力が欲しい。
何のために、聞かれて即答できるやつは皆強くなった。
ある者は、守るために。
ある者は、奪うために。
ある者は、戦うために。
ある者は、強さを知るために。
ある者は、自由のために。
ある者は、明日の糧のために。
しかし、彼らがその初心を貫徹できたかといえば、首を傾げざるを得ない。
何のために、聞かれて即答できるやつは皆強くなった。
ある者は、守るために。
ある者は、奪うために。
ある者は、戦うために。
ある者は、強さを知るために。
ある者は、自由のために。
ある者は、明日の糧のために。
しかし、彼らがその初心を貫徹できたかといえば、首を傾げざるを得ない。
強くはなった。
だが、それだけだ。
守るべきものはすでに亡く、奪うべきものはすでに潰え、戦いは終わり、強さの理由もわからず、
自由という名の鎖につながれ、日々の糧を得ても心の空腹は満たされない。
臓腑を焼くこの感情はいったい何なのだろう?
心をえぐるこの感情はいったい何なのだろう?
身を焦がすこの感情はいったい何なのだろう。
答えを求めて牙を、爪を、技を研いた末に、待っていたのは虚ろな己の双眸だった。
その双眸がここにある。
デスマスクも、アフロディーテも、同じ目をしてそこにいる。
殺戮者の目だ。
冷徹な意思をもって死を強いる者、相手を「殺す」事を目的とした思考、行動を組み立てられる者。
より効率よく、より能率的に、より確実に、命を削りとる者。
そこには正邪もなく、善悪もない。
倒すべき敵もまたその本質は同じものだ。
戦士(ソルジャー)とはつまりはそういうものだ。
だが、それだけだ。
守るべきものはすでに亡く、奪うべきものはすでに潰え、戦いは終わり、強さの理由もわからず、
自由という名の鎖につながれ、日々の糧を得ても心の空腹は満たされない。
臓腑を焼くこの感情はいったい何なのだろう?
心をえぐるこの感情はいったい何なのだろう?
身を焦がすこの感情はいったい何なのだろう。
答えを求めて牙を、爪を、技を研いた末に、待っていたのは虚ろな己の双眸だった。
その双眸がここにある。
デスマスクも、アフロディーテも、同じ目をしてそこにいる。
殺戮者の目だ。
冷徹な意思をもって死を強いる者、相手を「殺す」事を目的とした思考、行動を組み立てられる者。
より効率よく、より能率的に、より確実に、命を削りとる者。
そこには正邪もなく、善悪もない。
倒すべき敵もまたその本質は同じものだ。
戦士(ソルジャー)とはつまりはそういうものだ。
「…なぁ、デスマスク。
君はいったいいつまで生きる?」
君はいったいいつまで生きる?」
胡乱気な顔のデスマスクに、アフロディーテは語る。
「神々はどうなんだろうな。
神々というくらいだから永久不滅なんだろうか?
アテナなどはその時々に応じて人の体で転生するし、
我らが敵・冥王は聖戦のたびに人間の肉体を拠り代にするらしい。
そんな連中からしてみれば、我々人間なんて塵芥みたいなもの、
なのかもしれないな…」
神々というくらいだから永久不滅なんだろうか?
アテナなどはその時々に応じて人の体で転生するし、
我らが敵・冥王は聖戦のたびに人間の肉体を拠り代にするらしい。
そんな連中からしてみれば、我々人間なんて塵芥みたいなもの、
なのかもしれないな…」
アフロディーテはどこか儚げにいう。
「だからこそ、私は火花のように生きたい。
一瞬の閃光で良い、悔いなく生きたいのさ。
たとえそれが、私の傲慢であってもな」
一瞬の閃光で良い、悔いなく生きたいのさ。
たとえそれが、私の傲慢であってもな」
「…あの姉さんをこうして囲ってるのも、か?」
「女が一人で生きていくのは、色々と辛いことがある。
そういうことさ…。
アドニスには、そんな世界を見てほしくは無い」
そういうことさ…。
アドニスには、そんな世界を見てほしくは無い」
引きつるような、鳥の声ような音が、デスマスクの笑い声だと気がついた時には、
もはや闘争の空気は霧散していた。
もはや闘争の空気は霧散していた。
「なんともまぁ傲慢な事ぁいうじゃないか、ええ?
閃光のように?火花のように?悔いなく?」
閃光のように?火花のように?悔いなく?」
そこでデスマスクは堪えきれなくなったか、破裂するように笑い出す。
事もあろうに腹を抱えて笑っていた。
事もあろうに腹を抱えて笑っていた。
「傲慢?そうさ、なんたる傲慢か!
それが如何に困難かわからんお前じゃあるまいに!
お前も、俺も、聖闘士だ!
自ら望んで虎口に飛び込む事でしか生きていることを認識できない戦士だろう?」
それが如何に困難かわからんお前じゃあるまいに!
お前も、俺も、聖闘士だ!
自ら望んで虎口に飛び込む事でしか生きていることを認識できない戦士だろう?」
笑わせるな!と、デスマスクは一喝した。
「そういうことはなぁ、戦なんぞと縁も所縁もないやつだけが言える資格があるんだ!
自ら望んで鉄火場に飛び込む大馬鹿野郎が吐いて言い言葉じゃねぇんだよ!」
自ら望んで鉄火場に飛び込む大馬鹿野郎が吐いて言い言葉じゃねぇんだよ!」
だからこその聖闘士だ。
殺す、倒す、葬る、殺される、倒される、葬り去られる。
そういった覚悟をした奴が、よくもまぁぬけぬけといえた物だ。
そういう思いがあるからこそ、デスマスクは今のアフロディーテが許せない。
闘争の空気は霧散したとはいえ、いつまた再燃するとも限らない。
殺す、倒す、葬る、殺される、倒される、葬り去られる。
そういった覚悟をした奴が、よくもまぁぬけぬけといえた物だ。
そういう思いがあるからこそ、デスマスクは今のアフロディーテが許せない。
闘争の空気は霧散したとはいえ、いつまた再燃するとも限らない。
「いつ果てようとも構わないなら、なぜ家族を持とうと思った?
残される者を思わずに、ただ己可愛さに家族を持とうなどと!
それを傲慢と言ったんだよ!」
残される者を思わずに、ただ己可愛さに家族を持とうなどと!
それを傲慢と言ったんだよ!」
デスマスクの怒りは、常ならぬほど激しく、そしてあまりにも純粋だった。
それがあまりにも自然で、アフロディーテには驚嘆以外の感情をもてなかった。
「傲慢で何が悪い?
力とはその傲慢を満たすためにあるんだろう?お前の理屈じゃあ」
力とはその傲慢を満たすためにあるんだろう?お前の理屈じゃあ」
揺ぎ無いアフロディーテの眼光。だがそれに怯むデスマスクではない。
「ほぉ、ご立派なこった。
…なぁ、何のための小宇宙だ?
殺すためだ。
壊すためだ。
打ち倒すためだ。
葬り去るためだ。
それが我等アテナの聖闘士の、戦士の本懐だ」
…なぁ、何のための小宇宙だ?
殺すためだ。
壊すためだ。
打ち倒すためだ。
葬り去るためだ。
それが我等アテナの聖闘士の、戦士の本懐だ」
アフロディーテはぐうの音も出ない。
拳を握り締めたそのときから、その覚悟は出来ていた。
出来ていた、はずだった。
姉が生きていたと知るまでは。
元々、鉄風雷火とはなんのかかわりのない、ごく普通の家庭だった彼ら姉弟だった。
ただ一度の家族旅行がテロに巻き込まれるまでは。
その生命力の強さと並外れた小宇宙によってかろうじて生き残った少年は、
姉を探すために聖闘士の道を選んだ。
屍山血河を築き上げながら。
拳を握り締めたそのときから、その覚悟は出来ていた。
出来ていた、はずだった。
姉が生きていたと知るまでは。
元々、鉄風雷火とはなんのかかわりのない、ごく普通の家庭だった彼ら姉弟だった。
ただ一度の家族旅行がテロに巻き込まれるまでは。
その生命力の強さと並外れた小宇宙によってかろうじて生き残った少年は、
姉を探すために聖闘士の道を選んだ。
屍山血河を築き上げながら。
「さっきも言ったろう?
血に汚れた手のひらで、お前はあの餓鬼を抱き上げられるのか?
血に汚れた姿で、お前はあの姐さんの微笑みを受けられるのか?
お前、そこまで面の皮あつかねぇだろうよ…」
血に汚れた手のひらで、お前はあの餓鬼を抱き上げられるのか?
血に汚れた姿で、お前はあの姐さんの微笑みを受けられるのか?
お前、そこまで面の皮あつかねぇだろうよ…」
そこでふと、彼はアフロディーテとは別のほうを見る。
何か面白いモノを見つけたように。
何か面白いモノを見つけたように。
「諦めろとは言わん。
折り合いを付けろ、アテナの聖闘士なのか、何者なのかを、な。
おら、あの餓鬼きたぞ?」
折り合いを付けろ、アテナの聖闘士なのか、何者なのかを、な。
おら、あの餓鬼きたぞ?」
アフロディーテの後ろからとてとてと、それでも必死で走ってくる子供。アドニス。
勢いそのまま、デスマスクに殴りかかった。
勢いそのまま、デスマスクに殴りかかった。
「おじちゃんいじめるなー!」
半ば泣き叫びながらの彼の拳には、間違いなく小宇宙が宿っていた。
「おい、クソ餓鬼。
手前の意見通したけりゃあ、強くなるこったな。
この積尸気に惑わされないくらいにゃあな」
手前の意見通したけりゃあ、強くなるこったな。
この積尸気に惑わされないくらいにゃあな」
殴りかかったアドニスの腕をつかみ、
その勢いのままアフロディーテに向かって放り投げるデスマスクは、そんな言葉を吐いた。
その勢いのままアフロディーテに向かって放り投げるデスマスクは、そんな言葉を吐いた。
「いいかぁ、盟!アドニス!拳を作るなら覚悟も握れ。
握り締めたら死んでも離すな!わかったかぁ!」
握り締めたら死んでも離すな!わかったかぁ!」
先ほどの漆黒の双眸ではなく、どこか羨望の滲んだ眼差しでデスマスクは言う。
果たして彼はいったいどんな思いでそう言ったのか、アフロディーテにはわからなかった。
そして、それがアドニスとアフロディーテとの関係を致命的に変化させることになる。
果たして彼はいったいどんな思いでそう言ったのか、アフロディーテにはわからなかった。
そして、それがアドニスとアフロディーテとの関係を致命的に変化させることになる。