―――フロシャイム川崎支部。その一室に、奇妙な機械が置かれていた。
「本部が新たに開発した装置…これを作動することにより、異世界の恐るべき魔獣を召喚できるという…」
我らが将軍ヴァンプ様は、厳かに語る。
「私はサンレッド抹殺のため、早速この装置を起動してみた…しかし…」
一気に口調が情けないものに変わるヴァンプ様。
「…どうしよう。明らかに失敗しちゃったよ、これ…」
「まずいっすよ、ヴァンプ様。これは…」
「どう見ても魔獣じゃねーもんなー…」
周りで見守っていた川崎支部所属怪人・メダリオとカーメンマンも困惑するばかりだ。
はてさて、装置によって召喚されたのは。
「あ、あのー…ここ、どこ?おじさん達、誰?」
「ば…化け物!?なんだよお前ら!?」
6歳か7歳くらいの、可愛らしい女の子と、いかにも捻くれ者といった男の子であった。
「本部が新たに開発した装置…これを作動することにより、異世界の恐るべき魔獣を召喚できるという…」
我らが将軍ヴァンプ様は、厳かに語る。
「私はサンレッド抹殺のため、早速この装置を起動してみた…しかし…」
一気に口調が情けないものに変わるヴァンプ様。
「…どうしよう。明らかに失敗しちゃったよ、これ…」
「まずいっすよ、ヴァンプ様。これは…」
「どう見ても魔獣じゃねーもんなー…」
周りで見守っていた川崎支部所属怪人・メダリオとカーメンマンも困惑するばかりだ。
はてさて、装置によって召喚されたのは。
「あ、あのー…ここ、どこ?おじさん達、誰?」
「ば…化け物!?なんだよお前ら!?」
6歳か7歳くらいの、可愛らしい女の子と、いかにも捻くれ者といった男の子であった。
天体戦士サンレッド ~召喚!異世界よりの使者(前編)
―――突然の事に戸惑っている二人をヴァンプ様はどうにか宥めて、居間へと場所を移す。
「ほら。二人とも温かいココアでも飲んで」
「うん、ありがとう」
「…フン」
女の子は素直にココアに口を付けたが、男の子は警戒しているのかコップに触ろうともしない。
「えーと…ごめんね、こんな所に連れて来て。キミ達、名前は?」
「ファラだよ。こっちはディラン」
「こんな人さらい共に名前を教えるなよ、ファラ!」
ディランと呼ばれた男の子が、嫌悪を隠そうともせずに怒鳴る。
「でも、悪い人じゃなさそうだよ?」
「悪いかどうか以前に人でさえないじゃないか、こいつら!」
その様子に、メダリオとカーメンマンは眉を顰める。
「ファラちゃんはいい子だけど…あいつはカンジ悪いなー…」
「俺らの事、露骨に化け物扱いしてるみたいだしな」
「ほらほら、そんな事言っちゃダメ。今回の事は私達が全面的に悪いんだから、ね?」
ヴァンプ様はそう言って、二人に向き直る。
「質問ばかりで申し訳ないけど、ファラちゃんとディランくんは何処から来たのかな?」
「なんだよ、それ。そっちが連れて来たんじゃないか。さっさとボクらを元の場所に戻せよ!」
「うん…もう一度装置を起動すれば、ちゃんとキミ達を元の世界へ戻す機能もあるからそれは大丈夫。でも、さっき
起動したからエネルギーを使い切っちゃって、充電に一週間くらいかかっちゃうの。だから悪いんだけど、その間は
ここにいてもらうしかないから、それならお互いの事をよく知っておいた方がいいかなって思ったの、私」
ヴァンプ様は困った顔でディランに言い聞かせるが、ディランは口をへの字に曲げて顔を背けた。ファラはそんな彼
を困った顔で見つめて、ヴァンプに向けて頭を下げた。
「ごめんね、ヴァンプさん。ディランもきっと、知らない場所で不安なだけだから、許してあげて」
「ううん、いいんだよ、ファラちゃん。何度も言うけど、悪いのは私達なんだから。それじゃあ、二人の事を教えて
くれるかな?」
「うん。ファラとディランはね<ルーンハイム>って所から来たの―――」
「ほら。二人とも温かいココアでも飲んで」
「うん、ありがとう」
「…フン」
女の子は素直にココアに口を付けたが、男の子は警戒しているのかコップに触ろうともしない。
「えーと…ごめんね、こんな所に連れて来て。キミ達、名前は?」
「ファラだよ。こっちはディラン」
「こんな人さらい共に名前を教えるなよ、ファラ!」
ディランと呼ばれた男の子が、嫌悪を隠そうともせずに怒鳴る。
「でも、悪い人じゃなさそうだよ?」
「悪いかどうか以前に人でさえないじゃないか、こいつら!」
その様子に、メダリオとカーメンマンは眉を顰める。
「ファラちゃんはいい子だけど…あいつはカンジ悪いなー…」
「俺らの事、露骨に化け物扱いしてるみたいだしな」
「ほらほら、そんな事言っちゃダメ。今回の事は私達が全面的に悪いんだから、ね?」
ヴァンプ様はそう言って、二人に向き直る。
「質問ばかりで申し訳ないけど、ファラちゃんとディランくんは何処から来たのかな?」
「なんだよ、それ。そっちが連れて来たんじゃないか。さっさとボクらを元の場所に戻せよ!」
「うん…もう一度装置を起動すれば、ちゃんとキミ達を元の世界へ戻す機能もあるからそれは大丈夫。でも、さっき
起動したからエネルギーを使い切っちゃって、充電に一週間くらいかかっちゃうの。だから悪いんだけど、その間は
ここにいてもらうしかないから、それならお互いの事をよく知っておいた方がいいかなって思ったの、私」
ヴァンプ様は困った顔でディランに言い聞かせるが、ディランは口をへの字に曲げて顔を背けた。ファラはそんな彼
を困った顔で見つめて、ヴァンプに向けて頭を下げた。
「ごめんね、ヴァンプさん。ディランもきっと、知らない場所で不安なだけだから、許してあげて」
「ううん、いいんだよ、ファラちゃん。何度も言うけど、悪いのは私達なんだから。それじゃあ、二人の事を教えて
くれるかな?」
「うん。ファラとディランはね<ルーンハイム>って所から来たの―――」
―――彼女の話を総合するとこうである。
二人がやって来た世界の名は<ルーンハイム>。
人間と、そして<ランカスタ>と呼ばれる、翼を持つ民が住まう世界。
そこには、勢力を二分する二つの大国がある。
ランカスタを<亜人>と蔑み弾圧するデルティアナ帝国と、ランカスタと共存するセレスティア王国。
二つの国は激しい戦争を繰り広げていたが、やがて戦いに疲れ、ついにどちらともなく休戦が提案された。
その条件として、帝国と王国は、互いの皇子と王子を人質としてそれぞれ身柄を預けた。
人質がある限り、お互いにお互いの国に攻め込む事はできない―――そういう理屈だ。
そして、帝国から差し出された皇子こそが、ディラン。
王国から差し出された人質である王子、その妹こそがファラ。
そして今、その二人は神奈川県川崎市溝ノ口・フロシャイムアジトへとやってきた―――
二人がやって来た世界の名は<ルーンハイム>。
人間と、そして<ランカスタ>と呼ばれる、翼を持つ民が住まう世界。
そこには、勢力を二分する二つの大国がある。
ランカスタを<亜人>と蔑み弾圧するデルティアナ帝国と、ランカスタと共存するセレスティア王国。
二つの国は激しい戦争を繰り広げていたが、やがて戦いに疲れ、ついにどちらともなく休戦が提案された。
その条件として、帝国と王国は、互いの皇子と王子を人質としてそれぞれ身柄を預けた。
人質がある限り、お互いにお互いの国に攻め込む事はできない―――そういう理屈だ。
そして、帝国から差し出された皇子こそが、ディラン。
王国から差し出された人質である王子、その妹こそがファラ。
そして今、その二人は神奈川県川崎市溝ノ口・フロシャイムアジトへとやってきた―――
「…つまり、ファラちゃんは王国の王女様で、ディランくんは帝国からやってきた皇子様ってわけだね?」
「うん、そうだよ」
「へー。ファラちゃんはお姫様なのか。どーりで可愛らしいわけだ」
「可愛い子は頭ナデナデの刑だー!」
「えへへ…ありがと」
メダリオとカーメンマンがファラの頭を優しく撫でる。ファラは照れ臭そうに笑った。
「それで、こっちのガキが帝国の皇子様?はー、こんなんが後継ぎじゃ未来はねーなー」
「うるさいぞ、化け物!」
あからさまにバカにしたカーメンマンの言葉に、ディランが噛みつく。
「はん。言ってくれるじゃねーかよ。そういやお前の故郷の帝国ってーのは、ランカスタとかいう連中を差別してる
んだよな?おまけにお前は皇子様だから、差別主義と選民思想が生まれながらに刷り込まれてるってわけか」
「はは、こりゃーわるーござんした。高貴な皇子様に、わたくし共みたいなバケモンが気安く話しかけたりしちゃー
いけなかったんすねー」
「くっ…お前ら、ボクをバカにしてるのか!?」
「バカにしてるのかじゃねーよ、バカにしてんだよ。言われなきゃ分からねーなんて、ほんっとバカだな、お前」
すっかりケンカ腰のメダリオとカーメンマン、そしてディラン。
「ディラン…怪人さん達と、ケンカしちゃダメだよ」
「ファラには関係ないだろ。黙ってろよ!」
見かねて止めに入ったファラに対してもこの態度だ。静観していたヴァンプ様がとうとう彼らの間に割って入る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいってばディランくん…メダリオとカーメンマンも、そこまで言わなくてもいいでしょ。ほら、
皆とりあえず落ち着いて…」
「うるさい!」
ヴァンプ様が差し伸べた手を、ディランは乱暴に跳ね除けた。
「ディランくん…」
「ボクに触るな!薄汚いんだよ、この―――化け物!」
「うん、そうだよ」
「へー。ファラちゃんはお姫様なのか。どーりで可愛らしいわけだ」
「可愛い子は頭ナデナデの刑だー!」
「えへへ…ありがと」
メダリオとカーメンマンがファラの頭を優しく撫でる。ファラは照れ臭そうに笑った。
「それで、こっちのガキが帝国の皇子様?はー、こんなんが後継ぎじゃ未来はねーなー」
「うるさいぞ、化け物!」
あからさまにバカにしたカーメンマンの言葉に、ディランが噛みつく。
「はん。言ってくれるじゃねーかよ。そういやお前の故郷の帝国ってーのは、ランカスタとかいう連中を差別してる
んだよな?おまけにお前は皇子様だから、差別主義と選民思想が生まれながらに刷り込まれてるってわけか」
「はは、こりゃーわるーござんした。高貴な皇子様に、わたくし共みたいなバケモンが気安く話しかけたりしちゃー
いけなかったんすねー」
「くっ…お前ら、ボクをバカにしてるのか!?」
「バカにしてるのかじゃねーよ、バカにしてんだよ。言われなきゃ分からねーなんて、ほんっとバカだな、お前」
すっかりケンカ腰のメダリオとカーメンマン、そしてディラン。
「ディラン…怪人さん達と、ケンカしちゃダメだよ」
「ファラには関係ないだろ。黙ってろよ!」
見かねて止めに入ったファラに対してもこの態度だ。静観していたヴァンプ様がとうとう彼らの間に割って入る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいってばディランくん…メダリオとカーメンマンも、そこまで言わなくてもいいでしょ。ほら、
皆とりあえず落ち着いて…」
「うるさい!」
ヴァンプ様が差し伸べた手を、ディランは乱暴に跳ね除けた。
「ディランくん…」
「ボクに触るな!薄汚いんだよ、この―――化け物!」
「―――あんたさあ。さっきから聞いてりゃ、好き放題言ってくれるじゃないの」
突如響いた声に、誰もがぎょっとする。するすると、何者かが天井の隙間から顔を出した。
それは蛇のような形状の、得体の知れない生物だった。ニョロニョロと不気味に身体をくねらせ、無数の目を爛々と
ギラつかせる、まさしく悪夢を具現化したかのような有り様。
奴の名は、誰も知らない。いつの間にか天井に棲み付いていたという事実を以て、ただこう呼ばれている―――
<天井>と!(まんまじゃねーか)
「な…お前、誰だよ…てゆうか、何なんだよ…」
「私の事はどうでもいいでしょ。それよりあんた、人を化け物化け物って連呼して、何様のつもり?」
「な、何だと…」
「私に言わせれば、本当に化け物なのはヴァンプさんや怪人じゃない。あんた達の世界にいるランカスタって人達?
それも違うわね」
「じゃあ、誰だよ?」
「あんたよ」
「なっ…!」
思わぬ言葉に、ディランは絶句する。
「自分と違う姿だからって、他人を平気で化け物扱いする、あんたのその性根の方がよっぽど化け物だって言ってる
のよ、私は!」
「…なんで…」
ディランの顔は、屈辱と怒りで赤くなっていた。
「なんで、そんな事言われなきゃいけないんだ…だってお前ら、化け物じゃないか!」
「そうよ、確かに人間じゃないわ。化け物と言われたら、そうかもしれない」
天井は、平然と言った。
「それで、見かけが化け物だからどうなの?どうしてそれが、あんたが私達を蔑む理由になるの?ねえ、教えてよ」
「う…うるさい、化け物!ボクは絶対にお前らなんかと仲良くしないからな!」
ディランは立ち上がり、居間から飛び出してしまう。玄関のドアが乱暴に開けられる音で、外に出ていったのだけは
分かった。
「あ、待ってよディラン!」
その後を追い、ファラも走り出した。残されたヴァンプ様達は、突然の事態にオロオロするばかりだ。
「…探しにいってやりなさい、ヴァンプさん」
そんな中で、天井は静かに言った。
「あの子は心細いだけなのよ。だから、必死に強がってるの…弱い自分を見せたくないから」
「天井さん…うん、私もそう思うよ。あの子は人質にされて、親や故郷から捨てられたって思ったんじゃないかな。
その上に今は何処とも知れない世界に来ちゃって。だから、あんなに心を閉ざして…」
「あの子については、ヴァンプさんが責任を持たなきゃいけない立場でしょ。そうでなくても、ヒネた子供を見守る
のも大人の役目よ」
「…そうですね。探しに行こう、皆!」
「ま、しょーがないっすね。やなガキだけど、何かあったら流石に目覚め悪いですし」
「ファラちゃんの事も心配ですしね」
「よし、じゃあ天井さんも一緒に…」
―――天井は既に引っ込んでいた。説教好きだが、面倒くさいことはしない。
それが川崎支部の居候・謎の生命体<天井>である。ちなみに、家賃は払っていない。
それは蛇のような形状の、得体の知れない生物だった。ニョロニョロと不気味に身体をくねらせ、無数の目を爛々と
ギラつかせる、まさしく悪夢を具現化したかのような有り様。
奴の名は、誰も知らない。いつの間にか天井に棲み付いていたという事実を以て、ただこう呼ばれている―――
<天井>と!(まんまじゃねーか)
「な…お前、誰だよ…てゆうか、何なんだよ…」
「私の事はどうでもいいでしょ。それよりあんた、人を化け物化け物って連呼して、何様のつもり?」
「な、何だと…」
「私に言わせれば、本当に化け物なのはヴァンプさんや怪人じゃない。あんた達の世界にいるランカスタって人達?
それも違うわね」
「じゃあ、誰だよ?」
「あんたよ」
「なっ…!」
思わぬ言葉に、ディランは絶句する。
「自分と違う姿だからって、他人を平気で化け物扱いする、あんたのその性根の方がよっぽど化け物だって言ってる
のよ、私は!」
「…なんで…」
ディランの顔は、屈辱と怒りで赤くなっていた。
「なんで、そんな事言われなきゃいけないんだ…だってお前ら、化け物じゃないか!」
「そうよ、確かに人間じゃないわ。化け物と言われたら、そうかもしれない」
天井は、平然と言った。
「それで、見かけが化け物だからどうなの?どうしてそれが、あんたが私達を蔑む理由になるの?ねえ、教えてよ」
「う…うるさい、化け物!ボクは絶対にお前らなんかと仲良くしないからな!」
ディランは立ち上がり、居間から飛び出してしまう。玄関のドアが乱暴に開けられる音で、外に出ていったのだけは
分かった。
「あ、待ってよディラン!」
その後を追い、ファラも走り出した。残されたヴァンプ様達は、突然の事態にオロオロするばかりだ。
「…探しにいってやりなさい、ヴァンプさん」
そんな中で、天井は静かに言った。
「あの子は心細いだけなのよ。だから、必死に強がってるの…弱い自分を見せたくないから」
「天井さん…うん、私もそう思うよ。あの子は人質にされて、親や故郷から捨てられたって思ったんじゃないかな。
その上に今は何処とも知れない世界に来ちゃって。だから、あんなに心を閉ざして…」
「あの子については、ヴァンプさんが責任を持たなきゃいけない立場でしょ。そうでなくても、ヒネた子供を見守る
のも大人の役目よ」
「…そうですね。探しに行こう、皆!」
「ま、しょーがないっすね。やなガキだけど、何かあったら流石に目覚め悪いですし」
「ファラちゃんの事も心配ですしね」
「よし、じゃあ天井さんも一緒に…」
―――天井は既に引っ込んでいた。説教好きだが、面倒くさいことはしない。
それが川崎支部の居候・謎の生命体<天井>である。ちなみに、家賃は払っていない。
何処を走ったものか、ディランは公園のベンチで一人寂しく座っていた。
「…くそっ…」
思い返すのは、天井から投げかけられた言葉。
「…くそっ…」
思い返すのは、天井から投げかけられた言葉。
―――見かけが化け物だからどうなの?どうしてそれが、あんたが私達を蔑む理由になるの?
それに対し、何も答えられなかった。
「…なんでって…そりゃ…」
そして今、出した答えは。
「…理由なんか…ない…」
「…なんでって…そりゃ…」
そして今、出した答えは。
「…理由なんか…ない…」
―――他人を平気で化け物扱いする、あんたのその性根の方がよっぽど化け物だって言ってるのよ、私は!
「違う…ボクは、化け物じゃ、ない…」
だけど…自分をはじめとする、帝国の者達が亜人と呼んで蔑んできたランカスタはどうだ。
彼らだって、亜人なんて呼ばれ方はされたくなかったんじゃないか?
この世界で出会った怪人は?化け物なんて言われて、いい気分はしなかったに違いない。
そう―――今の自分と同じ気分を、きっと味わってきた。
自分が、味わわせた。
「でも…今更、どうしろっていうんだ…」
「今からでも、皆と仲良くすればいいよ」
顔を上げると、そこにはファラが立っていた。息を切らし、肩を上下させながらも、彼女は優しく笑う。
「ファラ…」
「まだ、遅くなんてないよ。ヴァンプさんや怪人さんにごめんなさいしよう。ね?」
「…………」
「ね?ディラン…」
本当は、嬉しかった。自分みたいな奴を、必死に追いかけてくれた。心配してくれた。
「うるさい!ボクの事なんかほっとけよ!」
「…!」
だけど、出てきたのは拒絶の言葉。
「お前だってボクの事なんかホントはどうでもいいんだろ!?優しいフリしてボクを憐れんで、いい気分だろうな」
「ディラン…」
「もう、ボクに構うな…どっか行っちゃえよ」
「う…」
すぐさま、後悔した。ファラの大きな瞳に、見る見る内に大粒の涙が溜まっていく。
「う…う…」
悔やんだ所で、吐き捨てた言葉は戻らない。涙が今にも零れ落ちそうになったその時。
だけど…自分をはじめとする、帝国の者達が亜人と呼んで蔑んできたランカスタはどうだ。
彼らだって、亜人なんて呼ばれ方はされたくなかったんじゃないか?
この世界で出会った怪人は?化け物なんて言われて、いい気分はしなかったに違いない。
そう―――今の自分と同じ気分を、きっと味わってきた。
自分が、味わわせた。
「でも…今更、どうしろっていうんだ…」
「今からでも、皆と仲良くすればいいよ」
顔を上げると、そこにはファラが立っていた。息を切らし、肩を上下させながらも、彼女は優しく笑う。
「ファラ…」
「まだ、遅くなんてないよ。ヴァンプさんや怪人さんにごめんなさいしよう。ね?」
「…………」
「ね?ディラン…」
本当は、嬉しかった。自分みたいな奴を、必死に追いかけてくれた。心配してくれた。
「うるさい!ボクの事なんかほっとけよ!」
「…!」
だけど、出てきたのは拒絶の言葉。
「お前だってボクの事なんかホントはどうでもいいんだろ!?優しいフリしてボクを憐れんで、いい気分だろうな」
「ディラン…」
「もう、ボクに構うな…どっか行っちゃえよ」
「う…」
すぐさま、後悔した。ファラの大きな瞳に、見る見る内に大粒の涙が溜まっていく。
「う…う…」
悔やんだ所で、吐き捨てた言葉は戻らない。涙が今にも零れ落ちそうになったその時。
「コラーっ!女の子を泣かせたら、いけないんだぞーっ!」
やたら勢いのいい声。ビックリして公園の入り口に向き直ると、そこにいたのは金髪碧眼の美少年―――
彼は人ならざる鋭い牙を剥き出しにして吼える!
「ぼくの名は望月コタロウ!誇り高き吸血鬼の一員にして、この川崎市を守るヒーロー・天体戦士サンレッドの一番
弟子さ!ぼくの目が黒いうちは、女の子をいじめるような奴は許さないからねっ!」
皆様は覚えていらっしゃるだろうか?かつてレッドさんにヒーローになりたいとせがんだ、あの吸血鬼少年である。
なお、レッドさんが彼を弟子にしたという事実はないので悪しからず。
「お前の目、蒼いじゃんか…つーか、吸血鬼が真っ昼間の公園で何やってんだよ…」
吸血鬼であること自体には、もうツッコミを入れる気分にもならなかったようだ。
「そういう細かい事はいいから!とにかく、女の子を泣かせるなんてダメなの!ほら、ちゃんと謝って!」
「…ごめん、ファラ」
「ううん…いいよ、ディラン」
涙を拭いて、また笑顔を見せた。
(こいつは、いつもこうだ…ボクがどれだけ冷たくしても、すぐにまた、笑う)
その度に、ディランは戸惑いを覚える。もどかしいようなくすぐったいような、そんな気分。
コタロウはそんな二人を見て、満足げに笑う。
「よーし、今日もぼくは公園の平和を守ったのでした。これでレッドさんにまた一歩近づいたぞ!」
「…レッドさんって、誰だよ」
「さっきも言ったでしょ?この川崎市に住んでるヒーロー・天体戦士サンレッドだよ。どんな奴にも負けない、無敵
のヒーローさ」
コタロウはまるで自分の事のように威張って言う。
「ところでキミ達、見ない顔だけど…遠くの方から来たの?」
「うん。ファラとディランは、さっきルーンハイムから来たの」
「へえー。聞いたことないけど、外国だね?かっこいいなー」
コタロウはにこにこ笑う。対照的にディランは、鬱陶しそうに手を振った。
「ケンカの仲裁に来ただけなら、帰れよ…ボクらにもう用はないだろ」
「えー?そんな事言わないでよ。せっかくこうして出会えたのも何かの縁だよ。ね、ぼくと一緒に遊ぼう」
「…お前、実はただ単に遊び相手を探してただけだろ」
「うっ…!そ、そんなことはない事もない事もない事もない!」
図星のようである。ファラはくすくす笑って、コタロウの手を引いた。
「うん、いいよ。ファラ、コタロウくんと一緒に遊ぶ!」
そして、もう片方の手をディランに差し出す。
「ディランも、一緒に遊ぼう?」
「…ボクはいい。お前らだけでやってろよ」
「むー。愛想のないなあ…しょうがない。ファラちゃん、あっちでボール遊びしよう」
「うん!」
二人はボールを投げ合ったり蹴ったり、楽しそうに遊び始める。ディランはそれから目を逸らした。
(フン…別に、混ざりたくなんかないね!)
「あー、ファラちゃん!そんなに強く蹴っちゃダメだよ!」
(それにあのコタロウって奴は、吸血鬼だろ?そんな奴と一緒に遊べるか!)
「コタロウくん、いっくよー!それ!」
(あ、遊びたくなんか…)
ついつい目をやってしまう―――二人と、目が合った。ニコニコしながら、二人が近づいてくる。
「あー、楽しいけど、三人ならもっと楽しいだろうな!誰かもう一人、遊びたい子はいないかなー!」
「あれ?そこのベンチにいる男の子、混ざりたいんじゃないかなー?どうかなー?」
「…………」
ディランはベンチから立ち上がった。
「か、勘違いするなよ!お前らがボクに一緒に遊んでほしそうだから、仕方なく相手してやるだけなんだからな!」
コタロウとファラは<うんうん、分かってるよ>と言いたげな実に優しい笑顔でディランにボールを渡す。
「くそっ…それっ!」
思いっきりボールを蹴ると、公園の外にまで出て行ってしまった。
「あ、もう!強く蹴りすぎだよ、ディラン!」
ファラがボールを追いかけて、外へと飛び出す―――と、いかにもガラの悪い二人組の不良とぶつかってしまう。
「あ?なんだ、このガキ」
「いってーな。こりゃ、足が折れちまっただろうが。ああ?」
「え…えと…ご、ごめんなさ…」
「ごめんですむかよ、オラ!」
「親呼んで来い、親!慰謝料だよ、いしゃりょう!」
「あ…あう…あの…」
見た目通りに頭の悪い言いがかりだが、ファラはすっかり怯えきっていた。ディランとコタロウは顔を見合わせると、
迷う事なく不良の前に立ち塞がった。
「お前ら、ファラから離れろ!」
「公園の平和を乱す奴は、ぼくがぶん殴ってやるー!」
「はあ?なんだよ、お前ら」
「お姫様を守るナイトって奴か?ははは、かっこいいな、おい」
不良コンビはニヤニヤ笑いながら、あっさりと二人を蹴り飛ばした。コタロウは鼻をいささか強く打ちつけて悶絶し、
ディランは派手に地面に転がり、膝を酷く擦りむいてしまう。
「でぃ、ディラン!コタロウくん!」
ファラは慌てて二人に駆け寄るが、二人とも痛みで声も出ない。
「うわ、よええ~」
「ガキがいいとこ見せようとするからこうなんだよ、ぎゃはは…」
彼は人ならざる鋭い牙を剥き出しにして吼える!
「ぼくの名は望月コタロウ!誇り高き吸血鬼の一員にして、この川崎市を守るヒーロー・天体戦士サンレッドの一番
弟子さ!ぼくの目が黒いうちは、女の子をいじめるような奴は許さないからねっ!」
皆様は覚えていらっしゃるだろうか?かつてレッドさんにヒーローになりたいとせがんだ、あの吸血鬼少年である。
なお、レッドさんが彼を弟子にしたという事実はないので悪しからず。
「お前の目、蒼いじゃんか…つーか、吸血鬼が真っ昼間の公園で何やってんだよ…」
吸血鬼であること自体には、もうツッコミを入れる気分にもならなかったようだ。
「そういう細かい事はいいから!とにかく、女の子を泣かせるなんてダメなの!ほら、ちゃんと謝って!」
「…ごめん、ファラ」
「ううん…いいよ、ディラン」
涙を拭いて、また笑顔を見せた。
(こいつは、いつもこうだ…ボクがどれだけ冷たくしても、すぐにまた、笑う)
その度に、ディランは戸惑いを覚える。もどかしいようなくすぐったいような、そんな気分。
コタロウはそんな二人を見て、満足げに笑う。
「よーし、今日もぼくは公園の平和を守ったのでした。これでレッドさんにまた一歩近づいたぞ!」
「…レッドさんって、誰だよ」
「さっきも言ったでしょ?この川崎市に住んでるヒーロー・天体戦士サンレッドだよ。どんな奴にも負けない、無敵
のヒーローさ」
コタロウはまるで自分の事のように威張って言う。
「ところでキミ達、見ない顔だけど…遠くの方から来たの?」
「うん。ファラとディランは、さっきルーンハイムから来たの」
「へえー。聞いたことないけど、外国だね?かっこいいなー」
コタロウはにこにこ笑う。対照的にディランは、鬱陶しそうに手を振った。
「ケンカの仲裁に来ただけなら、帰れよ…ボクらにもう用はないだろ」
「えー?そんな事言わないでよ。せっかくこうして出会えたのも何かの縁だよ。ね、ぼくと一緒に遊ぼう」
「…お前、実はただ単に遊び相手を探してただけだろ」
「うっ…!そ、そんなことはない事もない事もない事もない!」
図星のようである。ファラはくすくす笑って、コタロウの手を引いた。
「うん、いいよ。ファラ、コタロウくんと一緒に遊ぶ!」
そして、もう片方の手をディランに差し出す。
「ディランも、一緒に遊ぼう?」
「…ボクはいい。お前らだけでやってろよ」
「むー。愛想のないなあ…しょうがない。ファラちゃん、あっちでボール遊びしよう」
「うん!」
二人はボールを投げ合ったり蹴ったり、楽しそうに遊び始める。ディランはそれから目を逸らした。
(フン…別に、混ざりたくなんかないね!)
「あー、ファラちゃん!そんなに強く蹴っちゃダメだよ!」
(それにあのコタロウって奴は、吸血鬼だろ?そんな奴と一緒に遊べるか!)
「コタロウくん、いっくよー!それ!」
(あ、遊びたくなんか…)
ついつい目をやってしまう―――二人と、目が合った。ニコニコしながら、二人が近づいてくる。
「あー、楽しいけど、三人ならもっと楽しいだろうな!誰かもう一人、遊びたい子はいないかなー!」
「あれ?そこのベンチにいる男の子、混ざりたいんじゃないかなー?どうかなー?」
「…………」
ディランはベンチから立ち上がった。
「か、勘違いするなよ!お前らがボクに一緒に遊んでほしそうだから、仕方なく相手してやるだけなんだからな!」
コタロウとファラは<うんうん、分かってるよ>と言いたげな実に優しい笑顔でディランにボールを渡す。
「くそっ…それっ!」
思いっきりボールを蹴ると、公園の外にまで出て行ってしまった。
「あ、もう!強く蹴りすぎだよ、ディラン!」
ファラがボールを追いかけて、外へと飛び出す―――と、いかにもガラの悪い二人組の不良とぶつかってしまう。
「あ?なんだ、このガキ」
「いってーな。こりゃ、足が折れちまっただろうが。ああ?」
「え…えと…ご、ごめんなさ…」
「ごめんですむかよ、オラ!」
「親呼んで来い、親!慰謝料だよ、いしゃりょう!」
「あ…あう…あの…」
見た目通りに頭の悪い言いがかりだが、ファラはすっかり怯えきっていた。ディランとコタロウは顔を見合わせると、
迷う事なく不良の前に立ち塞がった。
「お前ら、ファラから離れろ!」
「公園の平和を乱す奴は、ぼくがぶん殴ってやるー!」
「はあ?なんだよ、お前ら」
「お姫様を守るナイトって奴か?ははは、かっこいいな、おい」
不良コンビはニヤニヤ笑いながら、あっさりと二人を蹴り飛ばした。コタロウは鼻をいささか強く打ちつけて悶絶し、
ディランは派手に地面に転がり、膝を酷く擦りむいてしまう。
「でぃ、ディラン!コタロウくん!」
ファラは慌てて二人に駆け寄るが、二人とも痛みで声も出ない。
「うわ、よええ~」
「ガキがいいとこ見せようとするからこうなんだよ、ぎゃはは…」
「―――お前ら、弱い者いじめがそんなに楽しいかよ。おい」
「あん!?」
「なんだ、テメエはよ。ああ!?」
不良が振り向くと、そこにいたのは説明不要。
「レ…レッドさん…!」
コタロウが、まさに救世主の名を呼ぶように呟く。
そう、赤いマスクのチンピラヒーロー・我らがサンレッドである。そして今日のTシャツは<召喚騎士>だ。
そのヒーローらしからぬいでたちが、今はとてつもなく頼もしい。
「おいおい、お兄さん。かっこつけちゃって、何様よ?」
「そんなマスク被って正義のヒーローにでもなったつもり?ひゃはははは」
「ほー。よく分かったな」
レッドさんはブロック塀に向けて、軽く、本当にかるーく、拳を突き出す。
ただそれだけで、まるでバズーカ砲の直撃を受けたかのように硬いブロック塀が粉々に吹っ飛んだ。
「は…………」
不良の下品な笑いが一瞬にして凍りつく。目の前にいるのがモノホンのヒーローだとようやく気付いたのだ。
「す、すっげー…!」
捻くれ者のディランですら、圧倒的な力を前にして、純粋な憧れに目を輝かせた。
「かっこいー…」
「さっすがー!やっぱりレッドさんは強いや!」
ファラとコタロウが素直にレッドさんを称賛する。
レッドさんも満更でもないようで(普段誰かから褒められることなどないのである)いつも以上にヘラヘラしながら
不良に向かってバキバキ指を鳴らす。基本的にこの漢(おとこ)、機嫌がいい時ほど悪ノリするからタチが悪い。
「ほら、来いよオラァ!俺の拳がおかしくなるまでボコってやるからよぉ(笑)!」
目が完全にマジである。不良は生まれて初めて眼前に現れた死の恐怖を前に、迷うことなく逃走を選んだ。
「ひいいいい!マジパネぇぇぇぇ!」
「やべえよおい!こいつマジやべェェェェェェ!」
脱兎の如く駆けていく不良を尻目に鼻を鳴らしながら、レッドは子供達に顔を向けた。
「お前ら、大丈夫だったか?」
「うん…ありがとう」
ファラはぺこりと頭を下げるが、ディランは不貞腐れたように顔を背けた。
「…ふ、フン!あんな奴ら、ボクがこれからやっつけるとこだったんだからな。大きなお世話だ!」
「可愛げのねーガキだな、こいつ…つーかコタロウ、お前子供とはいえ吸血鬼だろ?頑丈さとか腕力とか、並の
人間よりかよっぽど強いはずだろ。あの程度の不良くらい、あっさり倒せよ」
「い、いやあ…ぼくの場合、運動神経に問題があるというか…」
コタロウは痛めて赤くなった鼻を押さえつつも、不良が逃げ去った方向を恨みがましく見つめる。
「それよりレッドさん。あいつら、一発くらい殴ってやればよかったのに」
「へっ、よせよせ。あんなボンクラ相手に本気なんか出しちゃ、ヒーローの名が泣くよ」
いつになく鷹揚なレッドさんである。連載開始以来初めてヒーロー的な活躍をしたので、調子をこいているのだ。
「…嘘つけ。明らかにあいつらをボコる気満々だったじゃないか…いててっ…」
「あ…ディラン。大丈夫?」
「一々心配すんな。擦りむいただけだよ、くっ…」
ディランは強がっていたが、傷は随分深いようで、見た目にも痛々しい。
「おい、下手に動くんじゃねーよ。随分派手に血が出てんじゃねーか」
その様子を覗き込んだレッドは、そう言って嘆息する。
「仕方ねーな。とりあえず俺んちが近いから、そこで手当してやるよ」
「なんだ、テメエはよ。ああ!?」
不良が振り向くと、そこにいたのは説明不要。
「レ…レッドさん…!」
コタロウが、まさに救世主の名を呼ぶように呟く。
そう、赤いマスクのチンピラヒーロー・我らがサンレッドである。そして今日のTシャツは<召喚騎士>だ。
そのヒーローらしからぬいでたちが、今はとてつもなく頼もしい。
「おいおい、お兄さん。かっこつけちゃって、何様よ?」
「そんなマスク被って正義のヒーローにでもなったつもり?ひゃはははは」
「ほー。よく分かったな」
レッドさんはブロック塀に向けて、軽く、本当にかるーく、拳を突き出す。
ただそれだけで、まるでバズーカ砲の直撃を受けたかのように硬いブロック塀が粉々に吹っ飛んだ。
「は…………」
不良の下品な笑いが一瞬にして凍りつく。目の前にいるのがモノホンのヒーローだとようやく気付いたのだ。
「す、すっげー…!」
捻くれ者のディランですら、圧倒的な力を前にして、純粋な憧れに目を輝かせた。
「かっこいー…」
「さっすがー!やっぱりレッドさんは強いや!」
ファラとコタロウが素直にレッドさんを称賛する。
レッドさんも満更でもないようで(普段誰かから褒められることなどないのである)いつも以上にヘラヘラしながら
不良に向かってバキバキ指を鳴らす。基本的にこの漢(おとこ)、機嫌がいい時ほど悪ノリするからタチが悪い。
「ほら、来いよオラァ!俺の拳がおかしくなるまでボコってやるからよぉ(笑)!」
目が完全にマジである。不良は生まれて初めて眼前に現れた死の恐怖を前に、迷うことなく逃走を選んだ。
「ひいいいい!マジパネぇぇぇぇ!」
「やべえよおい!こいつマジやべェェェェェェ!」
脱兎の如く駆けていく不良を尻目に鼻を鳴らしながら、レッドは子供達に顔を向けた。
「お前ら、大丈夫だったか?」
「うん…ありがとう」
ファラはぺこりと頭を下げるが、ディランは不貞腐れたように顔を背けた。
「…ふ、フン!あんな奴ら、ボクがこれからやっつけるとこだったんだからな。大きなお世話だ!」
「可愛げのねーガキだな、こいつ…つーかコタロウ、お前子供とはいえ吸血鬼だろ?頑丈さとか腕力とか、並の
人間よりかよっぽど強いはずだろ。あの程度の不良くらい、あっさり倒せよ」
「い、いやあ…ぼくの場合、運動神経に問題があるというか…」
コタロウは痛めて赤くなった鼻を押さえつつも、不良が逃げ去った方向を恨みがましく見つめる。
「それよりレッドさん。あいつら、一発くらい殴ってやればよかったのに」
「へっ、よせよせ。あんなボンクラ相手に本気なんか出しちゃ、ヒーローの名が泣くよ」
いつになく鷹揚なレッドさんである。連載開始以来初めてヒーロー的な活躍をしたので、調子をこいているのだ。
「…嘘つけ。明らかにあいつらをボコる気満々だったじゃないか…いててっ…」
「あ…ディラン。大丈夫?」
「一々心配すんな。擦りむいただけだよ、くっ…」
ディランは強がっていたが、傷は随分深いようで、見た目にも痛々しい。
「おい、下手に動くんじゃねーよ。随分派手に血が出てんじゃねーか」
その様子を覗き込んだレッドは、そう言って嘆息する。
「仕方ねーな。とりあえず俺んちが近いから、そこで手当してやるよ」
―――正確にはレッドさんの家ではなく、レッドさんの彼女であるかよ子さんの家である。
まあそれは、言わぬが花というものだろう。
そんな訳で次回本邦初公開、レッドさんの彼女、かよ子さんの登場である。
まあそれは、言わぬが花というものだろう。
そんな訳で次回本邦初公開、レッドさんの彼女、かよ子さんの登場である。