SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― 第15話


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遠目から見れば並んだ僕達は家族に見えるだろう、美人のママにかっこいいパパ。
だから僕は並ばないように距離を取る、少しでも怪しまれるようにして注意を引きたい。
誰かが気付いてくれることを祈りながら……そして、その誰かが助けてくれることを願いながら。

「早人! 速くしないとおいてっちゃうわよ~!」

授業参観でみんながママを「綺麗だね」と羨ましがった。
家に遊びに来た友達はパパの写真を見て「俳優みたい」と褒めちぎった。
でも、僕のパパはパパじゃないんだ……。

「もう! 名前のわりにノロマなんだから!」
「フフフ、そうカリカリしなくてもいいじゃあないか……」

僕を急かすママに笑顔で接するパパの姿をした『奴』を見つめる。
少し前、パパがパパだった頃にこの光景を見れたらどんなにうれしかっただろうか。

僕は多分、望まれて生まれた訳じゃあないのだろう。
僕の母と本物の父の間には何時だって目に見えない壁があった。
僕を見る二人の目も、間に見えない壁を挟んで見ていた。

ママは相変わらず僕を悪く言うがもう壁はなかった。
パパがパパの姿をした『奴』に入れ替わってしばらくすると、壁はなくなった。
でも僕は感謝の気持ちをほんの少しも抱かないし、喜ぶことも出来なかった。
『奴』は何時殺すのだろう…明日だろうか? 今日だろうか?

「はぁ~……お腹と背中がくっつきそう。あなた背負ってあげてよ」
「いいとも、そら!」「キャッ!? 私じゃなくて早人のことよ!」

『奴』に抱かれ頬を膨らませながらも、ママの目は嬉しそうだった……パパの姿をした『奴』が殺人鬼だとも知らずに。
「ハハハ、判ったよ……さぁ来なさい早人」

ママを降ろした『奴』はしゃがみ込むと、僕のほうに背を向けながら視線を投げかけた。
逃げ出したい、微笑ましい家族のやりとりにでも見えるのか道行く人々が僕を見て笑う。
他人から見た父の背中におぶさるという行為は、僕には腹を空かした猛獣の背中に乗れというのと同義だった。

広い背中に手をかけ身を任せると、底知れない闇に引きずり込まれてしまったかのような恐怖で硬直する。
大抵の人間は人の背から伝わる暖かみを、幼き日に肉親から伝えられて知っているだろう。
まだ忘れるような年ではないこの僕も……だからこそ、『奴』の背中が怖い。

人と触れ合っているのに温もりも思いやりも………ありとあらゆる感情をまるっきし感じられなかった。
体温だけの背中、獣の背中と何も違わない。

「脅えることはない……今の生活は気に入ってるよ、残り物も始末した。
お前に『バイツァ・ダスト』が憑いている限り、今まで通り何も変わりはしないさ」

震える僕をあざ笑うような悪魔の囁き、誘惑の台詞のつもりだろうか。
僕にはそうは聞こえなかった、このまま永遠の罪人でいるつもりかという問いかけだった。
決意を固めなければ………僕が何もしなければ、『何も変わりはしない』のだから。
仗助さんに億泰さん………殺されたみんな、僕が諦めたせいで死んでしまった人の為に何かをしないと。

頭でそう思っても、あの時の様な闘志は沸いて来ない……一人という孤独が、『奴』への恐怖が抑止力となっている。
僕の味方は、もう誰も居ない……怪我をして帰る度に『奴』の機嫌が良くなっていく。
死んでいる………僕の知らない場所で、『奴』と戦う力のある人が。

僕の勇気が挫かれていく、奴の背にもたれる感覚に慣れる。
まるで、僕の心が冷たい闇に身を任せているように思えて吐き気がした。
「やっと着いたわ! レストラン『Tonio Trussardi(トニオ トラサルディー)』ですって!」

ママが目の色を変えて駆け出した、目的地についたようだ。
霊園の横にあるイタリアンレストラン………奇妙な名所の多い杜王町だがここもその一つだ。
美味しいと評判だが墓地が隣ということもあって夜は人が寄り付かない。

ただ美味しいだけじゃなく、食べた人を健康で幸福にするレストランらしい。
ここの料理を食べた癌患者が検査に出てみると腫瘍が消えてたという噂もある。

他にも聞いただけで期待に胸を膨らませてしまいそうな話がいくつもあるのだが、ただ虚しく頭の中を過ぎる。
殺人鬼がこれからその料理を食べて、より幸せになるというのだろうか……。
『奴』の喜びや幸福は罪もない人々の屍上に成り立っているというのに。
入り口に着くと『奴』は僕を背から降ろして看板を覗き込む。
珍しく困惑の表情が浮かばせながら、訝しげに看板を見つめる。

「献立はお客様次第……? どういう意味だ………」
「ほらぁ~! アナタもはやく入りましょうよっ!」

ママの手に引っ張られて『奴』が看板から離れる。
僕の願う幸福な料理、奴の喉にでも詰まって窒息死させてはくれないだろうか。
限りなく0に近い非現実的な願いに、露程の期待も抱けず……。
諦めの感情に支配されたままレストランへ足を入れる。

清潔感に満ち溢れた白を基調とした店内に、二つのテーブルが並ぶ。
余ったスペースが店を少し寂しげに見せながらも、テーブルの上はキャンドルや花で彩られている。
ドアに付けられた鈴の音に気付いた店主らしき人物が、厨房の奥から現れた。

「いらっしゃいマセ。ワタシ、『トニオ』と申しマス」
店主はがっしりした健康的な体格の外国人だった。
コック帽を被ってなければボディビルダーに見えていたかもしれない。
カタコトながらも丁寧で聞き取りやすい日本語で挨拶をしながら、イスを引いて座るよう促している。

「シ……シニョール」

ママがイスに座ってお礼を言うが、それは男性に用いるスペイン語の敬称だった気がする。
用途が正しかったのか、言いたい事を理解したのかは判らないが店主は爽やかな笑顔で会釈して答えた。
席に着くと、テーブルを見回す『奴』が店主に尋ねる。

「所で、メニューが見当たらないが……」
「あぁ……リスタですか。ウチにはないんですよ」

すると店主は「失礼します」と言ってママの腕を取って手の平を見つめた。
何をしているのか聞くより早く、彼の目標は遂げられた。

「腸の荒れに加えて軽度のドライアイ……それと腰痛ですか」

驚くママを尻目に僕や『奴』の手を取って同じように診断する。
彼は漢方料理や山野草、アマゾンのメディシンマンの下で修行しこれを身につけたらしい。
味はまだ判らないが健康にする料理、というのはどうやら期待が持てそうだった。

「しかし、料理を選べないのに3500円か」
「あんまり辛いのとか来なければいいんだけど……」

そう言うとママは、グラスに注がれた水を口に含んだ。
噂の料理は水から始まっていたと知らずに。