「どこから…間違っていたんだろうな、私は…」
エレフの目から、涙が零れ落ちる。
「本当に…今思い返せば…これでいいと思って選んだ道の…全てが、過ちだったとは…はは…笑えないな―――
最悪なのは…運命じゃなかった…何もかも運命のせいにした…私自身が最悪だったんだ…」
だから、どうか。
「せめて…最後に、責任を取りたい…これ以上、タナトスが…人を殺してしまう前に…」
「エレフ…待てよ、おい!」
「オリオンか…」
昔を懐かしむように、エレフは少しだけ笑った。
「奴隷だった頃に、いい思い出など何一つなかったが…お前と出会えた事だけは、幸運だったよ」
「な…何言ってんだよ、こんな時に。お前、それじゃ、まるで…」
まるで―――別れの言葉じゃないか。
「お前が我が友であってくれて―――よかった」
そして、エレフは海馬に目を向ける。
「海馬…ろくでもない事に付き合わせて、悪かったな…」
「…………」
海馬は、何も言えずにただエレフを見つめていた。
「レオンティウス…今さらお前を兄などと呼べないが…ミーシャの事は、どうか…善き兄として…見守ってくれ…」
「エレフ…バカを言うな!我々はまだ、兄弟として始まってすらいないだろう!始まる前から終わらせて、どうする
つもりだ!?」
「…仕方がないさ…私にはもう…始まるべき未来なんて…ない」
城之内と闇遊戯が、エレフの肩を掴んで揺する。
「バカ野郎!何を諦めてんだよ、エレフ!」
「よせ、エレフ!」
「遊戯…城之内…お前達には、随分とミーシャが助けられたな…その礼も出来ずに、すまない…」
「やめて、エレフ…あなたがいなくなったら、私はどうすればいいの!?」
「ミーシャ…」
エレフは、悲しげにミーシャの泣き顔を見つめる。
「最後に…一つだけ…ミーシャ…バカな兄だったが、赦してくれ…!」
「エレフ!」
「私はもう…ここまでだ。皆…頼む。私を殺して…全て、終わらせてくれ…」
エレフの目から、涙が零れ落ちる。
「本当に…今思い返せば…これでいいと思って選んだ道の…全てが、過ちだったとは…はは…笑えないな―――
最悪なのは…運命じゃなかった…何もかも運命のせいにした…私自身が最悪だったんだ…」
だから、どうか。
「せめて…最後に、責任を取りたい…これ以上、タナトスが…人を殺してしまう前に…」
「エレフ…待てよ、おい!」
「オリオンか…」
昔を懐かしむように、エレフは少しだけ笑った。
「奴隷だった頃に、いい思い出など何一つなかったが…お前と出会えた事だけは、幸運だったよ」
「な…何言ってんだよ、こんな時に。お前、それじゃ、まるで…」
まるで―――別れの言葉じゃないか。
「お前が我が友であってくれて―――よかった」
そして、エレフは海馬に目を向ける。
「海馬…ろくでもない事に付き合わせて、悪かったな…」
「…………」
海馬は、何も言えずにただエレフを見つめていた。
「レオンティウス…今さらお前を兄などと呼べないが…ミーシャの事は、どうか…善き兄として…見守ってくれ…」
「エレフ…バカを言うな!我々はまだ、兄弟として始まってすらいないだろう!始まる前から終わらせて、どうする
つもりだ!?」
「…仕方がないさ…私にはもう…始まるべき未来なんて…ない」
城之内と闇遊戯が、エレフの肩を掴んで揺する。
「バカ野郎!何を諦めてんだよ、エレフ!」
「よせ、エレフ!」
「遊戯…城之内…お前達には、随分とミーシャが助けられたな…その礼も出来ずに、すまない…」
「やめて、エレフ…あなたがいなくなったら、私はどうすればいいの!?」
「ミーシャ…」
エレフは、悲しげにミーシャの泣き顔を見つめる。
「最後に…一つだけ…ミーシャ…バカな兄だったが、赦してくれ…!」
「エレフ!」
「私はもう…ここまでだ。皆…頼む。私を殺して…全て、終わらせてくれ…」
そして、精算させてくれ。
「間違いだらけだった…私の人生を…」
「…ふざけんな」
オリオンが拳を震わせ、声を絞り出す。
「最後の最後で、言うことがそれかよ…最後までそんな泣き事言ってんのかよ、テメエは!間違いってんなら―――
今テメエがやろうとしてることが、一番の大間違いだ!」
「…オリ…オン…」
「確かにテメエはとんでもねえバカ野郎だよ!けどな…それでも…お前が死んだら、俺達がここまで来た意味が全部
なくなっちまうだろうが!」
「それは…人間を救うために…」
「アホか!そんなもん建前だ!生きていたくない、死にたいなんて思ってるような連中のことなんか知るかよ―――
勝手にしやがれ。俺はただ…ミーシャがお前と一緒に静かに暮らせたらいいと…最初からそれしか考えてねえよ!」
それなのに。
「それなのに―――お前が死んじゃったら、何もかも台無しじゃねえか!責任がどうこうってんなら―――ミーシャに
対しての責任はどうなんだよ!この期に及んでまだ逃げるのか、テメエは!」
「…オリオン…」
「オレ達だってオリオンと同じさ、エレフ」
城之内が続ける。
「こんなとこまでやってきて<歴史>を変えられるとまで思い上がっちゃいねえが…出会った誰かの<運命>くらい、
ちょっとはいい方に向けてやりたいって、そう思ったんだよ」
「…………」
「だから逃げちゃダメだ。オレ達は絶対お前を見捨てやしねえ…タナトスを倒した所で、お前がいなくなっちまった
ら、もうそれでここにいる連中は、誰一人笑えなくなっちまうからな!そんなんはごめんだ―――最後は、オレ達と
一緒に笑顔でキメて終わろうぜ、エレフ」
「そんな…資格が…私にあるはずがなかろう…私の罪はもはや…赦されることなど…」
「ならば、私が赦そう」
レオンティウスが、静かに口を開く。
「例え神が赦さずとも、この兄が…私が赦す。だから、もう…気に病まなくていいんだ」
「…レオン…にいさ…ん」
「エレフ。責任を取りたいというなら、尚更死を選ぶような真似はよせ―――身投げのような事をしても、罪滅ぼしに
などなりはしない。それはもっとずっと地味で、真っ当な道のはずだ」
「…だが…もう私は…タナトスから…解放されることはない…死ぬことでしか…」
「いや…」
闇遊戯は、首を横に振った。
「たった一つだけある…お前を殺さずに、タナトスをお前から引き剥がす手段が!」
「なん…だと…それは…」
「タナトスはお前と一体化…つまり、融合しているんだ―――ならばオレは、このカードを使うぜ!」
闇遊戯は天高く、一枚のカードを掲げた―――
「魔法カード発動―――<融合解除>!」
「―――!う、ぐ…ぐああああっ!」
エレフが胸を押さえて蹲り、苦悶する。同時にその身体から瘴気が噴き出していくが、それはエレフから離れるより
早く何者かの力によって抑えつけられ、再びエレフに纏わりつく。
「う、ガ、あ、ァ…渡さ、ナィ…!この…身体ハ…我の…器ダ…!」
その声はエレフとタナトス、二つの意志が入り混じっていた。一つの肉体の支配権を巡り、人と神が鎬を削っている
のだ。
「耐えろ、エレフ!タナトスに負けてはダメだ!」
「我ハ…私は…!神…人間…タナトス…エレウセウス…否!我ハ…タナトス!」
「エレフ…!くっ!このままでは…!」
「どけ、遊戯」
傲然と、海馬が闇遊戯と並び立つ。
「エレフ…貴様が死のうがどうなろうが、オレの知ったことではない。だが…生き残る道があるなら生きろ。生きて
再び、歩み出せ―――それを望むくらいの権利はあるだろう」
「カ…い…バ…」
「―――<融合解除>!」
闇遊戯が発動させたものと同じカード。その効果は二重となり、更に強くタナトスを抑え込む。
「よ…ヨセ…エレフを…連レて…いクナ…渡サなィ…其れダケハ赦サなィ!」
「くっ…!オレと海馬が力を合わせても、まだ足りないというのか!」
「くそっ…おい、城之内!お前もやってくれよ!」
オリオンに急かされるが、城之内は非常に居心地の悪そうな顔をするばかりだ。
「い、いや…そうしたいのはヤマヤマだけど、オレ、あのカード持ってねえんだ」
「最後の最後で絶妙にダメだなお前って奴は!」
「グ、ぐ…うおォォおおォッ!」
「!くっ!」
「がはっ…!」
エレフから凄まじい力が迸り、闇遊戯と海馬が吹き飛ばされる。それを一瞥にせず。エレフは―――
「フ。フフ…」
否。タナトスが、ゆっくりと立ち上がった。
「今ノハ危ナカッタ…モゥ少シデ、引キ剥ガサレテシマゥ所ダッタヨ…フフ。実ヲ言ゥト、今デモ結合ハ相当ニ弱ク
ナッティル。本当ニ紙一重ダッタ」
「ち…ちくしょう!何てこった、ここまで来たっていうのに…」
「残念ダッタネ…エレフノ言ゥ通リニシティレバ、少ナクトモ我ヲ葬ル事ハ出来タ。皮肉ナ事ダ…友情故ニキミ達ハ
其レ程ノ強サヲ得タガ、友情故ニ、我ヲ斃ス最後ノ機会ヲ失ッタンダ」
「…………」
皆は一様に唇を噛み、無力に嘆く。
カツン―――カツン―――
「…え?」
そんな、誰もが深い絶望に呑まれかけた地獄の中で、唯一人だけ、前へと進む者がいた。
「…今更キミガ、何ヲスル心算(ツモリ)ダ?」
それは闇遊戯でなければ城之内でも、海馬でも、オリオンでも、レオンティウスでもない。
「何をするって…決まってるでしょ。エレフを、取り戻すわ」
ミーシャだった。何一つ闘う為の術など知らぬ彼女が―――その身一つで、タナトスの元へと向かっていた。
「…ふざけんな」
オリオンが拳を震わせ、声を絞り出す。
「最後の最後で、言うことがそれかよ…最後までそんな泣き事言ってんのかよ、テメエは!間違いってんなら―――
今テメエがやろうとしてることが、一番の大間違いだ!」
「…オリ…オン…」
「確かにテメエはとんでもねえバカ野郎だよ!けどな…それでも…お前が死んだら、俺達がここまで来た意味が全部
なくなっちまうだろうが!」
「それは…人間を救うために…」
「アホか!そんなもん建前だ!生きていたくない、死にたいなんて思ってるような連中のことなんか知るかよ―――
勝手にしやがれ。俺はただ…ミーシャがお前と一緒に静かに暮らせたらいいと…最初からそれしか考えてねえよ!」
それなのに。
「それなのに―――お前が死んじゃったら、何もかも台無しじゃねえか!責任がどうこうってんなら―――ミーシャに
対しての責任はどうなんだよ!この期に及んでまだ逃げるのか、テメエは!」
「…オリオン…」
「オレ達だってオリオンと同じさ、エレフ」
城之内が続ける。
「こんなとこまでやってきて<歴史>を変えられるとまで思い上がっちゃいねえが…出会った誰かの<運命>くらい、
ちょっとはいい方に向けてやりたいって、そう思ったんだよ」
「…………」
「だから逃げちゃダメだ。オレ達は絶対お前を見捨てやしねえ…タナトスを倒した所で、お前がいなくなっちまった
ら、もうそれでここにいる連中は、誰一人笑えなくなっちまうからな!そんなんはごめんだ―――最後は、オレ達と
一緒に笑顔でキメて終わろうぜ、エレフ」
「そんな…資格が…私にあるはずがなかろう…私の罪はもはや…赦されることなど…」
「ならば、私が赦そう」
レオンティウスが、静かに口を開く。
「例え神が赦さずとも、この兄が…私が赦す。だから、もう…気に病まなくていいんだ」
「…レオン…にいさ…ん」
「エレフ。責任を取りたいというなら、尚更死を選ぶような真似はよせ―――身投げのような事をしても、罪滅ぼしに
などなりはしない。それはもっとずっと地味で、真っ当な道のはずだ」
「…だが…もう私は…タナトスから…解放されることはない…死ぬことでしか…」
「いや…」
闇遊戯は、首を横に振った。
「たった一つだけある…お前を殺さずに、タナトスをお前から引き剥がす手段が!」
「なん…だと…それは…」
「タナトスはお前と一体化…つまり、融合しているんだ―――ならばオレは、このカードを使うぜ!」
闇遊戯は天高く、一枚のカードを掲げた―――
「魔法カード発動―――<融合解除>!」
「―――!う、ぐ…ぐああああっ!」
エレフが胸を押さえて蹲り、苦悶する。同時にその身体から瘴気が噴き出していくが、それはエレフから離れるより
早く何者かの力によって抑えつけられ、再びエレフに纏わりつく。
「う、ガ、あ、ァ…渡さ、ナィ…!この…身体ハ…我の…器ダ…!」
その声はエレフとタナトス、二つの意志が入り混じっていた。一つの肉体の支配権を巡り、人と神が鎬を削っている
のだ。
「耐えろ、エレフ!タナトスに負けてはダメだ!」
「我ハ…私は…!神…人間…タナトス…エレウセウス…否!我ハ…タナトス!」
「エレフ…!くっ!このままでは…!」
「どけ、遊戯」
傲然と、海馬が闇遊戯と並び立つ。
「エレフ…貴様が死のうがどうなろうが、オレの知ったことではない。だが…生き残る道があるなら生きろ。生きて
再び、歩み出せ―――それを望むくらいの権利はあるだろう」
「カ…い…バ…」
「―――<融合解除>!」
闇遊戯が発動させたものと同じカード。その効果は二重となり、更に強くタナトスを抑え込む。
「よ…ヨセ…エレフを…連レて…いクナ…渡サなィ…其れダケハ赦サなィ!」
「くっ…!オレと海馬が力を合わせても、まだ足りないというのか!」
「くそっ…おい、城之内!お前もやってくれよ!」
オリオンに急かされるが、城之内は非常に居心地の悪そうな顔をするばかりだ。
「い、いや…そうしたいのはヤマヤマだけど、オレ、あのカード持ってねえんだ」
「最後の最後で絶妙にダメだなお前って奴は!」
「グ、ぐ…うおォォおおォッ!」
「!くっ!」
「がはっ…!」
エレフから凄まじい力が迸り、闇遊戯と海馬が吹き飛ばされる。それを一瞥にせず。エレフは―――
「フ。フフ…」
否。タナトスが、ゆっくりと立ち上がった。
「今ノハ危ナカッタ…モゥ少シデ、引キ剥ガサレテシマゥ所ダッタヨ…フフ。実ヲ言ゥト、今デモ結合ハ相当ニ弱ク
ナッティル。本当ニ紙一重ダッタ」
「ち…ちくしょう!何てこった、ここまで来たっていうのに…」
「残念ダッタネ…エレフノ言ゥ通リニシティレバ、少ナクトモ我ヲ葬ル事ハ出来タ。皮肉ナ事ダ…友情故ニキミ達ハ
其レ程ノ強サヲ得タガ、友情故ニ、我ヲ斃ス最後ノ機会ヲ失ッタンダ」
「…………」
皆は一様に唇を噛み、無力に嘆く。
カツン―――カツン―――
「…え?」
そんな、誰もが深い絶望に呑まれかけた地獄の中で、唯一人だけ、前へと進む者がいた。
「…今更キミガ、何ヲスル心算(ツモリ)ダ?」
それは闇遊戯でなければ城之内でも、海馬でも、オリオンでも、レオンティウスでもない。
「何をするって…決まってるでしょ。エレフを、取り戻すわ」
ミーシャだった。何一つ闘う為の術など知らぬ彼女が―――その身一つで、タナトスの元へと向かっていた。
ドクン。
タナトスの中にいるエレフが、再び鼓動を刻む。だがそれは、先程に比べれば明らかに弱い。黙殺しても、何ら問題
はない―――タナトスはそう判断した。
「エレフ…私が分かるでしょ?」
「ミーシャ、よせ!危険だ!」
「危険だって…今更、言うことじゃないでしょ」
仲間の制止の声を、ミーシャは笑って受け流した。
「お願い。私に任せて…この世界に生まれて、私に与えられた役目があるとしたら、きっと今、この場所よ」
ミーシャは歩みを止めない。タナトスはその姿を、不可解だと言わんばかりに見据える。
はない―――タナトスはそう判断した。
「エレフ…私が分かるでしょ?」
「ミーシャ、よせ!危険だ!」
「危険だって…今更、言うことじゃないでしょ」
仲間の制止の声を、ミーシャは笑って受け流した。
「お願い。私に任せて…この世界に生まれて、私に与えられた役目があるとしたら、きっと今、この場所よ」
ミーシャは歩みを止めない。タナトスはその姿を、不可解だと言わんばかりに見据える。
ドクン―――!
「クッ…!何故ダ…何故…」
取るに足りないはずの弱々しい鼓動が、無視出来ない痛みを与えてくる。
「エレフ…どうして、そんな所にいるのよ」
「黙レ…其ノ口ヲ閉ジルンダ、アルテミシア!」
それでもミーシャは、歩みを止めない。
「私だけじゃない…皆に心配かけて、迷惑かけて…その挙句に、死ぬだの何だの…どれだけ自分勝手なのよ」
「其処デ止マレ、アルテミシア!モゥエレフヲ刺激スルナ!」
タナトスは得体の知れない恐怖に、泰然とした態度をかなぐり捨てて叫ぶ。それでも、ミーシャは止まらない。
「止セ!止スンダ!コレ以上近ヅクナラ容赦シナィ!」
ミーシャは―――尚も、歩き続ける。
「エレフ…私の我儘を、一つくらい聞いてよ。そんな所にいないで…戻ってきなさい!」
「黙レ!」
タナトスが横薙ぎに手刀を繰り出した。何も起こらない。そよ風さえ感じない。
だが―――ミーシャの長い髪が、肩口からばっさりと切り落とされた。
「あ…」
はらりと地に落ちる銀色の髪を、ミーシャはただ茫然と見つめていた。
「黙ラネバ―――次ハ、首ヲ堕トス」
「ミーシャ!」
「待って!」
駆け寄ろうとする仲間達を、ミーシャはまたしても制した。
「お願い…ここは、私がやらなきゃダメなの」
ミーシャは泣きながら、微笑んでいた。
「エレフは…私がいてあげなきゃ、本当にダメな人だから」
ミーシャはまた一歩、タナトスに―――否。エレフに歩み寄る。
死を宿した終の瞳が、互いを見つめた。
紫を宿した対の瞳が、互いを見据えた。
「来ルナ!コレ以上近ヅケバ、本当ニ…!」
「エレフ。このままだと、私はタナトスに殺されるわ…だから―――」
ミーシャは溢れ出る涙を拭おうともせず、心の底から叫んだ。
「だから―――早く私を助けなさいよ、このダメ兄貴!」
「…ッ!」
タナトスは逡巡しながら、その手を振り上げ―――そのまま、動きを止めた。
「グ…エレ…フ…ォ前…させない…それだけは…黙レ…!貴様が黙れ…」
同じ口から交互に飛び出す、二つの言葉。
「我ハ…死神…私は…冥王…我…違う、私は…タナトス…死神…冥府ノ王…違う!」
取るに足りないはずの弱々しい鼓動が、無視出来ない痛みを与えてくる。
「エレフ…どうして、そんな所にいるのよ」
「黙レ…其ノ口ヲ閉ジルンダ、アルテミシア!」
それでもミーシャは、歩みを止めない。
「私だけじゃない…皆に心配かけて、迷惑かけて…その挙句に、死ぬだの何だの…どれだけ自分勝手なのよ」
「其処デ止マレ、アルテミシア!モゥエレフヲ刺激スルナ!」
タナトスは得体の知れない恐怖に、泰然とした態度をかなぐり捨てて叫ぶ。それでも、ミーシャは止まらない。
「止セ!止スンダ!コレ以上近ヅクナラ容赦シナィ!」
ミーシャは―――尚も、歩き続ける。
「エレフ…私の我儘を、一つくらい聞いてよ。そんな所にいないで…戻ってきなさい!」
「黙レ!」
タナトスが横薙ぎに手刀を繰り出した。何も起こらない。そよ風さえ感じない。
だが―――ミーシャの長い髪が、肩口からばっさりと切り落とされた。
「あ…」
はらりと地に落ちる銀色の髪を、ミーシャはただ茫然と見つめていた。
「黙ラネバ―――次ハ、首ヲ堕トス」
「ミーシャ!」
「待って!」
駆け寄ろうとする仲間達を、ミーシャはまたしても制した。
「お願い…ここは、私がやらなきゃダメなの」
ミーシャは泣きながら、微笑んでいた。
「エレフは…私がいてあげなきゃ、本当にダメな人だから」
ミーシャはまた一歩、タナトスに―――否。エレフに歩み寄る。
死を宿した終の瞳が、互いを見つめた。
紫を宿した対の瞳が、互いを見据えた。
「来ルナ!コレ以上近ヅケバ、本当ニ…!」
「エレフ。このままだと、私はタナトスに殺されるわ…だから―――」
ミーシャは溢れ出る涙を拭おうともせず、心の底から叫んだ。
「だから―――早く私を助けなさいよ、このダメ兄貴!」
「…ッ!」
タナトスは逡巡しながら、その手を振り上げ―――そのまま、動きを止めた。
「グ…エレ…フ…ォ前…させない…それだけは…黙レ…!貴様が黙れ…」
同じ口から交互に飛び出す、二つの言葉。
「我ハ…死神…私は…冥王…我…違う、私は…タナトス…死神…冥府ノ王…違う!」
「私は―――エレウセウス!ミーシャの兄―――エレウセウスだ!」
その瞬間、エレフの身体から黒い瘴気が噴き上がった。それは竜巻のように荒れ狂いながら天に昇っていく。そして
エレフは、ゆっくりと大地に倒れ伏した。
「エレフ!」
ミーシャが駆け寄り、ぐったりして動かないエレフを抱き起こす。
「しっかりして、エレフ!エレフ―――!」
「…ミーシャ」
エレフが、ゆっくりと目を開けた。
「何だ、その髪は…子供の頃みたいになってるぞ…」
「バカ…エレフのせいでしょ…」
ミーシャの瞳から零れた雫が、エレフの頬を濡らす。
「ごめんな、ミーシャ…ありがとう」
エレフは手を伸ばし、短くなってしまったミーシャの髪をそっと撫でる。
そんな二人を、一同は皆、驚きと感嘆を込めて―――海馬でさえも―――見つめていた。
タナトスは彼女を戦力に数えていなかったし、仲間達もそう思っていたが―――大間違いだ。
ミーシャは立派に、数の内だった。
この大一番で―――最高の仕事をしてくれた。
「…こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないな」
「そうね…とりあえず、笑えばいいと思うわ」
そうか。エレフは、静かに笑った。
エレフは、ゆっくりと大地に倒れ伏した。
「エレフ!」
ミーシャが駆け寄り、ぐったりして動かないエレフを抱き起こす。
「しっかりして、エレフ!エレフ―――!」
「…ミーシャ」
エレフが、ゆっくりと目を開けた。
「何だ、その髪は…子供の頃みたいになってるぞ…」
「バカ…エレフのせいでしょ…」
ミーシャの瞳から零れた雫が、エレフの頬を濡らす。
「ごめんな、ミーシャ…ありがとう」
エレフは手を伸ばし、短くなってしまったミーシャの髪をそっと撫でる。
そんな二人を、一同は皆、驚きと感嘆を込めて―――海馬でさえも―――見つめていた。
タナトスは彼女を戦力に数えていなかったし、仲間達もそう思っていたが―――大間違いだ。
ミーシャは立派に、数の内だった。
この大一番で―――最高の仕事をしてくれた。
「…こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないな」
「そうね…とりあえず、笑えばいいと思うわ」
そうか。エレフは、静かに笑った。
「ただいま、ミーシャ」
「おかえりなさい、エレフ」
「おかえりなさい、エレフ」