正義と悪が互いの全てを賭けて闘う神奈川県川崎市・溝ノ口。
その駅前に今、新たなる悪魔達が降り立った。
「いやー、結構混んでましたね、ピラフ様」
「あーもう!あのオヤジ、混雑をいいことに私のおしり触ったんですよ!あームカツク!」
「ふ…そうぼやくな。我々が世界征服に成功すれば、新幹線のグリーン車とてタダで乗り放題なのだからな」
微妙に情けないことをのたまうのは犬人間・若い女性・怪人というアンバランスな三人組。そう―――
奴らこそは、恐るべき悪党なのだ!
「調査によれば、ここ溝ノ口にはフロシャイムとかいう悪の組織の支部があるというが…ククク。悪の組織は二つも
いらん。今日より我々がこの地を支配するのだ!」
「大丈夫ですかねー」
「心配いらん。何でもそいつらはヒーローに負けっぱなしの弱小組織ということだからな…既に十人以上のヒーロー
を屠っている我々の敵ではないわ!ワーッハッハッハッハッハ!」
ピラフ様と呼ばれた怪人が、高笑いする。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハゲホゲホブホッ!」
「ああ、ピラフ様!」
「そんなに無理して笑うから…」
「や、やかましい!悪の支配者というものは無理してでも高笑いするものなのだ!」
そんな三人を、町の人々は暖かく見守っていた。
「ママー、あのひとたちなのやってるのー?」
「しっ!見ちゃいけません」
その駅前に今、新たなる悪魔達が降り立った。
「いやー、結構混んでましたね、ピラフ様」
「あーもう!あのオヤジ、混雑をいいことに私のおしり触ったんですよ!あームカツク!」
「ふ…そうぼやくな。我々が世界征服に成功すれば、新幹線のグリーン車とてタダで乗り放題なのだからな」
微妙に情けないことをのたまうのは犬人間・若い女性・怪人というアンバランスな三人組。そう―――
奴らこそは、恐るべき悪党なのだ!
「調査によれば、ここ溝ノ口にはフロシャイムとかいう悪の組織の支部があるというが…ククク。悪の組織は二つも
いらん。今日より我々がこの地を支配するのだ!」
「大丈夫ですかねー」
「心配いらん。何でもそいつらはヒーローに負けっぱなしの弱小組織ということだからな…既に十人以上のヒーロー
を屠っている我々の敵ではないわ!ワーッハッハッハッハッハ!」
ピラフ様と呼ばれた怪人が、高笑いする。
「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハゲホゲホブホッ!」
「ああ、ピラフ様!」
「そんなに無理して笑うから…」
「や、やかましい!悪の支配者というものは無理してでも高笑いするものなのだ!」
そんな三人を、町の人々は暖かく見守っていた。
「ママー、あのひとたちなのやってるのー?」
「しっ!見ちゃいけません」
―――その頃、フロシャイム川崎支部のアジトでは、ヴァンプ将軍がケーキを作っていた。
ケーキの中央には砂糖菓子で作ったお手製のサンレッド人形が乗っている。
「さーて、最後に溶かしたチョコで文字を書いて…美味しいケーキが出来ちゃった!」
ちなみに書いた文字は<殺>の一文字である。
お菓子作りにさえサンレッド抹殺への意欲を燃やすヴァンプ様、恐ろしい漢(おとこ)である。彼はケーキを持って
居間へ向かう。そこにはアジトに入り浸っている怪人達の姿があった。
「さーみんな、ケーキ食べてみて。今回のは自信作だよ」
「うわ、ウマそー!」
「流石ヴァンプ様、天才!」
「もー。おだてないでよ、みんな」
ポッと顔を赤くしながらも満更でもなさそうなヴァンプ様。平和な日常がそこにあった。
「ふもっふー!」
「はいはい、今切ってあげるから待っててね、ボン太くん」
「もふっ」
手をパタパタさせる謎の物体・ボン太くん。彼はもはや完全にフロシャイムに溶け込んでいた。
下手をすれば自分が潜入捜査の最中であるということを忘れているんじゃなかろうかと思えるほどだ。
と、備え付けのファックスがカタカタと動き出した。
「あれ?本部からだ。どうしたんだろ」
用紙を破って目を通す。そこにはあの三人の顔写真とともに、こう記載されていた。
<要注意!数多くのヒーローを倒している怪人集団・ピラフ一味。
リーダーのピラフ・部下のシュウ(犬)とマイ(女)で構成された三人組。
現在川崎市に向かっているとのこと、注意されたし>
ヴァンプ様は顔をしかめる。
「要注意怪人・ピラフ一味だって。やだ怖ーい。ちゃんと戸締まりしとかないと」
「ふもっ!?」
それを聞いた途端、ボン太くんが急に激しくふもふもしながら手をバタバタさせた。
「え?これが見たいの、ボン太くん」
「もふもふ!」
「はいはい、どうぞ」
ほとんどひったくるような勢いで用紙を手に取り、ボン太くんはそれをマジマジと見つめる。
「ふも…(何ということだ…)」
「ど、どうしたのボン太くん…」
「もふもふも…ふも!(あの悪党共が、ここに…こうしてはおれん!)」
「急にそわそわしちゃって。何かあったの?」
「ふもふも、ふもふー!(<ミスリル>もすぐには動けんだろう…ここは俺がやるしかない!)」
ボン太くんは用紙を台所のホワイトボードに貼って、すぐさま玄関から外に出る。
「あ、ちょっと!ねえ、ケーキは?」
「もっふるー!(はっ!自分の配給はラップをかけた上で冷蔵庫にて保管を願います!)」
それだけ言い残し、ボン太くんはダッシュで消えていく。ヴァンプ将軍は頭に???マークを並べていたが、すぐに
ポンと手を打った。
「怖い人達が来るから、自宅の戸締まりを確認しに行ったんだね!」
どっかずれてるヴァンプ様であった。
ケーキの中央には砂糖菓子で作ったお手製のサンレッド人形が乗っている。
「さーて、最後に溶かしたチョコで文字を書いて…美味しいケーキが出来ちゃった!」
ちなみに書いた文字は<殺>の一文字である。
お菓子作りにさえサンレッド抹殺への意欲を燃やすヴァンプ様、恐ろしい漢(おとこ)である。彼はケーキを持って
居間へ向かう。そこにはアジトに入り浸っている怪人達の姿があった。
「さーみんな、ケーキ食べてみて。今回のは自信作だよ」
「うわ、ウマそー!」
「流石ヴァンプ様、天才!」
「もー。おだてないでよ、みんな」
ポッと顔を赤くしながらも満更でもなさそうなヴァンプ様。平和な日常がそこにあった。
「ふもっふー!」
「はいはい、今切ってあげるから待っててね、ボン太くん」
「もふっ」
手をパタパタさせる謎の物体・ボン太くん。彼はもはや完全にフロシャイムに溶け込んでいた。
下手をすれば自分が潜入捜査の最中であるということを忘れているんじゃなかろうかと思えるほどだ。
と、備え付けのファックスがカタカタと動き出した。
「あれ?本部からだ。どうしたんだろ」
用紙を破って目を通す。そこにはあの三人の顔写真とともに、こう記載されていた。
<要注意!数多くのヒーローを倒している怪人集団・ピラフ一味。
リーダーのピラフ・部下のシュウ(犬)とマイ(女)で構成された三人組。
現在川崎市に向かっているとのこと、注意されたし>
ヴァンプ様は顔をしかめる。
「要注意怪人・ピラフ一味だって。やだ怖ーい。ちゃんと戸締まりしとかないと」
「ふもっ!?」
それを聞いた途端、ボン太くんが急に激しくふもふもしながら手をバタバタさせた。
「え?これが見たいの、ボン太くん」
「もふもふ!」
「はいはい、どうぞ」
ほとんどひったくるような勢いで用紙を手に取り、ボン太くんはそれをマジマジと見つめる。
「ふも…(何ということだ…)」
「ど、どうしたのボン太くん…」
「もふもふも…ふも!(あの悪党共が、ここに…こうしてはおれん!)」
「急にそわそわしちゃって。何かあったの?」
「ふもふも、ふもふー!(<ミスリル>もすぐには動けんだろう…ここは俺がやるしかない!)」
ボン太くんは用紙を台所のホワイトボードに貼って、すぐさま玄関から外に出る。
「あ、ちょっと!ねえ、ケーキは?」
「もっふるー!(はっ!自分の配給はラップをかけた上で冷蔵庫にて保管を願います!)」
それだけ言い残し、ボン太くんはダッシュで消えていく。ヴァンプ将軍は頭に???マークを並べていたが、すぐに
ポンと手を打った。
「怖い人達が来るから、自宅の戸締まりを確認しに行ったんだね!」
どっかずれてるヴァンプ様であった。
―――天体戦士サンレッド。彼が守るべき神奈川県川崎市に危機が迫る!
天体戦士サンレッド ~唸る剛腕!最強の虎と無敵の獅子
さて、更に場面は変わって、とある安アパートの一室。
二匹の怪人が、顔を突き合わせていた。
「ふう~…やだやだ。サファリパークみてーな臭いがプンプンするぜ。誰かさんが俺の部屋に来るから」
「うむ、拙者も気になっていたでござる。これはこの部屋の住人のせいで染み付いた臭いでござるな」
はっはっは、と二匹は作り物丸出しの笑顔である。
一匹はこの部屋の住人であるフロシャイム怪人<アーマータイガー>。ダイヤモンドより硬いアーマーを身に纏う、
屈強な身体と虎の頭部を持つ怪人だ。怪人の中でもトップクラスに強靭な肉体から繰り出される数々の技は、対戦
相手を確実に破壊する―――しかしサンレッドにはボコボコにされた。なお、今の彼は自宅なのでアーマーは着て
おらず、ランニングシャツとトランクス一丁である。
対するは<ヨロイジシ>。武士のような甲冑姿に獅子の頭を持つ、これまたフロシャイム所属の怪人である。彼が
装備するのは、無敵の防御と引き換えに使用者の体力を奪い続ける呪いのヨロイであるが、無尽蔵の体力を誇る
彼にとっては理想の防具そのものである―――ちなみにアフリカ出身であり、ござる口調はキャラ作りの成果だ。
やはりサンレッドにはギタギタにされている。
この二匹、先程の会話でも分かる通り、仲はよろしくない。
共にネコ科猛獣の代表選手であるトラとライオン。更にはお互い<アーマー>と<ヨロイ>である。盛大にキャラ
が被っている彼らはライバルとして、事あるごとに反目し合っているのである。
「全く、時代遅れの虎と話すのは疲れるでござるよ。文化的な会話が成り立たんでござる」
「バーカ。知らねーのか?今世間は<タイガー>がブームなんだよ。ライオン野郎はお呼びじゃねーの」
「阿呆はお主でござる。ブームになっているのは<手乗り>の方であって<アーマー>ではござらん。その点拙者
は百獣の王であるライオン!いつの時代も根強い人気でござる」
「てめーは<ライオン>じゃなくて<ライオン型怪人>だろうが!」
「お主こそ<虎型怪人>であって、本物の虎ではないであろうが!」
二匹の不毛な口論はいつまでも続くかと思われたが、その時<ドン!>と、部屋の壁を蹴り飛ばす音がした。二匹
はビクっと身を竦ませる。
「やっべー…隣のおっさん怒らしちまった…」
「確か、夜間タクシーの運転手という話でござるな…」
「ああ。だから昼間騒ぐと後で怖いんだよ…」
「…では、外に出るか。これ以上一般人の安眠を妨害するわけにはいかんでござる」
「ああ…」
猛獣の二大横綱である虎と獅子は、小さくなってコソコソと安アパートを出ていくのだった。草場の影では、きっと
鋼鉄神と勇者王が泣いていることだろう。
二匹の怪人が、顔を突き合わせていた。
「ふう~…やだやだ。サファリパークみてーな臭いがプンプンするぜ。誰かさんが俺の部屋に来るから」
「うむ、拙者も気になっていたでござる。これはこの部屋の住人のせいで染み付いた臭いでござるな」
はっはっは、と二匹は作り物丸出しの笑顔である。
一匹はこの部屋の住人であるフロシャイム怪人<アーマータイガー>。ダイヤモンドより硬いアーマーを身に纏う、
屈強な身体と虎の頭部を持つ怪人だ。怪人の中でもトップクラスに強靭な肉体から繰り出される数々の技は、対戦
相手を確実に破壊する―――しかしサンレッドにはボコボコにされた。なお、今の彼は自宅なのでアーマーは着て
おらず、ランニングシャツとトランクス一丁である。
対するは<ヨロイジシ>。武士のような甲冑姿に獅子の頭を持つ、これまたフロシャイム所属の怪人である。彼が
装備するのは、無敵の防御と引き換えに使用者の体力を奪い続ける呪いのヨロイであるが、無尽蔵の体力を誇る
彼にとっては理想の防具そのものである―――ちなみにアフリカ出身であり、ござる口調はキャラ作りの成果だ。
やはりサンレッドにはギタギタにされている。
この二匹、先程の会話でも分かる通り、仲はよろしくない。
共にネコ科猛獣の代表選手であるトラとライオン。更にはお互い<アーマー>と<ヨロイ>である。盛大にキャラ
が被っている彼らはライバルとして、事あるごとに反目し合っているのである。
「全く、時代遅れの虎と話すのは疲れるでござるよ。文化的な会話が成り立たんでござる」
「バーカ。知らねーのか?今世間は<タイガー>がブームなんだよ。ライオン野郎はお呼びじゃねーの」
「阿呆はお主でござる。ブームになっているのは<手乗り>の方であって<アーマー>ではござらん。その点拙者
は百獣の王であるライオン!いつの時代も根強い人気でござる」
「てめーは<ライオン>じゃなくて<ライオン型怪人>だろうが!」
「お主こそ<虎型怪人>であって、本物の虎ではないであろうが!」
二匹の不毛な口論はいつまでも続くかと思われたが、その時<ドン!>と、部屋の壁を蹴り飛ばす音がした。二匹
はビクっと身を竦ませる。
「やっべー…隣のおっさん怒らしちまった…」
「確か、夜間タクシーの運転手という話でござるな…」
「ああ。だから昼間騒ぐと後で怖いんだよ…」
「…では、外に出るか。これ以上一般人の安眠を妨害するわけにはいかんでござる」
「ああ…」
猛獣の二大横綱である虎と獅子は、小さくなってコソコソと安アパートを出ていくのだった。草場の影では、きっと
鋼鉄神と勇者王が泣いていることだろう。
「それでお前、何の話だっけ?」
「何の話ではござらん。拙者とお主で組んでサンレッドと闘う相談であろう」
ああー、とアーマータイガーは得心した。
「その話、俺らが風邪でダウンしてお流れになったんじゃなかったのかよ」
「馬鹿者め。まだサンレッドと闘ってすらおらんのにお流れになるわけなかろう」
「へっ!こんなライオン野郎と組むより、俺一人でやった方がまだマシだっての」
「おうおう、弱い虎ほど吼えるでござる。サンレッドにベキベキにのされたのは何処のどいつかな?」
「うるせえ!てめえなんて一週間に二回もバキバキに折られたくせに!」
「何を、このアーマーが!」
「くたばれ、このヨロイが!」
遂には取っ組み合いになる二匹であった。ちなみにアーマーもヨロイも意味は同じである。
「くっくっく―――これが悪の組織の構成員とは笑わせる。どうやらフロシャイムとやらは深刻な怪人材不足らしい
のお?ヒーロー一人程度にいいようにやられるわけだわい」
「「あん!?」」
嘲りの言葉に、ケンカを中断して二匹は振り向く。そこにいたのは例の三人組―――ピラフ一味。
「私は世界の帝王・ピラフ様だ。今日よりこの地は我々の支配下に置かれる―――ありがたく思えぃ!」
二匹は<よくいる可哀想な人だな>と判断し、構わずケンカを再開した。
「アフリカ帰れ、このエセ武士が!」
「ベンガルに帰省しろでござる、このダメ虎が!」
「聞いてないですよ、こいつら…」
「完全に無視されてますね、我々…」
「こら貴様ら、こっちをちゃんと向け!」
「てめえのヨロイ全然似合ってねーんだよ!」
「お主のアーマーはまるで着こなしがなってないでござる!」
「き、き、き、貴様らー!人の話は最後まで聞きなさいとお母ちゃんに言われんかったのかー!?」
「あ…ヴァンプ様に言われた、それ」
「拙者も言われたでござる…」
やっとこ二匹はピラフ一味へと向き直った。ピラフは怒鳴ったせいで肩で息をしながらも力強く言い放つ。
「我々は世界征服を企む悪党集団・ピラフ一味だ!これよりこの地を足掛かりに、世界を我が手に掴む!そのため
には邪魔なヒーローと、貴様らフロシャイムには滅んでもらおう!」
「え…?あんたらが?ははは、そりゃ無理だって。あんたらじゃとてもレッドの野郎にゃ勝てねーよ」
「それどころか、拙者達を倒すこともできんでござろう」
「ふ…そんなことをほざいていられるのも今のうちだ。行くぞシュウ、マイ!」
「「はっ!」」
三人(正確には二人と一匹)は謎のカプセルを取り出し、ボタンを押しながら地面に投げる。ボワンと煙が立ち昇り、
現れたのは三機のマシーン。三人はそれぞれ乗り込む。
「ふふふ…驚いたか!だが、まだまだこれからだ!いくぞ、ピラフマシーン・合体!」
三機は折り重なるように結合し、一機の巨大なロボットと化した。
「わはははは!これこそがこのピラフ様の最終最強の兵器の姿だ!我々はこれによって既に十人ものヒーローを
地獄へと送っている。貴様ら弱小組織の怪人如き一捻りだ、はーっはっはっはっはっは!」
高笑いするピラフ。しかし、アーマータイガーとヨロイジシはそんな彼らを興味なさそうに一瞥するのみだ。
「なんか…大したことなさそうだな、お前ら」
「うむ。残念ながら、お主らでは我々の相手は務まらんでござる」
「精々ほざくがよい…死ねぇっ!」
横薙ぎに叩きつけられる鋼鉄の腕―――アーマータイガーはそれを、かわそうとはしなかった。
ただ、軽く腕を上げた。タクシーを呼び止めるような、気楽な態度で。
ただそれだけで、あっさりとピラフマシーンの一撃は受け止められた。
「な…」
「おいおい、なんだよこりゃ。レッドの拳に比べりゃ、蚊が刺したようなもんだな」
「な…ならばこれはどうだ!」
拳が変形し、銃の形になる。そこから放たれたのは、灼熱の火炎―――しかし、ヨロイジシはその炎の中で、平然
としていた。そして裂帛の気合いを放ち、一瞬にして炎を消し飛ばす。
「ふん!太陽の戦士であるレッドを相手にしている拙者に、この程度の炎が通じるとでも思ったでござるか?」
「う、うう…」
怖気づくピラフを尻目に、猛獣達は狩りを開始した。ピラフマシーンの両腕部を引っ掴んで、力任せに引き千切る。
すぐさま態勢を整え、同時に強烈なタックルをかける。ピラフマシーンは吹っ飛ばされ、塀に叩き付けられた。
「ち…ちくしょう…お前らなんぞに…負けるわけがないんだぁぁぁぁーーーっ!」
死に物狂いで渾身の体当たりをぶちかました―――だが。
アーマータイガーとヨロイジシは、それすらも平然と受け止めた。
「これまででござるな。もはやお主らに勝機はなかろう」
「そ…そんな、バカな…お前らはヒーローにやられてばっかの弱虫のはずじゃ…」
「どうやらお前らみんなして勘違いしてるようだから、言っといてやるよ」
アーマータイガーは胸を張って宣言する。
「俺達が弱いんじゃねえ―――サンレッドが強えんだよ!」
「ちょっと情けないがそういう訳でござる。残念だったでござるな」
そして最強の虎と無敵の獅子は、野獣の速さで大地を蹴る!
「アーマータイガー必殺―――<タイガー殺法>!」
「ヨロイジシ必殺―――<シシ落とし>!」
―――二大怪人の奥義が炸裂し、ピラフマシーンは盛大に爆発したのだった。
「何の話ではござらん。拙者とお主で組んでサンレッドと闘う相談であろう」
ああー、とアーマータイガーは得心した。
「その話、俺らが風邪でダウンしてお流れになったんじゃなかったのかよ」
「馬鹿者め。まだサンレッドと闘ってすらおらんのにお流れになるわけなかろう」
「へっ!こんなライオン野郎と組むより、俺一人でやった方がまだマシだっての」
「おうおう、弱い虎ほど吼えるでござる。サンレッドにベキベキにのされたのは何処のどいつかな?」
「うるせえ!てめえなんて一週間に二回もバキバキに折られたくせに!」
「何を、このアーマーが!」
「くたばれ、このヨロイが!」
遂には取っ組み合いになる二匹であった。ちなみにアーマーもヨロイも意味は同じである。
「くっくっく―――これが悪の組織の構成員とは笑わせる。どうやらフロシャイムとやらは深刻な怪人材不足らしい
のお?ヒーロー一人程度にいいようにやられるわけだわい」
「「あん!?」」
嘲りの言葉に、ケンカを中断して二匹は振り向く。そこにいたのは例の三人組―――ピラフ一味。
「私は世界の帝王・ピラフ様だ。今日よりこの地は我々の支配下に置かれる―――ありがたく思えぃ!」
二匹は<よくいる可哀想な人だな>と判断し、構わずケンカを再開した。
「アフリカ帰れ、このエセ武士が!」
「ベンガルに帰省しろでござる、このダメ虎が!」
「聞いてないですよ、こいつら…」
「完全に無視されてますね、我々…」
「こら貴様ら、こっちをちゃんと向け!」
「てめえのヨロイ全然似合ってねーんだよ!」
「お主のアーマーはまるで着こなしがなってないでござる!」
「き、き、き、貴様らー!人の話は最後まで聞きなさいとお母ちゃんに言われんかったのかー!?」
「あ…ヴァンプ様に言われた、それ」
「拙者も言われたでござる…」
やっとこ二匹はピラフ一味へと向き直った。ピラフは怒鳴ったせいで肩で息をしながらも力強く言い放つ。
「我々は世界征服を企む悪党集団・ピラフ一味だ!これよりこの地を足掛かりに、世界を我が手に掴む!そのため
には邪魔なヒーローと、貴様らフロシャイムには滅んでもらおう!」
「え…?あんたらが?ははは、そりゃ無理だって。あんたらじゃとてもレッドの野郎にゃ勝てねーよ」
「それどころか、拙者達を倒すこともできんでござろう」
「ふ…そんなことをほざいていられるのも今のうちだ。行くぞシュウ、マイ!」
「「はっ!」」
三人(正確には二人と一匹)は謎のカプセルを取り出し、ボタンを押しながら地面に投げる。ボワンと煙が立ち昇り、
現れたのは三機のマシーン。三人はそれぞれ乗り込む。
「ふふふ…驚いたか!だが、まだまだこれからだ!いくぞ、ピラフマシーン・合体!」
三機は折り重なるように結合し、一機の巨大なロボットと化した。
「わはははは!これこそがこのピラフ様の最終最強の兵器の姿だ!我々はこれによって既に十人ものヒーローを
地獄へと送っている。貴様ら弱小組織の怪人如き一捻りだ、はーっはっはっはっはっは!」
高笑いするピラフ。しかし、アーマータイガーとヨロイジシはそんな彼らを興味なさそうに一瞥するのみだ。
「なんか…大したことなさそうだな、お前ら」
「うむ。残念ながら、お主らでは我々の相手は務まらんでござる」
「精々ほざくがよい…死ねぇっ!」
横薙ぎに叩きつけられる鋼鉄の腕―――アーマータイガーはそれを、かわそうとはしなかった。
ただ、軽く腕を上げた。タクシーを呼び止めるような、気楽な態度で。
ただそれだけで、あっさりとピラフマシーンの一撃は受け止められた。
「な…」
「おいおい、なんだよこりゃ。レッドの拳に比べりゃ、蚊が刺したようなもんだな」
「な…ならばこれはどうだ!」
拳が変形し、銃の形になる。そこから放たれたのは、灼熱の火炎―――しかし、ヨロイジシはその炎の中で、平然
としていた。そして裂帛の気合いを放ち、一瞬にして炎を消し飛ばす。
「ふん!太陽の戦士であるレッドを相手にしている拙者に、この程度の炎が通じるとでも思ったでござるか?」
「う、うう…」
怖気づくピラフを尻目に、猛獣達は狩りを開始した。ピラフマシーンの両腕部を引っ掴んで、力任せに引き千切る。
すぐさま態勢を整え、同時に強烈なタックルをかける。ピラフマシーンは吹っ飛ばされ、塀に叩き付けられた。
「ち…ちくしょう…お前らなんぞに…負けるわけがないんだぁぁぁぁーーーっ!」
死に物狂いで渾身の体当たりをぶちかました―――だが。
アーマータイガーとヨロイジシは、それすらも平然と受け止めた。
「これまででござるな。もはやお主らに勝機はなかろう」
「そ…そんな、バカな…お前らはヒーローにやられてばっかの弱虫のはずじゃ…」
「どうやらお前らみんなして勘違いしてるようだから、言っといてやるよ」
アーマータイガーは胸を張って宣言する。
「俺達が弱いんじゃねえ―――サンレッドが強えんだよ!」
「ちょっと情けないがそういう訳でござる。残念だったでござるな」
そして最強の虎と無敵の獅子は、野獣の速さで大地を蹴る!
「アーマータイガー必殺―――<タイガー殺法>!」
「ヨロイジシ必殺―――<シシ落とし>!」
―――二大怪人の奥義が炸裂し、ピラフマシーンは盛大に爆発したのだった。
「う…うぐぐ…くそ…」
二人が立ち去った後、残骸の中からようやくのことでピラフ達は這い出してきた。
「ピラフマシーンが、こんなにあっさりやられるなんて…」
「あいつらが勝てないなんて、天体戦士サンレッドってのはどんだけ強いんですかね…」
「バカもん、何を弱気になっとるか!奴らめ、このままではすまさんぞ。今に見ていろフロシャイム、全滅だ…」
そう言いかけた時だった。首筋に強烈な電撃を受け、ピラフ達は一瞬にして失神・昏倒する。
「…国際的テロリスト・ピラフ一味、確保」
背後に立っていたのは、少年―――まだ十代半ばにして既にその身体には硝煙の香りがこびり付いていた―――
そう、彼こそはボン太くんの中身である。
闘いを静観していた彼は三人の背後から近寄り、素早くスタンガンを押し当てたのだ。
「ここ数年に渡って裏の世界を震撼させてきたテロリストも、最後は呆気ないものだな…」
ヒーローを十人倒したという彼らの自己申告は、決してハッタリではない。少年にとっては因縁の敵だった、とある
<史上最悪の男>には流石に劣るが、それでもその悪名は闇社会に轟いていたのだ。無論、彼の所属している
<正義の秘密組織>においても、一味は危険な集団としてマークされていたのだ。
「だが真に恐るべきはそれをあっさり捻じ伏せたフロシャイム…もしあの力が罪なき人々に向けられれば、恐ろしい
事態になりかねん」
眉根を寄せて呟く少年。実を言うと彼は、自分の任務について疑問を持ち始めていた所だったのだ。
悪の組織という割にはまるで悪事を働かないし、将軍に至っては悪の幹部というよりカリスマ主夫だ。まさか上官は
フロシャイム側と何らかの癒着をしているのではないかという疑惑さえあったが、今まさに全てを理解した。
「俺の正体は既に気付かれている…!」
だからこそ奴らは警戒し、悪事を控えていたのだろう。上官も言っていたではないか、連中は巧みに立ち回り、証拠
を決して残さないと。そうでないなら、あれほどの力を持っていながら悪を行わない理由がない。
「あのケーキも、恐らくは毒が仕込まれていたに違いない…!」
迂闊だった。完全に油断していた。敵陣で出された食物に手を付けようとは!もしもあれを口にしていれば、今頃は
自分の命はなかっただろう。そしてまんまと邪魔者を始末したフロシャイムは、再び邪悪な本性を露わにしていたで
あろう。そう思うと、己の甘さに忸怩たる思いが込み上げる。
―――言うまでもないが、これらの想像は全て壮大な思い過ごしである。
「これから先は、もっと慎重に動くべきだな…おっと、その前にこいつらの身柄を引き渡さねば」
少年は三人を引きずり、雑踏の中へと消えた。
ピラフ一味の野望、ここに潰える。
二人が立ち去った後、残骸の中からようやくのことでピラフ達は這い出してきた。
「ピラフマシーンが、こんなにあっさりやられるなんて…」
「あいつらが勝てないなんて、天体戦士サンレッドってのはどんだけ強いんですかね…」
「バカもん、何を弱気になっとるか!奴らめ、このままではすまさんぞ。今に見ていろフロシャイム、全滅だ…」
そう言いかけた時だった。首筋に強烈な電撃を受け、ピラフ達は一瞬にして失神・昏倒する。
「…国際的テロリスト・ピラフ一味、確保」
背後に立っていたのは、少年―――まだ十代半ばにして既にその身体には硝煙の香りがこびり付いていた―――
そう、彼こそはボン太くんの中身である。
闘いを静観していた彼は三人の背後から近寄り、素早くスタンガンを押し当てたのだ。
「ここ数年に渡って裏の世界を震撼させてきたテロリストも、最後は呆気ないものだな…」
ヒーローを十人倒したという彼らの自己申告は、決してハッタリではない。少年にとっては因縁の敵だった、とある
<史上最悪の男>には流石に劣るが、それでもその悪名は闇社会に轟いていたのだ。無論、彼の所属している
<正義の秘密組織>においても、一味は危険な集団としてマークされていたのだ。
「だが真に恐るべきはそれをあっさり捻じ伏せたフロシャイム…もしあの力が罪なき人々に向けられれば、恐ろしい
事態になりかねん」
眉根を寄せて呟く少年。実を言うと彼は、自分の任務について疑問を持ち始めていた所だったのだ。
悪の組織という割にはまるで悪事を働かないし、将軍に至っては悪の幹部というよりカリスマ主夫だ。まさか上官は
フロシャイム側と何らかの癒着をしているのではないかという疑惑さえあったが、今まさに全てを理解した。
「俺の正体は既に気付かれている…!」
だからこそ奴らは警戒し、悪事を控えていたのだろう。上官も言っていたではないか、連中は巧みに立ち回り、証拠
を決して残さないと。そうでないなら、あれほどの力を持っていながら悪を行わない理由がない。
「あのケーキも、恐らくは毒が仕込まれていたに違いない…!」
迂闊だった。完全に油断していた。敵陣で出された食物に手を付けようとは!もしもあれを口にしていれば、今頃は
自分の命はなかっただろう。そしてまんまと邪魔者を始末したフロシャイムは、再び邪悪な本性を露わにしていたで
あろう。そう思うと、己の甘さに忸怩たる思いが込み上げる。
―――言うまでもないが、これらの想像は全て壮大な思い過ごしである。
「これから先は、もっと慎重に動くべきだな…おっと、その前にこいつらの身柄を引き渡さねば」
少年は三人を引きずり、雑踏の中へと消えた。
ピラフ一味の野望、ここに潰える。
「へっ…中々やるじゃねえか、お前も。少しばかり見直したぜ」
「ふ…お主も、意外と骨があるでござるな」
闘いを終えた二匹は、互いに褒め称え合う。共に潜り抜けた視線が、その距離を僅かながら縮めたようである。
「今なら俺達、レッドにだって勝てそうな気がするぜ…」
「うむ。悪くとも、いつものようにズタズタにはされぬはず…む!噂をすれば!」
二匹は見知った背中を発見し、勢いよく駆け寄る。
「レッドさーん!」
「お?なんだよ、お前ら。今日はやけにご機嫌じゃねーか」
言うまでもなく我等がヒーロー・天体戦士サンレッド―――ちなみに今日のTシャツは<ドラゴン○ール改>。
「レッドさん、お願いがあります!今すぐ、俺達と対決してください!」
「はあ?今すぐ?気が乗らねーなー…」
「拙者からもお頼み申し上げる。今の我々は、はっきり言ってレッドさんにも勝てる気がするでござる!」
「何ぃ?大きく出やがって、このヤロー」
やる気満々な二匹に、どうやら無気力ヒーローのレッドにも思う所があったらしい。にやりと笑うと、拳をポキポキ
と鳴らしながら、悠然と挑発する。
「面白ぇ…ちったぁ骨のあるとこ見せろよ、ヘボ怪人共!」
「ふ…お主も、意外と骨があるでござるな」
闘いを終えた二匹は、互いに褒め称え合う。共に潜り抜けた視線が、その距離を僅かながら縮めたようである。
「今なら俺達、レッドにだって勝てそうな気がするぜ…」
「うむ。悪くとも、いつものようにズタズタにはされぬはず…む!噂をすれば!」
二匹は見知った背中を発見し、勢いよく駆け寄る。
「レッドさーん!」
「お?なんだよ、お前ら。今日はやけにご機嫌じゃねーか」
言うまでもなく我等がヒーロー・天体戦士サンレッド―――ちなみに今日のTシャツは<ドラゴン○ール改>。
「レッドさん、お願いがあります!今すぐ、俺達と対決してください!」
「はあ?今すぐ?気が乗らねーなー…」
「拙者からもお頼み申し上げる。今の我々は、はっきり言ってレッドさんにも勝てる気がするでござる!」
「何ぃ?大きく出やがって、このヤロー」
やる気満々な二匹に、どうやら無気力ヒーローのレッドにも思う所があったらしい。にやりと笑うと、拳をポキポキ
と鳴らしながら、悠然と挑発する。
「面白ぇ…ちったぁ骨のあるとこ見せろよ、ヘボ怪人共!」
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
(なおアーマータイガーとヨロイジシは、いつも通りにレッドさんにメタメタにされました)
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
(なおアーマータイガーとヨロイジシは、いつも通りにレッドさんにメタメタにされました)