「ハーッハッハッハ! この店は俺が占拠したぞ! 命が惜しければおいしい物沢山持ってこい!」
「きゃああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああ!」
絹を裂くような叫び。店内中央付近でどよめきが上がり人の波がぞわりと引いた。
(まさか──…)
(ホムンクルス!?)
(ホムンクルス!?)
目配せし合った剛太と秋水は叫び惑う人々の中をかき分け騒ぎの中心点へと駆けた。桜花は神妙な面持ちで防人へ
連絡を入れ、まひろは固唾を呑んで成り行きを見守り始めた。頭上のネコが飛び降り、ゆっくりと歩きだす。
連絡を入れ、まひろは固唾を呑んで成り行きを見守り始めた。頭上のネコが飛び降り、ゆっくりと歩きだす。
「馬鹿な! ポッキーゲームが廃止されているだと!? おのれえディケイド! 貴様はメイドカフェさえ破壊するのか!」
「きゃあ! 助けてー!」
「うるせえ! うまいもの沢山持ってきたら解放してやる! 静かにしろ!」
「きゃあ! 助けてー!」
「うるせえ! うまいもの沢山持ってきたら解放してやる! 静かにしろ!」
人混みをかき分け最前列に出た剛太たちの目の前には──…2人の男と1人のメイド。
1人は中年男性で、眼鏡にフェルト帽を付けている。
そしてもう1人はヴィクトリアの肩に手を回し、頬の辺りにがっしりとナイフを突きつけていた。そのナイフはステーキとか切
る奴だ。空になった鉄皿がテーブルにあるところを見るとどうも突発的に「やらかした」気配が濃厚だ。
そんな男の年齢は秋水と同じぐらい。逆立った髪とメガネの奥で光る酷薄な瞳が特徴的。
「! 君は!」
「知ってんのか早坂?」
「ヒッ!!」
最後の男が秋水を二度見してから悲鳴を上げたのは、剛太の質問とほぼ同時だった。
「馬鹿な! 秋水だと? なんでお前がこんな場所にいる! おかしいだろ! お前の性格なら剣道場にでも行って見学な
り指導なりする方があってるだろ!! ああ!?」
「俺と同じコトいってやがる。つーか……知り合いかよ」
「君こそ何故こんな場所にいる? ええと……田中伏竜?」
「震洋だ! 鈴木震洋!」
「ひっ!」
抗議した弾みか。銀の刃が人質たるヴィクトリアのふくよかな頬を掠めた。幼い顔がみるみると引き攣り「ちょ、落ち着いて
落ち着いて~」と抗議さえ始めたが通じる気配はまるでない。震洋は吼えた。
「元L・X・Eの信奉者で! 生徒会書記の!! 思い出せって!」
「わーん。抗議するのはいいけど動かないでー。ナイフ怖いナイフ怖い」
この場で一番迷惑してるのは間違いなくヴィクトリアだと剛太は思った。興奮状態の震洋はその言動が人質にどういう影響
を与えるか全く分かっていないようだった。恐らく不意に現れた元同僚かつめっちゃ強い剣客をどういなすかばかり考えてい
るのだろう。まずは鎮静が第一。そう目くばせした秋水も同じ考えに至ったらしい。
(てゆーかさっさと助けて頂戴。振り切るのは簡単だけどそうしたら私がホムンクルスってバレるかも知れないでしょ。ああ鬱
陶しい。何でナイフ怖がらなきゃいけないのよ。こんなの刺さっても死ぬ訳ないのに
底冷えのする瞳でヴィクトリアはそう語っているようだった。「多少の無茶はいいようだな」と剛太が思う頃、しかし秋水はあら
ゆる事情と状況に合致した理性的反応を繰り出した。
「分かった。落ち着いてくれ。君のコトは思い出したし人質さえ解放してくれれば危害は加えない。だが──…」
「例の『もう一つの調整体』の廃棄版を使った余波で入院してる筈の俺がどうしてココに、か?」
「ああ」
短く頷く秋水がチラリと剛太を見た。
(注意引き付けるから人質助けろってコトね。命つーか正体の秘密やらいまの生活守るために。つってもどうすりゃあいい?)
震洋の傍にいるフェルト帽も仲間であろう。一見どこにでもいそうな平凡な顔つきの彼はただ無言で佇んでいる。その様子
に剛太は却って底知れない不気味さを感じた。感じつつも思考の歯車を組み合わせていく。。
(こいつもL・X・Eの残党って可能性は高い。ホムンクルスかもな。さてどうしたもんか。人質が人質だけに多少の無茶はでき
るけど、もう一人の能力が分からねぇ以上、迂闊に飛びこむのも危険)
ポケットの中の核鉄をいつでも発動できるよう構えながら、慎重に状況を読む。数の上では互角。人質も実質的には意味
がない。療養中なのを差し引いても秋水の実力は折り紙付きだし後ろには桜花が控えている。これで斗貴子先輩いればと
剛太は思った。しかし彼女は他校の生徒を救出すべく奮戦中だろう。無理は言えない。
(ったく。どこの学校の生徒だよ。俺の生き甲斐奪うなっての。とにかくだ。あの帽子のおっさんが先に動きゃ主導権握られ
るかも知れねェ。クソ。なんでこういうメに遭ってんだ俺は)
豊かな髪を掻き毟るのは本日何度目だろうか。じれったい気分を持て余す剛太とは裏腹に、震洋は好き勝手に喚き始めた。
「秋水。お前はいいよなあ! あの金髪剣士に回復して貰ったんだから! だが俺は違う! ケガを抱えたまま入院する羽
目になった! 俺は怯えた! 健康保険未加入だったから10割全額請求されるであろう医療費に怯えた! 鳴滝さんと
出会ったのはそんな頃だ!」
「鳴滝?」
「そうだ! この世界はいずれディケイドによって滅ぼされる! それを防ぐために私はこの少年に近づいたのだ! そして
未納だった健康保険料を全て納め、高額療養費を活用するよう進言したのだ!」
フェルト帽の男性が一歩進み出た。
「早坂秋水! そして中村剛太! いいぞぉ、高額療養費は! 払ったカネが自己負担限度額を超えた場合、その分だけ
払い戻されるのだ! ははは! ふははははははは!」
呵呵大笑とは裏腹に店内は水を打ったように静まり返っている。メイドたちも客達も石像のように立ちすくんで事の成り行き
を眺めている。あれほど歌っていたやる夫社長も難しい表情で人の波の中にいる。やらない夫専務は無表情。
「あ! びっきー!」
「まひろ! 来ないで! (別に気遣ってる訳じゃないわよ。鬱陶しいから来て欲しくないだけ)」
微妙な感情差を見せる女友達2人のやり取りを背景にやや硬い声を漏らしたのは秋水である。
「何故、俺たちの名前を知っている?」
「調べたのだよ」
目を細めた剣士めがけ無特徴なコート姿がゆっくりと歩きだした。赤い絨毯にコツコツという重い音が響いた。
「君たち連金の戦士はいわばこの世界を守る存在! つまり! シンケンジャーと同じくライダーのいない世界に生まれた
ライダーと同じ存在! ディケイドに対抗できるのは君たちしかいないのだよ! さあ、私と手を組みこの世界を救おうでは
ないか!」
「なぁ、オッサン。そのディケイドって奴は何なんだよ? ホムンクルスか?」
「違う! 世界の破壊者だ!」
間髪入れず声を張り上げた鳴滝はいかにも胡乱な存在に見えた。
「奴はすでに幾つもの世界を破滅に追いやっている! カブトボーグの世界も! 魔法少女アイ参の世界も! 奴のせいで
調和が乱れたのだ! 我々が手を結ばなければいずれこの武装錬金の世界も滅ぼされるぞ!」
「つまり男爵様とか編集部みたいな存在かしらね?」
人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。
「そうだ! ディケイドはすでに編集部さえ抱き込みこの世界を葬り去ろうとしている! 現にすでにファイナルは終わったの
だ!! このままでは次の赤マルジャンプの武装錬金ピリオドで君たちの活躍は終わるのだぞ! 様々な伏線も構想も闇に
葬り去られ何かモヤっとしたものを残すのだぞ!! そうなってはおしまいだ! ファンでさえ最近微妙になってきたかなーっ
て思わざるをえない次回作に取って代わられ、それさえもいずれディケイドによって滅ぼされる! あの2ヶ月の休載はその
何よりの証だ!」
「うっせーよおっさん」
憮然とした面持ちで剛太は踏みだした。
「何か色々言っているようだけど、要はてめえ、メイド人質にするような奴の仲間だろ? ンな奴に世界救おうとか言われて
も説得力ねーよ」
うんうんと他の客とメイドも頷いた。更に秋水も歩み出た。
「同感だ。あなたのいうコトが真実ならば、なおさらこのようなやり方で訴えるべきではない。まず戦団に協力を要請し、その
上で 俺たちと共に闘って欲しい」
至極真っ当な意見を浴びた鳴滝はしかし戛然と眼を見開き凄まじい声を上げた。
「おのれえディケイド! すでに錬金の戦士は籠絡済みか!」
「いや聞けって。お前単にディケイド嫌いなだけだろ」
「……くっ、ふははは! だが後悔するのはやはり貴様だディケイドぉ! 見るが良い! 貴様に加担した者がまた滅ぼさ
れる様を!! ふははははは! はーっはっはっは!!!」
身を仰け反らしなお哄笑を上げる鳴滝の周りに灰色のオーロラが揺らめいた。とみるや、彼の周囲に三角頭の大男が5
体ほど現れた。あちこちひび割れたその姿を認めた秋水と剛太の表情が俄かに硬くなった。
「調整体!? どうしててめェが!」
「というよりどこから!?」
「調整体、だと? ふはははは! 違う! これは人造人間的な意味でのアンデッドだ! 断じて調整体などではない!」
「敵のデザイン考えるのが面倒くさいから調整体で間に合わせたのね」
人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。
「気をつけたまえ! こいつらはとびきり凶悪で! 凄まじく下品な化け物どもだ! さあ、行け! 騒ぎを起こしディケイドを
おびき寄せるのだ!!」
咆哮とともに調整体たちは四散し人混みめがけ乱入した。
「しまった!」
「追うぞ中村!」
「そうはさせんぞ! 行けッ! 『スロウス』!」
「!!」
阿鼻叫喚の人混みめがけ踵を返した2人の背後で巨大な殺気が膨れ上がった。
「行くの めんど くせー」
咄嗟に飛びのいた剛太たちの間を巨岩が通り過ぎた。巨岩? 違う。拳だ。赤絨毯ごと床板を破砕した”それ”はひたすら
巨大だった。成人男性でさえ人形遊びの要領で掴めるだろう。着地がてらそんな下らない事を思った剛太は、すぐさま腕の
主を観察し──…絶句した。
そこには筋肉の山がそびえていた。むろん山というのは形容で、手足もあれば頭もある。”それ”は異形ではあるが辛うじ
て人の形をしていた。ただし彼の纏う筋肉はあまりに無軌道で野放図すぎた。上半身と両腕のみを肥大させているそれらは
ボディービルダーのような計画性とは全く無縁だった。ただ無思慮に単純な力作業を続けた結果そうなったという感じである。
上半身はほぼ裸。黒いズボンから伸びる2本のサスペンダー以外は全て肌色だ。
「はず れた?」
野太い指で口元をかく男の顔はひどく暗い。何本か顔にかかっている伸び放題の前髪と、目元に滲む薄暗さ──惰性に
身を任せ続けてきた者だけが持つ──が入り混じって凄まじい影を落としている。その闇に戦輪が吸いこまれた。額の辺り
に刺さってぎゅらぎゅらと旋回し始めた。
(見えねーけど動植物型なら額に章印あるだろ! まずはそっちをやって──…)
(人型の急所も斬る!)
鈍牛よりも遅く額に手を伸ばす男の胸が左から右に向かって真一文字に斬り裂かれた。巨漢の傍にいた震洋でさえ何が
起こったか一瞬判じかねた。サスペンダーの斬れるブツリという音を聞いてようやくおぼろげに事態を理解した程度だ。
大男の胸から血しぶきが飛び散った。取り巻く群衆から歓声とも悲鳴ともつかぬ声が張り上がった。
逆胴。息もつかせず飛び込んだ秋水は、しかし微動だにせぬ大男に息を呑んだ。
「馬鹿な。章印が……ない?」
血みどろの大男の胸にはあるべき物がない。とはいえ胸を深く斬られたのは確かだ。並のホムンクルスでならば痛み
に対し何らかの揺らぎを見せるであろう。
にも関わらず大男は無感情なあくびのような声を発して額の戦輪を取り去ったきり、ボンヤリと辺りを見回し始めた。正に
文字通り痛痒を感じていないらしかった。
「額も駄目かよ。じゃあこいつもホムンクルスじゃねーのか?」
「いいや! 彼はホムンクルスだ! ただし『この世界の』ホムンクルスとは全く違う! 章印などという弱点などありはしな
いのだよ!」
けたたましい哄笑が響く中、 大男はのっそりと剛太と秋水を見た。両目は白く盲いているが視力自体はあるらしい。
「あれ? 女将軍 どこ?」
逆胴の傷が稲光とともに再生を始めた。面妖なコトに切断されたサスペンダーさえ修復しているようだった。一方、人混
みの騒ぎはますます加速する。入口に殺到する客やメイドがもつれ合い、転倒する者さえ出始めたようだった。
「くそ! 早く倒さないと客とメイドがやられるってのに!」
「アレは俺に任せるんだ! 君は姉さんと一緒に皆を逃がせ!」
「任せろったって、お前まだ完全には──…」
刀を振りかざし疾駆する秋水を巨大な拳が迎撃した。
「いいや 考えるのも めんど くせー」
「ぐっ」
突き出された拳を刀で受け止めたのは、恐らく剛太を先行させるためだろう。肉厚の刃が嫌な音を立てて軋んだ。相当
肉厚のソードサムライXであるが、岩石のような拳の前では楊枝のように頼りなく見えた。それが剛太を躊躇わせた。
「いいから行くんだ! どの道俺の武装錬金では誘導と戦闘は同時にできない!」
「けど!」
「先ほど君の見せた機転を信じる! だから俺を信じてくれ!
大混乱の人混みの中で刀を振り回せばどうなるか。想像した剛太は不承不承そちらに向かって走り始めた。
「あ。そうだ。人質解放しとこう」
「!!」
鈴木震洋の頭にモーターギアが激突した。
彼は意識とヴィクトリアを手放しながら床に沈んだ。
(え? 俺の出番これで終わり? せっかくコレ貰ったのに……)
彼の手から化石を模したUSBメモリが落ちた。その拍子にどこか端末が押されたのだろう。こんな声がした。
1人は中年男性で、眼鏡にフェルト帽を付けている。
そしてもう1人はヴィクトリアの肩に手を回し、頬の辺りにがっしりとナイフを突きつけていた。そのナイフはステーキとか切
る奴だ。空になった鉄皿がテーブルにあるところを見るとどうも突発的に「やらかした」気配が濃厚だ。
そんな男の年齢は秋水と同じぐらい。逆立った髪とメガネの奥で光る酷薄な瞳が特徴的。
「! 君は!」
「知ってんのか早坂?」
「ヒッ!!」
最後の男が秋水を二度見してから悲鳴を上げたのは、剛太の質問とほぼ同時だった。
「馬鹿な! 秋水だと? なんでお前がこんな場所にいる! おかしいだろ! お前の性格なら剣道場にでも行って見学な
り指導なりする方があってるだろ!! ああ!?」
「俺と同じコトいってやがる。つーか……知り合いかよ」
「君こそ何故こんな場所にいる? ええと……田中伏竜?」
「震洋だ! 鈴木震洋!」
「ひっ!」
抗議した弾みか。銀の刃が人質たるヴィクトリアのふくよかな頬を掠めた。幼い顔がみるみると引き攣り「ちょ、落ち着いて
落ち着いて~」と抗議さえ始めたが通じる気配はまるでない。震洋は吼えた。
「元L・X・Eの信奉者で! 生徒会書記の!! 思い出せって!」
「わーん。抗議するのはいいけど動かないでー。ナイフ怖いナイフ怖い」
この場で一番迷惑してるのは間違いなくヴィクトリアだと剛太は思った。興奮状態の震洋はその言動が人質にどういう影響
を与えるか全く分かっていないようだった。恐らく不意に現れた元同僚かつめっちゃ強い剣客をどういなすかばかり考えてい
るのだろう。まずは鎮静が第一。そう目くばせした秋水も同じ考えに至ったらしい。
(てゆーかさっさと助けて頂戴。振り切るのは簡単だけどそうしたら私がホムンクルスってバレるかも知れないでしょ。ああ鬱
陶しい。何でナイフ怖がらなきゃいけないのよ。こんなの刺さっても死ぬ訳ないのに
底冷えのする瞳でヴィクトリアはそう語っているようだった。「多少の無茶はいいようだな」と剛太が思う頃、しかし秋水はあら
ゆる事情と状況に合致した理性的反応を繰り出した。
「分かった。落ち着いてくれ。君のコトは思い出したし人質さえ解放してくれれば危害は加えない。だが──…」
「例の『もう一つの調整体』の廃棄版を使った余波で入院してる筈の俺がどうしてココに、か?」
「ああ」
短く頷く秋水がチラリと剛太を見た。
(注意引き付けるから人質助けろってコトね。命つーか正体の秘密やらいまの生活守るために。つってもどうすりゃあいい?)
震洋の傍にいるフェルト帽も仲間であろう。一見どこにでもいそうな平凡な顔つきの彼はただ無言で佇んでいる。その様子
に剛太は却って底知れない不気味さを感じた。感じつつも思考の歯車を組み合わせていく。。
(こいつもL・X・Eの残党って可能性は高い。ホムンクルスかもな。さてどうしたもんか。人質が人質だけに多少の無茶はでき
るけど、もう一人の能力が分からねぇ以上、迂闊に飛びこむのも危険)
ポケットの中の核鉄をいつでも発動できるよう構えながら、慎重に状況を読む。数の上では互角。人質も実質的には意味
がない。療養中なのを差し引いても秋水の実力は折り紙付きだし後ろには桜花が控えている。これで斗貴子先輩いればと
剛太は思った。しかし彼女は他校の生徒を救出すべく奮戦中だろう。無理は言えない。
(ったく。どこの学校の生徒だよ。俺の生き甲斐奪うなっての。とにかくだ。あの帽子のおっさんが先に動きゃ主導権握られ
るかも知れねェ。クソ。なんでこういうメに遭ってんだ俺は)
豊かな髪を掻き毟るのは本日何度目だろうか。じれったい気分を持て余す剛太とは裏腹に、震洋は好き勝手に喚き始めた。
「秋水。お前はいいよなあ! あの金髪剣士に回復して貰ったんだから! だが俺は違う! ケガを抱えたまま入院する羽
目になった! 俺は怯えた! 健康保険未加入だったから10割全額請求されるであろう医療費に怯えた! 鳴滝さんと
出会ったのはそんな頃だ!」
「鳴滝?」
「そうだ! この世界はいずれディケイドによって滅ぼされる! それを防ぐために私はこの少年に近づいたのだ! そして
未納だった健康保険料を全て納め、高額療養費を活用するよう進言したのだ!」
フェルト帽の男性が一歩進み出た。
「早坂秋水! そして中村剛太! いいぞぉ、高額療養費は! 払ったカネが自己負担限度額を超えた場合、その分だけ
払い戻されるのだ! ははは! ふははははははは!」
呵呵大笑とは裏腹に店内は水を打ったように静まり返っている。メイドたちも客達も石像のように立ちすくんで事の成り行き
を眺めている。あれほど歌っていたやる夫社長も難しい表情で人の波の中にいる。やらない夫専務は無表情。
「あ! びっきー!」
「まひろ! 来ないで! (別に気遣ってる訳じゃないわよ。鬱陶しいから来て欲しくないだけ)」
微妙な感情差を見せる女友達2人のやり取りを背景にやや硬い声を漏らしたのは秋水である。
「何故、俺たちの名前を知っている?」
「調べたのだよ」
目を細めた剣士めがけ無特徴なコート姿がゆっくりと歩きだした。赤い絨毯にコツコツという重い音が響いた。
「君たち連金の戦士はいわばこの世界を守る存在! つまり! シンケンジャーと同じくライダーのいない世界に生まれた
ライダーと同じ存在! ディケイドに対抗できるのは君たちしかいないのだよ! さあ、私と手を組みこの世界を救おうでは
ないか!」
「なぁ、オッサン。そのディケイドって奴は何なんだよ? ホムンクルスか?」
「違う! 世界の破壊者だ!」
間髪入れず声を張り上げた鳴滝はいかにも胡乱な存在に見えた。
「奴はすでに幾つもの世界を破滅に追いやっている! カブトボーグの世界も! 魔法少女アイ参の世界も! 奴のせいで
調和が乱れたのだ! 我々が手を結ばなければいずれこの武装錬金の世界も滅ぼされるぞ!」
「つまり男爵様とか編集部みたいな存在かしらね?」
人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。
「そうだ! ディケイドはすでに編集部さえ抱き込みこの世界を葬り去ろうとしている! 現にすでにファイナルは終わったの
だ!! このままでは次の赤マルジャンプの武装錬金ピリオドで君たちの活躍は終わるのだぞ! 様々な伏線も構想も闇に
葬り去られ何かモヤっとしたものを残すのだぞ!! そうなってはおしまいだ! ファンでさえ最近微妙になってきたかなーっ
て思わざるをえない次回作に取って代わられ、それさえもいずれディケイドによって滅ぼされる! あの2ヶ月の休載はその
何よりの証だ!」
「うっせーよおっさん」
憮然とした面持ちで剛太は踏みだした。
「何か色々言っているようだけど、要はてめえ、メイド人質にするような奴の仲間だろ? ンな奴に世界救おうとか言われて
も説得力ねーよ」
うんうんと他の客とメイドも頷いた。更に秋水も歩み出た。
「同感だ。あなたのいうコトが真実ならば、なおさらこのようなやり方で訴えるべきではない。まず戦団に協力を要請し、その
上で 俺たちと共に闘って欲しい」
至極真っ当な意見を浴びた鳴滝はしかし戛然と眼を見開き凄まじい声を上げた。
「おのれえディケイド! すでに錬金の戦士は籠絡済みか!」
「いや聞けって。お前単にディケイド嫌いなだけだろ」
「……くっ、ふははは! だが後悔するのはやはり貴様だディケイドぉ! 見るが良い! 貴様に加担した者がまた滅ぼさ
れる様を!! ふははははは! はーっはっはっは!!!」
身を仰け反らしなお哄笑を上げる鳴滝の周りに灰色のオーロラが揺らめいた。とみるや、彼の周囲に三角頭の大男が5
体ほど現れた。あちこちひび割れたその姿を認めた秋水と剛太の表情が俄かに硬くなった。
「調整体!? どうしててめェが!」
「というよりどこから!?」
「調整体、だと? ふはははは! 違う! これは人造人間的な意味でのアンデッドだ! 断じて調整体などではない!」
「敵のデザイン考えるのが面倒くさいから調整体で間に合わせたのね」
人混みからひょこりと首を出した桜花はそのままにこやかにすっこんだ。
「気をつけたまえ! こいつらはとびきり凶悪で! 凄まじく下品な化け物どもだ! さあ、行け! 騒ぎを起こしディケイドを
おびき寄せるのだ!!」
咆哮とともに調整体たちは四散し人混みめがけ乱入した。
「しまった!」
「追うぞ中村!」
「そうはさせんぞ! 行けッ! 『スロウス』!」
「!!」
阿鼻叫喚の人混みめがけ踵を返した2人の背後で巨大な殺気が膨れ上がった。
「行くの めんど くせー」
咄嗟に飛びのいた剛太たちの間を巨岩が通り過ぎた。巨岩? 違う。拳だ。赤絨毯ごと床板を破砕した”それ”はひたすら
巨大だった。成人男性でさえ人形遊びの要領で掴めるだろう。着地がてらそんな下らない事を思った剛太は、すぐさま腕の
主を観察し──…絶句した。
そこには筋肉の山がそびえていた。むろん山というのは形容で、手足もあれば頭もある。”それ”は異形ではあるが辛うじ
て人の形をしていた。ただし彼の纏う筋肉はあまりに無軌道で野放図すぎた。上半身と両腕のみを肥大させているそれらは
ボディービルダーのような計画性とは全く無縁だった。ただ無思慮に単純な力作業を続けた結果そうなったという感じである。
上半身はほぼ裸。黒いズボンから伸びる2本のサスペンダー以外は全て肌色だ。
「はず れた?」
野太い指で口元をかく男の顔はひどく暗い。何本か顔にかかっている伸び放題の前髪と、目元に滲む薄暗さ──惰性に
身を任せ続けてきた者だけが持つ──が入り混じって凄まじい影を落としている。その闇に戦輪が吸いこまれた。額の辺り
に刺さってぎゅらぎゅらと旋回し始めた。
(見えねーけど動植物型なら額に章印あるだろ! まずはそっちをやって──…)
(人型の急所も斬る!)
鈍牛よりも遅く額に手を伸ばす男の胸が左から右に向かって真一文字に斬り裂かれた。巨漢の傍にいた震洋でさえ何が
起こったか一瞬判じかねた。サスペンダーの斬れるブツリという音を聞いてようやくおぼろげに事態を理解した程度だ。
大男の胸から血しぶきが飛び散った。取り巻く群衆から歓声とも悲鳴ともつかぬ声が張り上がった。
逆胴。息もつかせず飛び込んだ秋水は、しかし微動だにせぬ大男に息を呑んだ。
「馬鹿な。章印が……ない?」
血みどろの大男の胸にはあるべき物がない。とはいえ胸を深く斬られたのは確かだ。並のホムンクルスでならば痛み
に対し何らかの揺らぎを見せるであろう。
にも関わらず大男は無感情なあくびのような声を発して額の戦輪を取り去ったきり、ボンヤリと辺りを見回し始めた。正に
文字通り痛痒を感じていないらしかった。
「額も駄目かよ。じゃあこいつもホムンクルスじゃねーのか?」
「いいや! 彼はホムンクルスだ! ただし『この世界の』ホムンクルスとは全く違う! 章印などという弱点などありはしな
いのだよ!」
けたたましい哄笑が響く中、 大男はのっそりと剛太と秋水を見た。両目は白く盲いているが視力自体はあるらしい。
「あれ? 女将軍 どこ?」
逆胴の傷が稲光とともに再生を始めた。面妖なコトに切断されたサスペンダーさえ修復しているようだった。一方、人混
みの騒ぎはますます加速する。入口に殺到する客やメイドがもつれ合い、転倒する者さえ出始めたようだった。
「くそ! 早く倒さないと客とメイドがやられるってのに!」
「アレは俺に任せるんだ! 君は姉さんと一緒に皆を逃がせ!」
「任せろったって、お前まだ完全には──…」
刀を振りかざし疾駆する秋水を巨大な拳が迎撃した。
「いいや 考えるのも めんど くせー」
「ぐっ」
突き出された拳を刀で受け止めたのは、恐らく剛太を先行させるためだろう。肉厚の刃が嫌な音を立てて軋んだ。相当
肉厚のソードサムライXであるが、岩石のような拳の前では楊枝のように頼りなく見えた。それが剛太を躊躇わせた。
「いいから行くんだ! どの道俺の武装錬金では誘導と戦闘は同時にできない!」
「けど!」
「先ほど君の見せた機転を信じる! だから俺を信じてくれ!
大混乱の人混みの中で刀を振り回せばどうなるか。想像した剛太は不承不承そちらに向かって走り始めた。
「あ。そうだ。人質解放しとこう」
「!!」
鈴木震洋の頭にモーターギアが激突した。
彼は意識とヴィクトリアを手放しながら床に沈んだ。
(え? 俺の出番これで終わり? せっかくコレ貰ったのに……)
彼の手から化石を模したUSBメモリが落ちた。その拍子にどこか端末が押されたのだろう。こんな声がした。
「エンピツ」
大男の声にも似た、しかし若干違う声。それを聞きつけたネコが「なーお」とひと鳴きした。
(入口抑えられたみたいね。非常口も)
レジカウンター前に佇むグレーの調整体をどうするコトもできず桜花達は立ちすくんでいた。人混みの動きは何とか止まり、
入口めがけ長蛇の列ができてるという感じだ。
(こういう時、光ちゃんいたら一瞬で片付きそうなんだけど……)
戦団に収監されている割と人間に友好的なホムンクルスたちを思って桜花はため息をついた。
「ちくしょー! さっきから矢ぁ撃ってんのに全っ然効かないぞ!」
トロロロロ……と奇妙な音を立てて舞い降りた御前はひどく恨めしそうに調整体を見た。
(それも当然。あの男の話じゃホムンクルスに似た別の存在らしいもの。一体どうすれば──…)
レジカウンター前に佇むグレーの調整体をどうするコトもできず桜花達は立ちすくんでいた。人混みの動きは何とか止まり、
入口めがけ長蛇の列ができてるという感じだ。
(こういう時、光ちゃんいたら一瞬で片付きそうなんだけど……)
戦団に収監されている割と人間に友好的なホムンクルスたちを思って桜花はため息をついた。
「ちくしょー! さっきから矢ぁ撃ってんのに全っ然効かないぞ!」
トロロロロ……と奇妙な音を立てて舞い降りた御前はひどく恨めしそうに調整体を見た。
(それも当然。あの男の話じゃホムンクルスに似た別の存在らしいもの。一体どうすれば──…)
「頑張れ変なの!」「キューピー……さん? 頑張ってー!」「不細工だけは心意気は買うぞー!」
こんな状況なのに客もメイドもどこかノンビリしている。
「るせぇ! 変なのっていうな!」
「ハッ! 変な上にザコくて見てられないかしら! こーいう時こそカナの知略の見せ所かしら!!」
人混みをかき分けてきた小柄な影は誰あろう金糸雀店長である。彼女はビシィ! と調整体を指差すと、得意満面で薄っ
ぺらい胸を張った。
「どこのどなたかは知らないけど、あなたはもう終わりかしら! カナの秘策はすでに炸裂しているかしら!」
「おおー」「さすが店長」というどよめきを指揮者じみた手つきで沈めると、彼女は会心の笑みを浮かべた。
「すでにセコムよんだからもうすぐ全て解決かしら!」
人々は黙り込んだ。「セコムじゃ無理だろ」「やっぱ店長だ……」と失意に満ちた呟きがぽつぽつ聞こえた。
「ところでやる夫社長たちは?」
「ん? ああ!」とまひろは部屋の隅を指差した。
「あのたまにチカチカ光ってるのがそうだよ!」
「えーっと」
火花と火花とぶつかりあって、たまにそっから手品のように出てきた調整体が蹴りやら蹴りやら浴びて血ヘドを吐いている。
勝負は五分というところか。やる夫社長とやらない夫専務が攻撃を喰らう場面もあり、タンコブとか生傷がどんどん増えていく。
「べ、別次元の戦いね」
「ロンベルクとミストバーンみたいだね」
「溶かせろォ~! 服だけを溶かす都合のいい粘液を……喰らえッ!!」
無視されたのが悔しかったのか。入口の調整体が動いた。次の瞬間、彼の口から溢れた白い粘液がメイド達を襲った。
「るせぇ! 変なのっていうな!」
「ハッ! 変な上にザコくて見てられないかしら! こーいう時こそカナの知略の見せ所かしら!!」
人混みをかき分けてきた小柄な影は誰あろう金糸雀店長である。彼女はビシィ! と調整体を指差すと、得意満面で薄っ
ぺらい胸を張った。
「どこのどなたかは知らないけど、あなたはもう終わりかしら! カナの秘策はすでに炸裂しているかしら!」
「おおー」「さすが店長」というどよめきを指揮者じみた手つきで沈めると、彼女は会心の笑みを浮かべた。
「すでにセコムよんだからもうすぐ全て解決かしら!」
人々は黙り込んだ。「セコムじゃ無理だろ」「やっぱ店長だ……」と失意に満ちた呟きがぽつぽつ聞こえた。
「ところでやる夫社長たちは?」
「ん? ああ!」とまひろは部屋の隅を指差した。
「あのたまにチカチカ光ってるのがそうだよ!」
「えーっと」
火花と火花とぶつかりあって、たまにそっから手品のように出てきた調整体が蹴りやら蹴りやら浴びて血ヘドを吐いている。
勝負は五分というところか。やる夫社長とやらない夫専務が攻撃を喰らう場面もあり、タンコブとか生傷がどんどん増えていく。
「べ、別次元の戦いね」
「ロンベルクとミストバーンみたいだね」
「溶かせろォ~! 服だけを溶かす都合のいい粘液を……喰らえッ!!」
無視されたのが悔しかったのか。入口の調整体が動いた。次の瞬間、彼の口から溢れた白い粘液がメイド達を襲った。
「きゃああああああああああああああああ!」
「やべ! 誰かやられたか!!」
人混みをどかしながら入口へと駆け付けた剛太が見た物。
それは。
肌色天国。
「やべ! 誰かやられたか!!」
人混みをどかしながら入口へと駆け付けた剛太が見た物。
それは。
肌色天国。
太ももとか胸とか腹とか露出した可愛いメイドが羞恥に頬を染め。
豊かな胸を露出した桜花が憤懣やるせない様子でそこを隠し。
一糸まとわぬ姿のまひろが「かあっ」と顔面を上気させてしゃがみこんでいる。
豊かな胸を露出した桜花が憤懣やるせない様子でそこを隠し。
一糸まとわぬ姿のまひろが「かあっ」と顔面を上気させてしゃがみこんでいる。
なんてコトは、なかった。
ただ全身白濁でベトベトになったでっかい坊主がメイドたちの前に立ちふさがっているだけであった。
粘液は全てが彼が防いだのか。
もちろん裸である。無かった事にされかけている序盤当時のブヨブヨ腹さえだらしなく垂れている。
「間に合ったか! 我の仲間に手出しはさせんぞ!」
念仏番長。このメイドカフェのオーナー。
彼は最悪のタイミングで帰って来たのである。顔は白濁でどろどろだが誰が喜ぶというのか。
「死ね!!」
「死ね!!」
「空気読め!!」
男性客と調整体の心はこの時初めて一つになった。大挙する男どもが念仏を持ち上げると調整体が電気系統の故障か
何かで開かなかった自動ドアを笑顔で開けた。そこから念仏番長が廃棄されたのを合図に再び粘液がメイドたちに降りか
かった。念仏が壊したユートピアはいまここに復活を遂げたのである。もちろん男性客らは一瞬ばかりの眼福と引き換えに
メイド諸氏からの信頼を著しく損なったとは気付いていない。目先の利得に踊らされ真っ当な努力や信頼を放棄する衆愚
の縮図がここにあった。
「馬鹿だアイツら」
唖然とする剛太。そして念仏は再度閉ざされた自動ドアを号泣しながら叩いている。仏撃使えよ、まず。
「ぐは!」
「きゃあっ!?」
そこに秋水がフッ飛ばされてきてますます混迷を極めた。何で飛んで来たかと剛太が店内を見ると「本気 出すの 超め
んどくせー」と跳ねまわるスロウスがいた。跳ね飛ばれたのだろう。
一方秋水は全裸のまひろを組み敷く形になっていた。
様々な 力学的要素が複雑に絡み合った結果そうなったのは想像に難くない。いわゆるToLOVEる現象である。互いの
状況を理解した2人 はバツの悪さと、動揺と、わずかばかりの甘酸っぱいトキメキを乗せた複雑な表情をしつつお約束の赤
面をした。そして素早く離れる2人。「これを」と後ろ手で学生服の上着差し出す秋水の声はぎこちなく上ずっている。まひろ
はまひろで秋水の方を見れないという感じの無言でコクコク頷いて急いで羽織った。ああ、ストロベリー。一部始終を目撃し
たメイドや客や桜花や御前はほんわかした。調整体とスロウスもにっこり笑って手を繋ぎ点描トーンの中の人になった。こ
れで万事は解決した。 愛は世界を救うのである終わり。
粘液は全てが彼が防いだのか。
もちろん裸である。無かった事にされかけている序盤当時のブヨブヨ腹さえだらしなく垂れている。
「間に合ったか! 我の仲間に手出しはさせんぞ!」
念仏番長。このメイドカフェのオーナー。
彼は最悪のタイミングで帰って来たのである。顔は白濁でどろどろだが誰が喜ぶというのか。
「死ね!!」
「死ね!!」
「空気読め!!」
男性客と調整体の心はこの時初めて一つになった。大挙する男どもが念仏を持ち上げると調整体が電気系統の故障か
何かで開かなかった自動ドアを笑顔で開けた。そこから念仏番長が廃棄されたのを合図に再び粘液がメイドたちに降りか
かった。念仏が壊したユートピアはいまここに復活を遂げたのである。もちろん男性客らは一瞬ばかりの眼福と引き換えに
メイド諸氏からの信頼を著しく損なったとは気付いていない。目先の利得に踊らされ真っ当な努力や信頼を放棄する衆愚
の縮図がここにあった。
「馬鹿だアイツら」
唖然とする剛太。そして念仏は再度閉ざされた自動ドアを号泣しながら叩いている。仏撃使えよ、まず。
「ぐは!」
「きゃあっ!?」
そこに秋水がフッ飛ばされてきてますます混迷を極めた。何で飛んで来たかと剛太が店内を見ると「本気 出すの 超め
んどくせー」と跳ねまわるスロウスがいた。跳ね飛ばれたのだろう。
一方秋水は全裸のまひろを組み敷く形になっていた。
様々な 力学的要素が複雑に絡み合った結果そうなったのは想像に難くない。いわゆるToLOVEる現象である。互いの
状況を理解した2人 はバツの悪さと、動揺と、わずかばかりの甘酸っぱいトキメキを乗せた複雑な表情をしつつお約束の赤
面をした。そして素早く離れる2人。「これを」と後ろ手で学生服の上着差し出す秋水の声はぎこちなく上ずっている。まひろ
はまひろで秋水の方を見れないという感じの無言でコクコク頷いて急いで羽織った。ああ、ストロベリー。一部始終を目撃し
たメイドや客や桜花や御前はほんわかした。調整体とスロウスもにっこり笑って手を繋ぎ点描トーンの中の人になった。こ
れで万事は解決した。 愛は世界を救うのである終わり。
「ははは! かかったな! 今のはフェイントだ! やれ! 調整体! スロウス!」
「ラブコメとか めんどくせー 恋愛とか めんどくせー」
「がはあ!!」
(バカップルやってるからそーなるんだよ! 馬鹿ッ!)
剛太が嘆く中(でもちょっとざまあwwwと思った)、殴られた秋水は店の中へ飛んでった。椅子をいくつかフッ飛ばしテーブル
をいくつかブチ折ってようやく止まった。
それを追うスロウスが拳を上げた。いよいよトドメを刺そうとしているのは明白だ。。
「早坂……ぐっ!!」
背中を通り過ぎる鋭い爪の感覚に剛太は我が身の不覚を悔いた。秋水に気を取られたばかりに調整体に斬られた。
だが不思議と秋水を恨む気持ちはない。桜花もまひろも彼を見ている。その瞳に宿る光は──…
(俺が先輩心配する時と同じじゃねェかよ! だったらアイツ見捨てる訳にゃいかねえ! だが!)
体のあちこちにモーターギアの跡を刻みながらもなお動く調整体に激しい苛立ちが募る。
(章印もない奴相手に攻撃力最弱じゃ歯が立たねえ! せめて先輩か誰か、もう1人でも居てくれたら!)
桜花目がけて爪が振り下ろされるのが見えた。考える暇はなかった。ただ突き動かされるまま剛太は走り──…
「がはあ!!」
(バカップルやってるからそーなるんだよ! 馬鹿ッ!)
剛太が嘆く中(でもちょっとざまあwwwと思った)、殴られた秋水は店の中へ飛んでった。椅子をいくつかフッ飛ばしテーブル
をいくつかブチ折ってようやく止まった。
それを追うスロウスが拳を上げた。いよいよトドメを刺そうとしているのは明白だ。。
「早坂……ぐっ!!」
背中を通り過ぎる鋭い爪の感覚に剛太は我が身の不覚を悔いた。秋水に気を取られたばかりに調整体に斬られた。
だが不思議と秋水を恨む気持ちはない。桜花もまひろも彼を見ている。その瞳に宿る光は──…
(俺が先輩心配する時と同じじゃねェかよ! だったらアイツ見捨てる訳にゃいかねえ! だが!)
体のあちこちにモーターギアの跡を刻みながらもなお動く調整体に激しい苛立ちが募る。
(章印もない奴相手に攻撃力最弱じゃ歯が立たねえ! せめて先輩か誰か、もう1人でも居てくれたら!)
桜花目がけて爪が振り下ろされるのが見えた。考える暇はなかった。ただ突き動かされるまま剛太は走り──…
鳴滝の笑いが爆発した。
「やはり君が世界を守るのは不可能なのだよ早坂秋水! あれだけの罪を犯しておきながらのうのうと錬金戦団に下る
ような者など世界は歓迎しない! しょせん君はディケイド同様、世界から追放され、隔絶されるべき存在なのだ!」
「そうだとしても、俺は諦めるわけにはいかない! この街を守る。そう約束しているんだ」
よろけながら立ち上がる秋水に鳴滝の容赦ない哄笑が刺さる。
「さあ! その状態で受けて死なずにいられるかな!」
壁を跳ねまわり超高速を得た筋肉の弾丸が秋水目がけて殺到した。
「やはり君が世界を守るのは不可能なのだよ早坂秋水! あれだけの罪を犯しておきながらのうのうと錬金戦団に下る
ような者など世界は歓迎しない! しょせん君はディケイド同様、世界から追放され、隔絶されるべき存在なのだ!」
「そうだとしても、俺は諦めるわけにはいかない! この街を守る。そう約束しているんだ」
よろけながら立ち上がる秋水に鳴滝の容赦ない哄笑が刺さる。
「さあ! その状態で受けて死なずにいられるかな!」
壁を跳ねまわり超高速を得た筋肉の弾丸が秋水目がけて殺到した。
「あ、あああああ……」
豊かな胸元を隠しながら、桜花は形のいい唇を震わせた。
「何発モーターギア喰らっても死ななかった奴が……一撃だと?」
いま正に頭を吹き飛ばされ空間をズリ落ちていく調整体に剛太も慄然とした。
「まったく」
金と青の直線が目立つ50口径の銃を構えたその男は、大儀そうに呟き
「やっぱり素手じゃ無理だろ。常識的に考えて……」
襲い来る4体の調整体をあっという間に一掃。そして銃身にカードをセットした。
豊かな胸元を隠しながら、桜花は形のいい唇を震わせた。
「何発モーターギア喰らっても死ななかった奴が……一撃だと?」
いま正に頭を吹き飛ばされ空間をズリ落ちていく調整体に剛太も慄然とした。
「まったく」
金と青の直線が目立つ50口径の銃を構えたその男は、大儀そうに呟き
「やっぱり素手じゃ無理だろ。常識的に考えて……」
襲い来る4体の調整体をあっという間に一掃。そして銃身にカードをセットした。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その男は数百キログラムはあろうかというスロウスを真正面から受け止めている最中だった。
裂帛の気合にも似た、しかしより野暮ったくて原始的な叫びを轟かせる彼の体は秋水よりも小さい。
にもかかわらず、絨毯におぞましい裂傷を刻みながらもスロウスを受け切っている。
動きが止まった瞬間、丹田から絞り出すような唸りを男は上げ、重量なら数十倍はあるスロウスを……『投げた』。
遥か遠くの壁にスロウスが叩きつけられた。衝撃がメイドカフェを貫き全てが揺れる。
舞い落ちる埃の中で鳴滝は、ただその男を唖然と眺めていた。
全身から汗を流し秋水の前に立ちすくむその男は、ひどく不格好だった。
3頭身で不細工で、ぶよぶよと肥っていて……しかし誰よりも強い意思を以て鳴滝を睨んでいた。
腰にはベルト。カメラのようなバックルが特徴的な、ベルト。
「罪を犯したから世界が歓迎してない? ああ。確かにそうかもだお。時には強く無情な風がこいつを襲い、仲間にさえ過
去を詰られるコトもあるだろうお」
けど! と彼は秋水を指差した。
「けどこいつは自分の犯した過ちを悔い、今でも償おうとしているんだお! 例え世界に歓迎されずとも、何度だって立ち上
がり誰かのために闘うだろうお! 罪を犯してしまったからこそ、それを許してくれた人間のために戦える! 世界に歓迎さ
れなかったからこそ、歓迎してくれる誰かのために身を削れる! そんなコイツをお前が侮辱していい道理は絶対ないお!」
鳴滝の眉が不愉快そうに跳ねた。
「貴様……何者だ!?」
「通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ! ……だお!」
カードが1枚。彼の手の中で翻り、バックルへと叩きこまれた。
「変身!!!」
バックルのサイドハンドルが交差を描く両手によって押し込められた。そして走る残影と真紅の柱。
オートバイメーカー社長・入速出やる夫社長(48)が引き起こす意外な変貌に秋水はただ唖然とするばかりであった。
その男は数百キログラムはあろうかというスロウスを真正面から受け止めている最中だった。
裂帛の気合にも似た、しかしより野暮ったくて原始的な叫びを轟かせる彼の体は秋水よりも小さい。
にもかかわらず、絨毯におぞましい裂傷を刻みながらもスロウスを受け切っている。
動きが止まった瞬間、丹田から絞り出すような唸りを男は上げ、重量なら数十倍はあるスロウスを……『投げた』。
遥か遠くの壁にスロウスが叩きつけられた。衝撃がメイドカフェを貫き全てが揺れる。
舞い落ちる埃の中で鳴滝は、ただその男を唖然と眺めていた。
全身から汗を流し秋水の前に立ちすくむその男は、ひどく不格好だった。
3頭身で不細工で、ぶよぶよと肥っていて……しかし誰よりも強い意思を以て鳴滝を睨んでいた。
腰にはベルト。カメラのようなバックルが特徴的な、ベルト。
「罪を犯したから世界が歓迎してない? ああ。確かにそうかもだお。時には強く無情な風がこいつを襲い、仲間にさえ過
去を詰られるコトもあるだろうお」
けど! と彼は秋水を指差した。
「けどこいつは自分の犯した過ちを悔い、今でも償おうとしているんだお! 例え世界に歓迎されずとも、何度だって立ち上
がり誰かのために闘うだろうお! 罪を犯してしまったからこそ、それを許してくれた人間のために戦える! 世界に歓迎さ
れなかったからこそ、歓迎してくれる誰かのために身を削れる! そんなコイツをお前が侮辱していい道理は絶対ないお!」
鳴滝の眉が不愉快そうに跳ねた。
「貴様……何者だ!?」
「通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ! ……だお!」
カードが1枚。彼の手の中で翻り、バックルへと叩きこまれた。
「変身!!!」
バックルのサイドハンドルが交差を描く両手によって押し込められた。そして走る残影と真紅の柱。
オートバイメーカー社長・入速出やる夫社長(48)が引き起こす意外な変貌に秋水はただ唖然とするばかりであった。
「つー訳だ。群衆の前でやるのは気が進まないが──…変身」
天井に発砲したやらない夫専務の周囲にも残影と群青の柱が走り……。
天井に発砲したやらない夫専務の周囲にも残影と群青の柱が走り……。
「ディケイドとディエンドだと! 馬鹿な! 『奴ら』以外にも存在するなど……私、聞いてない!」
鳴滝が絶叫する中、彼らは姿を変えた!