SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ しけい荘大戦 第三十四話「ダヴァイッ!」


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 飛んでくるのは軽快なジョークでもなければ、陽気な笑い声でもない。荒海を狩猟場と
してきた戦士による、純度百パーセントの闘争心のみ。シコルスキーの意地と底力が、つ
いにゲバルの全力を引き出した。
 立ち上がったシコルスキーは、たちまち背筋が凍りついた。
「これが、ゲバルの本気……。ここから……ってワケか……ッ!」
 海賊時代の化粧を施し、より引き締まった肉体を手中にしたゲバル。格段に上昇した戦
力は、ゲバルの間合い(エリア)内の空間を捻じ曲げるほどだ。
 歪曲した領域に、シコルスキーは切り裂く拳とともに果敢に侵入を果たす。
「出航(ふなで)の刻(とき)」
 ゲバルは竜巻になった。遠心力をたっぷりと吸収した右フックが、シコルスキーの頬骨
にめり込む。風車のように横に一回転したシコルスキーの顎には、待ちかねていた左アッ
パーが来訪する。
 首を根こそぎ引っこ抜きかねない一撃だった。
 血液の鉄臭い風味と砕けた歯のざらつきが口中に広がる。
 顎を打ち抜かれたシコルスキーは軽く五メートルは打ち上げられ、バウンドするくらい
に激しく地面に激突した。
「──グハァッ!」
 横たわり痙攣するシコルスキーに対し、ゲバルは無情に間合いを詰める。
「ヤイサホー」
 両の拳はがっちりと固められている。仕留めるつもりだ。
「ヤイサホォォッ!」
 雄叫び一閃。下段突きが放たれようとする刹那、シコルスキーはまだ命令を聞く両手の
指に全神経を注いだ。
「うおおおおッ!」
 落とされ、突き刺さる拳。
「ほう……」
 下段突きは外れていた。シコルスキーは五指を駆使しての逆立ちで、かろうじてだが突
きの軌道から逃れていた。
 これまでのゲバルならば、攻撃をかわしたシコルスキーをあえて褒め称えるくらいの余
裕を示したにちがいない。が、本気となったゲバルにあるのは「立ち上がったのなら倒す」
という一念しかない。
 猛攻再開。ゲバルの高速タックル、を読んでいたシコルスキーは膝をぶつけるが、屁と
もせずゲバルは腰に組みついた。
「グゥ……ッ!」
 ゲバルはボディスラムの体勢でシコルスキーを持ち上げると、なんとへヴィ級一人を抱
えたまま己の身長以上に跳び上がった。頂点に達すると、シコルスキーを頭から投げ落と
す。投げ落とされたシコルスキーの水月に、自らも膝から落ちるという徹底振り。
「ぐえぇっ! ──ゴアッ! ……ガハッ、ごほォッ!」
 血を伴った咳が止まらない。どうやら内臓をやられたようだ。
 だが、シコルスキーはくじけない。長年しけい荘でいじめ抜かれた肉体はまだ戦える。
 死に瀕していても、決して屈しないシコルスキーに、ヒートアップしていたゲバルがふ
と我に返る。
「同じだ」
 同じだ。
 米国にいいように利用され、資源も誇りも奪われ、生ける屍と化していた故郷。ゲバル
を指導者として立ち上がり、息を吹き返しつつあるあの国と同じだ。
 さらにゲバルは、シコルスキーの背後に彼を支えるしけい荘住民たちを認めた。そこに
は他ならぬゲバル自身も加わっていた。
 ゲバルはシコルスキーを打ちのめすと同時に、支えていた。
「ありがとうよ……。俺をまだ、しけい荘の一員だと認めてくれているのか」
 吹きつける心地よい夜風が、ゲバルの心境をとてもよく表していた。
「やれるか、シコルスキー」
「やれるさ、ゲバル」
 シコルスキーはゆっくりと息を吸い込むと、大気に我が身を溶かすかのように両腕を一
杯に広げてみせた。
 ──雄(オス)が吼える。


「ダヴァイッ!」


 ゲバルが立ち竦んだ。ほんの一瞬、脳細胞の一派が闘争を強く拒んだ。なぜならコンマ
一秒にも満たぬ間ではあったが、かつてゲバルが強敵と認めただれよりもシコルスキーが
巨大に映ったのだから。
 しかし、「来い」と誘われたのだから、行くしかあるまい。
「ヤイサホォーッ!」
 勇気を拳に変え、ゲバルが猛スピードで攻撃に打って出る。
 待ち受けるシコルスキーは体を真横にし、左手を前方に突き出し、右手の五指は腰に据
える。唯一張り合える要素である五指に神経を集中させ、じっと待つ。
 ゲバル、振り下ろし気味のワイルドな右フック。当たれば昏倒は免れない。
 拳の風圧に体温を感じるほどギリギリで掻い潜ると、シコルスキーは極限にまで磨き上
げた五指を熊手のように──
「ッダアァッ!」
 ──ゲバルの腹部に狙いを定め、刺す。
「ぐふぅっ……!」
 ゲバルの鋼の腹筋に、穴が開いた。数は指の数と同じく、五つ。
「今のは……そ、槍術……ッ?!」
「少しかじったことがあってな……。試しにとやってみた」
 ある一人の人間に鍛えられ続けた指たちが、信仰に応え、五又の槍として炸裂した。
 五つの穴から噴き出る血。さすがにダメージは深かったのか、ゲバルの動作に初めて鈍
りが生じる。
 シコルスキーの次なる標的(ターゲット)は、喉。
 右手親指が、ゲバルの喉に根元までぶっすりと捻り込まれた。──が、ゲバルはシコル
スキーの手首を掴み、力ずくで引き剥がそうとする。
「甘いな。これくらいじゃやられんぜ……」
「俺の親指は釘だ……釘は──」シコルスキーは残る左拳を金槌代わりに、喉に刺さった
親指に叩きつける。「打ち込むもんだッ!」
「グホァッ!」釘に化けた指が、限界まで押し込まれる。
 気管に決定打を受け、悶えるゲバルにシコルスキーはフルパワーでの右ストレートを直
撃させる。
「───!」
 なのに、ビクともしない。まるで両足から根が生え、地球の中心と繋がっているかのよ
うな安定感であった。
「教えよう、シコルスキー」
 喉を痛めた声で、教師のような貫禄を以って語りかけるゲバル。
「教える……だって?」
「地球が平面ではなく、球体だということを」
 厳かに告げられた知識は、小学生でも知っているような常識だった。ところが、シコル
スキーは知ることになる。
 疾風の足払いによって、シコルスキーの体がゲバルの真上にまで浮かび上がる。
「地球の中心にある支え中の支え──」
 地中から、ゲバルを求めて駆け登る未知の力。
「核の硬さをッ!」