日が沈んだ空は二つの色に別れ、じんわりと藍色の夜空が光を塗り潰していく。
その空の中、奇妙なカラスが飛んでいた。
その空の中、奇妙なカラスが飛んでいた。
首に紐が巻きつき、周囲の鳥達とは明らかに違う速度で動き回っている。
まるで何かを見張っているかのように忙しなく飛んでいる。
まるで何かを見張っているかのように忙しなく飛んでいる。
紐は、一枚の紙切れに繋がっていた。
穴があるわけでも、テープで止めてある訳でもない。
紐は、写真の中へと続いていた。
穴があるわけでも、テープで止めてある訳でもない。
紐は、写真の中へと続いていた。
「吉影……ワシのかわいい息子よ、守ってやるぞ。
ワシがかならず守ってやる……お前の平穏を……」
ワシがかならず守ってやる……お前の平穏を……」
出来すぎたCG映画のように滑らかな動きで、写真からパジャマ姿の中年男性が這い出した。
吉良吉廣、殺人鬼『吉良吉影』の父親だった。
吉良吉廣、殺人鬼『吉良吉影』の父親だった。
「奴の『ハイウェイ・スター』は危険なスタンド……お前の『キラー・クィーン』が、
奴に劣るとは思わんがこの状況は危険すぎる……!」
奴に劣るとは思わんがこの状況は危険すぎる……!」
近寄りさえすれば一触必殺、仗助の居ない今『キラー・クィーン』の爆破を防げる者は居ない。
だが近寄る術がないのでは60キロを維持して走り続けるしかない。
ガソリンが切れるのが先か、事故で大怪我を負うのが先か……。
だが近寄る術がないのでは60キロを維持して走り続けるしかない。
ガソリンが切れるのが先か、事故で大怪我を負うのが先か……。
「だが、いざと言う時の備えはある……墳上裕也、必ず死んで貰うぞ!」
「どういうつもりだ……ガソリンの事を忘れちまう程のマヌケなのか?
高速道路ならその速度を維持するのは簡単だろう、だがガソリンはどうするつもりだ……。
俺のバイクは満タンだ、奴の方はわからねぇ……排気から考えて燃費は良くねーぜ」
高速道路ならその速度を維持するのは簡単だろう、だがガソリンはどうするつもりだ……。
俺のバイクは満タンだ、奴の方はわからねぇ……排気から考えて燃費は良くねーぜ」
何か策があるのだろうか、とにかくこのまま奴を高速まで追いかけるのは危険だ。
先回りして仕留めるべく進路を変える。
先回りして仕留めるべく進路を変える。
殺人鬼との対峙の時が近づいてくる。
冷や汗がハンドルを濡らし、頬を伝い向かい風に乾く。
膝が笑いそうになるのを横転への恐怖で防ぎながら、彼は殺人鬼の元へ向かう。
冷や汗がハンドルを濡らし、頬を伝い向かい風に乾く。
膝が笑いそうになるのを横転への恐怖で防ぎながら、彼は殺人鬼の元へ向かう。
「チクショー……どうすりゃいい、俺はどうすりゃいい……」
彼の心は後悔に囚われていた。
放っておけばよかったのではないか。
町を出ろなんて警告をするのなら、一緒に出るように説得して逃げれば良かったのではないか。
放っておけばよかったのではないか。
町を出ろなんて警告をするのなら、一緒に出るように説得して逃げれば良かったのではないか。
偽りの怒りはその姿を潜め、恐怖が心を蝕んでいく。
だが、幸か不幸か彼の鼻は捕らえてしまった。
殺人鬼の臭いが止まったのを。
だが、幸か不幸か彼の鼻は捕らえてしまった。
殺人鬼の臭いが止まったのを。
「……」
言葉を失い、思考を停止させたまま今まで定めてきた目的に向かって『ハイウェイ・スター』を追跡させる。
これを罠と気付くには、彼のスタンドのスピードは速すぎたようだ。
吉良吉影の臭いは一瞬で火炎から生まれる燐の臭い、スタンドの炎へと変わった。
そして焼き尽くされる『ハイウェイ・スター』へのダメージがそのまま墳上裕也へと向かう。
これを罠と気付くには、彼のスタンドのスピードは速すぎたようだ。
吉良吉影の臭いは一瞬で火炎から生まれる燐の臭い、スタンドの炎へと変わった。
そして焼き尽くされる『ハイウェイ・スター』へのダメージがそのまま墳上裕也へと向かう。
炎に焼かれる『ハイウェイ・スター』が追跡を止める。
耳障りな足音が聞こえないことを確認しつつ、速度を落とす。
耳障りな足音が聞こえないことを確認しつつ、速度を落とす。
「マヌケめ。自分の能力を過信しているからそんな単純なミスを犯すのだ」
内ポケットをポンポンと叩いてみると、布の感触は手の平に別の部位と同じ薄さであることを伝えていた。
舌打ちを漏らすが仕方の無いことだった、他に『爆弾』にできる物は靴ぐらいだし運転中に脱ぐ余裕はない。
舌打ちを漏らすが仕方の無いことだった、他に『爆弾』にできる物は靴ぐらいだし運転中に脱ぐ余裕はない。
「これで私の心配事は、スーツの修理費だけだな……。
川尻の安月給で買える代物だし高くはつかないだろう」
川尻の安月給で買える代物だし高くはつかないだろう」
速度の低下と共に奪ったバイクのエンジン音が静まっていく。
もう彼の平穏を脅かす音は聞こえない……筈だった。
もう彼の平穏を脅かす音は聞こえない……筈だった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
「……フッ、大型トラクターでも走っているのかな」
彼はそう呟きながらも咄嗟に背後を見た。
耳に伝わるそれは、大型自動車のエンジン音なんかではない。
ここ最近トラブル続きの彼がすっかり聞き慣れた……危険な音だった。
耳に伝わるそれは、大型自動車のエンジン音なんかではない。
ここ最近トラブル続きの彼がすっかり聞き慣れた……危険な音だった。
「うおおおおぉぉぉぉ―――ッッ!?」
無数の足が、彼を追い詰めていた。
体中のあちこちで、肉が音をたてて引き千切れていく。
腕も足も服の中でズタズタに引き裂かれ、血を撒き散らしながらバイクを走らせる。
恐怖で無意識のうちに速度を抑えていた為、コントロールを失うことはなかった。
滴る血に後輪が濡れてアスファルトに線を引く。
墳上の進む破滅への軌跡を描くように、長く赤黒く続いていた。
腕も足も服の中でズタズタに引き裂かれ、血を撒き散らしながらバイクを走らせる。
恐怖で無意識のうちに速度を抑えていた為、コントロールを失うことはなかった。
滴る血に後輪が濡れてアスファルトに線を引く。
墳上の進む破滅への軌跡を描くように、長く赤黒く続いていた。
「ドジったな…やっぱ……止めとくんだったぜ……」
普段の墳上ならありえないミスだった。
しかし吉良吉影は恐怖で麻痺した事を悟り、狡猾な罠で精神を打ち砕いた。
衣類と吉良吉影の臭いはしても、人の持つ複雑な臭いはしていなかった。
逃げることにばかり考え、戦いの思考を停止させた時、こうなることは決まっていたのかもしれない。
しかし吉良吉影は恐怖で麻痺した事を悟り、狡猾な罠で精神を打ち砕いた。
衣類と吉良吉影の臭いはしても、人の持つ複雑な臭いはしていなかった。
逃げることにばかり考え、戦いの思考を停止させた時、こうなることは決まっていたのかもしれない。
「敵わねぇよ……こんな奴…俺のスタンド、いや誰が相手でも倒せっこねぇ……」
自らを偽り向けていた怒りは、蝋の溶けきったロウソクの様に静かに消えていった。
血が足りず、息を荒げる墳上だったが愛車は止まらなかった。
血が足りず、息を荒げる墳上だったが愛車は止まらなかった。
「だがよ……テメーの思惑通りにはいかねぇらしいぜ………吉良吉影」
怒りは消えた、だが変わりに燃え上がる本物の闘志が彼を突き動かした。
「爆破が浅かった……速すぎたってことは焦ってるってことだ。
奴だって俺を恐れてるんだ……だから半端な位置で攻撃を仕掛けた。
もう迷ってなんかられねぇ……ビビってなんかいられねぇんだ!」
奴だって俺を恐れてるんだ……だから半端な位置で攻撃を仕掛けた。
もう迷ってなんかられねぇ……ビビってなんかいられねぇんだ!」
恐怖を完全に振り切ったわけではない、それでも手が震えることは無くなった。
鮮血と激痛で閉じた瞳に、愛しい人達を見た彼は絶望を振り払ってどこまでも殺人鬼を追い詰めるだろう。
その命がある限りは。
鮮血と激痛で閉じた瞳に、愛しい人達を見た彼は絶望を振り払ってどこまでも殺人鬼を追い詰めるだろう。
その命がある限りは。