SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ しけい荘大戦 第三十一話「BOMB」


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 新たな助っ人。しかも二人。しなびていたボッシュの開拓精神に、再び火が灯り、つい
でにガソリンが浴びせられる。
「よォし、君たち! 早くこいつら二人を倒し、私を助け出すのだっ! さすれば、君た
ちのアメリカンドリームを盛大に叶えてやろう!」
 訳が分からないことをまくし立てるボッシュ。
 どのように運命が作用すればこの男が米国大統領になれるのか。二十一世紀における世
界七不思議に認定しても良いくらいだ。
「さァ、シコルスキー君とえぇと……イギリス人らしき人! ミーのために存分に戦って
くれたまえっ!」
 とうとう一人称が「ミー」になった。しかしながら、ドイルをイギリス人と見破った観
察眼は伊達ではない。とにかく放っておくといつまでもわめきそうなので、うんざりした
ゲバルは強硬手段に出る。
「ボッシュ……少し黙ってろ」
 一本拳をこめかみに軽くぶつける。すると、ボッシュは電池が切れた玩具のようにぐっ
たりしてしまった。
「こ、殺しやがった!」仰天するシコルスキー。
「安心しろ、失神させただけだ。レッセンもこいつを担いだまま戦うわけにもいくまいし、
逃げられでもすると面倒だからな」
 レッセンはボッシュを丁重に降ろすと、さっそく二人めがけて殺気を放出する。ゲバル
の影を演じていたが、やはり相当な実力を秘めている。
 非凡な殺気に惹かれたのか、ドイルもまたレッセンに矛先を向ける。
「シコルスキー、ゲバルはおまえに任せてやる。私はあのハリウッド俳優みたいな付き人
を相手する」
「ドイル……」
 ドイルも本音はゲバルと戦いたかったにちがいない。が、シコルスキーの並々ならぬ闘
志に免じて、メインを譲った。
「レッセン対ドイル、か。ではシコルスキー、我々は場所を移すとしようか」

 二人きりとなった両雄。レッセンは両拳を縦に重ねる構えを取るが、対するドイルは構
えを取らない。両手をだらりと下げ、立っているだけだ。
「ミスタードイル、なぜ構えない。私をナメているのか。あるいは構えを必要としないス
タイルなのかな?」
 この問いをドイルは黙殺する。
 答えはどちらでもなかった。むしろレッセンを強敵と判断したゆえの策だった。
 ドイルがガーレンから受けた傷は決して軽くはなかった。彼の怪力によって体内に仕込
んだ武器(タネ)に接触不良が起こっており、故障を詳しく調べる時間もなかった。
 ゆえにドイルは油断を誘うため、あえて構えない。胸板に仕込まれた最大の切り札で終
わらせるために。
「──いざッ!」
 レッセンが仕掛ける。力強い踏み込みから、まっすぐ直突きを狙っている。
 後手のドイル。反撃に出る。といっても親指のスイッチを始動させる、数ミリの動作。

 ──爆破。

 ドイルの胸から猛烈な熱風が吐き出された。いかなるタフネスであろうとこれを喰らえ
ばひとたまりもない。
 もう勝負ありか──否。
 目には目を、歯には歯を。最凶の手品には、最速の手品を。
 瞬時に上着をはぎ取り、振りかざし、盾とするレッセン。生地本来の防熱仕様とレッセ
ンの素早い動作によって、押し迫る炎熱はみごとに弾き飛ばされた。
「対爆薬の訓練は積み重ねている」
 防御に使われた上着は当然の如くドイルに投げつけられ、目くらましとして再利用され
る。
「くっ!」
「しけい荘のことはボスから聞き及んでいた。あなたが体中に武器を仕込んでいることも。
短期決着を目論んでいたのだろうが、それはこちらも同じ。早いところ終わらせてボスに
加勢せねばならん」
「フン……やってみろよ。やれるものならな」
 ドイルは左肘の刃で上着を切り裂き、突っかけたレッセンに右拳でカウンターを取る。
「グァッ!」
 もう一丁。怯んだレッセンに、鋭い左ハイによる追い打ち。ガードさせた右腕を痺れさ
せるほどの一撃。
「手品師はタネだけじゃないんだぜ。ちゃんと本人の技術も鍛えなきゃ、客を沸かせるこ
とはできない」
 切り札を完璧に防がれたドイルにショックがないといえば嘘になる。しかし、ガーレン
をも追い詰めた体術で、したたかに流れを呼び戻す。ボクシングの基本技術、ワンツーか
ら、華麗な胴廻し回転蹴りで顔面を穿つ。
「──がふゥッ!」
 完全なるドイルペース。なのに、レッセンは不気味に嗤(わら)った。
「ミスタードイル。これから私とあなたの決定的な差を教えよう」
「ほう……?」
 突如、レッセンは地面を叩きつけるように蹴りつけた。すると蹴り飛ばされた黒い物体
が飛来し、ドイルの両目に柔らかく触れた。
 ダメージはない。気にせずドイルは戦闘を再開しようとする。
 そしてドイルは気づく。レッセンの策はすでに完了していたという事実に。
 闇。
 目蓋を大きく広げてみる。
 闇。
 目をこすってみる。
 闇。
 レッセンの打撃が、ドイルの鳩尾を貫く。回避や防御はおろか、覚悟すらできず。
「ゲハァッ! ごほっ、目が、目が……見えねェ……」
「今、目に当てたのは、ミスター柳が捨てた毒が塗られた手袋だ。決定的な差とは、私は
先ほどのボスと柳のファイトを始終目撃していたということだ」

 光を奪われたドイル。もしドイルもゲバルと柳の死闘の概要を知っていたなら、毒手グ
ローブをむざむざ喰らうことはなかっただろう。
 すかさず背後に回り込み、無防備な首筋に強烈な突きを叩き込むレッセン。
「グハァッ!」
 レッセンのえげつない猛攻は続く。もうひとつ後頭部にハイキックを浴びせ、うつ伏せ
にダウンしたドイルの背骨めがけエルボーを叩き落とす。足でドイルを裏返すと、喉に向
けて踵をぶつける。瞬く間に瀕死に追い込まれるドイル。
 体内配線を通じ作動する、肩甲骨周辺に埋め込まれたスプリング。これにより強引に跳
ね起きるドイルだったが、劣勢が覆るわけでもない。
 忍術を操るゲバル、彼の愛弟子であるレッセン。ゆえにレッセンは気配に緩急をつける
技術を叩き込まれていた。ドイルに己の座標を掴ませない。
 ましてドイルの手当たり次第としかいえない攻撃を被弾するはずがない。
 心臓、鳩尾、金的とリズミカルな三連撃から、ドイルの首を捻転させんとレッセンの両
腕が迫る。──が。
 間合いがぶつかり合った瞬間、ドイルはレッセンに全身でなだれかかり、抱きついた。
「なんだと……。まだこんな体力が──」
「安心しな。もうアンタをスマートに葬れる武器(タネ)は残っちゃいねェ……」
「スマートに……だと?」
「俺は全身に少量ずつ爆薬を仕込んでいてな……一ヶ所ずつの威力はせいぜい、虫を殺せ
るかどうかってところだ……」
「き、貴様ッ!」
 レッセンはこの時点でこれから起こることを想像できた。必死に引き剥がそうとするが、
ドイルは外れてくれない。
「あるスイッチを押すと……そいつらが全て同時起爆する仕組みになっている。……もち
ろん使った経験などねェ」
「は、放せッ!」
「行かせるかよ……。アンタが行けばあいつの勝利はなくなる。……しかし」
「待っ──!」

 大、爆、発。

 ドイルは手品の成果を喜ばしく感じていた。
 爆音とレッセンの絶叫、芳ばしい火薬の匂い、生き延びていた網膜が拾った強烈な閃光、
全身を蝕む焼けつく痛み。
 二人のための、二人だけの爆発が、ドイルとレッセンを激しく抱擁する。
 壮絶なダブルノックアウト。
 まもなくドイルはダメージで他の四感覚を失うも、味覚だけは最後まで硝煙の味を噛み
締めていた。
 味覚を司る舌はこうささやく──。
「シコ……キー……あと、は……任せ……た」