毎度お馴染み、神奈川県川崎市。
「…んー」
「どうしたのよ、あんた」
「いや…ほら、あの女の子」
商店街で買い物していた我らがヒーロー・サンレッドとかよ子さん。二人の視線の先には。
「―――新装開店セールでーす!よろしくお願いしまーす!」
現実じゃありえねー天然物のピンク髪は、彼女が人外の存在である事を雄弁に物語っている。雪よりも白い清らかな肌
と、穢れを知らぬ清純可憐な愛らしい顔立ち。
そんな年端もいかぬ美少女が、道行く人々に向けてチラシを配っているのだった。
「女の子型の怪人ってのは珍しいけど、あの子は最近よく見るんだよな…こないだは定食屋で働いてたぞ」
「ああ、そう言えば私も他の場所でティッシュ配ってるの見たわ」
「そんなに仕事を掛け持ちしてんのか…働きモンだなあ、おい」
「そうねー。誰かさんに見習ってほしいぐらいね」
ゲホンゲホン、とわざとらしく咳をするレッドさん。確かにかよ子さんのヒ○という身分から見れば、この寒空の下で汗水
垂らして働く少女の姿は、ちょっと胸を打たれてしまうものがあるのだった。
「…んー」
「どうしたのよ、あんた」
「いや…ほら、あの女の子」
商店街で買い物していた我らがヒーロー・サンレッドとかよ子さん。二人の視線の先には。
「―――新装開店セールでーす!よろしくお願いしまーす!」
現実じゃありえねー天然物のピンク髪は、彼女が人外の存在である事を雄弁に物語っている。雪よりも白い清らかな肌
と、穢れを知らぬ清純可憐な愛らしい顔立ち。
そんな年端もいかぬ美少女が、道行く人々に向けてチラシを配っているのだった。
「女の子型の怪人ってのは珍しいけど、あの子は最近よく見るんだよな…こないだは定食屋で働いてたぞ」
「ああ、そう言えば私も他の場所でティッシュ配ってるの見たわ」
「そんなに仕事を掛け持ちしてんのか…働きモンだなあ、おい」
「そうねー。誰かさんに見習ってほしいぐらいね」
ゲホンゲホン、とわざとらしく咳をするレッドさん。確かにかよ子さんのヒ○という身分から見れば、この寒空の下で汗水
垂らして働く少女の姿は、ちょっと胸を打たれてしまうものがあるのだった。
天体戦士サンレッド ~少女の願い!サンレッド・怒りの全力バトル
そんなある日の夜。
道行くレッドさんは、ふと前方に人影を発見した。
「あれ?あの子は…」
件のピンク髪勤労少女である。彼女は買い物袋を手に、一軒家に入っていく所だった。
特に何の変哲もない木造二階建て。フロシャイム川崎支部に、ちょっと似ていた。
表札には女の子的な丸っこい字で<エニシア軍団>と書かれている。
「皆、ただいまー」
途端にガラガラと玄関の戸が開き、わらわらと男達が出てきた。
人間もいれば怪人もいる、玉石混合の連中だったが、たった一つ共通している事があった。
それは。
「お帰りなさいませ、姫様」
「お疲れでしょう、今お茶を入れますので…」
「バカ野郎!エニシア様には俺がお茶を入れるんだ!」
「何言ってやがる!それは俺の役目だぁ!」
「つうかなにエニシア様なんて馴れ馴れしく呼んでんだあ!」
「そうだそうだぁ!俺だってそう呼びたいけど我慢してるんだぞ!」
―――少女に対して、やたら高い忠誠心を持っているらしい、という事である。
ちょっと暴走気味なくらいに。
「もう、ケンカはダメでしょ!私達は仲間なんだから、仲良くしなきゃ。ねっ?」
「「「はいっ!」」」
そんな諍いも、少女の鶴の一声であっさり収まる。妙な集団ではあるが、その結束は固いようだ。
(ふーん。よく分からねーけど、慕われてんだな。あの…エニシアって子)
ちょっと救われた気分になるレッドさんだった。やはり彼も男として、可愛い女の子には優しい気分になるのだ。
そうこうしているうちに、少女―――エニシア達は家の中へと入っていった。
「なーんか、気になる連中だよな…<レッドイヤー>!」
レッドさんは精神を集中して、特殊能力<レッドイヤー>を発動させた。これは周囲10km以内のあらゆる物音を完璧
に聞き分ける事が出来る、物凄い地獄耳なのだ!
だけどプライバシーの侵害だよね、普通に。でもレッドさんは何処吹く風で、屋内の音声を探る。
ガサゴソガソゴソ。何やら作っているような音。
<姫様、ただでさえお疲れだというのにそのような…>
<いいんだよ。造花作りって結構楽しいし>
「…家に帰っても仕事してんのか…しかも今時造花って…」
居た堪れないレッドさんである。ちなみに彼は家にいる時はTVを見ながらゴロゴロしている。
<私だって、自分の食べる分くらいは自分で稼がないと。それに、軍団の維持費だってバカにならないでしょ?>
<だからといって、姫様がそこまで働く事はありません!>
<そうですよ!金の事なんて心配しなくても、俺達だってバイトしてるし…>
<ありがとう。でも…私、思うの。人の上に立つからには、自分が一番汗を流さないと、誰も付いてこないって>
「…………」
ちなみにレッドさんはここ数年、金なんて一銭も稼いでいない。
<ううっ…姫様ぁ…!俺達、一生姫様に付いていきます!>
<力を合わせて、きっと姫様の望みを叶えてみせますから!>
<そうとも!姫様のためなら俺達、死ねますから!>
<気持ちは嬉しいけど…死ぬのはダメだよ。皆、作戦は常に命を大事に、だよ。私との約束、ねっ?>
<はっ!皆、姫様の御命令だ。復唱いくぞ!命を大事に!>
<命を大事に!><命を大事に!><命を大事に!>
そこでレッドイヤーを解除し、レッドさんはその場を後にした。
「…何をやりてーのかは知らねーけど…ま、頑張れよ。お嬢ちゃん」
道行くレッドさんは、ふと前方に人影を発見した。
「あれ?あの子は…」
件のピンク髪勤労少女である。彼女は買い物袋を手に、一軒家に入っていく所だった。
特に何の変哲もない木造二階建て。フロシャイム川崎支部に、ちょっと似ていた。
表札には女の子的な丸っこい字で<エニシア軍団>と書かれている。
「皆、ただいまー」
途端にガラガラと玄関の戸が開き、わらわらと男達が出てきた。
人間もいれば怪人もいる、玉石混合の連中だったが、たった一つ共通している事があった。
それは。
「お帰りなさいませ、姫様」
「お疲れでしょう、今お茶を入れますので…」
「バカ野郎!エニシア様には俺がお茶を入れるんだ!」
「何言ってやがる!それは俺の役目だぁ!」
「つうかなにエニシア様なんて馴れ馴れしく呼んでんだあ!」
「そうだそうだぁ!俺だってそう呼びたいけど我慢してるんだぞ!」
―――少女に対して、やたら高い忠誠心を持っているらしい、という事である。
ちょっと暴走気味なくらいに。
「もう、ケンカはダメでしょ!私達は仲間なんだから、仲良くしなきゃ。ねっ?」
「「「はいっ!」」」
そんな諍いも、少女の鶴の一声であっさり収まる。妙な集団ではあるが、その結束は固いようだ。
(ふーん。よく分からねーけど、慕われてんだな。あの…エニシアって子)
ちょっと救われた気分になるレッドさんだった。やはり彼も男として、可愛い女の子には優しい気分になるのだ。
そうこうしているうちに、少女―――エニシア達は家の中へと入っていった。
「なーんか、気になる連中だよな…<レッドイヤー>!」
レッドさんは精神を集中して、特殊能力<レッドイヤー>を発動させた。これは周囲10km以内のあらゆる物音を完璧
に聞き分ける事が出来る、物凄い地獄耳なのだ!
だけどプライバシーの侵害だよね、普通に。でもレッドさんは何処吹く風で、屋内の音声を探る。
ガサゴソガソゴソ。何やら作っているような音。
<姫様、ただでさえお疲れだというのにそのような…>
<いいんだよ。造花作りって結構楽しいし>
「…家に帰っても仕事してんのか…しかも今時造花って…」
居た堪れないレッドさんである。ちなみに彼は家にいる時はTVを見ながらゴロゴロしている。
<私だって、自分の食べる分くらいは自分で稼がないと。それに、軍団の維持費だってバカにならないでしょ?>
<だからといって、姫様がそこまで働く事はありません!>
<そうですよ!金の事なんて心配しなくても、俺達だってバイトしてるし…>
<ありがとう。でも…私、思うの。人の上に立つからには、自分が一番汗を流さないと、誰も付いてこないって>
「…………」
ちなみにレッドさんはここ数年、金なんて一銭も稼いでいない。
<ううっ…姫様ぁ…!俺達、一生姫様に付いていきます!>
<力を合わせて、きっと姫様の望みを叶えてみせますから!>
<そうとも!姫様のためなら俺達、死ねますから!>
<気持ちは嬉しいけど…死ぬのはダメだよ。皆、作戦は常に命を大事に、だよ。私との約束、ねっ?>
<はっ!皆、姫様の御命令だ。復唱いくぞ!命を大事に!>
<命を大事に!><命を大事に!><命を大事に!>
そこでレッドイヤーを解除し、レッドさんはその場を後にした。
「…何をやりてーのかは知らねーけど…ま、頑張れよ。お嬢ちゃん」
更に、別の日。
一際冷え込む夕暮れだった。
「―――よろしくお願いしまーす!」
元気のいい声が、商店街に木霊する。
「今日も、チラシ配りか…」
かよ子さんと共に、レッドさんはまたしてもあの少女―――エニシアの姿を目撃した。
(あんな小娘があれだけ働いて…何しようってんだよ)
本当なら、お洒落して友達と遊びに出掛けて、時には恋をして、青春を謳歌して然るべき年頃だろう。
だけど、エニシアの姿はそんな<当り前の女の子>としての全てを放棄しているようにさえ思える。
確かに、彼女には心を許せる仲間達がいるだろう。
彼等が待っていてくれる、温かい家もあるだろう。
それでも彼女は―――本当に、それでいいのだろうか?
(そこまでしてやりたい事があるって…どういう気持ちなんだよ…)
項垂れるレッドさん。その肩をポン、と叩かれた。
「気になるんでしょ?行ってきなさい」
かよ子さんは、そう言って微笑む。
「か弱い女の子を助けるのも、ヒーローの務めでしょ」
「…へっ。出来た女だよ、お前は」
レッドさんは照れ隠しに胸を反らせながら、自販機で温かいココアを買い、エニシアに向けて歩き出すのだった。
一際冷え込む夕暮れだった。
「―――よろしくお願いしまーす!」
元気のいい声が、商店街に木霊する。
「今日も、チラシ配りか…」
かよ子さんと共に、レッドさんはまたしてもあの少女―――エニシアの姿を目撃した。
(あんな小娘があれだけ働いて…何しようってんだよ)
本当なら、お洒落して友達と遊びに出掛けて、時には恋をして、青春を謳歌して然るべき年頃だろう。
だけど、エニシアの姿はそんな<当り前の女の子>としての全てを放棄しているようにさえ思える。
確かに、彼女には心を許せる仲間達がいるだろう。
彼等が待っていてくれる、温かい家もあるだろう。
それでも彼女は―――本当に、それでいいのだろうか?
(そこまでしてやりたい事があるって…どういう気持ちなんだよ…)
項垂れるレッドさん。その肩をポン、と叩かれた。
「気になるんでしょ?行ってきなさい」
かよ子さんは、そう言って微笑む。
「か弱い女の子を助けるのも、ヒーローの務めでしょ」
「…へっ。出来た女だよ、お前は」
レッドさんは照れ隠しに胸を反らせながら、自販機で温かいココアを買い、エニシアに向けて歩き出すのだった。
「…はあ」
かじかんだ手に息を吐きかけたぐらいでは、寒さは紛れない。
エニシアの本来は白魚のように繊細な指先は、連日の仕事で痛々しく真っ赤に擦り切れていた。
「でも…私に付いてきてくれる、皆のためだもの…」
軍団員の顔を一人一人思い浮かべていけば、挫けそうな心が暖まった。
彼等は自分にとって単なる部下ではない。
給金もロクに払えないような自分を<姫様>と慕い、心の底から信じて付いてきてくれた、大切な仲間だ。
こんな小娘の、世迷言のような<とある目的>を叶えようと集まってくれた同志だ。
そう。軍団の皆は自分の大事な―――家族だ。
「頑張らないと…え?」
その鼻先にぬっと突き出された、ココアの缶。顔を上げると、そこにいたのは赤いマスクのあの御方。
「寒いだろ。飲めよ」
「あの…あなたは?」
「親切なお兄さんだよ。いいから受け取れ。金なんか取らねーから」
レッドさんは少女の小さな手にココアを押し付けると、自分はそっぽを向いてタバコを吹かし始める。
「…ありがとう」
戸惑っていたエニシアだったが、不器用なレッドさんなりの優しさを確かに感じ取り、笑顔になった。
「いただきます」
チラシを脇に抱え、プルトップを開けて口を付ける。温かくて甘い液体が、冷え切った身に染み渡っていく。
「ああ、美味しい…」
エニシアは幸せそうにココアを啜る。レッドさんはそんな彼女の横顔を見つめ、気になっていた事を尋ねた。
「…なあ、お嬢ちゃん。余計な詮索かもしれねーけど、訊いていいか?」
「うん。何かな?ココアのお礼だし、何でも答えるよ」
「最近ここらでしゃかりき働いてるみたいだけどよ。そんなに仕事ばっかして金貯めて、どうすんだ?何かやりたい
事があって、金がいるとか?あ、いや、勝手な想像だけどな」
レッドイヤーでその辺りは分かっていたが、それを言ったら犯罪者扱いされるのでぼやかしながら訊く。
「そんな所。どうしてもやりたい事があって…そのためには、お金がいっぱいあるにこしたことはないから」
「そっか」
ふー、とタバコの煙を吹き出し、レッドさんは言う。
「俺でよけりゃ、手伝ってやろうか?」
「え…?」
意外な申し出だったのか、エニシアはきょとんとしてレッドさんを見つめる。
「ほら、俺は一応この川崎市を守るヒーローだしな。市民のために出来ることがあるならやってやるよ。どーせ毎日
ヒマだし。あ…でも金貸してくれとか言われたら困るけど」
レッドさん、アレだからね。かよ子さんに養われてる身だからね。
「ヒーロー…ああ。だからそんなマスクしてるんだね。へー、私、ヒーローの人って初めて見た」
「おう。自分で言うのもなんだけど力にゃ自信あるし、手先も結構器用だぜ?」
ぐっと、力瘤を作って叩いてみせる。
「だから、俺に出来る事があるなら遠慮なく言えよ。正義のヒーロー・サンレッドは、頼れる男だぜ?」
「…ありがとうね。レッドさん。私、本当に嬉しいよ」
でも、それはダメ。エニシアはそう言った。
「レッドさんに頼ることは、しちゃダメなの」
「おいおい、何でだよ?俺がこれだけモチベーション高いのって、結構レアなテンションなんだぞ」
「それでも…それでも、ダメなの!」
そしてエニシアは、衝撃の事実を告げた。
かじかんだ手に息を吐きかけたぐらいでは、寒さは紛れない。
エニシアの本来は白魚のように繊細な指先は、連日の仕事で痛々しく真っ赤に擦り切れていた。
「でも…私に付いてきてくれる、皆のためだもの…」
軍団員の顔を一人一人思い浮かべていけば、挫けそうな心が暖まった。
彼等は自分にとって単なる部下ではない。
給金もロクに払えないような自分を<姫様>と慕い、心の底から信じて付いてきてくれた、大切な仲間だ。
こんな小娘の、世迷言のような<とある目的>を叶えようと集まってくれた同志だ。
そう。軍団の皆は自分の大事な―――家族だ。
「頑張らないと…え?」
その鼻先にぬっと突き出された、ココアの缶。顔を上げると、そこにいたのは赤いマスクのあの御方。
「寒いだろ。飲めよ」
「あの…あなたは?」
「親切なお兄さんだよ。いいから受け取れ。金なんか取らねーから」
レッドさんは少女の小さな手にココアを押し付けると、自分はそっぽを向いてタバコを吹かし始める。
「…ありがとう」
戸惑っていたエニシアだったが、不器用なレッドさんなりの優しさを確かに感じ取り、笑顔になった。
「いただきます」
チラシを脇に抱え、プルトップを開けて口を付ける。温かくて甘い液体が、冷え切った身に染み渡っていく。
「ああ、美味しい…」
エニシアは幸せそうにココアを啜る。レッドさんはそんな彼女の横顔を見つめ、気になっていた事を尋ねた。
「…なあ、お嬢ちゃん。余計な詮索かもしれねーけど、訊いていいか?」
「うん。何かな?ココアのお礼だし、何でも答えるよ」
「最近ここらでしゃかりき働いてるみたいだけどよ。そんなに仕事ばっかして金貯めて、どうすんだ?何かやりたい
事があって、金がいるとか?あ、いや、勝手な想像だけどな」
レッドイヤーでその辺りは分かっていたが、それを言ったら犯罪者扱いされるのでぼやかしながら訊く。
「そんな所。どうしてもやりたい事があって…そのためには、お金がいっぱいあるにこしたことはないから」
「そっか」
ふー、とタバコの煙を吹き出し、レッドさんは言う。
「俺でよけりゃ、手伝ってやろうか?」
「え…?」
意外な申し出だったのか、エニシアはきょとんとしてレッドさんを見つめる。
「ほら、俺は一応この川崎市を守るヒーローだしな。市民のために出来ることがあるならやってやるよ。どーせ毎日
ヒマだし。あ…でも金貸してくれとか言われたら困るけど」
レッドさん、アレだからね。かよ子さんに養われてる身だからね。
「ヒーロー…ああ。だからそんなマスクしてるんだね。へー、私、ヒーローの人って初めて見た」
「おう。自分で言うのもなんだけど力にゃ自信あるし、手先も結構器用だぜ?」
ぐっと、力瘤を作って叩いてみせる。
「だから、俺に出来る事があるなら遠慮なく言えよ。正義のヒーロー・サンレッドは、頼れる男だぜ?」
「…ありがとうね。レッドさん。私、本当に嬉しいよ」
でも、それはダメ。エニシアはそう言った。
「レッドさんに頼ることは、しちゃダメなの」
「おいおい、何でだよ?俺がこれだけモチベーション高いのって、結構レアなテンションなんだぞ」
「それでも…それでも、ダメなの!」
そしてエニシアは、衝撃の事実を告げた。
「だって私―――世界征服を企んでるんだもの!」
「…は?」
トンデモな発言に、レッドさんは間抜けな声を出してしまう。
「だから、ヒーローのレッドさんが世界征服の手伝いなんて出来ないでしょ?」
「そりゃ、そうだけどよ…」
レッドさんはこの寒いのに冷汗をだらだら流しつつ、あー、と眉間を押さえた。
「マジで、世界征服企んでんの?そしてそれを、ヒーローの俺の目の前で告白すんの?」
「うん!だって、世界征服は―――誰にも恥じる事のない、私の…ううん、私達全員の夢だもの!」
そう語る彼女の眼差しは、夢見る少女そのものだった。その輝きを見れば、誰もが心癒される事だろう。
夢の内容がアレでなければ。
「あ、でも…一つだけ、正義の味方のレッドさんが、私達のために出来る事ならあるよ」
「…なんだ。言ってみろ。ここまで来たら聞いてやるからよ…」
「それじゃあ、優しい正義のヒーローさんに、悪の姫君からのお願いだよっ!」
エニシアは、咲き誇る花のような笑顔でレッドさんに告げる。
「いつか私達の軍団と闘う時が来たら、手加減無しでやってね。全力のヒーローと真っ向勝負でぶつかって、そして
打ち倒す。それが世界征服と並ぶ、悪の軍団としての醍醐味だもの!」
とん、っと再びチラシを手にして、レッドさんにペコリと頭を下げた。
「ココア、ご馳走様。美味しかったよ」
「そりゃ…どうも…」
「だけど、覚悟していてね。いずれレッドさんとは雌雄を決さなければいけないんだから。正義の味方のレッドさんと
悪の軍団である私達は、謂わば光と闇の闘いだものね」
「はは…そだな…」
「それじゃあ、いつか対決しようね!約束だよー!」
「おう…」
テンションが見る見る内に下がっていくレッドさんにもう一度屈託なく笑いかけて、エニシアは再びチラシ配りに戻る
のだった。それを見ながら、レッドさんは呟く。
「ヴァンプといい金属野郎といいあの子といい…世界征服、そんなに流行ってんのかよ…世も末だな」
レッドさんはもう心の底からやり切れない、とばかりにどよよ~~~んと目線を落とすのだった。
トンデモな発言に、レッドさんは間抜けな声を出してしまう。
「だから、ヒーローのレッドさんが世界征服の手伝いなんて出来ないでしょ?」
「そりゃ、そうだけどよ…」
レッドさんはこの寒いのに冷汗をだらだら流しつつ、あー、と眉間を押さえた。
「マジで、世界征服企んでんの?そしてそれを、ヒーローの俺の目の前で告白すんの?」
「うん!だって、世界征服は―――誰にも恥じる事のない、私の…ううん、私達全員の夢だもの!」
そう語る彼女の眼差しは、夢見る少女そのものだった。その輝きを見れば、誰もが心癒される事だろう。
夢の内容がアレでなければ。
「あ、でも…一つだけ、正義の味方のレッドさんが、私達のために出来る事ならあるよ」
「…なんだ。言ってみろ。ここまで来たら聞いてやるからよ…」
「それじゃあ、優しい正義のヒーローさんに、悪の姫君からのお願いだよっ!」
エニシアは、咲き誇る花のような笑顔でレッドさんに告げる。
「いつか私達の軍団と闘う時が来たら、手加減無しでやってね。全力のヒーローと真っ向勝負でぶつかって、そして
打ち倒す。それが世界征服と並ぶ、悪の軍団としての醍醐味だもの!」
とん、っと再びチラシを手にして、レッドさんにペコリと頭を下げた。
「ココア、ご馳走様。美味しかったよ」
「そりゃ…どうも…」
「だけど、覚悟していてね。いずれレッドさんとは雌雄を決さなければいけないんだから。正義の味方のレッドさんと
悪の軍団である私達は、謂わば光と闇の闘いだものね」
「はは…そだな…」
「それじゃあ、いつか対決しようね!約束だよー!」
「おう…」
テンションが見る見る内に下がっていくレッドさんにもう一度屈託なく笑いかけて、エニシアは再びチラシ配りに戻る
のだった。それを見ながら、レッドさんは呟く。
「ヴァンプといい金属野郎といいあの子といい…世界征服、そんなに流行ってんのかよ…世も末だな」
レッドさんはもう心の底からやり切れない、とばかりにどよよ~~~んと目線を落とすのだった。
―――数日後。
いつもの対決場所である公園。
そこにいたのはレッドさんとヴァンプ将軍、それにフロシャイム川崎支部の皆さん。
ここまではいつも通りだが、今回は更に珍客がいた。
「天体戦士サンレッド…我ら<エニシア軍団>に歯向かう愚か者。ああ、私は悲しい…あらゆる命の象徴たる太陽
を、この手で」
チラリと手元のカンペを見て、続ける。
「地に堕とさねばならないとは…サンレッド!せめて美しく、そして残酷に逝きなさい!」
少女―――エニシアはそこまでのたまった所で、軍団員に向き直る。
「えっと、こんな感じでいいかな?ちゃんと悪の姫君っぽさとか出てる?」
「出てますよ、姫様!もうオーラ出まくりです!テニス部部長くらい出てますよ!」
「俺、ちょっと感動して膝が震えてますもん!」
「どこに出しても恥ずかしくない、ワルでクールな姫様でしたよ!」
「姫様バンザーイ!」
おべっかでなく、マジでのたまっている辺りが余計にタチが悪かった。
「そ、そうかな。えへへ…」
ほっぺを真っ赤にして照れるエニシア。それを聖母の眼差しで優しく見守るヴァンプ様。
レッドさんはそんな心温まる光景を黙殺し、ヴァンプ様の胸倉を掴んだ。
「あいたたた。何するんですか、レッドさん…」
「何するじゃねーよ!何なんだよこいつら!何で俺達の対決場所にいるんだよ!」
「え?レッドさんの知り合いなんでしょ、エニシアちゃん。前にココアを貰ったって言ってましたけど」
「そういう事を訊いてんじゃねーよ!何で対決に同伴してんだって事だよ!」
「ああ…実はエニシアちゃん、ウチの怪人のバイト先の知り合いでして」
「ほほお。それで?」
「それで、彼女も軍団を結成して世界を狙っている事は知っていたんで。それなら一度、我々フロシャイムと同盟を
結んでレッドさんと闘ってみないかって誘ったんです」
「…………」
レッドさんはエニシアを見た。エニシアは嬉しそうな顔でニコニコしている。
「勿論私達<エニシア軍団>も二つ返事で承諾したの。世界征服のためには、いずれフロシャイムも倒さなければ
ならない相手だけど、その前にヒーローであるレッドさんを協力して抹殺しようって。ねー」
「ねー」
「悪の組織同士がそんな<放課後ウチに来て遊ぼー>みたいなレベルで同盟を結んでんじゃねー!」
「いいじゃないですか、レッドさん。仲良き事は美しき哉、ですよ。ねー、エニシアちゃん」
「ねー、ヴァンプさん」
すっかり仲良しさんな二人である。スパロボとかでありがちな<目的のために手を組んだけど隙を見せればお前ら
も潰してやるぜゲッヘッヘ>な空気なんて微塵もない。
「…………バカだ…こいつら、正真正銘のアホ共だ…」
何でこの神奈川県川崎市溝ノ口には、頭カラッポでろくでもねー夢ばっか詰め込んだような奴が集まるのか?
そして何故よりによって、俺がその地を守るヒーローやってんのか?
「とにかく!今日はエニシア軍団と共に貴様を叩き潰してくれるわ!覚悟せよ、サンレッド!ふはははは!」
「手加減など無用よ、サンレッド!あなたは善で我らは悪…あれ?カンニングペーパーどこだっけ」
「姫様、しっかり!」
「俺達がついてますから!」
ブチンッ!確かにそんな音が聴こえた。ついにレッドさんがブチ切れた音である。
「エニシアちゃんよ…確かおめー、全力で俺に闘ってほしいって言ったよな…」
「うん、言ったよ?」
「手加減すんなとも言ったな…」
「うん」
「ああ、分かった。分かったよ。見せてやるよ、俺の全力―――!」
ブワッ―――と、全てが焼け付くような熱気がサンレッドから迸る。
「え…ま、まさかレッドさん…ほんとに全力で行くんですか?」
「も、もしかして、私、ヤバい事言っちゃった…?」
恐怖。ヴァンプ様とエニシアを筆頭とする悪の権化達を支配するのは、純然たる畏れだ。
例えるならば、龍の前の蝿。獅子の前の蟻。どれだけ楽天的な連中でも瞬時に理解できる、圧倒的格差。
食物連鎖の絶対的上位に位置する存在。どれだけ言葉を尽くしても語れない、絶対にして絶大の壁。
それこそが―――本気になった天体戦士サンレッドだ!
いつもの対決場所である公園。
そこにいたのはレッドさんとヴァンプ将軍、それにフロシャイム川崎支部の皆さん。
ここまではいつも通りだが、今回は更に珍客がいた。
「天体戦士サンレッド…我ら<エニシア軍団>に歯向かう愚か者。ああ、私は悲しい…あらゆる命の象徴たる太陽
を、この手で」
チラリと手元のカンペを見て、続ける。
「地に堕とさねばならないとは…サンレッド!せめて美しく、そして残酷に逝きなさい!」
少女―――エニシアはそこまでのたまった所で、軍団員に向き直る。
「えっと、こんな感じでいいかな?ちゃんと悪の姫君っぽさとか出てる?」
「出てますよ、姫様!もうオーラ出まくりです!テニス部部長くらい出てますよ!」
「俺、ちょっと感動して膝が震えてますもん!」
「どこに出しても恥ずかしくない、ワルでクールな姫様でしたよ!」
「姫様バンザーイ!」
おべっかでなく、マジでのたまっている辺りが余計にタチが悪かった。
「そ、そうかな。えへへ…」
ほっぺを真っ赤にして照れるエニシア。それを聖母の眼差しで優しく見守るヴァンプ様。
レッドさんはそんな心温まる光景を黙殺し、ヴァンプ様の胸倉を掴んだ。
「あいたたた。何するんですか、レッドさん…」
「何するじゃねーよ!何なんだよこいつら!何で俺達の対決場所にいるんだよ!」
「え?レッドさんの知り合いなんでしょ、エニシアちゃん。前にココアを貰ったって言ってましたけど」
「そういう事を訊いてんじゃねーよ!何で対決に同伴してんだって事だよ!」
「ああ…実はエニシアちゃん、ウチの怪人のバイト先の知り合いでして」
「ほほお。それで?」
「それで、彼女も軍団を結成して世界を狙っている事は知っていたんで。それなら一度、我々フロシャイムと同盟を
結んでレッドさんと闘ってみないかって誘ったんです」
「…………」
レッドさんはエニシアを見た。エニシアは嬉しそうな顔でニコニコしている。
「勿論私達<エニシア軍団>も二つ返事で承諾したの。世界征服のためには、いずれフロシャイムも倒さなければ
ならない相手だけど、その前にヒーローであるレッドさんを協力して抹殺しようって。ねー」
「ねー」
「悪の組織同士がそんな<放課後ウチに来て遊ぼー>みたいなレベルで同盟を結んでんじゃねー!」
「いいじゃないですか、レッドさん。仲良き事は美しき哉、ですよ。ねー、エニシアちゃん」
「ねー、ヴァンプさん」
すっかり仲良しさんな二人である。スパロボとかでありがちな<目的のために手を組んだけど隙を見せればお前ら
も潰してやるぜゲッヘッヘ>な空気なんて微塵もない。
「…………バカだ…こいつら、正真正銘のアホ共だ…」
何でこの神奈川県川崎市溝ノ口には、頭カラッポでろくでもねー夢ばっか詰め込んだような奴が集まるのか?
そして何故よりによって、俺がその地を守るヒーローやってんのか?
「とにかく!今日はエニシア軍団と共に貴様を叩き潰してくれるわ!覚悟せよ、サンレッド!ふはははは!」
「手加減など無用よ、サンレッド!あなたは善で我らは悪…あれ?カンニングペーパーどこだっけ」
「姫様、しっかり!」
「俺達がついてますから!」
ブチンッ!確かにそんな音が聴こえた。ついにレッドさんがブチ切れた音である。
「エニシアちゃんよ…確かおめー、全力で俺に闘ってほしいって言ったよな…」
「うん、言ったよ?」
「手加減すんなとも言ったな…」
「うん」
「ああ、分かった。分かったよ。見せてやるよ、俺の全力―――!」
ブワッ―――と、全てが焼け付くような熱気がサンレッドから迸る。
「え…ま、まさかレッドさん…ほんとに全力で行くんですか?」
「も、もしかして、私、ヤバい事言っちゃった…?」
恐怖。ヴァンプ様とエニシアを筆頭とする悪の権化達を支配するのは、純然たる畏れだ。
例えるならば、龍の前の蝿。獅子の前の蟻。どれだけ楽天的な連中でも瞬時に理解できる、圧倒的格差。
食物連鎖の絶対的上位に位置する存在。どれだけ言葉を尽くしても語れない、絶対にして絶大の壁。
それこそが―――本気になった天体戦士サンレッドだ!
「燃えろ、俺の太陽闘気(コロナ)―――変身!」
吹き荒れる爆熱と灼熱の中で、サンレッドがその姿を変化させる。
真っ赤なバトルスーツを基調として、その上から輝きを放つ追加装甲が装着された。
背中には爆風でたなびく、真紅のマント。
真っ赤なバトルスーツを基調として、その上から輝きを放つ追加装甲が装着された。
背中には爆風でたなびく、真紅のマント。
「強火で直火で、正義が燃える―――!天体戦士サンレッド・飛翔形態―――<プロミネンスフォーム>!」
<紅炎(プロミネンス)>の名を冠するその姿は、正しく日輪の化身。
朝陽のようにキラキラ輝く、絶対太陽。
夕陽のようにギラギラ燃える、でっかい太陽。
情熱を漲らせ。灼熱を溢れさせ。太陽の戦士(ソルジャー)が―――紅蓮の闘神が、そこにいた。
「あ…ああ…ヤバい…レッドさん、本当に本気になっちゃってる…」
「あ、あの…今からやっぱり手加減してとか…無理、かな…」
燃え滾る怒りに熱く紅くバーニングなレッドさんとは対照的に、顔面蒼白・涙目でガタガタ震える悪の将軍と姫君。
「姫様!こうなったら姫様必殺のフェアリースマイルで奴を骨抜きにするしかありませんぞ!」
「大丈夫!姫様ならば出来ます!」
この期に及んで姫様絶対主義を貫き通す覚悟の家臣達。忠臣の鑑であった。
でも、それがレッドさんに通じるかどうかは悲しいかな、別問題だった。
「うっせえわバカ共!死なねえ程度に殺してやるから、覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇ!」
煉獄の炎を身に纏いながら、サンレッドは天高く舞う。一瞬にして大気圏を突破し、宇宙空間に到達。
そこから全速力で、公園に向けて急降下!その姿はまさに、燃え盛る真紅の隕石―――!
朝陽のようにキラキラ輝く、絶対太陽。
夕陽のようにギラギラ燃える、でっかい太陽。
情熱を漲らせ。灼熱を溢れさせ。太陽の戦士(ソルジャー)が―――紅蓮の闘神が、そこにいた。
「あ…ああ…ヤバい…レッドさん、本当に本気になっちゃってる…」
「あ、あの…今からやっぱり手加減してとか…無理、かな…」
燃え滾る怒りに熱く紅くバーニングなレッドさんとは対照的に、顔面蒼白・涙目でガタガタ震える悪の将軍と姫君。
「姫様!こうなったら姫様必殺のフェアリースマイルで奴を骨抜きにするしかありませんぞ!」
「大丈夫!姫様ならば出来ます!」
この期に及んで姫様絶対主義を貫き通す覚悟の家臣達。忠臣の鑑であった。
でも、それがレッドさんに通じるかどうかは悲しいかな、別問題だった。
「うっせえわバカ共!死なねえ程度に殺してやるから、覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇ!」
煉獄の炎を身に纏いながら、サンレッドは天高く舞う。一瞬にして大気圏を突破し、宇宙空間に到達。
そこから全速力で、公園に向けて急降下!その姿はまさに、燃え盛る真紅の隕石―――!
「紅炎奥義―――<メテオクラッシュ>!」
「「「「「どっひゃ~~~!」」」」」
「「「「「どっひゃ~~~!」」」」」
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
なお悪の皆様方はいつもより念入りに正義の説教をされたけど、エニシアちゃんだけはバイトがあったので帰らせて
もらったとさ。そんなレッドさんの優しさが心に染みるお話でした。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
なお悪の皆様方はいつもより念入りに正義の説教をされたけど、エニシアちゃんだけはバイトがあったので帰らせて
もらったとさ。そんなレッドさんの優しさが心に染みるお話でした。