さあ、今日はクリスマス。年に一度の聖なる祭り。
誰もが心躍る、特別な一日。
それはこの世界に残る、人ならざる者達にとって最後の楽園―――<幻想郷>においても例外ではない。
例えば、とある一軒家を覗いてみよう。
人形で埋め尽くされた、一種異様な部屋。しかしながら今日ばかりは部屋中に所狭しと煌びやかな飾り付けが施され、
テーブルの上には七面鳥やらケーキやらシャンパンやら、思いつく限りの御馳走が並んでいる。
向い合って席に着くのは、二人の少女。
「へへー!サンタは私がもらったぜ!」
勝手にケーキを切り分け、勝手にサンタのお菓子を持っていくのは霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)。
職業・魔法使い。
白黒を基調にした衣装と長く伸ばした金髪、黙っていれば誰もが認める美少女ながら、その男勝りのヤンチャな言動が
玉に瑕―――いや、それも彼女の魅力なのだろう。
「あ、魔理沙ったら。私も狙ってたのに」
片割れは、肩までのふわふわした金髪をヘアバンドで留めた、これまた美少女。彼女の名はアリス・マーガトロイド。
職業・人形使い。
いつもは自らの操る人形と同じく、美しくも冷たい雰囲気を漂わす彼女なのだが、今はどことなく浮かれた様子である。
クリスマスだからというよりは、魔理沙が一緒だからだろう。誤解しないでほしいのだが、彼女は百合の人ではない。
好きになった人が、たまたま同姓の魔理沙だっただけである。
「怒るなよ、アリス。ほら、チョコレートの家はやるからさ」
そう言いつつも、既にケーキを口一杯に頬張っている魔理沙。
「もう、まだ乾杯もしてないのに…ほら、クリームが顔に付いてるわよ」
指で魔理沙の鼻先に付いたクリームをすくい取り、自分の口に運ぶ。甘い味わいと香りがアリスの口中に広がる。
魔理沙はちょっとはにかんで頬を緩める。彼女も別に百合の人ではない。
ただ、アリスの事については満更でもないだけである。
「そういえば魔理沙。バレンタインの時みたいに、皆にプレゼントを配らないの?」
彼女の得意とする、星屑の魔法。流れ星に乗せて届けられた、甘いチョコレート。だけど、アリスにだけは、自らの手で
渡してくれた。あの夜の思い出は、未だに色褪せずに二人の胸の中で輝いている。
「どこぞの巫女じゃないけど、皆に渡すだけのプレゼントを買う金がないぜ。盗んだ…ん、ごほん、死ぬまで借りた物を質
に入れるってのも流石に憚られるしな」
「身も蓋もないわね」
「だから」
すっと、ラッピングされた袋を差し出す。
「アリスの分しか買えなかったぜ」
「…ありがとう」
アリスも同じように、リボンの付いた包み紙を渡した。
二人して、なんとなく照れ臭くて黙り込んでしまう。やたらと耽美な空気が流れていた。
なんにせよ、可愛い女の子二人がイチャイチャしてキャッキャウフフして百合百合してたら、それだけで見ている方は幸せ
である。異論は認めない。
誰もが心躍る、特別な一日。
それはこの世界に残る、人ならざる者達にとって最後の楽園―――<幻想郷>においても例外ではない。
例えば、とある一軒家を覗いてみよう。
人形で埋め尽くされた、一種異様な部屋。しかしながら今日ばかりは部屋中に所狭しと煌びやかな飾り付けが施され、
テーブルの上には七面鳥やらケーキやらシャンパンやら、思いつく限りの御馳走が並んでいる。
向い合って席に着くのは、二人の少女。
「へへー!サンタは私がもらったぜ!」
勝手にケーキを切り分け、勝手にサンタのお菓子を持っていくのは霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)。
職業・魔法使い。
白黒を基調にした衣装と長く伸ばした金髪、黙っていれば誰もが認める美少女ながら、その男勝りのヤンチャな言動が
玉に瑕―――いや、それも彼女の魅力なのだろう。
「あ、魔理沙ったら。私も狙ってたのに」
片割れは、肩までのふわふわした金髪をヘアバンドで留めた、これまた美少女。彼女の名はアリス・マーガトロイド。
職業・人形使い。
いつもは自らの操る人形と同じく、美しくも冷たい雰囲気を漂わす彼女なのだが、今はどことなく浮かれた様子である。
クリスマスだからというよりは、魔理沙が一緒だからだろう。誤解しないでほしいのだが、彼女は百合の人ではない。
好きになった人が、たまたま同姓の魔理沙だっただけである。
「怒るなよ、アリス。ほら、チョコレートの家はやるからさ」
そう言いつつも、既にケーキを口一杯に頬張っている魔理沙。
「もう、まだ乾杯もしてないのに…ほら、クリームが顔に付いてるわよ」
指で魔理沙の鼻先に付いたクリームをすくい取り、自分の口に運ぶ。甘い味わいと香りがアリスの口中に広がる。
魔理沙はちょっとはにかんで頬を緩める。彼女も別に百合の人ではない。
ただ、アリスの事については満更でもないだけである。
「そういえば魔理沙。バレンタインの時みたいに、皆にプレゼントを配らないの?」
彼女の得意とする、星屑の魔法。流れ星に乗せて届けられた、甘いチョコレート。だけど、アリスにだけは、自らの手で
渡してくれた。あの夜の思い出は、未だに色褪せずに二人の胸の中で輝いている。
「どこぞの巫女じゃないけど、皆に渡すだけのプレゼントを買う金がないぜ。盗んだ…ん、ごほん、死ぬまで借りた物を質
に入れるってのも流石に憚られるしな」
「身も蓋もないわね」
「だから」
すっと、ラッピングされた袋を差し出す。
「アリスの分しか買えなかったぜ」
「…ありがとう」
アリスも同じように、リボンの付いた包み紙を渡した。
二人して、なんとなく照れ臭くて黙り込んでしまう。やたらと耽美な空気が流れていた。
なんにせよ、可愛い女の子二人がイチャイチャしてキャッキャウフフして百合百合してたら、それだけで見ている方は幸せ
である。異論は認めない。
―――そんな、二人きりの世界に没頭している彼女達の元に。
「お、やってるやってる」
―――呼ばれてもいないのに、勝手に玄関のドアを開けて、勝手に部屋に入ってきた闖入者が一人。
「メリークリスマース!…神社勤めの巫女が言うセリフじゃないけどね!」
―――闖入者の名は博麗霊夢(はくれい・れいむ)。
セミロングの黒髪に、あどけなくもふてぶてしさを感じさせる小生意気系美少女。チャームポイントは肩と脇を大胆に露出
させた、紅白の巫女服だ。
先のセリフの通り、とある寂れて賽銭もロクに入らない(失礼)神社の巫女さんである。
「…………」
「…………」
先程まで桃色空気を醸し出していた二人は、一気に白けていた。
(おい…呼んだの、私だけじゃなかったのかよ…)←アイコンタクト
(呼んでないわよ、霊夢は…)←アイコンタクト
そんな事はお構いなしで、霊夢はテーブルの上の御馳走に目を輝かせた。
「うっわー、何これ、七面鳥!?こちとらロー○ンの<から○げくん>を買う賽銭もないってのに贅沢ねえ」
幻想郷にローソ○があるのかどうかは不明である。しかしそんな事はどうでもよかった。
(なんなんだ…今日の霊夢は。いつもより余計に空気が読めてないぜ…)
(よりによって、この聖なる日に異変発生かしら?)
実に失礼だったが、そもそも今の霊夢自体が失礼と無礼の権化だ。霊夢は床に落ちてたパーティーグッズのサンタ帽を
勝手に被り、勧められたわけでもないのに空いていた椅子に座る。
「ほらほら、そんなしけた顔してないで。プレゼントだって持ってきたのよ?」
くしゃくしゃの紙袋を二人に渡す、というか押し付ける霊夢。魔理沙とアリスは、ただただ能面のような顔で受け取るしか
なかった。異様なテンションの霊夢に対してもはや文句を言う気力も失せている。というか、文句をつけたら一瞬にして
殺られそうな危うさを感じていた。
当の霊夢はパンパン手を叩きながら、声を張り上げる。
「はいはいはい、それじゃあ皆で仲良く乾杯しましょうね!シャンパンシャンパン、っと」
両手にシャンパンの瓶を引っ掴み、親指で栓を弾いてカッ飛ばす。それは奇跡的な軌道を描き、魔理沙とアリスの眉間
に直撃して二人を悶絶させた。霊夢はお構いなしにグラスに泡立つ液体を注ぎ、高々と掲げる。
「ほら、カンパーーーイ!」
「…カンパイ」
「カンパイ…」
気分は<乾杯>というより<完敗>だった。
何に対してなのかは本人達にも分からないが、とにかく敗北感で胸は一杯だった。
霊夢はその後も傍若無人の謗りをまるで恐れぬ振る舞いで、食っては飲んで、歌って踊って、騒いではっちゃけ、一人
で弾幕全開の勢いである。魔理沙とアリスはただただその暴力的なパーティーを受け入れるしかないのであった。
セミロングの黒髪に、あどけなくもふてぶてしさを感じさせる小生意気系美少女。チャームポイントは肩と脇を大胆に露出
させた、紅白の巫女服だ。
先のセリフの通り、とある寂れて賽銭もロクに入らない(失礼)神社の巫女さんである。
「…………」
「…………」
先程まで桃色空気を醸し出していた二人は、一気に白けていた。
(おい…呼んだの、私だけじゃなかったのかよ…)←アイコンタクト
(呼んでないわよ、霊夢は…)←アイコンタクト
そんな事はお構いなしで、霊夢はテーブルの上の御馳走に目を輝かせた。
「うっわー、何これ、七面鳥!?こちとらロー○ンの<から○げくん>を買う賽銭もないってのに贅沢ねえ」
幻想郷にローソ○があるのかどうかは不明である。しかしそんな事はどうでもよかった。
(なんなんだ…今日の霊夢は。いつもより余計に空気が読めてないぜ…)
(よりによって、この聖なる日に異変発生かしら?)
実に失礼だったが、そもそも今の霊夢自体が失礼と無礼の権化だ。霊夢は床に落ちてたパーティーグッズのサンタ帽を
勝手に被り、勧められたわけでもないのに空いていた椅子に座る。
「ほらほら、そんなしけた顔してないで。プレゼントだって持ってきたのよ?」
くしゃくしゃの紙袋を二人に渡す、というか押し付ける霊夢。魔理沙とアリスは、ただただ能面のような顔で受け取るしか
なかった。異様なテンションの霊夢に対してもはや文句を言う気力も失せている。というか、文句をつけたら一瞬にして
殺られそうな危うさを感じていた。
当の霊夢はパンパン手を叩きながら、声を張り上げる。
「はいはいはい、それじゃあ皆で仲良く乾杯しましょうね!シャンパンシャンパン、っと」
両手にシャンパンの瓶を引っ掴み、親指で栓を弾いてカッ飛ばす。それは奇跡的な軌道を描き、魔理沙とアリスの眉間
に直撃して二人を悶絶させた。霊夢はお構いなしにグラスに泡立つ液体を注ぎ、高々と掲げる。
「ほら、カンパーーーイ!」
「…カンパイ」
「カンパイ…」
気分は<乾杯>というより<完敗>だった。
何に対してなのかは本人達にも分からないが、とにかく敗北感で胸は一杯だった。
霊夢はその後も傍若無人の謗りをまるで恐れぬ振る舞いで、食っては飲んで、歌って踊って、騒いではっちゃけ、一人
で弾幕全開の勢いである。魔理沙とアリスはただただその暴力的なパーティーを受け入れるしかないのであった。
―――そして。
霊夢は真っ赤な顔で床に転がって、すうすう寝息を立てていた。
「…無茶苦茶な勢いで飲んでたもんなあ」
魔理沙は呆れて物も言えない、とばかりに溜息をついた。
「全く…騒ぐだけ騒いで、真っ先に酔い潰れるなんて」
アリスは文句を垂れつつ、毛布をかけてやった。
「んふふ~…魔理沙…アリス…もっと飲みなさいよぉ~~~…」
霊夢はどんな夢を見ているものか、へらへら笑いながら見事な鼻提灯を作っていた。
どうにも憎めないその顔を見ていると、せっかくのクリスマスを台無しにされた憤りも、なんとなく失せてしまった。
魔理沙とアリスは顔を見合わせ、<しょうがないなあ>とばかりに苦笑した。
「…こいつ、私達と一緒に遊びたかっただけなのかもな」
そんな中で、魔理沙はポツリと呟く。
「霊夢って、普段は誰かと一緒にいても、いつも一人だけ別の場所にいるってカンジじゃんか」
「そうね。そうするのが好きというより、他人に興味がないのよ」
容赦ない言い方だったが、当たっている―――と魔理沙は思った。
別に、霊夢には友達がいないわけではない。笑顔をまるで見せないわけでもない。
それでも―――彼女は、根っこの所で一人ぼっちだ。
霊夢は真っ赤な顔で床に転がって、すうすう寝息を立てていた。
「…無茶苦茶な勢いで飲んでたもんなあ」
魔理沙は呆れて物も言えない、とばかりに溜息をついた。
「全く…騒ぐだけ騒いで、真っ先に酔い潰れるなんて」
アリスは文句を垂れつつ、毛布をかけてやった。
「んふふ~…魔理沙…アリス…もっと飲みなさいよぉ~~~…」
霊夢はどんな夢を見ているものか、へらへら笑いながら見事な鼻提灯を作っていた。
どうにも憎めないその顔を見ていると、せっかくのクリスマスを台無しにされた憤りも、なんとなく失せてしまった。
魔理沙とアリスは顔を見合わせ、<しょうがないなあ>とばかりに苦笑した。
「…こいつ、私達と一緒に遊びたかっただけなのかもな」
そんな中で、魔理沙はポツリと呟く。
「霊夢って、普段は誰かと一緒にいても、いつも一人だけ別の場所にいるってカンジじゃんか」
「そうね。そうするのが好きというより、他人に興味がないのよ」
容赦ない言い方だったが、当たっている―――と魔理沙は思った。
別に、霊夢には友達がいないわけではない。笑顔をまるで見せないわけでもない。
それでも―――彼女は、根っこの所で一人ぼっちだ。
幻想郷の平和を乱す<異変>を解決する<博麗の巫女>。
妖怪退治を生業とする<博麗の巫女>。
現世と幻想の境界たる<結界>の守り手である<博麗の巫女>。
妖怪退治を生業とする<博麗の巫女>。
現世と幻想の境界たる<結界>の守り手である<博麗の巫女>。
そんな特殊な立場が―――否応なく、彼女を<普通の女の子>から遠ざけてしまう。
「だから…たまには、思いっきりハメを外してバカ騒ぎしたかっただけなのかもしれないな」
「それでこんな事を?他人の迷惑考えないにも程があるわよ」
アリスはぷくーっと頬を膨らませたが、魔理沙は爽やかに笑った。
「なあに、許してやろうぜ。友達のワガママに付き合ってやるのも、友達の仕事さ。なあ?」
「…そうかもね」
二人は、霊夢の幸せそうな寝顔を見下ろして、ただ一言。
「「メリークリスマス、霊夢」」
窓の外では聖夜を祝福するかのように、真っ白な雪がちらつき始めていた。
煌くようなスノー・ホワイトは世界を、そして少女達を包み込むように、優しく降り積もる。
「それでこんな事を?他人の迷惑考えないにも程があるわよ」
アリスはぷくーっと頬を膨らませたが、魔理沙は爽やかに笑った。
「なあに、許してやろうぜ。友達のワガママに付き合ってやるのも、友達の仕事さ。なあ?」
「…そうかもね」
二人は、霊夢の幸せそうな寝顔を見下ろして、ただ一言。
「「メリークリスマス、霊夢」」
窓の外では聖夜を祝福するかのように、真っ白な雪がちらつき始めていた。
煌くようなスノー・ホワイトは世界を、そして少女達を包み込むように、優しく降り積もる。
―――こうして、幻想郷のホーリィナイトは過ぎていく。
この世界で笑って泣いて怒ってはしゃいで、誰よりも逞しく生きる少女達に、どうか幸あれ。
この世界で笑って泣いて怒ってはしゃいで、誰よりも逞しく生きる少女達に、どうか幸あれ。