SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 永遠の扉 第091話(3)


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 任務が任務である。剛太はいかにも人間離れのやる夫社長がホムンクルスかどーか確認せねばならぬ。
 とりあえず作戦会議を開いた。ごとごととラタン椅子をテーブルの周りに集めただけの質素極まる会議に参加したのは桜
花と秋水。3人集まれば何とやら、同じテーブルを囲む同僚に「まー適当に知恵出してくれ」とだけ議長は呼びかけた。
「で、どうする?」
「どうするっつったってなあ。てゆーかお前話振るだけで考えないのな」
 実直極まりない表情の秋水に気のない返事を漏らしながら、隣の桜花に視線を移す。目が合った。意味ありげな微笑が
返ってきたがそれだけで、特に提案などは来ない。人選を誤ったか。臨時議長席に溜息が洩れた。
(意見言えない奴と言うつもりのない奴だけじゃねーかこの会議。意味ねぇ!)
 お冷を注ぎにきたヴィクトリアが「無駄な努力御苦労さま」と毒づいてきた気もするがそれは無視。ヒマそうにケータイを
取り出してメールをチェックする。新着は8件。うち5件は件名からしてスパム丸出し。速攻削除。2件は特に興味を引かな
い広告メール。削除。残り1つは斗貴子から。大喜びで読み始めた剛太の顔は、しかし文章を追うごとに曇って行った。つい
に放り投げられた携帯電話が桜花の前へと滑っていく。
「どうしたの?」
「先輩からメール。今日はどうしても外せない事情があって来れないって」
「事情?」
「たまたま知り合った他の学校の生徒がホムンクルスにさらわれて、物騒な連中と一緒に救出に行かなきゃなんねーって」
「大変そうね津村さんも」
「あーダリぃ。もうあの白饅頭みたいな社長さ、ああいう生き物ってコトで良くね?」
 込み上げてくる倦怠感。フル活用される椅子の背もたれ。首も腕も一切後ろへだらしなく垂らす剛太は自分でもこの任務
に対するモチベーションがダダ下がっているのに気づいた。もういい。めんどい。やっても無駄。そんな感じだ。
「だがもし彼がホムンクルスだった場合──…」
「わかってるよ。被害甚大だって。ホント真面目なのなお前。じゃあ……もういっそ当人に聞くか?」
「ぶっ」
 投げやりな意見だが桜花はウケたらしい。はしたなく噴き出た吐息を艶やかな唇ごと押さえてぷるぷる震え出した。
「い、いくら津村さん来れないからって……(クス)…………そんな露骨に……(クスクス)……投げなくても……本当、分かりや
すいんだから剛太クン……(クスクス)」
「あっそ。でも俺はあんたの笑いのツボが分からねーけどな。今のドコにそんなウケる要素が……」
「笑いのツボは人それぞれだお! だからこそそれを見極めるコトに意味があるんだお!」
「うわああああああああああっ!」
 剛太が手足をバタつかせて椅子から転落したのは、絶賛のけぞり中の視界を巨大な逆さ顔に占領されたからである。
アップで見るその顔の大迫力よ。碁石のように黒々とした瞳には瞼も睫も何もなく、剛太はその男がやはり人外めいてい
るコトを再認識させられた。転倒とともに視界が反転。逆立ちしてた渦中の人物が元に戻る。やる夫社長がそこに居る。
「お? なんでビックリしてんだお? やる夫呼んだのはあんたらじゃねーのかお?」
 はぁ? と威圧的な声を喉の水面ギリギリに押し込めて剛太はやる夫の背後を見た。まひろがVサインしている。つまり
はそういうコトらしかった。
「何か御用あったんでしょ! せっかくだから呼んできたよ!」
「あーハイハイ。ありがとうございますってんだ。ケッ」 
 小声で吐き捨てる剛太の横できらびやかな笑顔が「お待ちしておりましたー」とばかり花咲いた。
 そして彼女はやる夫社長との事務的な「お呼びしてごめんなさい → いいお」的な会話をサクっと終えてこういった。
「実はここにいる男のコたちが人生について相談したいそうなの!」
「え?」
「なっ!?」
 ぎょっとする剛太と秋水に構わず桜花はバスガイドよろしく手首を返し、右手の彼らを指し示した。「みなさま右手をごらん
下さいませ。こちらは若さゆえ苦しみ若さゆえ悩み心の痛みに今宵も一人泣く男のコたちです」。そんな紹介の仕方だった。
「ほー。人生相談かお。やる夫を見込んでくれたんだったら答えるお!」
 やる夫社長は相当気さくらしい。突拍子もない申し出をあっさり笑顔で快諾した。
(何だよこの展開。な、お前の姉貴何考えてるんだ)
(分からない。むしろ俺が聞きたいのだが)
 まったくこういう時の桜花は機転が利いて利いて利きまくるらしい。「あらあらちょっと躊躇っているようね。恥ずかしがり屋
さんだから」といかにもなフォローをした。武藤まひろの唐突な行動をよくここまで活かせるものだと剛太は感心した。
「社長さんにお時間取らせるのも悪いから私が短く説明するわね。1人は恋について悩んでいるの。色々お世話になった
人が大好きなんだけど、その人には心に決めたカンジの人がいて、入り込む余地がないそうなの。でも諦め切れなくて
毎日毎日悩んでいるとか」
「ほう。それはまた」
 いぎたない笑みが自分を捉えたような気がして剛太はゾクっとした。2人いるのになぜ分かったと。
「で、もう1人は昔いろいろあって人間不信になっちゃって、ちょっとした暴力事件を起こしちゃったの。でもその被害者
さんが何も責めずに後で助けてくれたから自分も頑張ろうって思ってるんだけど……ふふ。不器用だからなかなか動け
ないみたいね。世界に対してどう頑張っていけばいいかまだ手探りって感じなのよ」
「ほほう」
(……だから姉さんは一体何を考えている)
「で、ちょっとでいいからアドバイスしてくれたなんて思ってるんだけど……いいかしら?」
「可愛い女の子の頼みなら大歓迎だお!」
「まあ社長さんったらお上手」
「メイド通り越してホステスになってるぞあんた」
 実に世慣れしている桜花に剛太は愕然とした。これで昔は秋水以外に心を鎖していたというから驚きだ。
「んー成程。どっちがどーいう悩み持ってるかだいたい分かったお」
 頬杖をついたやる夫社長の顔はちょっと意地悪い。うら若い青年の青臭い悩みをいじるのが楽しくて仕方ないという感じだ。
「まず恋の方はアレだお。全力でやるべきだお! 完全燃焼すべきだお!」
「!」
 遠近法無視でドーンと差し出された指に剛太は息を呑んだ。
「フラれるとかフラれねーとかそういうのはどうでもいいお! くすぶったまま終わるっつーのが問題だお! 大事な恋にな
んもできずに終わったら男として終わるのだお!」
「!!!!!!」
「だから自分にできるコトを徹底的にやるお! 誰に笑われてもいいお! 自分を磨いて磨きまくって、好きな人に追いつけ
るよう努力するんだお! その結果が例え敗北だったとしても! 足掻きぬいて積み重ねたもんは自分って存在を一層素敵
にしてくれるもんだお」
(な、なんだこの頬を伝うもんは。俺は……俺は……俺は感動しているのか? こんな奴に……)
「で、そしたらしめたもんだお。綺麗な思い出とカッコいい自分が同時に手に入るんだお。そりゃあ振りむきゃ辛いかも知れない
けど、それを肥料にしてもっといい出会いが舞いこむ土壌が整うのだお。人生ってのはそういうもんだお」
「社長オオオオオオオオオ!」
 もう剛太は止まらない。涙ながらにやる夫社長の手を持ってブンスカブンスカ振りたくった。決めた。戦士やめたらこの社
長のいる会社に入りたいと。若手技術者になって歯車作ってもいいと。
「で、世界に対してどうするかっつー問題は難しいもんだお」
「はい」
 一方の秋水はそれが死活問題であるからすくりと居住まいを正しやる夫社長に向かい合った。
「ただ、人のためにありたいっつーならきっと間違いはないお。やる夫はお前がどういう仕事に就きたいかは知らないけれど
人のためにありたいって思ってるなら、それはきっと上手くいくお。もちろん、辛いコトも不条理なコトも沢山あるお。降り注ぐお」
「分かっているつもりです」
「なら根本的なところでは大丈夫だお。人の輪ってのは大事お。やる夫だって色んな人の助けがあったから、社長をやって
いられるんだお。もし退職したら全国巡って従業員全員と握手したいぐらいだお」
「人の輪……」
「後はまあ、堅すぎるのはよくねーってコトかお?」
「と言うのは?」
「やる夫の師匠がいってたけど、恋愛しない奴ってのは良くないお。人間としての面白味が出てこないんだお。だからお前も
恋愛をしてみるべきだお」
「恋愛、ですか」
「そこのコとかどうだお? ウチの娘に似てて性格良さそうだおwwwwwwwwwwwwww」
「え?」
「え゛っ!!」
 やる夫社長の視線を追った秋水は真赤になるまひろを目撃した。そして目が合った。彼女はまん丸い目を気恥しそうに
見開くと、照れくさそうにプイと顔を背けた。秋水もまた然り。若干速くなった鼓動と呼吸を意思の力で鎮静すべく務めた。思
考がそれのみに留まるよう懸命に努めた。まんざら知らぬ仲でもないから余計に気まずい。
(まひろちゃん……あ、そこのコはね、さっきいった被害者さんの妹なの)
(なるほどwwwwwwww あんな堅物がここにいんのもそのせいかおwwwwwwwwwwwwwwww)
 ニヤニヤとするやる夫社長の前で剛太だけは(はいはいバカップルバカップル)と毒づいた。

「まあとにかくだお! お前たちの得手に帆を上げてみるお。そしたらきっと人生楽しいお」

「はい!」

 元の席めがけて歩きだすやる夫社長に、青年2人は気持ちのいい返事をした。

 固い絆が芽生えた。彼らはみなそう信じた。



 だがこの1分後、剛太はやる夫社長の後頭部にモーターギアをお見舞いした!!!



 要するに剛太は彼の正体を暴かなくてはならない!
 だがこの辺りチマチマチマチマやっても面倒くさい! ただでさえ作者は勝手に始めた過去編の重苦しさに頭を抱えてい
るのだ! なんだよあの長編! 糞長かった鐶戦ぐらい続いてるよ! ブログ連載を始めた結果がこれだよ!
 よって終南捷径、目的達成への近道。
 色々考えた結果。
 剛太はモーターギアをこっそり投げた。手順は簡単。まず店全体に広がる人混みを見る。観察。次なる動きを完璧に予
測したところで──…投擲! ギアのごとき戦輪(チャクラム)が人混みに投げ入れられた。誰も気づくものはいなかった。
どのメイドがいいか下卑た談議をする男性2人の間を走り抜け、軌道上にすっ転ぶドジっコメイドも鋭く急上昇して余裕で
回避。天井近くでフォークよろしく急降下したその先で、一気飲みやりますと立ち上がった男性がいたが当たるコトなく通り
過ぎた。「?」 一気飲みをやりおおした彼はジョッキ片手に後ろ髪を触った。何かがそよいだような気がした。
 そうして複雑な人波をギザギザと曲がりながらすり抜けていく戦輪。いささか現実離れしているが、しかし「速度・角度・回
転数を事前にインプット」可能なモーターギアである。理論からいえばこの程度の芸当はできて当然といえた。むしろ恐る
べきは剛太の頭脳。彼は人混みを構成する何十人という人間の動きを読み切りモーターギアを投げた。一口に読むとい
っても遠くの人間の様子など普通は分からぬものだ。まして分かった所で彼らは遠くにいる。モーターギアが彼らに到達
するまでに相当の時間差が生ずるであろう。様子は直接伺えない。にも関わらず5手6手先を読まねばならぬという複雑さ。
それを解消したのが桜花の武装錬金・エンゼル御前に付帯する自動人形である。やる夫社長に似た2頭身の似非キュー
ピーは片手にケータイ持って密かに天井を飛んだ。そして剛太が肉眼で視認できぬ場所へ行くと、頭頂部アンテナに内蔵の
マイクで音を拾った。
「本当は私の声を送るんだけど、逆も一応できるわよ」
 桜花が差し出した手には籠手。ハート型の端末から御前を介し遠くの音が聞こえてくる。次いで剛太のケータイに着信。
御前の撮影した客どもの画像がリアルタイムで送られてきたのはいうまでもない。
「わー、まるで探偵みたい! ゾクゾクするね!」
 まひろの黄色い歓声は黙殺。剛太は集まってくるあらゆる情報を分析し、「人混みを静かに抜けてやる夫社長だけに
当たる軌道」を算出。それに応じた速度と角度と回転数をモーターギアに入力し、投げたのである。距離が遠ざかるにつれ
て生ずるであろう時間差さえ計算に入れていたようだから、いやはやまったく彼こそ現実離れした存在といえよう。
 やがて淡い光の波がやる夫社長の後頭部すれすれでUターンし人群へと消えた。それとなく検分に赴いていた秋水もま
た一頷きすると自席めがけ歩き始めた。彼は見た。白饅頭のような頭部は薄く削られ血を滲ましたきり再生する気配を見
せない。
 再び人混みに没したモーターギアは人知れぬ複雑軌道を描き剛太の手中へ戻っていく。だが多くの者は気付いていない。
狙い撃たれたやる夫社長でさえ痛みを感じているかどうか。
(知らぬが仏、ね。バレたら大騒ぎよ)
 ヴィクトリアの面頬に本来の尖った冷笑が広がったのは、灰皿ほどある鋭利な歯車が耳元を通過した瞬間だった。
(大方あの社長がホムンクルスがどうか確かめようって魂胆でしょうけど……上手くいったかしら?)

「どうやら違うようだな。傷が再生しなかった」
 席に座るべくラタン椅子を引く秋水へ「そうか」とだけ剛太は頷いた。
「じゃあシロだな。ホムンクルスなら武装錬金で与えた傷もすぐ再生する。……てかオイ」
 戻ってきた戦輪の刃を眺める剛太の顔色が変わった。つられて桜花も覗きこんだ。
「あの人の血、赤だぜ?」
「まあ意外。てっきり緑色だとばかり」
 品良く口に手を当て驚く桜花だが文言のひどさは否めない。
「とりあえず採血して聖サンジェルマン病院で分析してもらいましょう。人間かどうか知りたいし」
 当然の如く取り出されたラミジップに「さすがメイド長」と目を輝かせたのはまひろである。
「でも、さっきからみんな何やってるの?」
「分析。要するにあの社長さんの頭削って再生するかどうか試した。自然に傷が塞がりゃホムンクルスな」
「でも近づいて攻撃したらバレるでしょ? もしホムンクルスなら迂闊な刺激は命取り。メイドさんたち巻き込む訳にはいか
ないし」
「うん。お客さんもいっぱいいるもんね」
「とはいえ御前様の矢でさえ目立って仕方ないのよ。秋水クンの攻撃じゃ間違いなく大騒ぎ。だから剛太クンのモーターギ
アでこっそり攻撃したの」
「アレ?」とまひろは首を傾げた。
「じゃあどうしてココで攻撃したの?」
「ハイ?」
 剛太の反問を浴びたまひろはむずがりを一層強めた。剛太たちなりの理由があると思いながらそれが理解できてないと
いう調子だ。薄くて太い眉毛はハの字にさがり視線もげっ歯類のようにオドオド彷徨っている。
「え……だってやる夫さんたちが帰る時は人気のないトコとかいくでしょ? なんでその時を狙わなかったのかなーって」

「「!!!!!!!!!!!!」」

 剛太と桜花に戦慄が走った。
「確かにいわれてみればそうだな。どうして攻撃したんだい姉さん? 俺は指示通り検分しただけだが……」
 不思議そうな秋水をよそに剛太たちはとめどない汗を流し始めた。
(馬鹿!! 考えてみりゃそうじゃねーかよ! こんなトコであんな手間暇掛ける意味ねーよ!!)
(で! でも剛太クンだってノリノリだったじゃない! 「後で斗貴子先輩に報告したら褒められるかもなー」とか何とかで)
 汗ダラダラで密談する2人。その足元をネコが通り過ぎた。
「わー、ネコさんだ! ネコさんが来たよ秋水先輩!!」
「確かにネコだが……しかしなぜココに?」
 どこから迷いこんで来たのだろう。全身ブルーのネコが赤い絨毯の上をうろうろしている。ブルーといっても秋水の愛刀
のような鮮やかなそれではなく、たとえばロシアンブルーの”ブルー”よろしく薄い墨色に近い毛色だった。
「なお。なーお。なお……」
 お世辞にも可愛いとは言い難い、不機嫌そうな声を漏らしながらそのネコはゆっくりと歩きまわっている。しばらくその様子を
見ていたまひろはやにわに表情を輝かせしゃがみこんだ。
「ね、ね? どこから来たのネコさん? おうちはあるの? それとも野良さん? お腹に巻いてるのはなーに?」
 よしよしと頭を撫でられるネコを一瞥した秋水は、「おや?」と首を傾げた。そのネコの腹部には金属製の器具が巻かれ
ている。それはまるで貞操帯のようだった。キャタピラを思わせる武骨なベルトが丸々とした腹部を被い、背中には重そうな
合板が乗っている。それは何かをはめ込むためにしつらえられたらしく、中央に小さな四角形の穴が開いている。
(鍵穴……にしては妙だな。一体誰がこんな物を……?)
 無意識に手を伸ばす。ネコが振り返った。そして一層強く「なお!」と鳴いた。
「取られるの嫌がってるのかなー? よしよし」
 すっかり打ち解けたらしい。喉を撫でられ気持ちよさそうに目を細めていたネコはまひろに抱っこされても抵抗する気配
はない。「なお、なお。なーお」と掠れた声で鳴くばかりである。
 一方、剛太と桜花のヒソヒソ話は終局に差し掛かっていた。
(元々発案したのはあんただろ! だいたい、店でやる意味ないって知ってりゃあやらなかったって!)
(なんていうか……ゴメン)
 てへっと桜花が笑い、剛太は渋々と矛を引っ込めた。代わりに歯車を頭の奥から引っ張り出してもっともらしい理屈をつけ
る。とはいえまひろの関心はすっかり迷いネコに移っているようでもあったが。
「邪魔で仕方ねー人混みでも攻撃隠すにゃうってつけな訳。分かる?」
「ふぇ?」
 当たり前のようにネコを頭に乗せたまひろは大きな瞳を瞬かせた。
「聞けよ! それからネコで遊ぶな!」
「違うよ! ネコさんが探し物したいから乗せてっていったの!」
「ウソつけ! ネコがいうか!」
「本当だってばあ」
 剛太の剣幕に傷ついたのか、まひろはるるるーと涙を流した。
「香美ちゃんが居れば良かったのにね」
「あんなん役に立つか! つーか本題! 俺がモーターギア飛ばしたのは(人混み云々)って訳!」
「え!? それでもやっぱり危なくないかな? もし他の人に当たったらケガするんじゃあ──…」
「大丈夫だ。彼の手腕ならば絶対に当たらない。」
 メイド服で一段と可憐さをました肩に手が乗せられた。秋水だ。
「更にあの武装錬金は攻撃力がやや低い。しかも回転数は極端に下げてあった。万が一当たったとしても大事には至らない」
「そうよ! 核鉄つけておけば治るし、いざとなれば私が傷を引き受ければ済むもの」
 まひろはすぐ納得したようだった。そしてネコと遊び始めた。
(やや低い、ねェ)
 一仕事終えた満足感も手伝ってか、剛太はつい口を綻ばせた。
(俺の武装錬金はパワーだけなら最弱クラス。やや弱いなんてもんじゃねェよ。いちいち変な部分で気遣うのなお前)
「でもホントのコト言われたら言われたでヘソ曲げるでしょ剛太クン?」
 血液入りラミジップをピっと締めたメイド長は相変わらずニコニコしている。
「…………ほんと、性格悪いのに頭だきゃいいのな」
「お互いさまよ」
 隣の席から歓声があがった。
「きゃあ! もー、くすぐったいってばあ。やめてー」
 見ればまひろが抱えたネコに口周りをぺろぺろ舐められ大はしゃぎしている。気楽なもんだ(ものね)と2人はため息を
ついた。
「…………」
 秋水だけはややフクザツな表情である。
「じゃあ俺、帰るわ」
 席を立った剛太に桜花は意外そうな顔をした。
「何だよその顔? 社長さんがホムンクルスじゃないならココにいる意味ないだろ? さっさと帰って他の残党の手がかり探
さなきゃならない訳。できたら先輩の加勢に行きたいし」
「そうね。分かるわ。やっぱり津村さんが一番大事だものね」
 反論されるかと思いきやひどく沈み込んだ返事が来て、むしろ剛太の方が面喰らった。
「少しの間だけど剛太クンと任務以外で話せて楽しかったわ。ありがとうね」
 見上げた桜花の瞳はうるうると潤んでいる。何というか一夜限りの恋が終わった相手を見送るような愛しさと切なさが
徹底的に籠っている。剛太とて男性である。女性にかような目をされるとあまり悪い気はしない。というか邪険にしすぎた
かもという罪悪感さえ沸いてくる。
(……始まった。姉さんの特技が)
 秋水だけは知っている。桜花が美貌をいいコトにシナ作ってイニシアチヴ握ろうとしているのを。だがバラせば後で冷たい
詰問を浴びるのは目に見えているので黙った。取りあえずすっかり氷が溶けた渋茶を口にし間を持たす。
「わーったよ。念のため社長さんが帰るまでは居てやるから変な顔すんなって」
「本当にいいの? 任務に支障はないの? こんな私なんかと過ごしてていいの?」
「別に。任務放棄して駆けつけたら先輩すっげー怒るだろうし」
「ありがとう剛太クン。ありがとう……」
「ブフー」
 余りにクサすぎる芝居にとうとう秋水は生ぬるい渋茶を吹いた。振りかえった桜花が何か言いたげにしていたようだが
それは無視してテーブルを拭く。
(何も見ていない。俺は何も見ていない……)
「で、ヒマつぶしに何すんだ? 引き留める以上ちょっとは面白いコト用意してるよな?」
「ある訳ないじゃない。他の男の人ならともかく剛太クンが相手よ? 並のサービスじゃ引っかかる訳ないじゃない。漫画が
違ったらもっと過激なお色気攻撃できるけどこの漫画はToLOVEるじゃないもの。ToLOVEるだったら色々できるんだけど」
「ここがそーいう店じゃないっつったの誰だよ。つかToLOVEるって何だよ」
「それでも普通の人ならバナナあーんするだけで2万は落してくれるのよね。ボロいでしょ。まひろちゃんは良心的だから15円
でしてくれるけど……」
「やっぱ俺帰るわ」
 顔面蒼白で立ち上がる剛太に魔法の言葉がかかったのはその瞬間である。
「でももし津村さんがメイド服着たらどうかしら。実現のために私も協力するわよ」
 ズッギューz_ン!! 剛太のハートがこれ以上ないほど的確に打ち貫かれた。
「なん……だと……?」
「もちろんヒラヒラしている服装だから好まないかも知れないわね。でもロングじゃなくミニならどうかしら?」
(ミニ!)
「エプロンもなるべくフリルを減らした方がいいわね。動きやすいように詰めるの」
(……いいかも)
「接客態度は基本無愛想ね。『まったく。コレぐらい自分で運んだらどうだ』とかいうの」
(くっはあ!!)
 剛太は、陥落した。
 椅子に座りこんで「うわそれってスッゲよくねこんな所来るぐらいなら勉強しろとか説教とかされるんだぜ」とか何とか蕩け
た顔つきで目まぐるしくメイド斗貴子を妄想しはじめた。
(ちょろいわね。後はメイド津村さんをエサにすればお話しする時間が稼げるわ)
(何でそうまでして中村と話がしたいんだ姉さんは)
 気に入っているのは確かだが剛太基準で見ればつくづく不憫である。いいように翻弄されてるだけではないか。
「ね! ね! 秋水先輩!」
「何だ」
「ネコメイドだよ私! ネコメイド!」
(また頭にネコを乗せてる)
 乗せられた方もすっかり寛いでいるようだ。肉球を舐めてのんびり毛繕いしている。
「いらっしゃいませだにゃあご主人様! ご一緒に、ポテトはいかがですかにゃあ?」
 豊かな肢体をくねくねさせるまひろは本当に楽しそうだ。
「すまない。俺はそう持ちかけられても上手く返せないのだが」
「大丈夫大丈夫! 私だって会話は下手だよ」
「下手? 君が?」
 意外な思いでまひろを見ると、彼女はここぞと拳を固めて力説し始めた。
「うん。だって私、思いついたまま喋ってるだけだもん! 何を隠そう私は脊椎反射の達人よ!」
「道理で……」
 凄まじい脱力感と眩暈に見舞われながら秋水は頷いた。
 思えばまひろの突拍子のない言動に振り回されたコトの多いコト多いコト。恐らく相手を自分のペースに引き込むから、
会話がうまいように見えるのだろう。空気が読めん空気が読めんリアルでいたら絶対ウザイといわれるのだろう。
「でも、上手じゃなくても何かいうコトに意味があるんじゃないかな。じゃなかった。じゃないかにゃあ?」
「あ、ああ」
 いつものごとくふんわりした笑みにどぎまぎしながら、秋水は頬を掻いた。
「君のいうコトにも一理はある。会話上手というのは自分の領分に相手を引き込める者……かも知れない」
 おお! とまひろは柏手を打った。頭上のネコはあくびした。
「さっすが秋水先輩! 言う事がカッコいい!」
「だろうか」
「うんうん。そんな感じでいいと思うよ」
 とまひろが頷いた瞬間。それは来た。