぞ」
「・・・何でしりとりなんか・・・」
「なんかとはなんだ。しりとりは偉大な文化だぞ。XXXホリックでも主人公の四月一日君尋はしりとりでアヤカシ
から身を守ったほどだ」
「あれを参考にするの・・・?」
「全く、馬鹿馬鹿しい」
クラフトが付き合ってられない、とばかりに鼻を鳴らした(その割に律儀にしりとりに付き合っていた分、彼も大概
お人好しである)。
「アホらしい遊びばっかり考え付きおって。王子ならもっと真面目な話もすればどうだ?政治のこととか、色々ある
だろうが」
「政治なんて興味ないね。だって僕王子だもん」
「王子が政治に興味なかったら国が滅ぶわ!」
「あー、ほらほら、バカくんもクラフトさんもケンカなんてしないで」
気の抜けるような声で亜麻が割って入る。意外といい形の三角形ができていた。
「・・・・・・みんな楽しそうだし、帰ろうか」
「・・・・・・そうだね」
二人はそっと時雨家を後にした。
ここには亜沙や亜麻がいるのは勿論、フー子と何故かバカ王子一行がいるはずだ。
ピンポーン、と鳴らすと、中から「はーい」と、亜沙が顔を見せた。
「あら、のびちゃんにドラちゃん。いらっしゃい!フー子ちゃん、のびちゃんたちが来たよ」
呼びかけに応えるように、フー子が奥からやってくる。その姿に少々違和感を覚えたが、すぐに理由が分かった。
「あれ?服が変わってる?」
「うん・・・」
フー子は疲れたような顔をしていた。
「亜沙お姉ちゃんに、着せ替え人形にされた」
「ボクが子供の頃の服を着せてみてるんだけど、どれもすっごく似合うんだもん。やっぱ可愛いと得だよねー」
対照的に亜沙は、心の底から楽しそうであった。以前も買い物に出た際にフー子に色々着せていた亜沙だが、彼女は
女の子を着せ替え人形代わりにする趣味でもあるのかもしれない。
そんな彼女のお人形さんにされるフー子に同情を禁じえなかった。
「ところで、亜麻さんは?」
「ああ・・・お母さんだったら、その・・・奥の部屋だよ」
亜沙の顔が曇った。どうかしたのだろうか?
「何だか知らないけど、バカ王子さんたちとやけに仲良くなってる」
「・・・・・・」
確かに嫌だった。嫌だったが、挨拶くらいしておこうと思って、奥の部屋の扉を開けた。
「えーと・・・日番谷冬獅郎!」
「う・・・う・・・うーん、中々難しいな・・・」
亜麻とバカ王子、そしてクラフトたちが輪になって、何やら人名を言い合っていた。
「あの・・・こんばんわ、亜麻さん」
「あら?」
亜麻がのび太とドラえもんに気付き、笑顔を向けた。
「二人ともお久しぶり。また会えて嬉しいな。の~ちゃんはちょっと背が高くなったかな?タヌちゃんは・・・相変わらず
コロコロしてて可愛い~」
語尾に(はぁと)が付きそうな口調でドラえもんの頭をナデナデする亜麻。タヌちゃん呼ばわりされたドラえもんは
悲しみに打ち震えそうになったが、何とか堪えた。
「で、今のは何やってたの?」
それにはバカ王子が答えた。
「ああ、<大物かと思ったら実はへぼかったキャラ限定しりとり>をやってたんだ。中々面白いぞ」
「・・・何でしりとりなんか・・・」
「なんかとはなんだ。しりとりは偉大な文化だぞ。XXXホリックでも主人公の四月一日君尋はしりとりでアヤカシ
から身を守ったほどだ」
「あれを参考にするの・・・?」
「全く、馬鹿馬鹿しい」
クラフトが付き合ってられない、とばかりに鼻を鳴らした(その割に律儀にしりとりに付き合っていた分、彼も大概
お人好しである)。
「アホらしい遊びばっかり考え付きおって。王子ならもっと真面目な話もすればどうだ?政治のこととか、色々ある
だろうが」
「政治なんて興味ないね。だって僕王子だもん」
「王子が政治に興味なかったら国が滅ぶわ!」
「あー、ほらほら、バカくんもクラフトさんもケンカなんてしないで」
気の抜けるような声で亜麻が割って入る。意外といい形の三角形ができていた。
「・・・・・・みんな楽しそうだし、帰ろうか」
「・・・・・・そうだね」
二人はそっと時雨家を後にした。
「お。のび太にドラ助じゃねえか」
道端でばったり、コンビニ袋を抱えた神王と魔王に出くわした。
「二人とも、どうしたの?買い物に行ってたの?」
「うん。お酒とおつまみがなくなっちゃったんでね。ちょっとそこまで」
「王様のくせに買出ししてたの・・・」
「俺ら以外全員酔いつぶれちまってな、とても外出できる状態じゃねえんだよ。しずかは素面だけど、流石に女の子を
こんな時間に一人買い物に行かせるってのもなんだしな」
そう言って神王は、ふうっと息を吐き出した。
「―――で、明日には行くんだろ?シュウとかいう奴をぶっ倒しに」
「・・・はい」
「そうか。しかし、お前らも大変だな。ここまで妙ちきりんな事態に巻き込まれちまうたあ・・・難儀なこった」
物思いに耽るかのように、天を仰いで続けた。
「全くふざけた話だぜ。こんなろくでもねえ物語の最後は―――」
神王はそこで言葉を切って、不敵に笑った。
「―――きっちり正義が勝たなきゃ認めねえってんだよ」
そしてぽんぽん、とのび太の肩を叩いた。
「デウス何たらだかどうか知らねえが、本物の神様のお墨付きだぜ。自信持っていけよ」
「ついでに、魔王のお墨付きもね」
ニコニコと自分の顔を指差す魔王。そんな二人に、のび太はたった一言だけ、けれど心から想いを込めて返した。
「ありがとう―――本当に、ありがとう」
―――そして。
「もう、行くとこもないかな」
「そうだね。後は明日を待つばかり、か」
のび太とドラえもん、二人で並んで歩く。もう何も起こりそうにない。誰とも出会いそうにない。そんな時だった。
狐面の男が、目の前にいた。
「よお、俺の敵」
それこそ単にちょっとした知り合いにでも声をかけるような気軽さだった。
「昨日の返事―――まだだったからな」
「返事・・・」
「俺とお前らとの、最後の勝負―――それを受けるか、否か、だ。すなわち―――シュウに勝った場合、きっちり
俺に引導を渡すかどうか。その答えを聞いていなかったのでな。さあ―――答えを聞かせてもらおう」
「ぼくは―――」
のび太は答えた。狐面の奥の瞳を、しっかりと見据えて。
「勝って戻ってきたなら、ぼくは、あなたを・・・」
きっぱりと言い切った。
「あなたを、殺す」
「そうか」
狐面の男は、その仮面を脱ぎ捨てた。何故だろう。彼が仮面を外したところは何度も見たのに―――
のび太は初めて、狐面の男の素顔を見た気がした。
「明楽が今―――俺の中で死んだ。今度こそあいつは、完全に死んだ。もうこの狐面を被ることもないだろう」
「・・・・・・」
「お前との最後の勝負の場に立った以上―――もはやあいつも、俺にとって過去のものとなってしまった。そういう
ことだろうな―――そうだ。そういえばまだ、俺はお前たちに名乗っていなかったな」
「名前・・・」
そういえばそうだ。のび太は未だに、彼の名前を知らなかった。
「名前なんぞ記号にすぎんが、まあ、これも物語の上での演出というやつだ。くっくっく―――名乗りをあげるタイミング
として、今以上の時はないだろうしな。折角だから覚えておけ、俺の名前を」
彼は告げた。
「西東天(さいとうたかし)―――それが俺の名前だ。この名前、脳に刻んで記憶しろ」
道端でばったり、コンビニ袋を抱えた神王と魔王に出くわした。
「二人とも、どうしたの?買い物に行ってたの?」
「うん。お酒とおつまみがなくなっちゃったんでね。ちょっとそこまで」
「王様のくせに買出ししてたの・・・」
「俺ら以外全員酔いつぶれちまってな、とても外出できる状態じゃねえんだよ。しずかは素面だけど、流石に女の子を
こんな時間に一人買い物に行かせるってのもなんだしな」
そう言って神王は、ふうっと息を吐き出した。
「―――で、明日には行くんだろ?シュウとかいう奴をぶっ倒しに」
「・・・はい」
「そうか。しかし、お前らも大変だな。ここまで妙ちきりんな事態に巻き込まれちまうたあ・・・難儀なこった」
物思いに耽るかのように、天を仰いで続けた。
「全くふざけた話だぜ。こんなろくでもねえ物語の最後は―――」
神王はそこで言葉を切って、不敵に笑った。
「―――きっちり正義が勝たなきゃ認めねえってんだよ」
そしてぽんぽん、とのび太の肩を叩いた。
「デウス何たらだかどうか知らねえが、本物の神様のお墨付きだぜ。自信持っていけよ」
「ついでに、魔王のお墨付きもね」
ニコニコと自分の顔を指差す魔王。そんな二人に、のび太はたった一言だけ、けれど心から想いを込めて返した。
「ありがとう―――本当に、ありがとう」
―――そして。
「もう、行くとこもないかな」
「そうだね。後は明日を待つばかり、か」
のび太とドラえもん、二人で並んで歩く。もう何も起こりそうにない。誰とも出会いそうにない。そんな時だった。
狐面の男が、目の前にいた。
「よお、俺の敵」
それこそ単にちょっとした知り合いにでも声をかけるような気軽さだった。
「昨日の返事―――まだだったからな」
「返事・・・」
「俺とお前らとの、最後の勝負―――それを受けるか、否か、だ。すなわち―――シュウに勝った場合、きっちり
俺に引導を渡すかどうか。その答えを聞いていなかったのでな。さあ―――答えを聞かせてもらおう」
「ぼくは―――」
のび太は答えた。狐面の奥の瞳を、しっかりと見据えて。
「勝って戻ってきたなら、ぼくは、あなたを・・・」
きっぱりと言い切った。
「あなたを、殺す」
「そうか」
狐面の男は、その仮面を脱ぎ捨てた。何故だろう。彼が仮面を外したところは何度も見たのに―――
のび太は初めて、狐面の男の素顔を見た気がした。
「明楽が今―――俺の中で死んだ。今度こそあいつは、完全に死んだ。もうこの狐面を被ることもないだろう」
「・・・・・・」
「お前との最後の勝負の場に立った以上―――もはやあいつも、俺にとって過去のものとなってしまった。そういう
ことだろうな―――そうだ。そういえばまだ、俺はお前たちに名乗っていなかったな」
「名前・・・」
そういえばそうだ。のび太は未だに、彼の名前を知らなかった。
「名前なんぞ記号にすぎんが、まあ、これも物語の上での演出というやつだ。くっくっく―――名乗りをあげるタイミング
として、今以上の時はないだろうしな。折角だから覚えておけ、俺の名前を」
彼は告げた。
「西東天(さいとうたかし)―――それが俺の名前だ。この名前、脳に刻んで記憶しろ」
―――そして、夜が明けるころ。
のび太たちの姿は、この世界のどこにもなかった。
のび太たちの姿は、この世界のどこにもなかった。