SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ しけい荘大戦 第三十三話「ヤイサホーッ!」


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 一枚のバンダナをきっかけに、二人の闘士は期せずして「ルーザールーズ」の形を取っ
ていた。
 元々はゲバルがしけい荘に広めたゲームであり、シコルスキーもルールは知っている。
 かといって、二人がバンダナを握り合ったのは偶然に過ぎない。ルーザールーズを始め
る義務はどこにもない。
 しかし、なぜかどちらもバンダナから指を離そうとはしない。
 すでに二人の間で暗黙のルール変更は成されていた。
「俺もルーザールーズはずいぶんやったが、こういう始まり方はさすがに経験したことが
なかったな」
「天の上にいる誰かさんが、やれっていってるのかもしれないな」
「……だったら、なおさらやらないと天罰が下るな」
「じゃあ始めようか」
 規格外のピンチ(つまむ)力を二つも受け、バンダナが軋む。偶然か、はたまた必然か、
神が命じた天然ルーザールーズが幕を開ける。

 間合いはバンダナの長さと同じ。手を出せばほぼ百パーセント当たり、手を出されれば
逃げる術はない。以前シコルスキーがやったようにバンダナを放棄してしまえば逃れるの
は容易いが──
 ──あるはずがない。
 嫌々やらされているのならばともかく、これは自ら望んだ勝負。敗けられるはずがない。
まして指自慢の二人にとって、ルーザールーズは得意分野を生かす絶好の機会。勉強嫌い
だが運動神経抜群の子供が体育の時間だけは張り切るように、二人は必要以上に張り切っ
ていた。
 テレフォン気味なシコルスキーの肘が、ゲバルの額を打ちつけた。いきなりの出血。
 血を拭うこともせず、ゲバルは右アッパーを繰り出す。まともに喰らうが、シコルスキ
ーの指はバンダナをしっかり掴んでいる。
 シコルスキーは着眼点を変え、左ローキックでゲバルを痛打する。
 対するゲバルは頭突き。シコルスキーの鼻と口に額がめり込み、血まみれになる。
 血に動じることなくシコルスキーは頼みの五指でゲバルの顔面を掴んだ。万力のような
アイアンクローがゲバルを締めつける。
 頭蓋骨を圧縮するような激痛に、ゲバルが冷や汗を浮かべる。鳩尾への膝、右ハイ、喉
への一本拳でようやくクローは外れた。さらにゲバルは大きく拳を下げてからの全力スト
レートを放つ。
「グハァッ!」
 大きく後ろにのけぞるシコルスキー。が、左手だけはバンダナを離さない。しかものけ
ぞった体勢を利用し、弓矢のように体をしならせ、勢いを利用したヘッドバッドでゲバル
の顎を打ち抜く。
 がくんと膝を落としたゲバルのこめかみに、掌底による強打。
 連れ去られかけた意識を繋ぎ止め、ゲバルはシコルスキーに右フックを叩き込んだ。
 ダメージを受ければ受けるほど、両者に内蔵されたエンジンが熱を発する。
 殴り合い、殴り合い、殴り合い、殴り合い、殴り合う。
 血飛沫が舞い、歯が欠け、意識が白黒する。なのに、互いの指だけは一向にバンダナか
ら離れる気配はない。
 永久に続いてもおかしくなかったルーザールーズは、予期せぬ展開に見舞われる。
 相反する重力に逆らい切れなくなったバンダナが、自壊を選択したのである。

 繊維が弾ける音とともに、ルーザールーズの要であるバンダナが真っ二つに裂けてしま
った。殴り合いに夢中になっていた二人は突如現実に引き戻され、呆然としてしまう。
 いち早く気持ちを切り替え、まだ余力を残すゲバルはバンダナを風に散らす。
「せっかく盛り上がってきたところだってのに……。残念ながら引き分けか」
 しかし、シコルスキーはか細い声でささやいた。
「いや……俺の勝ちだ」
「なんだと?」
「俺はまだ……つまんでいる……」
 絶え絶えに息を吐き出し、シコルスキーはルーザールーズで歪んだ骨格を笑みに変えた。
シコルスキーの指には、裂けたバンダナがしっかりと握られていた。
 この瞬間、ゲバルの時間が止まった。
 ルーザールーズの勝敗はどちらかがハンカチを離した時点で決まる。つまり今回のルー
ザールーズ、敗者は明らかに自分だった。シコルスキーはバンダナが千切れてもなお、名
誉を手放さなかったのだから。
 否、不覚はそれだけではなかった。ゲバルはこの期に及び、内心ではシコルスキーを格
下扱いしていた自分に気づいた。ルームメイト同士の決闘というドラマチックな展開に加
え、天然ルーザールーズという神の悪戯。これらをゲバルを楽しんでいた。本気ではなか
った。肉体こそ全力駆動させていたが、心は遊んでいた──。だから、敗れた。
 敵の覚悟と己の慢心に、深く激しく打ちのめされるゲバル。
 シコルスキーが跳びかかる。
 ドロップキック、一撃目──。
 目と鼻と口を押し潰し、埋め込まれる両足。ゲバルは体ごと弾き飛ばされ、背後にあっ
たワゴン車に叩きつけられる。
 ドロップキック、二撃目──。
 鈍い音と鋭い音が混ざった。再来した両足によって、ゲバルは後頭部からワゴン車のド
アとガラスに突っ込んだ。
 ドロップキック、三撃目──。
 ドアとガラスをぶち破り、ゲバルはワゴン車の中に叩き込まれた。無数に舞うガラス片
がシコルスキーを祝福する。
 激しい攻撃でワゴン車が崩れる。座席に寝そべったゲバルの上に、屋根が凄まじい勢い
で墜落する。
 ルーザールーズの勝敗が、まさしく結末に繋がった。
 死闘は決着した。


「ヤイサホーッ!」


 死闘は決着してはいなかった。
 ワゴン車の残骸から発生した雄叫びに、大気が怯え出す。脅威のドロップキック三連発
を受けてなお、倍増するゲバルの闘気。
「月夜の晩にィィ」唄が流れる。
「ヤイサホーッ」
「錨を上げろォォ」残骸から右手が生えた。
「ヤイサホーッ」
「嵐の夜にィィィ」次いで左手。
「ヤイサホーッ」
「帆を上げろォォ」まもなく半身が突き出る。
「ヤイサホーッ」
「星を標にィィ」両手の指を顔中にこすりつける。
「ヤイサホーッ!」
「宝に向かえェェ」血と泥による化粧が完成する。
「ヤイサホーッ!」
「ラム酒はおあずけェェ」全身が残骸から飛び出した。
「ヤイサホーッ!」
「鉄を焼けェ~」疾走する。
「ヤイサホーッ!」
 風に身を捧げ、自らも突風と化したゲバルの速度は人間(ヒト)を超えていた。猛突進
の勢いを僅かも殺さずに放たれた前蹴りは、シコルスキーの腹筋を一直線に射抜いた。
「慎み深くをハネ返し~耐えて忍ぶを退けろォ」
 衝撃は内臓、背骨を貫き、シコルスキーを十メートルは後方へ運ぶ。
「満ち足りることに屈するなァ」
 血に飢えた危険な光を宿す両目。封じていた凶暴性を出し惜しみせず解放し、ゲバルが
仁王立ちする。
「満ち足りないとなおも言えェ」
 母なる海が、輝く財宝が、愛する故郷が、ゲバルの目には映っている。