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「HAPPINESS IS A WARM GUN 55-2」(2008/05/13 (火) 22:58:04) の最新版変更点
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――翌日、斗貴子はロッテリやにいた。
彼女の座る窓側の禁煙席エリアはちょうど下校時間の為か、同年代の高校生達で賑わっており、
銀成学園生徒のみならず他校の生徒達の姿も見受けられる。
そして、やや仏頂面の斗貴子の向かい側には、例の久我阿頼耶。
ここが奇しくも二人が初めて出会った因縁の場所というのは、今更書き記すまでもないと思われるが。
斗貴子にいざなわれてこの店に入ってからは阿頼耶は一言も発さず、目の前のコーラにも
手を付けていない。
しかし、それはホットコーヒーを前にした斗貴子も同様だった。
無言の時は五分程も続いただろうか。
何やらモジモジとした様子で無言のままの阿頼耶を見かね、斗貴子は渋々口火を切った。
会談の場所を自らが指定した手前もある。
「あー、昨日の話だが……――」
「ごめんなさいッ!」
突如とした阿頼耶の声に周りの客達は「何事か」と振り返り、次の瞬間にはその興味を失って
自分達の会話を再開し出した。
だが、向かい合う斗貴子はそうもいかない。
「……?」
大声に対する“驚き”と言葉の内容に対する“不可解”を抱え、斗貴子はまたぞろ無言で
阿頼耶の顔を見遣る。
一言発した拍子か、阿頼耶はやや要領を得ない焦り気味の口調で、己の思うところを斗貴子に
告げ始めた。
「その、なんて言うかさ……。昨日の帰り道も、家に帰ってからも、寝る時も、ずーっと
イヤな気分だった。いつもは相手をブッ飛ばしたらすっごく気持ちが良くてさ、ケンカしてる時が
一番の幸せだって思えるくらいなんだけど……」
一度言葉を切り、コーラをストローから一口啜る阿頼耶。
フウとひとつ溜息を吐き、幾分テンションを下げながら言葉を続ける。
「昨日はそれが全然無かった……。やっぱ、あんな勝ち方だったせいっていうか、だから、
あの、自分でもよくわかんないだけど、会ったらまず一番に謝ろうかなって……。
つまり、えーっと……」
斗貴子は眼を丸くしたまま、阿頼耶の精一杯の告白を聞いている。
やがて、自分は目の前に座る人物に対する認識を改めるべきなのか、という思いと共に
顔が綻んでいくのを自覚した。
「案外カワイイ奴なんだな、キミは」
斗貴子の言葉をどのように受け取ったのか、阿頼耶は顔を真っ赤にして拗ね気味に口を尖らせる。
「カッ、カワイイって……! わたしは真面目に――」
「いや、すまない、茶化したりして。私の方も昨日から色々考えたのだが……。キミの話、
受けようと思う」
それを聞くや否や、阿頼耶の表情は花が咲いたかのような笑顔に変わった。
昨日、あれだけの無茶をやらかしたのに、それでも承諾してくれた事に感謝と喜びと疑問が
ごちゃ混ぜになってしまう。
「本当!? どうして!?」
「詳しくは説明しづらいし、上手くも説明出来ないんだが……“日常を謳歌する”と
“ぬるま湯に浸かる”は別だと気づかされた、と言ったところだ。フフッ、キミの拳も
言葉もよく効いたぞ?」
斗貴子は阿頼耶に向かって手を差し出した。
「私の方はちゃんとした自己紹介はまだだったな。津村斗貴子だ。よろしく、久我さん」
「“アラヤ”でいいわ。よろしく、斗貴子」
阿頼耶もまた斗貴子の手を力強く握る。
「話がまとまったところで……そろそろ“深道ランキング”について詳しく教えてくれないか?」
斗貴子の表情は笑顔から一転、真剣味を帯びた殺伐なものとなった。
スポーツ競技に参加するのとは訳が違う。
よく眼にする“路上のケンカ(ストリートファイト)”とも一線を画しているのではないか。
斗貴子にしてみれば、“たかがケンカ自慢”とタカを括っていた相手に、人外を倒すべき戦士である
自分が完膚無きまでにKOされたのだ。
そして、その彼女をして“化物”と呼ばせる位の猛者がひしめき合う場に身を投じるのである。
聞く者によってはお笑い種なのかもしれないが、“闘い”そのもののレベルとしては『K-1』や
『PRIDE』等のプロ選手が鎬を削る格闘大会並みだろう。
いや、もしかしたらそれ以上か。
同じく表情を引き締めた阿頼耶の方も、相応の“認識”と“覚悟”は持っている。
現在、深道ランキングに参加し、その恐ろしさを嫌と言う程知っているからだ。
「ええ、そうね。どんなものか大体はわかってもらえてると思うけど、特に詳しく説明したいのは
今回の“特別イベント”よ」
昨日言われた深道ランキングについては記憶が曖昧な部分はカズキから伝え聞いていたが、
特別イベントとは初耳だった。
「特別……?」
「ええ。本来なら深道ランキングのストリートファイトは一対一(タイマン)が原則なの。ランカー同士が
街中で顔を合わせた時に合意の上で。たまに主宰者の深道がマッチメイクする時もあるけどね。
で、勝敗によってランキングが上下するって感じ」
身振り手振りを交えながらの阿頼耶の説明は簡潔でわかりやすい。
しかし、重要なのはここからだ。
「でも、今回は違う。
わたし達二人が参加するのは“深道タッグバトル”。
ランカーが二人一組のタッグチームを組んでワンマッチ形式でファイトをするの。
深道は『深道ランキングのエンターテインメント性を追及する為の特別イベントだ』なんて言ってたけど。
タッグの組み合わせは観客のリクエストが基本で、あとは深道の推薦枠チームかな。
対戦カードは深道が決めるらしいわ。
ホントはわたしのパートナーは決まってたんだけど、ちょっとワケがあって出られなくなっちゃって……」
阿頼耶が強引に斗貴子をスカウトしたのも頷ける。
タッグパートナーがいなければファイトは成立しないし、いない以上は無理矢理にでも
探してこなければならない。
「なるほどな。しかし、深道とは何者だ? 全国規模でそんな興行性の高いプロモートが
出来るなんて……」
「さあ? 正体は全然わかんないわ。ただ、一度会ったきりだけど、わたしが見る限りでは
アイツ自身もかなり“出来る”わよ……――って、いけない!!」
「な、なんだ!? どうした!?」
突拍子も無く大声を張り上げて立ち上がる阿頼耶に、斗貴子は驚きの余り椅子から尻が少し
浮き上がった。
周りの客もまたもや「何事か」と振り返る。
まったく注目される為にこの店に入ったようだ。
「今日これから、その深道と会う約束をしてるの! アンタも一緒に!」
言うが早いか、阿頼耶は右手に鞄を、左手に斗貴子の腕を掴んだ。
そして彼女をグイグイと引っ張りながら、一秒も惜しいとばかりに出入口に急ごうとする。
どうやったらこんな状況になるまで大事な約束を忘れていられるのか理解に苦しむところだが、
それ以上に何故自分まで行かなければいけないのか斗貴子には理解出来ない。
「私もだと!? 何の為に――」
「交渉よ! 交渉! いいから早く!!」
近くにいた店員の女の子から「トレイはそのままでどうぞー」と声が掛かる。
言われなくても阿頼耶には待ち合わせ場所への移動しか頭に無く、斗貴子は片付けたくても
引っ張られ続けの状態でバランスを取るのも難しい。
「こ、こら! わかったから! わかったから手を離せぇえええええ!」
時計を見ながら焦りに焦る阿頼耶と引きずられるがままの斗貴子は、他の客達の唖然とした視線に
見送られながらロッテリやを後にした。
女二人なのに姦しさ全開とはこれ如何に。
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