騒音が聞こえる。
この騒ぎでパトカーや野次馬が来た訳ではない。
まして吹き飛んだエンジンが機能している訳でもない。
私の危険を知らせるあの音だった。
この騒ぎでパトカーや野次馬が来た訳ではない。
まして吹き飛んだエンジンが機能している訳でもない。
私の危険を知らせるあの音だった。
ド ド ド ド ド ド ド……
もう一度、横たわる墳上裕也へと視線を向ける。
地面に広がる黒い染み、ガソリンと大量の血。
自己の健康状態の管理の為、家庭で学べる程度の医学は身につけている。
致死量に近い量の血が流れている、生きていたとしても長くは無い。
地面に広がる黒い染み、ガソリンと大量の血。
自己の健康状態の管理の為、家庭で学べる程度の医学は身につけている。
致死量に近い量の血が流れている、生きていたとしても長くは無い。
「ガソリンと混じっていて見分け難いが……この出血では動ける筈がない」
血とガソリンがアスファルトを黒く濡らしていく。
さっきの足音は死ぬ間際の悪足掻きだったのだろうか……。
さっきの足音は死ぬ間際の悪足掻きだったのだろうか……。
「混じっ…てんのは……」
声と共にガラクタとなったバイクの下に瞳が現れる。
ガラクタの隙間から現れた男の顔は、血に覆われており本来の肌色を確認出来ないほどに流血していた。
きっと青ざめて今にも死にそうな血色をしていることだろう。
ガラクタの隙間から現れた男の顔は、血に覆われており本来の肌色を確認出来ないほどに流血していた。
きっと青ざめて今にも死にそうな血色をしていることだろう。
しかし、その目の輝きは対照的に光に満ち溢れていた。
またしても、由花子の時と同じく墳上裕也が『あの目』をしていた。
またしても、由花子の時と同じく墳上裕也が『あの目』をしていた。
「くたばり損ないがァ―――っ!」
「ガソリン………だけじゃ…ねぇ……」
トドメを指さなければならない……『あの目』をした奴は一人残らず。
あの状態では身動きは取れない、爆弾となっているバイクを起爆して殺す。
だが『キラークイーン』を出した瞬間、足を何かに掴まれ引き摺り倒される。
「ガソリン………だけじゃ…ねぇ……」
トドメを指さなければならない……『あの目』をした奴は一人残らず。
あの状態では身動きは取れない、爆弾となっているバイクを起爆して殺す。
だが『キラークイーン』を出した瞬間、足を何かに掴まれ引き摺り倒される。
「こんな……どこに!?」
足を掴んでいる手は、『ハイウェイ・スター』のものだった。
無数の足がガソリンの下で死骸に集る虫のように蠢いており、吉良の足を掴む手に群がって融合していく。
ズブズブと指先が吉良の体にめり込み、養分を吸いながら引きずり込む。
だがバイク二台分の爆発で何故奴が生きているのか。
無数の足がガソリンの下で死骸に集る虫のように蠢いており、吉良の足を掴む手に群がって融合していく。
ズブズブと指先が吉良の体にめり込み、養分を吸いながら引きずり込む。
だがバイク二台分の爆発で何故奴が生きているのか。
「俺の…『ハイウェイ・スター』……燃料タンク……吹っ飛ばす位…なんとか出来たぜ……」
真っ先に墳上に突っ込んだのは奴のバイクだった。
手元に残しておいた『ハイウェイ・スター』の腕でガソリンタンクを吹き飛ばし威力を軽減。
自分のバイクの下敷きになることで爆弾になっている吉良のバイクに触れないようにしていた。
手元に残しておいた『ハイウェイ・スター』の腕でガソリンタンクを吹き飛ばし威力を軽減。
自分のバイクの下敷きになることで爆弾になっている吉良のバイクに触れないようにしていた。
「クズがァ――! 爆弾に触れないようにしても起爆してしまえば貴様は終わりだァ―――っ!」
左手の起爆スイッチに指を掛けているというのに、墳上の目は輝きに満ちていた。
気に喰わない……『あの目』が存在する限り、必ず私の望む平穏とは対極の状況が訪れるだろう。
だが、死を目前としているこの瞬間に置いても奴の目は死んではいない。
勝利を確信している目、奴にとっての私に対する勝利。
気に喰わない……『あの目』が存在する限り、必ず私の望む平穏とは対極の状況が訪れるだろう。
だが、死を目前としているこの瞬間に置いても奴の目は死んではいない。
勝利を確信している目、奴にとっての私に対する勝利。
ガソリンに塗れた『ハイウェイ・スター』が、ダメージで崩れ落ちながらニヤニヤと笑っていた。
「一緒に……あの世で………仗助とご対面だ……」
そんなのは御免だ……奴の顔はもう二度と見たくない。
そんなのは御免だ……奴の顔はもう二度と見たくない。
奴がガソリンと血反吐に塗れた手にライターを覗かせている。
震える指先が力なく歯車状のドラムを廻し、点火の作業に入る。
何とかしてこの障害を排除しなければならないが、私に取り付く『ハイウェイ・スター』に弱点はない。
震える指先が力なく歯車状のドラムを廻し、点火の作業に入る。
何とかしてこの障害を排除しなければならないが、私に取り付く『ハイウェイ・スター』に弱点はない。
そうなると本体、墳上裕也の弱点を見つける必要がある。
スタンドでの近接戦は養分を吸われ本体を抑えられている今の私では不可能。
遠距離からの爆破もガソリンに引火するので不可能。
今の天候での『ストレイ・キャット』には殺傷能力は求められない。
スタンドでの近接戦は養分を吸われ本体を抑えられている今の私では不可能。
遠距離からの爆破もガソリンに引火するので不可能。
今の天候での『ストレイ・キャット』には殺傷能力は求められない。
判らない……この吉良吉影の頭脳を持ってしても。
死ぬのか? ここで奴が点火するのを黙って見守るしかないのか?
『バイツァ・ダスト』………対象が墳上では吹っ飛ぶ人間の居ないここで時は巻き戻らない。
なんて役に立たない能力だ………ピンチの時にしか発動しない癖にこの状況では役に立たない……。
あのコンビニの女にでも発動できれば、この町をほんの少し離れるだけでこいつを……。
死ぬのか? ここで奴が点火するのを黙って見守るしかないのか?
『バイツァ・ダスト』………対象が墳上では吹っ飛ぶ人間の居ないここで時は巻き戻らない。
なんて役に立たない能力だ………ピンチの時にしか発動しない癖にこの状況では役に立たない……。
あのコンビニの女にでも発動できれば、この町をほんの少し離れるだけでこいつを……。
「ま、待て! それ以上動いたらさっきのコンビニの女を殺す!」
父の調べでは確か墳上裕也には数名の取り巻きが居た筈。
あの女である可能性は低く無い、これに賭けるしか道は残されていない。
あの女である可能性は低く無い、これに賭けるしか道は残されていない。
「……なん…だと?」
指の動きが止まった、時間を掛け過ぎてはいけない。
出血で思考が鈍れば女の事を忘れて火をつける可能性も出てくる。
「………ハッタリだ」
「違うね、お前がバイクの下敷きになってるのは私がバイクを爆破しなかったから……。
いや、正確には爆破できなかったんだよ。出来たら引きずられる前に爆破していたと思わないか?」
出血で思考が鈍れば女の事を忘れて火をつける可能性も出てくる。
「………ハッタリだ」
「違うね、お前がバイクの下敷きになってるのは私がバイクを爆破しなかったから……。
いや、正確には爆破できなかったんだよ。出来たら引きずられる前に爆破していたと思わないか?」
バイクは爆弾になっている……急いで飛び降りたので何処を爆弾にしたかは覚えていないが何処かの部品だ。
一台丸ごと爆弾にすることはできない、機械は複数の金属や回路の集まりであって一つの物ではないからだ。
車ならば外装を爆弾にすれば殆ど一台爆弾にしたようなものだったのだが……。
一台丸ごと爆弾にすることはできない、機械は複数の金属や回路の集まりであって一つの物ではないからだ。
車ならば外装を爆弾にすれば殆ど一台爆弾にしたようなものだったのだが……。
押し黙る墳上裕也、血の巡りを悪くした頭で必死に考えているのだろうが答えを待つゆとりは無い。
ほんの少しだけ間を置いて話を続ける。
ほんの少しだけ間を置いて話を続ける。
「私は爆弾を二つまでしか生成出来ない……追跡爆弾『シアーハートアタック』を含めて。
そのうち一つはあの女、つまりそのバイクは爆弾なんかじゃあないんだよ………」
そのうち一つはあの女、つまりそのバイクは爆弾なんかじゃあないんだよ………」
デタラメを吹き込み混乱させる、頭の悪そうなガキだが念を入れる。
真実を教えてしまうと道中に仕掛けた爆弾の説明が付かない。
これなら道中で仕掛けた時に『シアーハートアタック』は使ってないから爆弾も使用可能だ。
真実を教えてしまうと道中に仕掛けた爆弾の説明が付かない。
これなら道中で仕掛けた時に『シアーハートアタック』は使ってないから爆弾も使用可能だ。
ちなみに三つと答えることはできない、『女』『シアーハートアタック』『バイク』
こうして爆弾を作れるので今の状況に矛盾が生じる。
こうして爆弾を作れるので今の状況に矛盾が生じる。
「…何が……望みだ」
「出来れば逃がして欲しいが納得しないだろう? 私も君を生かしておく気はない……そこで」
「出来れば逃がして欲しいが納得しないだろう? 私も君を生かしておく気はない……そこで」
この一言が私の勝利を決定付けるだろう。
墳上は私から逃げることが敗北する事なのだと己に言い聞かせ追跡してきたのだから。
私の平穏を縛るこの下らない愚考を、奴の首を絞める縄としてやる。
墳上は私から逃げることが敗北する事なのだと己に言い聞かせ追跡してきたのだから。
私の平穏を縛るこの下らない愚考を、奴の首を絞める縄としてやる。
「正々堂々、君に決闘を申し込もう」