SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 『L'alba della Coesistenza』 最終話 黎明


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 地上を狙う黒い巨竜の全身に傷が刻まれ、鱗が剥がれ、あちこちから血が流れていた。
 いくら魔界の実力者といえど、昇格兵士ヒムや陸戦騎ラーハルト、ポップやアバンといった面々を一度に相手にしては瞬時に仕留めることは難しい。
 それでも戦意はまったく衰えていない。帰還した勇者を捉え、目が細められる。
 火炎を吐かれたダイは空を翔けてかわした。
 息吹がおさまって竜の眼前に飛び出したのは若い魔族だ。傷はある程度回復したものの完全に癒えたわけではない。衣が破れ、血に染まった状態で呼びかける。
「戦いを止めよ! ヴェルザー!」
「何?」
 よりによって大魔王の血を引く者が地上の住人への攻撃を止めようとするのは予想外だ。
 力を振り絞った叫びに耳を傾けるはずもなく、闘気を高めていく。
「腑抜けが。やはり父には遠く及ばんな」
 地上の者達の味方をするならばまとめて倒すだけだ。
 ヴェルザーも消耗しているが、先ほどから戦っているヒムやラーハルト、死神の相手をしていたアバンとポップも傷を負い、疲弊している。
 集束した闘気が撃ち出されようとした刹那、空気の質が変わった。
「やめろ」
 少年がたった一言呟いただけなのに莫大な圧力が竜の全身を締め付けた。
 ダイの黒髪は逆立ち、額の紋章は眩しく輝いている。それに引きずられて中身まで変質していくかのようだ。
 彼が意識的に枷を外せば、魔界最強のバーンをも葬った、竜の騎士の力を全開にした魔獣の姿に変わる。
 “みんなのダイ”として戦いたい。自分の存在がなくなってしまうかもしれないという恐怖は厳然として存在している。
 そのため、大魔王との戦いでもできるだけ使おうとはしなかった。
 だが、傷つき倒れそうな仲間を――地上の人々を守るためならば禁断の力を解放することも辞さない。
 動きを止めたヴェルザーにダイが語りかけた。
「おまえも魔界が豊かになってほしいって思うだろ? もし魔界にも太陽をもたらす方法があるとすれば――」
「何のことだよ!?」
「可能なのですか?」
 ポップとアバンが関心をひかれたように身を乗り出した。
「まさか……」
「話聞くだけでも聞いた方がいいんじゃねえのか? 冥竜王さんよ」
 ラーハルトは驚きを隠せず、ヒムが提案する。
 ヴェルザーは疑念も露に鼻を鳴らしたが、ひとまず殺気は収め、話を聞く態勢に入った。
 地上に着陸し、アバンが他の者たち――常人には見えないものを見るメルルなど――を集める。
 そこでダイが考え考え説明し、ところどころイルミナが補った。

 話は最近地上で発見された遺跡についてだった。
 そこに秘められた力が明らかになったのだ。
 ポップが見つけたのが世界地図の上方の頂点となり、下方の二点――エイミやニセ勇者の発見した遺跡とつなぐと細長い三角形になる。
 さらにヴェルザー襲来時にメルルが“二つ”見た。おおよその位置を割り出し書き加えると、全部で五つになる。
 それらをすべてつなぐと五芒星が形成される。
 大魔王バーンは地上各地にピラァを投下し、六芒星魔法陣を描いた。黒の核晶の力を増幅させ、世界を消し飛ばし、魔界に太陽をもたらすために。
 だが、遺跡によって形成された五芒星は地上を吹き飛ばすためのものではない。
「メルルが見たんだ。遺跡の前で、太陽に照らされた世界を」
 遺跡に案内されたメルルが見た“ある光景”とは、太陽の光が降り注ぐ魔界の姿だった。
 世界の形を一つに戻すのか、魔界の空を晴らすのかまではわからないが、地上を消滅させるような働きはない。
 そこで疑問の声が上がった。
「そんな遺跡があったならとっくに見つかっているはずじゃない」
 いくら人の踏み込まないような場所にあるといっても、遥か昔からあったのならば、幾つかは誰かが発見しているはずだ。
「おそらく結界が張られていたのでしょう。世界の在り方を変える力を持つのですから、慎重を期したのかもしれません」
 天界の力や知識を吸収した第三勢力は遺跡の扉の開け方など一部分の知識しか得ておらず、何のために使うのか把握しきれていなかった。
 だが、魔界にも太陽がもたらされると知れば遺跡を破壊しようとしただろう。
 他の魔族も大いなる力を悪用しようと企んだかもしれない。
「今ならわかるよ。精霊が最後になんて言ったのか」
 ダイの心に天界の精霊の最後の言葉が浮かび上がった。
『世界に陽光の守りがあらんことを……』
 地上でも人間でもなく、地上でも魔界でもなく、“世界”と言った。
 そこに住まう者すべてを指していた。
 今まで扉の開け方がわからなかったが、第三勢力と一時的に同化したシャドーが得た情報によって入る方法を知ることができた。
 中の装置を動かすための手順を整えるには古文書読解やさらなる研究が必要になるが、最低限要るものがある。
「天界の力が関わってる竜の騎士(おれ)と……人間と、魔族と、竜のみんなの力が要るんだ」
 ただの竜ならば超竜軍団にも属していたが、世界規模の変革を起こすのは不可能だろう。
 知恵ある竜。かつて魔界を二分した、竜を統べる存在。
 雷竜ボリクスに打ち勝ち、冥竜王の称号を手にしたヴェルザーこそが役を担うに相応しいはずだ。
「貴様の父にオレの一族はほぼ壊滅させられたのだぞ」
 簡単に友好的な態度をとるはずもなく、不機嫌そうにうなる。
 が、提案を一蹴する気はないようだ。
 検討するように考え込んでいる。
 仮にダイたちを滅ぼすことができたとしても、そのせいで魔界が豊かになる可能性まで摘み取ってしまっては大きな損失となる。
「古文書などの調査は私にお任せください」
 眼鏡をくいくい動かしながらアバンが呑気に挙手した。緊張感の無い仕草だが、大魔王をも警戒させた理知の光が眼に宿っている。
「おれも手伝います!」
 ポップが負けじと勢いよく発言する。アバンのように何でも器用にこなせるとは言えないが、魔法の応用や技術の研磨には自信がある。
 装置を動かすには正面から魔力を叩きつけるのではなく、細かい調節なども要求されるだろう。
 イルミナは魔力の源である鬼眼を活かそうとしている。
 アバンやポップ、イルミナ、ヴェルザー。
 人と魔と竜。
 それら三種族を合わせた存在である竜の騎士の血を引き、人の心の強い勇者ダイ。
 彼らが協力すれば道が開けるだろう。

「ヴェルザー、まずは魔界の状況を変えることが先ではないか? 勝利を求めるあまり欲するものを失っては本末転倒だろう」
 そこでヴェルザーは光溢れる世界を望まなかった第三勢力について尋ねた。
 最期まで他者を嘲弄し、死んでいったと聞かされ牙を剥く。
 アバンとポップが顔を見合せ、呆れたような表情を二人揃って浮かべてみせた。
「あのような輩の思い通りに動くんですか?」
「ここで戦ってボロボロになるのもそいつの思惑どおりってワケだ。冥竜王ってのは口だけかよ?」
 大魔王に奥義を使わせた時のように挑発する。
 一歩間違えれば危機的な状況を誘発してしまうが、ポップには勝算があった。
 力こそ正義が彼らの則だ。だからこそ誇りにこだわり、己の名や力を貶めるような行為は許せないはずだ。
「大魔王と魔界を二分したってほどの存在が、手の上で踊らされるような真似はしねえよな?」
「……よかろう」
 長い沈黙ののち、ヴェルザーはそう呟いた。
 もし途中で言葉を翻し襲撃するようなことがあれば冥竜王の名がすたるとポップやアバンがそれとなく釘を刺し、正式に協力を取り付けた。
 ヴェルザーが本格的に被害を及ぼすより早く戦いを止めることができたため、国民も受け入れやすい。実質的に害を与えたのは第三勢力の手下である魔物たちと分身体だけだ。
 侵攻の規模を考えれば幸運と言える結果である。
「もしかして……結界が消えたのは」
 ふと浮かんだ、あまりに荒唐無稽な考えにマァムは苦笑した。
 遺跡が今になって姿を現したのは、舞台が整えられたことを察したためではないかと思ったのだ。
 世界の均衡を乱す者を粛正する役目の竜の騎士。
 だが、ダイは敵対する魔界の住人を力ずくで滅ぼすのではなく、魔族――それも仇敵の血縁者と手を取り合おうとし、成功した。
 魔族もそれに応え、竜を止めようとした。
 ポップやアバンも、種族だけでなく信念や価値観が異なる存在へのわだかまりがないわけではない。
 それでも、より望ましい方向へ進むために道を選んだ。
 見守る彼らの目の前で、ダイは魔族と竜に確信に満ちた口調で告げた。
「できるよ。みんなで力を合わせれば」
「お前ならば――」
 イルミナは続きを呑みこんだが、他の者達も同じ気持ちだった。
 試みが成功するかわからない。
 今は手を組んでも、いずれ戦うことになるかもしれない。
 第三勢力の言うように、平和など束の間のできごと――うたかたの夢にすぎないのかもしれない。
 それでもポップをはじめとする人間たちは希望を捨てる気はまったくなかった。
 小さな勇者がいれば、きっと変えられる。そう思ったのだから。
 だからポップはダイの髪をわしゃわしゃとかきまわし、笑いながら告げた。
「おれもいるからな」
 ダイは相棒の少年に頷き、微笑を浮かべたのだった。

 それから一同は戦の後の処理に追われた。
 ヴェルザーはいったん魔界に戻り、イルミナは地上に留まった。
 ヒュンケルがさらわれたと聞いて身悶えせんばかりになっていたエイミが突進し、無事を喜ぶ。
 ヴェルザーとの戦いで協力しあったはずのラーハルトとヒムは再びいがみ合っていた。
 メルルは短期間に何度も“見た”ため休養を取り、レオナやアバン、各国の王たちは人々に事態を上手く説明すべく頭を働かせている。
 五つの遺跡の碑文の単語を拾い集め、呟く。
「遺跡がもたらす姿について告げているようですね」
 ポップも師にならい、熱心に意味をくみ取ろうとしている。
 注目を集めているのはやはりイルミナだった。
 全盛期の大魔王の姿にかなり似ているため、複雑な表情の者もいる。
 好奇心を抑えきれないようだったが、肉親だからといって優遇されたわけではないと聞かされ一応引き下がった。
 深夜、ダイとイルミナは並んで立って夜空を見上げていた。
 バランはバーンの仕掛けた黒の核晶によって命を落としたが、ダイは復讐の念に燃えてはいない。
 バーンの計画によって命を落とした者達の遺族は素直に受け入れないだろうが、眠らされていたため直接関わりようがなかった。
 また、第三勢力を倒す要になったとアバンたちが発表したためいくらか風当たりは弱まっている。
 イルミナには地上の人間への憎悪――絶対に滅ぼすという意思は今のところ無い。
 目的は魔界に太陽をもたらすこと。地上破壊は手段の一つに過ぎず、地上を消滅させずとも可能ならば争う必要はない。
 バーンが知ればそちらを選んだだろうか。それとも世界の在り方を弱肉強食に統一するために続行しただろうか。
 疑問が疑問を生み、目にした地上や人間の姿が不快ではないことに彼女自身も戸惑っているようだった。
「私は地上のことも人間のことも知ろうとはしなかった。……お前のことも」
 ダイは真剣に耳を傾けている。
 彼女は一語一語確かめるように口にする。
「知らぬことではなく、知ろうとしない姿勢こそが恥ではないかと思う。相手を理解しようとする意思も無いまま平和は語れまい」
 だから、これからダイや人間との交流の中で知ろうとしている。
 横顔を見せて淡々と語っていた彼女はダイに顔を向けた。彼も真っ直ぐに見つめる。
「ダイ。私は心身ともに強くなってみせる。……お前達のように」
 これは誓いの言葉だ。
 魔族を統べるに相応しい存在となる決意が表れている。
 戦神の血の流れる者は厳かに告げた。
「そして、お前と戦い勝利した時こそ――大魔王と名乗ろう」
 ダイは無言で頷いた。

 再び前を向いた魔族は湧き上がる想いに身を任せた。
『てめえは親父みてえにゃなれねえな!』
『バーンにはなれないよ』
(父よ。私はあなたのように、敵をすべて焼き滅ぼす炎にはなれません)
 どれほど力を身につけようとバーンにはなれない。振るおうとする方向も異なっている。
(それでも……誰かを照らすことはできるでしょうか?)
 地上の希望となったダイのように。ダイに勇気を与えたポップのように。ミストに戦う理由を与えたバーンのように。
 ダイには光を感じる。まるで空に在る太陽のような暖かい光を。
『でも、できなかったことをやれる。そう思うんだ』
 バーンは焼き尽くす者。ミストバーン――ミストは影のように寄り添い、大魔王とともに生きる者。
 彼女の名は輝き照らす者を意味する。
 その名にふさわしく生きていきたい。
 夢を現実としてみせることを誓い、彼女は拳を握り締めた。
 勇者に憧れたダイが世界を救ったように、大魔王が望み焦がれた景色を実現させようと。
「――のように、か」
 魔族はふと呟いた。
 人間同士でさえ争うのだ。いきなり共存を唱え、一つになって暮らそうとするのは不可能だろう。
 ただ――
「異なる種族でも、違う世界に住まう者でも、同じものを目指す時……共に生きると言えるのではないか」
 混乱したように頭をかいたダイは目を細めた。
 思索にふける二人の視界に光が差した。
 朝日が姿を現そうとしている。

 その頃、古文書を読み進めていたアバンがポップに対して口を開いた。
「碑文には新たな時代の到来の兆しを感じ取った時扉が開き、世界が輝くと記してありました。あなたが読んだ語の意味は――」

『太陽は昇る。
 人と魔と竜を照らすために。
 ――を告げるために』

 後に一連の出来事は刻まれた語からこう呼ばれることとなった。
 “共存の夜明け”と。


L'alba della Coesistenza