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「被害者(サナダムシさま)」(2009/02/28 (土) 22:31:13) の最新版変更点
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砂場で山を作るより、苦心して作り上げた山を破壊する方がはるかにたやすい。平和も
同じである。
永き闘争の果てに、この惑星は平和を実現させた。法律を整備し、異民族同士のわだか
まりを解消させ、戦争に使用される武器兵器の類を宇宙に永久破棄するに至った。星中が
一つとなり、新たに「平和暦」の一歩を踏み出そうとした矢先の事件であった。
惑星の中心にて、全世界から公正な選挙で選ばれた代表者によって感動的な演説がなさ
れている最中──それは起こった。
降り注ぐ閃光。大爆発。規模は半径数百キロにも及び、爆心地にいた者はむろん即死、
舞い上がった粉塵は恒星の光をさえぎる壁となり空前の氷河期を現出させ、それどころか
地軸までが狂ってしまったため気候の大異変は惑星中に及んだ。
幾千年の努力によってようやく完全平和を実現させたこの惑星は、一瞬にして平和など
とは対極の、死の星へと生まれ変わった。
わずかに生き延びた住人はこのような仕打ちをした神を呪った。
しかし、屈しなかった。
復讐心。あの爆発は宇宙人の仕業にちがいない。必ずや報復してみせる。もし本当に神
によるものだったとしたら、神だとて敵だ。
地獄とも区別がつかぬほど劣悪な故郷を、彼らは死に物狂いで再生させた。
やがて、大量の破壊兵器とともに、ついに住人たちは宇宙進出を決意した。目的はむろ
ん復讐戦に他ならない。
宇宙に出て程なくして、彼らは同志を得ることができた。
同じくいわれのない攻撃を受けた星の集まり。いわば被害者の会。程度は様々で、宇宙
船を斬られた種族もあれば、故郷の星を丸ごと失った種族もあった。共通点は、いずれの
場合でも加害者は全く姿を見せていないということだ。光年クラスの超長距離攻撃である
ことが推測される。
どうせ復讐するならば成功率が高い方が望ましい。彼らも快く仲間に加わることとなっ
た。
被害者の会はこれまでの全被害報告を徹底分析し、いったいどの方面、どの座標から攻
撃されていたのかをついに導き出した。
驚くべきことに、全ての事件の原因はほぼ同じ座標から発射された攻撃によるもの、と
いう計算結果が出た。
攻めるべき対象が絞られた瞬間だった。
「なるほど、我々を苦しめた怨敵の根拠地というわけか」
「許さぬ……宇宙から分子一つ残さず消滅させてくれよう」
「総力を挙げて出陣だ」
被害者の会による、百近い惑星の全戦力を投入した宇宙連合軍が完成した。
総数百万の艦隊に乗り込むのは、百万の百倍の精兵。
怨念を動機に造り上げられた兵器は破壊力抜群だ。巨大恒星をも一瞬で滅ぼす光子レー
ザー砲を筆頭に、光速以上で敵を追尾するミサイル、従順で小型銃を操る不死身のサイボ
ーグ軍団、さらには被害者の会メンバー以外は五秒で死滅させるウイルスも開発した。む
ろん、いずれの艦にも強力なバリアが標準装備されている。
もはや一刻の猶予もなし。恨みに燃える艦隊は、過去から現在に至るまでの憎悪を胸に
秘めて出発した。
とある惑星──。
今では平和なこの星も、かつては宇宙で一番といっても過言ではないほど危険な星だっ
た。常に内にも外にも敵を抱え、いつ滅亡してもおかしくない状態だった。
しかし、この星の勇敢な戦士たちによって、それらは全て打ち砕かれたのである。
激しい戦闘だった。「気」という名の潜在パワーを駆使して発射されるエネルギー波が
雨あられに飛び交った。
そして、敵にも地形にも当たらず大気圏外に脱出したエネルギー波は、凄まじいエネル
ギーゆえスペースデブリにも負けず、消えることもなく、宇宙のあちこちにぶつかった。
星一個を爆砕してしまったこともあるという。
もちろんこれは遠い先祖が引き起こした悲劇で、今の住人にまったく罪はない。
この惑星の住人は知らない。近い将来大軍勢によって、まるで砂山を壊すような無慈悲
さで自分たちの平和が破壊されてしまうことを。
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