対峙する、王と神。
激突する、光と闇。
世界を照らす創世の女神―――ホルアクティ。
歴史を喰らう破壊の魔獣―――ベスティア。
「ぐ、う、う…!」
全身を襲う激痛に、闇遊戯は呻く。
(こうなる事は、分かっていたが…召喚しただけで、身体がバラバラになりそうだぜ…!)
この世界においては通常の三幻神でさえ、召喚するだけでも体力を相当に消耗する。まして、その全てを融合させた
ホルアクティ。その存在を顕現させるだけで、満身創痍の身体が悲鳴を上げていた。
「フフ…成程。ソンナ切リ札ヲ今マデ使ワナカッタノハ、其レガ理由カ…」
魔獣―――ベスティアと化したタナトスが、洞察する。
「肉体ヘノ負荷ガ大キ過ギル。恐ラク攻撃ハ一度ガ限界…其レデハ敵ヲ倒セナカッタ時ニ、窮地ニ陥ルダケダ」
「それは…お前も同じだろう、タナトス」
闇遊戯は、挑発するように言い放つ。
「お前とて、それほどの力を操るからには相当の無理をしているはず…ギリギリなのは、お互い様だ」
「ナラ…条件ハ同ジカ。ヨカロゥ」
ベスティアが口腔を(その余りにも形容し難き姿形故に、本当に口であるかどうかは疑わしかったが)大きく開き、
ビチャビチャと体液を滴らせながら、混沌そのものの如く這い寄る。
「王(ファラオ)ト神(タナトス)、白黒ハッキリ付ケヨゥジャナィカ」
「そうだ。どちらが勝つにせよ…ここで、全てが決する」
金色の女神が大きく両腕を広げ、天を仰ぐ。黒を越えて、聖なる光の力が世界を満たす。
「女神よ…オレ達に光を…希望を…勝利をもたらせ!光創世(ジェセル)!」
白磁の両腕が振り下ろされ、白き閃光が黒の世界に降り注ぐ。それは暗闇を、暗黒を、絶望を消し去ろうとするかの
ように眩く輝き、絶対の黒をも圧していく。
魔獣はそれに対して、退くことなく立ちはだかる。
創世の光を前にして、破壊の黒を以て喰らい付く。
「魔獣ヨ…世界ニ…歴史ニ…地平ニ…全テニ終焉ヲ!死魔殺炎烈光(ディアボリック・デスバースト)!」
ベスティアの全身から立ち昇る、地獄から湧き出したような黒き焔。それはまるで己の意志を持つかのように蠢き、
渦巻き、女神の放つ白き聖光を押し返さんとばかりに蝕んでいく。
激突する白と黒が互いを消し去らんと、激しく明滅する。
「うおおおおおおおっ…!」
全身の血液が沸騰するような灼熱感。
鋭い針を全身に突き立てられる程の痛み。
例えれば、肉が尽く引き裂かれ、骨が一片残さず粉と化す地獄。
その全てに耐えて、闇遊戯は眼前に立つ魔獣を―――死神を睨み付ける。
「グガガガガガガガッ…!」
タナトスもまた、己の骨身を削っていくような闘いを強いられていた。
強大な魔獣の力を振るい、偉大な女神の光に真っ向から挑んでいるのだ。
彼もまた己が神性の全てを懸けて、この最後の決闘に臨んでいる。
両者ともに―――真の決着を、望んでいる。
白黒きっちり―――ケリを付ける。
「くっ…あああああっ」
だが、それでも―――不利なのは、闇遊戯だ。
共に満身創痍だったとはいえ、闇遊戯の肉体は人間であり―――
タナトスの肉体は、ヒトという存在を遥かに超越する神の其れ。
激突する、光と闇。
世界を照らす創世の女神―――ホルアクティ。
歴史を喰らう破壊の魔獣―――ベスティア。
「ぐ、う、う…!」
全身を襲う激痛に、闇遊戯は呻く。
(こうなる事は、分かっていたが…召喚しただけで、身体がバラバラになりそうだぜ…!)
この世界においては通常の三幻神でさえ、召喚するだけでも体力を相当に消耗する。まして、その全てを融合させた
ホルアクティ。その存在を顕現させるだけで、満身創痍の身体が悲鳴を上げていた。
「フフ…成程。ソンナ切リ札ヲ今マデ使ワナカッタノハ、其レガ理由カ…」
魔獣―――ベスティアと化したタナトスが、洞察する。
「肉体ヘノ負荷ガ大キ過ギル。恐ラク攻撃ハ一度ガ限界…其レデハ敵ヲ倒セナカッタ時ニ、窮地ニ陥ルダケダ」
「それは…お前も同じだろう、タナトス」
闇遊戯は、挑発するように言い放つ。
「お前とて、それほどの力を操るからには相当の無理をしているはず…ギリギリなのは、お互い様だ」
「ナラ…条件ハ同ジカ。ヨカロゥ」
ベスティアが口腔を(その余りにも形容し難き姿形故に、本当に口であるかどうかは疑わしかったが)大きく開き、
ビチャビチャと体液を滴らせながら、混沌そのものの如く這い寄る。
「王(ファラオ)ト神(タナトス)、白黒ハッキリ付ケヨゥジャナィカ」
「そうだ。どちらが勝つにせよ…ここで、全てが決する」
金色の女神が大きく両腕を広げ、天を仰ぐ。黒を越えて、聖なる光の力が世界を満たす。
「女神よ…オレ達に光を…希望を…勝利をもたらせ!光創世(ジェセル)!」
白磁の両腕が振り下ろされ、白き閃光が黒の世界に降り注ぐ。それは暗闇を、暗黒を、絶望を消し去ろうとするかの
ように眩く輝き、絶対の黒をも圧していく。
魔獣はそれに対して、退くことなく立ちはだかる。
創世の光を前にして、破壊の黒を以て喰らい付く。
「魔獣ヨ…世界ニ…歴史ニ…地平ニ…全テニ終焉ヲ!死魔殺炎烈光(ディアボリック・デスバースト)!」
ベスティアの全身から立ち昇る、地獄から湧き出したような黒き焔。それはまるで己の意志を持つかのように蠢き、
渦巻き、女神の放つ白き聖光を押し返さんとばかりに蝕んでいく。
激突する白と黒が互いを消し去らんと、激しく明滅する。
「うおおおおおおおっ…!」
全身の血液が沸騰するような灼熱感。
鋭い針を全身に突き立てられる程の痛み。
例えれば、肉が尽く引き裂かれ、骨が一片残さず粉と化す地獄。
その全てに耐えて、闇遊戯は眼前に立つ魔獣を―――死神を睨み付ける。
「グガガガガガガガッ…!」
タナトスもまた、己の骨身を削っていくような闘いを強いられていた。
強大な魔獣の力を振るい、偉大な女神の光に真っ向から挑んでいるのだ。
彼もまた己が神性の全てを懸けて、この最後の決闘に臨んでいる。
両者ともに―――真の決着を、望んでいる。
白黒きっちり―――ケリを付ける。
「くっ…あああああっ」
だが、それでも―――不利なのは、闇遊戯だ。
共に満身創痍だったとはいえ、闇遊戯の肉体は人間であり―――
タナトスの肉体は、ヒトという存在を遥かに超越する神の其れ。
他の条件が同じなら―――人間が、神に勝てるはずがない!
「ドゥシタ、古ノ王(ファラオ)ヨ!コノ程度ガキミノ力カ!?其レデヨクモ大口ヲ叩ケタモノダ!」
「くっ…!」
「違ゥダロゥ…コンナモノジャナィダロゥ…キミ達ガ語ルベキ、人間ノ強靭(ツヨ)サハ!」
タナトスは、吼える。
「示シテミロヨ、人間ハコノ程度デ終焉(ォワ)ラヌト…コノ程度デ挫折(クジ)ケヌト!」
それはまるで―――そうあって欲しいと願っているようだった。
「我ヲ否定スルノナラ―――我ノ救ィヲ拒絶スルノナラ―――人間ノ力デ、我ヲ越ェテミセロ!」
「が、あ、あっ…!」
それでも、もはや闇遊戯は最後の力すら、一滴残さず枯れ果てようとしていた。
視界が暗く染まる。足が地に着いているのかどうかも分からない。痛みだけがますます酷くなっていく。
(もう…オレは…)
「くっ…!」
「違ゥダロゥ…コンナモノジャナィダロゥ…キミ達ガ語ルベキ、人間ノ強靭(ツヨ)サハ!」
タナトスは、吼える。
「示シテミロヨ、人間ハコノ程度デ終焉(ォワ)ラヌト…コノ程度デ挫折(クジ)ケヌト!」
それはまるで―――そうあって欲しいと願っているようだった。
「我ヲ否定スルノナラ―――我ノ救ィヲ拒絶スルノナラ―――人間ノ力デ、我ヲ越ェテミセロ!」
「が、あ、あっ…!」
それでも、もはや闇遊戯は最後の力すら、一滴残さず枯れ果てようとしていた。
視界が暗く染まる。足が地に着いているのかどうかも分からない。痛みだけがますます酷くなっていく。
(もう…オレは…)
―――誰かの声が、聴こえた。
「遊戯!」
「しっかりしやがれ…!」
遠のき始めていた意識が覚醒する。
「城之内くん…オリオン…」
二人が、ボロクズのような身体に鞭打って―――崩れ落ちかける闇遊戯の身体を、支えていた。
「言ったろうが…一人じゃ耐え切れなくっても…」
「お前にゃあ…仲間がいるんだ!皆一緒なら―――何も怖いもんなんかあるか!」
「…………!」
よく見れば、二人だけではない。
「おのれ…このオレに下らんスポ根決闘(デュエル)の片棒を担がせおって!」
海馬。
「このレオンティウス…友を支える程度の力ならば持っておる!」
レオンティウス。
「遊戯…運命なんかに…負けないで!」
ミーシャ。
「これで終わりにするんだ―――全ての悲劇を!」
エレフ。
誰もが本来なら指一本も動かせないようなズタズタの身体で、全員で闇遊戯を支えていた。
(往こう―――皆と一緒に!)
最後に、誰より頼れる相棒が。
(オレだけじゃない…皆が…共に闘っているんだ…)
全身に、血が通っていくようだった。あれほど耐え難かった苦痛が、消え失せていた。
「下ラナィ…下ラナィナ、ヤリ尽クサレタ展開ダ…シカシ、其レディィ!其レコソガ人間ノ力!一人一人ハ弱ィカラコソ、
皆デ支ェ合ィ、ソシテ―――キミ達ハ今、神サェ殺スノカ!」
そして吼える吼える魔獣(ベスティア)―――猛る猛る死神(タナトス)!
「愛シテル…愛シテルゾ、人間!今我ハ、コノ冥府ニ産マレ堕チテ以来、最モ愛スル人間達ニ出会ェタ!ダカラコソ
手加減ナドシナィ―――我ノ全テヲ懸ケテ、全身全霊デ愛シ抜コゥ!」
魔獣の力が更に強まっていく。だが、闇遊戯はもはや揺るぎはしない。
「タナトス…今こそ、オレ達の力を全てお前にぶつける…オレ達の勝利のために…そして、お前のためにも!お前に
示してみせる―――!人間の想いと…結束の力を!」
金色の女神が、黒き魔獣の力を越え、世界を白き光で照らしていく―――
「グァァァ、ァァァーーーーッ!」
タナトスもまた、最後の力でそれに抗うが―――如何に神といえど、彼はこの場にただ一柱。
如何に強大なる神であっても―――
繋がる力は。集う力は。結ばれる力は。それすら遥か凌駕する!
「神も…魔獣も…全てを超える…それこそが―――結束の力だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「遊戯!」
城之内が、声を嗄らして叫んだ。
「今こそブチ破れ―――運命も、歴史も、神様も―――全部まとめて、カッ飛ばせ!」
「しっかりしやがれ…!」
遠のき始めていた意識が覚醒する。
「城之内くん…オリオン…」
二人が、ボロクズのような身体に鞭打って―――崩れ落ちかける闇遊戯の身体を、支えていた。
「言ったろうが…一人じゃ耐え切れなくっても…」
「お前にゃあ…仲間がいるんだ!皆一緒なら―――何も怖いもんなんかあるか!」
「…………!」
よく見れば、二人だけではない。
「おのれ…このオレに下らんスポ根決闘(デュエル)の片棒を担がせおって!」
海馬。
「このレオンティウス…友を支える程度の力ならば持っておる!」
レオンティウス。
「遊戯…運命なんかに…負けないで!」
ミーシャ。
「これで終わりにするんだ―――全ての悲劇を!」
エレフ。
誰もが本来なら指一本も動かせないようなズタズタの身体で、全員で闇遊戯を支えていた。
(往こう―――皆と一緒に!)
最後に、誰より頼れる相棒が。
(オレだけじゃない…皆が…共に闘っているんだ…)
全身に、血が通っていくようだった。あれほど耐え難かった苦痛が、消え失せていた。
「下ラナィ…下ラナィナ、ヤリ尽クサレタ展開ダ…シカシ、其レディィ!其レコソガ人間ノ力!一人一人ハ弱ィカラコソ、
皆デ支ェ合ィ、ソシテ―――キミ達ハ今、神サェ殺スノカ!」
そして吼える吼える魔獣(ベスティア)―――猛る猛る死神(タナトス)!
「愛シテル…愛シテルゾ、人間!今我ハ、コノ冥府ニ産マレ堕チテ以来、最モ愛スル人間達ニ出会ェタ!ダカラコソ
手加減ナドシナィ―――我ノ全テヲ懸ケテ、全身全霊デ愛シ抜コゥ!」
魔獣の力が更に強まっていく。だが、闇遊戯はもはや揺るぎはしない。
「タナトス…今こそ、オレ達の力を全てお前にぶつける…オレ達の勝利のために…そして、お前のためにも!お前に
示してみせる―――!人間の想いと…結束の力を!」
金色の女神が、黒き魔獣の力を越え、世界を白き光で照らしていく―――
「グァァァ、ァァァーーーーッ!」
タナトスもまた、最後の力でそれに抗うが―――如何に神といえど、彼はこの場にただ一柱。
如何に強大なる神であっても―――
繋がる力は。集う力は。結ばれる力は。それすら遥か凌駕する!
「神も…魔獣も…全てを超える…それこそが―――結束の力だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「遊戯!」
城之内が、声を嗄らして叫んだ。
「今こそブチ破れ―――運命も、歴史も、神様も―――全部まとめて、カッ飛ばせ!」
紫(シ)に彩られし死神(タナトス)も―――
黒(クロ)き書に記されし魔獣(ベスティア)も―――
白(シロ)き創世の光の中に、全てが消えていく―――
黒(クロ)き書に記されし魔獣(ベスティア)も―――
白(シロ)き創世の光の中に、全てが消えていく―――
―――そして、黒の世界が光の中に呑み込まれ。
魔獣も女神も、もはやその存在を維持できなくなり、消滅した。
そして残された闇遊戯達は、再び冥府。
眼前には、冥王―――タナトス。
「…ハァッ…ハッ…ガハッ…」
全身が罅割れ、そこから止め処なく真紅の血を流しながら。
「間違ィカ…結局、我ハ間違ッティタト…間違ッティタカラ、負ケタノカ!」
「負けたから間違い…勝ったから正しい…そんな事はないだろう」
「だけど、ボクはやっぱり…貴柱(あなた)は、間違ってると思う」
未だ眼光鋭く睨み付けてくるタナトスに、闇遊戯…そして、遊戯が語りかける。
「確かに、生きていくことは辛いことだって多いよ。嫌なことや悲しいこと、痛いことだってたくさんある…けれど
―――其れでも人は生きて、征くんだ。確かにボク達の生きる場所は、願った事全てが叶う世界じゃない。だけど、
誰もが遥かな地平線を目指して!残酷な運命の中で、生き足掻くんだ!死だけが全てに平等な救い?或いは貴柱
自身が運命の神になって、どんな願いも叶う幸せな世界を創る?そんな救いがあるか、バカ野郎!」
「…………!」
「タナトス!貴柱のしていることは…人間の可能性の全てを奪うことと同じなんだよ!」
「故ニ我ガ愛ハ間違ィダト云ゥノカ―――!ナラバ我ハ、我ハドゥスレバヨィ!」
「受け入れればいいんだ、タナトス」
遊戯…否。闇遊戯は、静かに答えた。
「精一杯生きて、生きて、生き抜いた者たちが、最期に辿り着くこの場所で…暖かく、彼らを迎え入れてやること。
それがお前がしてやれる、人間に対する愛だと―――オレは、そう思う」
「ソゥ、カ…其レガ、キミ達ノ…人間ノ、答ェカ」
タナトスは、張り詰めていた何かが解けたように、安らかに笑っていた。
「我ノ趣味デハナィガ…負ケタ以上、認メルヨリナシカ…敗者ハ黙シテ、引キ下ガロゥ」
サレド。
「覚ェテォクガヨィ、死セル者達―――我ハ諦メタ訳デハナィゾ。人間ニハヤハリ我ノ救ィガ必要ダト感ジタナラバ、
我ハ再ビ、生ケトシ生ケル全テヲ、殺メ続ケル事デ救ォゥ―――」
タナトスはそう言って、爽やかにすら思えるその笑顔を闇遊戯達に向ける。
「ソゥナラヌ為ニモ―――精々、懸命ニ生キルガヨカロゥ」
「生きる」
エレフは、気負いなくそう答えた。
「私達人間は…強く生きられる」
「そうよ。どんなに辛くても、生きろと…皆が教えてくれたわ」
ミーシャが。
「貴様の気遣いなど、余計なだけだ」
海馬が。
「運命は残酷だ。されど彼女を恐れはしない―――例え女神(ミラ)が微笑まずとも、我等は挫けず生きよう」
レオンティウスが。
「ま、難しい事は言えないけどよ…最後の最期で笑って死ねれば、それで運命に対して俺の勝ちさ」
オリオンが。
「そういうこった。だから、まあ…心配すんなよ、タナトス。あと…一つだけ言っとく」
最後に城之内が、少々バツが悪そうに口を開く。
「オレは別にアンタのこと、嫌いじゃねーし憎んでもいねーよ…ま、好きにまではなれねーけどな」
多分、他の皆も同じだよ。城之内はそう言った。
「…ソゥカ。我ハキミ達ガ好キダヨ。フフフフフ…ァノ仔等ノ言葉ナド聞キ流シテォケバィィノニ、其レガ出来ナィノガ
キミ達トィゥ人間カ…嗚呼、ソゥカ」
ダカラ我ハ―――キミ達ノ友達ニナリタカッタンダ。
そう呟いて、タナトスは冥府の空を仰ぎ見る。
「最後ニ…我カラ一ツ、粋ナ計ラィヲシヨゥ。レオンティウス、アルテミシア、ソシテ、エレフニ」
「計らいだと…最後まで、何を企んでいる?」
猜疑心バリバリの海馬であったが、タナトスは気にせずに笑った。
「何…キミ達ノ顔ヲ見タィト望ム亡者達ガィルノデネ。本来ハ赦サレヌ事ダガ…マァ、今回ダケハヨカロゥ」
タナトスは背後を振り向き、声をかけた。
「ォ前達…モゥ一度、顔ヲ見セテヤリナサィ」
すう―――っと。まるで、初めからそこにいたかのように、彼らは忽然とその姿を現していた。
「あ…」
「そ…そんな…」
「あなた達は…!」
そこにいたのは、彼らにとって懐かしい顔だった。
魔獣も女神も、もはやその存在を維持できなくなり、消滅した。
そして残された闇遊戯達は、再び冥府。
眼前には、冥王―――タナトス。
「…ハァッ…ハッ…ガハッ…」
全身が罅割れ、そこから止め処なく真紅の血を流しながら。
「間違ィカ…結局、我ハ間違ッティタト…間違ッティタカラ、負ケタノカ!」
「負けたから間違い…勝ったから正しい…そんな事はないだろう」
「だけど、ボクはやっぱり…貴柱(あなた)は、間違ってると思う」
未だ眼光鋭く睨み付けてくるタナトスに、闇遊戯…そして、遊戯が語りかける。
「確かに、生きていくことは辛いことだって多いよ。嫌なことや悲しいこと、痛いことだってたくさんある…けれど
―――其れでも人は生きて、征くんだ。確かにボク達の生きる場所は、願った事全てが叶う世界じゃない。だけど、
誰もが遥かな地平線を目指して!残酷な運命の中で、生き足掻くんだ!死だけが全てに平等な救い?或いは貴柱
自身が運命の神になって、どんな願いも叶う幸せな世界を創る?そんな救いがあるか、バカ野郎!」
「…………!」
「タナトス!貴柱のしていることは…人間の可能性の全てを奪うことと同じなんだよ!」
「故ニ我ガ愛ハ間違ィダト云ゥノカ―――!ナラバ我ハ、我ハドゥスレバヨィ!」
「受け入れればいいんだ、タナトス」
遊戯…否。闇遊戯は、静かに答えた。
「精一杯生きて、生きて、生き抜いた者たちが、最期に辿り着くこの場所で…暖かく、彼らを迎え入れてやること。
それがお前がしてやれる、人間に対する愛だと―――オレは、そう思う」
「ソゥ、カ…其レガ、キミ達ノ…人間ノ、答ェカ」
タナトスは、張り詰めていた何かが解けたように、安らかに笑っていた。
「我ノ趣味デハナィガ…負ケタ以上、認メルヨリナシカ…敗者ハ黙シテ、引キ下ガロゥ」
サレド。
「覚ェテォクガヨィ、死セル者達―――我ハ諦メタ訳デハナィゾ。人間ニハヤハリ我ノ救ィガ必要ダト感ジタナラバ、
我ハ再ビ、生ケトシ生ケル全テヲ、殺メ続ケル事デ救ォゥ―――」
タナトスはそう言って、爽やかにすら思えるその笑顔を闇遊戯達に向ける。
「ソゥナラヌ為ニモ―――精々、懸命ニ生キルガヨカロゥ」
「生きる」
エレフは、気負いなくそう答えた。
「私達人間は…強く生きられる」
「そうよ。どんなに辛くても、生きろと…皆が教えてくれたわ」
ミーシャが。
「貴様の気遣いなど、余計なだけだ」
海馬が。
「運命は残酷だ。されど彼女を恐れはしない―――例え女神(ミラ)が微笑まずとも、我等は挫けず生きよう」
レオンティウスが。
「ま、難しい事は言えないけどよ…最後の最期で笑って死ねれば、それで運命に対して俺の勝ちさ」
オリオンが。
「そういうこった。だから、まあ…心配すんなよ、タナトス。あと…一つだけ言っとく」
最後に城之内が、少々バツが悪そうに口を開く。
「オレは別にアンタのこと、嫌いじゃねーし憎んでもいねーよ…ま、好きにまではなれねーけどな」
多分、他の皆も同じだよ。城之内はそう言った。
「…ソゥカ。我ハキミ達ガ好キダヨ。フフフフフ…ァノ仔等ノ言葉ナド聞キ流シテォケバィィノニ、其レガ出来ナィノガ
キミ達トィゥ人間カ…嗚呼、ソゥカ」
ダカラ我ハ―――キミ達ノ友達ニナリタカッタンダ。
そう呟いて、タナトスは冥府の空を仰ぎ見る。
「最後ニ…我カラ一ツ、粋ナ計ラィヲシヨゥ。レオンティウス、アルテミシア、ソシテ、エレフニ」
「計らいだと…最後まで、何を企んでいる?」
猜疑心バリバリの海馬であったが、タナトスは気にせずに笑った。
「何…キミ達ノ顔ヲ見タィト望ム亡者達ガィルノデネ。本来ハ赦サレヌ事ダガ…マァ、今回ダケハヨカロゥ」
タナトスは背後を振り向き、声をかけた。
「ォ前達…モゥ一度、顔ヲ見セテヤリナサィ」
すう―――っと。まるで、初めからそこにいたかのように、彼らは忽然とその姿を現していた。
「あ…」
「そ…そんな…」
「あなた達は…!」
そこにいたのは、彼らにとって懐かしい顔だった。
エレフとミーシャの育ての両親―――ポリュデウケス夫妻。
レオンティウスの叔父にして、赤髪の蠍―――スコルピオス。
そして、運命に翻弄されし三兄弟の母―――イサドラ。
レオンティウスの叔父にして、赤髪の蠍―――スコルピオス。
そして、運命に翻弄されし三兄弟の母―――イサドラ。
ポリュデウケス夫妻は、笑顔で手を振っていた。
スコルピオスは、レオンティウスに向けて不敵に口を吊り上げ、中指を立てる。
イサドラは、ただ静かにエレフとミーシャ、レオンティウスを見つめて、満足そうに笑っていた。
言葉はなかった。ただ、もはや決して交じり合う事のないはずの生者と亡者はしばし見つめ合っていた。
どれだけの感情と想いを込めてか―――静かに、向かい合っていた。
「―――サァ。名残ハァロゥガ、此処マデダ。サヨゥナラ、現世ニ生キル者達ヨ―――」
ふうっと、闇遊戯達の身体が宙に浮かぶ。やがてその周囲に眩い光が集い、彼らを静かに包んだ。
「我ノ力デ、地上…アルカディアニデモ送ッテヤロゥ。ソンナ身体デハ、モハヤ其処マデ戻レマィカラナ」
「…へっ。至れり尽くせりの死神様だな、全く」
城之内の、どこか温かみを感じさせる悪態を最後に―――彼等は、地上へと戻っていった。
それを見届けた死者達もまた、満足げに笑って消えていく。
残されたのは、タナトスただ一柱。
彼は、詠うように口ずさむ。
スコルピオスは、レオンティウスに向けて不敵に口を吊り上げ、中指を立てる。
イサドラは、ただ静かにエレフとミーシャ、レオンティウスを見つめて、満足そうに笑っていた。
言葉はなかった。ただ、もはや決して交じり合う事のないはずの生者と亡者はしばし見つめ合っていた。
どれだけの感情と想いを込めてか―――静かに、向かい合っていた。
「―――サァ。名残ハァロゥガ、此処マデダ。サヨゥナラ、現世ニ生キル者達ヨ―――」
ふうっと、闇遊戯達の身体が宙に浮かぶ。やがてその周囲に眩い光が集い、彼らを静かに包んだ。
「我ノ力デ、地上…アルカディアニデモ送ッテヤロゥ。ソンナ身体デハ、モハヤ其処マデ戻レマィカラナ」
「…へっ。至れり尽くせりの死神様だな、全く」
城之内の、どこか温かみを感じさせる悪態を最後に―――彼等は、地上へと戻っていった。
それを見届けた死者達もまた、満足げに笑って消えていく。
残されたのは、タナトスただ一柱。
彼は、詠うように口ずさむ。
「…運命(ミラ)…貴柱(ァナタ)ガ命ヲ運ビ続ケ―――」
「怯ェル仔等ニ痛ミヲ与ェ続ケルノナラバ―――」
「我ハ、生ケトシ生ケル全テヲ―――」
「―――唯、静カニ愛シ続ケ、見守リ続ケヨゥ―――」
「怯ェル仔等ニ痛ミヲ与ェ続ケルノナラバ―――」
「我ハ、生ケトシ生ケル全テヲ―――」
「―――唯、静カニ愛シ続ケ、見守リ続ケヨゥ―――」
現世と時空を隔てた超空間。
全てを見届けた詩女神六姉妹は、人間の示した奇蹟を目にして声もなかった。ただ一人を除いては。
「―――ね、ね?あたいの言った通りあの仔等、勝ったでしょ?ねえ。姉ちゃん達ってば、無視すんな、おーい!」
「…確かに」
やたらとはしゃぐ六女・ロクリアに対し、長女・イオニアは咳払いして答えた。
「人間は…我々が思うよりも、ずっと強いようですね」
「でしょでしょ?あたいの言った通りだよね!」
「貴柱(あなた)が威張る事ではありませんがね」
「ガッビーン!」
「さて、皆。帰りましょうか…最早タナトスに、害意はないと判断します」
「おーい、待ってよ!帰り支度すんな!あたいはまだ山ほど言いたい事が…」
ロクリアを完全に黙殺し、詩女神達は再び神の国へと帰っていく。
「人間よ…」
イオニアはその途中で、呟いた。
「あなた方はいずれ、火を騙り…風を穢し…地を屠り…水を腐(くさ)す…そしてやがて、神を殺し、神への畏れを
忘るるでしょう」
其れでも。
「お往きなさい、仔等よ―――命がある限り」
全てを見届けた詩女神六姉妹は、人間の示した奇蹟を目にして声もなかった。ただ一人を除いては。
「―――ね、ね?あたいの言った通りあの仔等、勝ったでしょ?ねえ。姉ちゃん達ってば、無視すんな、おーい!」
「…確かに」
やたらとはしゃぐ六女・ロクリアに対し、長女・イオニアは咳払いして答えた。
「人間は…我々が思うよりも、ずっと強いようですね」
「でしょでしょ?あたいの言った通りだよね!」
「貴柱(あなた)が威張る事ではありませんがね」
「ガッビーン!」
「さて、皆。帰りましょうか…最早タナトスに、害意はないと判断します」
「おーい、待ってよ!帰り支度すんな!あたいはまだ山ほど言いたい事が…」
ロクリアを完全に黙殺し、詩女神達は再び神の国へと帰っていく。
「人間よ…」
イオニアはその途中で、呟いた。
「あなた方はいずれ、火を騙り…風を穢し…地を屠り…水を腐(くさ)す…そしてやがて、神を殺し、神への畏れを
忘るるでしょう」
其れでも。
「お往きなさい、仔等よ―――命がある限り」
―――こうして、古代世界を揺るがした戦乱は真に幕を閉じた。
それは即ち、遊戯達がこの時代を去る日が遂に来たという事。
最後に向かうはレスボス島―――この物語が幕を開けた場所にして、幕を閉じる場所。
神話を生きた者達との別れの時は、刻一刻と迫っていた。
それは即ち、遊戯達がこの時代を去る日が遂に来たという事。
最後に向かうはレスボス島―――この物語が幕を開けた場所にして、幕を閉じる場所。
神話を生きた者達との別れの時は、刻一刻と迫っていた。