今より三千年前、イエス・キリストもいない、俗に紀元前と呼ばれる時代、
古代エジプトは新王国時代を迎えていた。そんな王国にも当時から貧富の差は激しく、
このクル・エルナ村は特に貧困に苦しむ人々が住んでおり、通りがかる旅人からは金、食糧、物品を盗み続ける。
元々王宮に仕えていた墓職人が墓荒らしとなった事実も含み、俗に『盗賊村』と呼ばれるようになっていった。
しかし、この村で生まれ育った子供達にとっては、その行動が正しいと思い、何の疑いもなかった。
もちろん、バクラと名乗る少年も…………
彼はクルエルナ村の子供達と一緒に通りがかる旅人を襲い、金品を奪う。
「やった!!これで美味い物食べにいこうぜ!」
今日もバクラは数人の連れと一緒に村を駆け回る。
「そうだバクラ、今日も体を消して見せてよ!!」
「ちぇっしょうがないな。」
少年にせがまれ、彼は胴回りの部分から下半身にかけて、肉体を消した。
「まあ、消すって言うよりも『隠す』って感じだな。」
「すごーい!!!」
バクラは少年少女達に褒められ、赤面した。
バクラは、特殊な精霊(カー)を持っていた。名は精霊超獣(ディアバウンド)。
この精霊超獣が後に王国を崩壊寸前まで追い詰める事になるが、それはまた別の話。
「お前等本当にディアバウンドが見えないのか、不思議だなあ。」
バクラは周囲の人間、果ては家族にも、精霊が見えない事が不思議だった。
一方王宮では一大事が起こっていた。王国の王子が失踪したと、城の小間使いが嘆いていたのだ。
「私が少し眼を離した隙に、ああ、私の職務怠慢です……」
「安心なされ、貴女のせいではない。幸い外に出られた形跡もなく、我々神官団も捜索している。
直ぐに王子は見つかるじゃろう。」
神官、シモンが女性を励ます。そんな様子を壺の中からそっと見つめる影があった。
「出られないよう!!!!」
壺の中からなんとか顔を出し、外の様子を伺う少年、アテムは申し訳なさそうに女性に頭を下げる。
結局それから捜索は一時間以上掛かり、壺から、その特徴あるツンツンした頭を神官・マハードの眼がとらえ、
壺を壊すという少々荒業に出て、やっと事件は解決した。
「馬鹿者!!どれ程皆がお前を心配したか分かるか!!!」
物心付いたばかりの子供の行動であるからといってアクナムカノン王は甘やかさなかった。
責任感のない者に、次代の王にはなれないということもあるが、王も人。
自分の息子が心配でならなかった。
「もういい、自分の部屋で…休んでいなさい。」
アテムが部屋に戻り、アクナムカノン王と神官・アクナディンだけが玉座の間に残った。
「我が兄弟、アクナディンよ、王宮制圧のタイムリミットまで、あと何日ある。」
「は、もう長くても二週間程になってしまうかと。それまでに『千年魔術書』の解読出来るよう急いでおります。」
「頼むぞ、アクナディンよ…………」
アクナディンが玉座の間を後にする。彼の後ろに伸びる影が嘲笑していた事は、誰も知らない。
翌日、バクラの家は今日も朝から忙しそうに行動している。
母が、少ない食糧で工夫を凝らしながら手間を掛けて料理を作り、物を盗む等考えられないといったような父はナイル川で魚を獲る。
いつもと変わらない日々、そんな毎日がバクラにはとても愛おしく感じる。
自分一人だけ精霊が見えて一緒に行動をしててもはぐれ者扱いをされず、変わりなく自分に接してくれる者達に感謝していた。
どんなに貧困で苦しんでいても今のバクラは幸せだろう。
クル・エルナ村の子供達の生活は毎日同じだ。時には王家の墓を荒らすかの様に身ぐるみを剥ぐ事もある。
子供達が盗みを働くような荒んだ環境になったのも、王国が敵国と戦争をしているのが大きな理由だろう。
墓荒らしになってしまった王宮の墓職人達が王国の眼から逃れるように遠方に移り住んでいった結果、このクル・エルナ村に着いたのだが、
不運な事に丁度王国と敵国の境目に出来たような小さな村だった。
村の人口はたった九十九人、敵国の騎馬隊に一瞬で滅ぼされるだろう。
しかし、敵国はわざと村を残し、金を搾り取り続けた。
そして、いよいよ村の金も底をついてきたとき…………
「もう取れるだけ取ったから滅ぼしちまうかあ?」
剣を村人に突き付ける兵士を兵隊長のような男が制止する。
「我々はこんな村を潰しに来たのではない。王国を滅ぼすまで、余計な行動は極力避けろ。」
こうして村は滅ぼされるという最悪の危機は脱したが、貧困によって食事もろくに取れないような人間が増え、
そして今現在に至るわけである。
村の子供達も大人達から話を聞き、生計を立てる為に、大人と一緒に盗みを働いている。
王宮でもそのような盗賊村の噂に良い思いをしていなかった。
しかしアクナムカノン王は盗賊村が盗みを働きだしたのにもこちらに責任があると言い、
敢えて手を出さずに、盗賊村の様子を見守っていた。
王宮陥落のタイムリミットまで残り二週間、
「と、解けた!!魔術書に書かれた全ての謎が!!!し、しかし………」
千年魔術書の謎を解いたにも関わらず、不快そうな顔をするアクナディン。
全てが、邪神の描いた脚本通りに事が進んでいた。
古代エジプトは新王国時代を迎えていた。そんな王国にも当時から貧富の差は激しく、
このクル・エルナ村は特に貧困に苦しむ人々が住んでおり、通りがかる旅人からは金、食糧、物品を盗み続ける。
元々王宮に仕えていた墓職人が墓荒らしとなった事実も含み、俗に『盗賊村』と呼ばれるようになっていった。
しかし、この村で生まれ育った子供達にとっては、その行動が正しいと思い、何の疑いもなかった。
もちろん、バクラと名乗る少年も…………
彼はクルエルナ村の子供達と一緒に通りがかる旅人を襲い、金品を奪う。
「やった!!これで美味い物食べにいこうぜ!」
今日もバクラは数人の連れと一緒に村を駆け回る。
「そうだバクラ、今日も体を消して見せてよ!!」
「ちぇっしょうがないな。」
少年にせがまれ、彼は胴回りの部分から下半身にかけて、肉体を消した。
「まあ、消すって言うよりも『隠す』って感じだな。」
「すごーい!!!」
バクラは少年少女達に褒められ、赤面した。
バクラは、特殊な精霊(カー)を持っていた。名は精霊超獣(ディアバウンド)。
この精霊超獣が後に王国を崩壊寸前まで追い詰める事になるが、それはまた別の話。
「お前等本当にディアバウンドが見えないのか、不思議だなあ。」
バクラは周囲の人間、果ては家族にも、精霊が見えない事が不思議だった。
一方王宮では一大事が起こっていた。王国の王子が失踪したと、城の小間使いが嘆いていたのだ。
「私が少し眼を離した隙に、ああ、私の職務怠慢です……」
「安心なされ、貴女のせいではない。幸い外に出られた形跡もなく、我々神官団も捜索している。
直ぐに王子は見つかるじゃろう。」
神官、シモンが女性を励ます。そんな様子を壺の中からそっと見つめる影があった。
「出られないよう!!!!」
壺の中からなんとか顔を出し、外の様子を伺う少年、アテムは申し訳なさそうに女性に頭を下げる。
結局それから捜索は一時間以上掛かり、壺から、その特徴あるツンツンした頭を神官・マハードの眼がとらえ、
壺を壊すという少々荒業に出て、やっと事件は解決した。
「馬鹿者!!どれ程皆がお前を心配したか分かるか!!!」
物心付いたばかりの子供の行動であるからといってアクナムカノン王は甘やかさなかった。
責任感のない者に、次代の王にはなれないということもあるが、王も人。
自分の息子が心配でならなかった。
「もういい、自分の部屋で…休んでいなさい。」
アテムが部屋に戻り、アクナムカノン王と神官・アクナディンだけが玉座の間に残った。
「我が兄弟、アクナディンよ、王宮制圧のタイムリミットまで、あと何日ある。」
「は、もう長くても二週間程になってしまうかと。それまでに『千年魔術書』の解読出来るよう急いでおります。」
「頼むぞ、アクナディンよ…………」
アクナディンが玉座の間を後にする。彼の後ろに伸びる影が嘲笑していた事は、誰も知らない。
翌日、バクラの家は今日も朝から忙しそうに行動している。
母が、少ない食糧で工夫を凝らしながら手間を掛けて料理を作り、物を盗む等考えられないといったような父はナイル川で魚を獲る。
いつもと変わらない日々、そんな毎日がバクラにはとても愛おしく感じる。
自分一人だけ精霊が見えて一緒に行動をしててもはぐれ者扱いをされず、変わりなく自分に接してくれる者達に感謝していた。
どんなに貧困で苦しんでいても今のバクラは幸せだろう。
クル・エルナ村の子供達の生活は毎日同じだ。時には王家の墓を荒らすかの様に身ぐるみを剥ぐ事もある。
子供達が盗みを働くような荒んだ環境になったのも、王国が敵国と戦争をしているのが大きな理由だろう。
墓荒らしになってしまった王宮の墓職人達が王国の眼から逃れるように遠方に移り住んでいった結果、このクル・エルナ村に着いたのだが、
不運な事に丁度王国と敵国の境目に出来たような小さな村だった。
村の人口はたった九十九人、敵国の騎馬隊に一瞬で滅ぼされるだろう。
しかし、敵国はわざと村を残し、金を搾り取り続けた。
そして、いよいよ村の金も底をついてきたとき…………
「もう取れるだけ取ったから滅ぼしちまうかあ?」
剣を村人に突き付ける兵士を兵隊長のような男が制止する。
「我々はこんな村を潰しに来たのではない。王国を滅ぼすまで、余計な行動は極力避けろ。」
こうして村は滅ぼされるという最悪の危機は脱したが、貧困によって食事もろくに取れないような人間が増え、
そして今現在に至るわけである。
村の子供達も大人達から話を聞き、生計を立てる為に、大人と一緒に盗みを働いている。
王宮でもそのような盗賊村の噂に良い思いをしていなかった。
しかしアクナムカノン王は盗賊村が盗みを働きだしたのにもこちらに責任があると言い、
敢えて手を出さずに、盗賊村の様子を見守っていた。
王宮陥落のタイムリミットまで残り二週間、
「と、解けた!!魔術書に書かれた全ての謎が!!!し、しかし………」
千年魔術書の謎を解いたにも関わらず、不快そうな顔をするアクナディン。
全てが、邪神の描いた脚本通りに事が進んでいた。