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「遊☆戯☆王 ~超古代決闘神話~ 第二十七話「記憶の水底」」(2009/01/11 (日) 16:53:41) の最新版変更点
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「バカな…風神(アネモス)の加護篤き、あの城壁を…」
とても信じられないとばかりに目を見開くレオンティウス。
「しかし、あの都は東方防衛の要だ。そんなことをされて、諸国が黙っているはずがなかろう」
「はっ…当然ながら、アナトリアやマケドニア、トラキアといった国々が兵を差し向けましたが、尽く敗走に終わった
と…」
「なんと―――!どうすればそのようなことが出来るというのだ!」
「詳しくは分かりません。しかし、奴隷達を率いる首領格の二人…剣神の如き太刀を振るう<紫眼の狼>と、光輝く
白き龍を従える<白龍皇帝>。その力は、まさに神仙の業と…」
「アメジストス…<紫眼の狼>だと…まさか!」
カストルは唾を飲み込み、遊戯達に向き直る。オリオンが硬い表情で答えた。
「ああ、間違いない―――エレフだ。そして、<白龍皇帝>ってのは海馬だろうな…あのバカ共め、なんつー最悪な
ことをしてくれるんだ…」
「なんと…!エレフ…何故、お前がこのようなことを…!」
「カストル。心情は察するが、嘆いている場合ではないぞ」
レオンティウスは顔を引き締める。
「こうなってしまった以上、彼らを野放しにすることはできない…我々もイリオンへ赴く他あるまい」
「そんな…どうにかならないのですか!?」
思わず前に出ようとするミーシャを、城之内が止める。
「ミーシャ。こうなっちまったら、戦うしかねえよ」
「城之内…だけど、それじゃあエレフや海馬と殺し合うというの!?」
「そうは言ってねえ。けど、話し合いで解決なんざできそうもないだろ?」
「暴力で解決するのはよくないけど…今は、戦う時だよ」
オリオンと遊戯もそう続ける。ミーシャは遣る瀬無さそうに顔を伏せた。
「そう…それしか、ないのね…」
「ミーシャさん…大丈夫だよ。誰も、死んだりなんかしないよ。いや、そんなことはさせない」
遊戯はレオンティウスに向き直る。
「ボク達もあの二人と闘います。どうか、イリオンまで一緒に連れていってください!」
「止める理由はない」
レオンティウスは、首肯する。
「キミ達が力を貸してくれるというのなら、我々としても有難い。だがいいのか?友と刃を交えることになっても」
「だからこそだよ」
と、城之内。
「仲間だからこそ、オレ達があいつらの目を覚まさしてやらなきゃならねえんだ」
「…そうか」
レオンティウスは、微笑む。
「見込んだ通りのいい男だな、キミ達は…期待しているぞ、色んな意味でな」
「はい!」
元気よく返事したはいいが(色んな意味ってどういうこと?)と首を傾げる遊戯であった。
「では、早速だが戦の準備を―――」
「―――いけません!」
女性の声が響き、全員が一斉に振り向く。そこにいたのはレオンティウスの母親―――先代王妃・イサドラ。
「母上…」
「先程から、話は聞かせてもらいました…レオンティウス!死を招く紫水晶の瞳…その持ち主であるあの者とだけは、
決して闘ってはなりません…!」
「おいおい、おばさん。いきなり出てきて何言ってんだよ、あんた…」
「城之内!」
レオンティウスが、城之内をきっと睨む。
「この方は我が母イサドラである!如何にキミと言えど、無礼は赦さんぞ!」
「は、はい!ごめんなさい!」
思わず最敬礼しちゃった城之内は、ひそひそ声でオリオンに訊ねた。
「なあ、オリオン。それってやっぱ偉い人なの?」
「めっちゃ偉い」
簡潔な答えであった。
(つーか、如何にキミでもってなんだよ…なんでオレ、そんなVIP扱いなんだよ…)
「母上。一体どういうことなのですか。何故その男と闘ってはならぬと?」
「それは…」
口を開きかけたイサドラは、不意に顔を強張らせる。その視線は、ミーシャに釘付けになっていた。
「あの…何か?」
「あなたは…」
イサドラはよろめくような足取りでミーシャに近づき、その頬に手を伸ばした。
「まさか…アルテミシア…?」
「え?」
ミーシャは面食らった。
「は、はい…確かに、それは私の名ですが…」
それは間違いない。しかし、この場では<ミーシャ>と愛称でしか呼ばれていないはずだった。イサドラがミーシャ
の本名を知る機会などなかった。ならば、何故?
その疑問を口にする間もなく、イサドラはその目から、止め処なく涙を溢れさせ、ミーシャに縋り付く。
「イ…イサドラ様…?」
「おお…女神(ミラ)よ…なんということ…!」
ミーシャは困惑しながらも、イサドラの腕を振り払おうとはしなかった。
(暖かい腕…何故…?この人は、母様じゃないのに…)
彼女は何故か、思い出していた。母親に抱かれていた、幼い頃のことを。
レオンティウスや城之内、オリオンはその有様を不思議そうに見つめ、カストルは悲しげに視線を逸らした。
(相棒…)
闇遊戯が語りかけてくる。
(あのイサドラって女を見て、何か気付かないか?)
(え?ちょっとトウが立ってるけど、奇麗な人だね)
(そうじゃない!ミーシャと見比べてみろ)
そう言われて、遊戯は二人を眺める。
(…あれ?何だか、似てる?)
(ああ…どことなく、ってレベルだけどな。それにあの女、ミーシャの本名も知っていた…)
(それに加えて、ミーシャさんに対してのあの態度…)
(―――全てはまだ想像でしかないが…オレには薄々、見えてきたぜ…)
闇遊戯は、重々しく呟くのだった。
「―――レオンティウス。御覧なさい」
まだ物心つくかつかないかの頃。双子の赤ん坊をその腕に抱き締め、母は慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「雷神の血を分けた、あなたの兄弟ですよ…」
精一杯背伸びして、赤ん坊の顔を覗き込む。
泣きじゃくっている弟。すやすやと眠っている妹。
(このこたちは、ぼくのおとうとと、いもうと)
「殿下。立派な兄君におなりなさいませ」
傍にいた、アルカディア一の騎士と称えられるポリュデウケスが、肩に手を置く。
(うん。ぼくは、りっぱなあにになるよ)
「―――兄上!」
「どうした、カストル?」
ポリュデウケスの弟であるカストルが、血相を変えて駆け込んでくる。
「それが…陛下が、件の神託の件で…」
「神託…まさか…!」
「太陽が蝕まれる日に産まれしその赤子は、破滅を招く忌み仔だと…殺してしまえと…」
皆は、何を喚いているんだろう?よく分からないけど、気持ち悪かった。知らず知らずの内に、弟と妹の小さな手を
強く握りしめていた。双子は、火が付いたように泣き喚いていた。
(だいじょうぶだよ。ぼくが、まもってあげるから)
「女神(ミラ)よ…何という仕打ちを…!」
(どうしてないているの。なかないで、ははうえ)
「イサドラ様。御安心なさいませ。ここは、わたくしめに御任せを…!」
ポリュデウケスが、厳しい顔つきで近づいてくる。
「殿下…その手をお離し下さい」
(いやだ)
「殿下!」
(やめて!そのこたちをつれていかないで!)
「くっ…御赦しを、殿下!」
小さな手が、無理矢理引き剥がされた。ポリュデウケスは痛々しげに顔をゆがめ、双子を抱えて出ていく。
「カストル…殿下を頼むぞ」
兄の後姿を、カストルはただ静かに見送った。母は顔を両手で覆い、泣いていた。
自分はただ、悲しかった。
(おとうとといもうとを―――)
(つれていかないで―――)
心の奥深くに仕舞い込まれた、痛みと哀しみ。
悲劇は、ここから始まった―――
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