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「BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN 56-4」(2008/04/29 (火) 22:28:21) の最新版変更点
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鈴木からの連絡を斗貴子が受けてから、一時間ほどが過ぎた頃。夜明けには
まだ遠く、街は暗く静まり返っている。
鈴木とグムンとバヅー、山崎と斗貴子が交戦した町外れの工事現場に、鈴木がいる。
そこへ斗貴子が走ってきた。小さな女の子を背負っている。
「おや。もっとお悩みになられるかと思っていましたが、意外と早かったですね」
セメント袋に腰掛けていた鈴木が立ち上がった。足元にはラップトップパソコンが
置かれ、無機質なスクリーンセーバーが映し出されている。
少し距離を開けて立ち止まった斗貴子に、鈴木は一枚のCDを取り出して見せた。
「こちらがお約束の品です。偽物でないという証拠に、今ここで中身をお見せします
から、よくご確認ください。その共同体所属で、過去に戦団に倒されたホムンクルスの
情報も入ってますので。それなら、この情報が本物であるという証明になるでしょう?」
鈴木はしゃがみ込み、斗貴子に背を向けてPCにCDを挿入して、操作を始めた。斗貴子
が核鉄を持っていることは知っているのだから、その斗貴子にこうも無防備に背を向ける
となると、この取引は信用していいだろう。
そう、今背負っているこの子を生贄として差し出せば、共同体の情報が手に入る。多くの
人命を救うことができるのだ。
この子一人を犠牲にすればいい。それでいいのだ。
「……ん?」
何だか妙に熱い。ここまで走ってきたからか? 違う、背負っている女の子が熱いのだ。
斗貴子は女の子を下ろして、地面に寝かせた。見れば、いつの間にか女の子の顔が
別人のように赤く染まっている。手も、足もだ。額に触れてみると、これが人間の体温かと
疑うほどの高温を宿している。
「お、おい! この子の様子が変だぞ!」
「ああ、大丈夫ですよ。ようやく毒が効いてきたんでしょうけど、まだまだ溶けやしません。
効きにくい体質の人体は、とことん効きにくいそうですから。一日や二日は体調不良が
続くだけです。もっとも、」
鈴木は斗貴子に背を向けたまま説明する。
「脳や神経が回復不能になるまでには、そんなにかかりませんけどね。でも死にはしません
から、慌てなくてもいいんです」
そう言う鈴木の背から、女の子へと視線を移す斗貴子。片膝をついて、改めて女の子の
額に手を当てる。熱い。とんでもなく熱い。
それなのに、汗は全く出ていない。異常だ。苦しそうに息を切らせているのは、
この高熱が放出されることなく、体内に強く封じ込められているからだろう。その熱が
内臓や脳を焼いて、だからこんなに……と、女の子の額に触れたまま動揺しながらも
詳細に分析する斗貴子の手に、意識のない、弱々しく震える手が重なった。
その手も熱い。そして小さい。この小さな手、弱い力で今、未知の怪物の毒と
必死に戦っているのだ。圧倒的な力をもって迫ってくる死を、目前にして。
その恐怖、その絶望、斗貴子にはよく解る。七年前のあの時がそうだった。あの時も、
どうにもならないどうにもできない状況で、ただひたすら怯えていた。
あの時、誰かがいてくれたら。助けを求めて伸ばした手を、誰かが握ってくれていたら……
「お待たせしました、津村さん。どうぞご覧下さい。これが……おや? どうされました」
しゃがみ込んでPCを操作していた鈴木が振り向くと、斗貴子は片膝を着いて俯いていて。
その手は、女の子の手を強く握っていた。
『……この子は、私とは違う。まだ、なくしていない。父さんの肩車も、母さんのおにぎりも。
私のこの手で、帰ることができる……』
「津村さん? どうしたのです?」
鈴木の問いかけに、斗貴子は女の子の顔を見つめたまま答える。
「私は、ホムンクルスを倒す為なら何でもする。手段は選ばない」
「はあ。それは錬金の戦士さんとしては当然のことなのでしょう? ですから、この取引
に乗って、その子を差し出して下さる気になったと」
斗貴子は女の子の手をそっと放すと、立ち上がった。そして、核鉄を取り出す。
「手段は選ばない、だから……たった今、お前との契約は反故にする! この子は渡さない、
だがその情報は貰う!」
斗貴子はバルキリースカートを発動させ、鈴木に襲いかかった。鈴木はそれを予測していた
かのように後方に跳んで、
「おっと。先手を取られるとは迂闊でした」
言いながら、指を鳴らす。すると地面を突き破って湾曲した刃が生え、PCを貫いた。
拾い上げようとしていた手を慌てて引っ込めた斗貴子が、身を引いて構えを整える。
刃はそのまま伸び上がり、柄と、それを握っていた手、腕、そして全身が地中から出て
きた。予想通りホムンクルスだ。
バヅーやグムンと同じく、顔は昆虫のそれだが全身のフォルムは人間に近い。黒く錆びた
鉄のような肌をして、やはり筋骨逞しいが体型はどこか女性的で、膨らみのある胸に
章印が刻まれている。頭部というか顔は細く、目つきは手にもつ曲刀のように鋭く冷たい。
そして何より目を引くのは、その刀の鍔の部分。はめこまれているのは見間違えようも
なく、核鉄だ。
「カマキリ型ホムンクルス、ガリマです。己を知り敵を知れば何とやらで、我々も武装錬金
の研究はしておりましてね。先ほどあなたから頂いた核鉄を利用させていただくことで、
ようやく現場で使用できるようになりました。それでも、まだまだ未完成ですけどね」
鈴木が懐から取り出したリモコンのスイッチを入れる。と、刀にはめ込まれた核鉄から
幾条もの電撃の糸が走り、ガリマに絡みついた。ガリマは苦悶の声を上げる。
「ご覧の通り、使用者にとんでもないダメージがいくシロモノでして。人間なら確実に即死
します。ホムンクルスであるこのガリマでさえ、既に脳をやられてロクに思考もできなく
なってます。が、それでも猟犬程度には使えますのでご心配なく」
「何でもいい。お前ともども、まとめて片付けるだけだ」
「それはこちらのセリフです。元々、力ずくであなたの核鉄も頂くつもりでしたから。
とはいえ、意外でしたね。先ほどの戦闘時には躊躇いなくその子を見捨てたあなたが、
危険を冒して戦うことを選ばれるとは。どういった心境の変化です?」
鈴木に指摘されて、斗貴子は少し考えて。
それから答えた。
「……私はホムンクルスを憎み、その殲滅のみを目的として戦う、血に飢えた怪物ではない。
私がこの手で、この世から根絶させるべきものは、『ホムンクルスの犠牲者』」
斗貴子は、
「私はその為に戦う、錬金の戦士だということを思い出したからだっっ!」
バルキリースカートの四本の腕が開き、四つの鋭い刃が閃き、突進する斗貴子と共に
鈴木とガリマへと殺到した。
ガリマが剣を構えて前に出る、と、斗貴子の背後から飛来した数枚のカードが
ガリマの顔面を襲った。
ガリマが剣の腹で受けると、弾き返されたカードは地面に突き立った。それは、白い名刺。
「そうです、津村さん。アナタは正しい」
黒縁眼鏡ではない、特殊ゴーグルをかけた戦闘モードの山崎だ。
「戦うだけならどんなバカにも、チンピラにも、戦闘狂にもできます。が、『戦士』は違います。
『士』とつく以上、そこには道があります。武士道、騎士道、いろいろありますが、アナタは
錬金の戦士、ワタクシは企業戦士。互いに、その道をしかと歩みたいものですな」
と語る山崎の両手には、白い手袋がある。山崎愛用の、いつもの普通の手袋だ。
「遅れてすみません。グローブ・オブ・エンチャントの応急処置でもできればと思ったのですが、
やはりムリでした。が、ここに来ないわけにはいきませんからね」
山崎が斗貴子と並んで立った。鈴木はガリマと並んで立っている。
「山崎さんと津村さん、そしてこちらはわたしと、ホムンクルスが一体。先ほどの戦闘と
比べると、こちらの人数が減っていますな。しかし、こちらには当社製武装錬金が……」
鈴木の言葉を遮るように、斗貴子が地を蹴った。
「何でもいい、まとめて片付ける、と言ったはずだ! お前のお喋りに付き合う気はない!」
バルキリースカートの刃が鈴木に向かう。それを打ち払うべく、前に出たガリマが剣を振った。
刃と剣がぶつかり合い激しい火花が散る、かと思いきや。
「っ!?」
信じられない光景と感触に、斗貴子は弾かれたように後退した。
バルキリースカートの刃が、ものの見事に切り落とされたのだ。だが切られた、というか
何というか、刃が何かに触れた感触は全くなかった。薄い薄い紙や豆腐、どころではなく、
本当に空気だけを切るかのような手応えだった。いや、切られたのはこちらなのだが。
そして、ガリマが剣を振った軌跡をなぞるように、どういうわけか空中に黒い線が描かれて
いて……見ている間に、それは薄れて消えた。
「驚かれているようですな。これが当社、パレット製の武装錬金試作品『リントジェノサイド』
の特性、空間断裂。この剣が振られた時、触れたものは全て切られます。ホムンクルスでも
武装錬金でも、ダイヤモンドでも空気でも、光でも同じです。この世に切れぬものはありません」
自慢げに語る鈴木だが、斗貴子は強がることもできずに冷や汗を流していた。
鈴木の言葉は、今、自分の武装錬金を切られた感触で理解できるからだ。確かにあの剣の
前では、どんな武器も防具も紙切れ同然、いや、存在しないも同然。自分は丸裸同然なのだ。
「ご理解頂けたところで……いけっ、ガリマ!」
鈴木の命令を受け、ガリマが武装錬金・リントジェノサイドを振りかざして向かってきた。
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