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鈴木が指を鳴らし、命令を下した。
「いけバヅー! カビの生えた古臭い錬金術など遥かに超えた、我が『パレット』の
技術が生んだ最新最強ホムンクルスの力を見せてやるがいい!」
バヅーが大地を蹴って駆け、縦横に跳び廻って高速幻惑しながら斗貴子と山崎に迫る。
斗貴子はそのバヅーを冷静に見つめ、動きを読み取っていく。確かに速いが、斗貴子の目と
バルキリースカートに捉えきれないほどではない。
「あのホムンクルスは私が引き受けた。あんたはあの鈴木って奴を抑えていてくれ。敵の強さ
が予想以上だ、試作品のテストなんて悠長なことはしていられない」
「解りました。ではバヅーはお任せします。ワタクシは鈴木氏と、もう一体をお引き受けします」
「え?」
「ほら、バヅーが来ますよ。前方注意です」
という山崎の声を切り裂いて、周囲の空気も切り裂いて、バヅーの蹴りが飛来した。斗貴子は
側転して攻撃をかわしながら、その側転を途中で止めてバヅーから離れないようにして片手倒立、
そしてコマのように回転。畳んだバルキリースカートと自身の回転させた両脚とによる、
六本同時攻撃をバヅーに放った。
さすがのバズーも跳び蹴りの最中だったのでこれはかわしきれず、蹴りを受けてバランスを崩した
所に刃を受けてしまった。左腕を根本から、ざっくりと斬り飛ばされる。
章印に受けた傷ではないので自然に治るが、先の山崎の名刺と違って武装錬金による
攻撃なので、瞬時全快とはいかない。バヅーは苦痛に顔を歪めながら右手で左肩を
押さえ、斗貴子を睨んでいる。
これでバヅーの戦力は大幅にダウンするはず。次の一手で片付くだろう。
山崎はどうか、と斗貴子はそちらを見てみた。
山崎の眼前に建つビルの窓から、新たなホムンクルスが跳び出てきた。向かい側の、
もう一軒の建築中ビルの鉄骨に白く長いロープのようなものを伸ばして引っ掛け、
ターザンよろしく山崎に襲いかかる。
苔のような緑色の肌と、筋骨逞しい体に粗末な装束。バヅーとよく似ているが、頭部だけは
全く違う。バヅーがバッタだとすると、こちらはクモだ。おそらくは今掴まっているロープが
クモの糸、このクモ型ホムンクルスの武器なのだろう。
山崎は懐に手を入れて十数枚ほどのカードを取り出すと、
「名刺スラッシュ!」
己が名と社名と役職と電話番号とその他諸々を記した紙片五枚を、手裏剣のように
投げつける。先ほど、バヅーに放ったのと同じ技だ。
クモ型ホムンクルスは右手で糸を持ったまま左手を空けて、そこに新たに2メートル分ほど
の糸を口から吐き出して持った。そしてそれを、ムチのように操って名刺スラッシュを
弾き落としていく。
余裕の表情で見守っている鈴木が、誇らしげに言った。
「ムダですよ山崎さん! グムンのその糸は超々ジュラルミン製の針金を編んだもの!
いかにあなたの名刺スラッシュでも、切れはしません!」
「ほう。そんなもので打たれたりしては、ワタクシも危険ですな。ならば、」
山崎はネクタイを解いて、
「打たれないようにするまでです」
握り締め、構える。するとネクタイが瞬時に硬質化して白熱し、一振りの剣となった。
巨大な振り子のようなグムンが、必殺の鞭を振りかざして山崎を襲う。そのグムンと、
白熱の剣を手にした山崎が交錯! 山崎の頭髪が二本、グムンの鞭に薙がれて
宙に舞った。グムンの鞭と、それを持つ左手は無事だ。
だが一拍遅れて、グムンの右腕が肘の辺りから切断され、落ちた。ぶら下がっていた
糸からグムンの体が離れ、勢い止まらず向かいのビルの壁に激突、落下する。
だが、それでもまだ鈴木は余裕だ。グムンがすぐに立ち上がったのを見て、山崎に言う。
「これまた流石ですな山崎さん。あなたのネクタイ=ブレード、噂以上の切れ味です。が、
名刺スラッシュと同様に、あなたの武器ではホムンクルスに有効なダメージは与えられ
ませんよ。さっさと武装錬金の試作品、ご使用になられてはいかがです? もちろん、
そんなもの軽く破ってご覧にいれますが」
「いえ。失礼ながら、破れはしません。ご覧の通りです」
山崎は言って、グムンに目を向けた。鈴木もそれに続く。
「!? な、なに? どうした、グムン?」
グムンの右肘、山崎に切断された断面からシュウシュウと煙が上がっている。普通、
ホムンクルスは錬金の力を持たぬ武器で攻撃されても、すぐに回復する。先ほどの
バヅーも、山崎の名刺スラッシュを受けてもすぐに全快した。なのに、グムンの腕は
回復する様子がない。
山崎は手にした剣、ネクタイ=ブレードを掲げ、斗貴子の方に振り返って言った。
「グローブ・オブ・エンチャント。これが当社の、武装錬金試作品の性能です」
山崎の黒い手袋から発した黄金の光が、ネクタイ=ブレードの白熱光と絡み合い、
眩く輝いている。
斗貴子がブラボーから説明されていたこと。NEO=SYSTEM社(以下NS社)が開発し、
現在山崎が装備している武装錬金の試作品の性能。
今のところ、NS社は核鉄→武装錬金のメカニズムについてはまだまだ解明できていない。
本家の錬金戦団でさえ未だ把握できていない部分なのだから、当然といえば当然だ。
しかし核鉄に秘められている力の一つ、アンチ・ホムンクルスエネルギー(仮)については
少しだけ分析でき、応用することができた。
例えばブラボーの武装錬金、防護服『シルバースキン』は比類なき防御力を誇る一方で、
攻撃に関する特性はない。が、それでも武装錬金には違いない。だからシルバースキン
で包まれた拳や脚でホムンクルスを攻撃すれば、それは剣や槍の武装錬金で
斬ったり突いたりしたのと同じこととなって、ホムンクルスを倒すことができる。つまり
シルバースキンには、ちゃんと武器の武装錬金としての特性(性能というべきか)も
備わっているのである。
しかし、『グローブ・オブ・エンチャント』にはそれすらない。山崎がその拳でホンムクルスを
攻撃しても、瞬時に回復修復されてしまう。NS社は、まだ武装錬金=ホムンクルスを攻撃
できる武器、を開発できてはいないのだ。
できたのは、アンチ・ホムンクルスエネルギーを発生させて流し込むエネルギー製造炉兼
供給装置。つまり『グローブ・オブ・エンチャント』の特性は、『接触している武器に武装錬金
の特性を与える』こと。そうしてアンチ・ホムンクルスエネルギーを他の物に付与させることで、
山崎は使い慣れた自分の武器を武装錬金と化し、ホムンクルスと闘うことができるのだ。
「とはいえ、これ自体には攻撃・防御両面で何の特性もありませんし、手から離して
投げたりすると、その瞬間にただの武器に戻ってしまいます。まだまだ武装錬金
そのものの開発にはほど遠いのです」
「……そうか」
斗貴子は思った。
確かに、この程度のものでは錬金戦団に持ち込まれても役に立たないだろう。多種多様な
能力をもつホムンクルスを相手に戦うには、不安が残るシロモノだ。何の特性もないとなる
と、使い手がよほどの強者でなければならない。シルバースキンから防御力をなくしたような
ものなのだから、素でブラボー以上に強くなくてはダメ、ということだ。厄介な注文である。
だが、ということは、そんなものを使ってホムンクルス相手に善戦している山崎は何だ?
そういえば、斗貴子さえ気付けなかったグムンの存在を察知していたし、今こうしていても
まだ、(鈴木と同じく)山崎には気配が全くない。人間の気配も、ホムンクルスの気配もない。
斗貴子はバヅー、グムン、そして鈴木から目を離さぬよう注意しつつ山崎に問いかけた。
「山崎さん。私はあんたのことを、NS社ってところの戦士としか聞かされていない。失礼な
言い方だが、あんたは何者なんだ?」
「それについては後ほど。眼前の問題に対処してからにしましょう」
それぞれ片腕を失ったバヅーとグムンが、保護を求めてかじりじりと鈴木に近づいていく。
だが鈴木は、そんな状況にあってもまだ、笑みを消さない。
「山崎さん。それから津村さん。あなた方は、重傷を負ったこいつらが今、わたしの保護を
求めてこちらに来ていると思っておられませんか? だとしたら、とんだ誤解ですよ」
斗貴子がバルキリースカートの刃を煌かせて一歩、前に出た。
「誤解でも何でもいいが、お前たちと私たちとの戦力差は既に証明済みだぞ」
山崎を戦力として認めた斗貴子は余裕をもって、しかし油断はせず、鈴木たちを見据える。
鈴木の左右に、ぴたりとグムン・バヅーが並んだ。するとグムンが後ろを向いて、先ほど
自分が出てきたビルの窓へと糸を吐いた。
まだガラスが張られていないので、窓というより今はただの穴だ。その奥へと糸が伸びて
いき、やがて何かに引っ掛けたのか、グムンは首を捻って糸を強く引っぱる。
「バヅーと同じく、グムンも自分の食料の調達に行っていたのですよ。そして、ここで食べる
予定だった。しかしこういう事態になりましたので、食事は後回しにしてバヅーと一緒に
性能チェックをさせてみたのです。その結果、まだまだこいつらは改良の余地ありと
判りました。ということで、これにて性能チェックは終了。実戦に入ります」
まるでゴムかバネ仕掛けのおもちゃのように、グムンが窓から勢いよく引っ張り出して、
片手で受け止めたもの。
それは、クモの糸に捕らえられた獲物。グムンの糸に縛り上げられて気を失っている、
九歳ぐらいの小さな女の子だった。
グムンはその女の子を地面に倒して、細い首を軽く踏みつける。
「古臭い手段で申し訳ありませんが、人質です。わたしの号令一つで、この子の
頚椎は踏み砕かれ、頚動脈は踏み破られ、早い話が死亡することとなります。そんな
光景を見たくないなら……そうですね、まず津村さん。あなたが今ご使用になられている
武装錬金を核鉄に戻して、こちらに渡して下さい」
「断る」
斗貴子は即答した。
「私は錬金の戦士だ。ホムンクルスやそれに与する者たちの要求には応じない」
「ははっ、まるでテロリスト扱いですな我々は。ですが、そうするとこの子の命が失われますが、
宜しいのですか? 錬金の戦士としてそれでいいのですか?」
「いい」
斗貴子は重ねて即答した。
「今、その子の命を惜しんでお前たちに核鉄が渡れば、更に多くの犠牲が出る。それに、
戦団が核鉄を一つ失うのは、錬金の戦士を一人失うのと同じこと。これも、多くの犠牲を
出すことに繋がる。今、この状況でその子が犠牲となるのは、やむを得ないことだ」
力強く語る斗貴子の声を聞いて姿を見て、鈴木はぱちぱちと拍手した。
「いやいや、お若いのにお見事です。あなたは先ほど、自分の目の前でバヅーに
一人殺されたのを見た時、非常にお怒りでした。つまり、全くの冷血人間ではない。なのに、
こういう状況では冷徹な判断を下せる。大したものです。ですけどほら、その通り」
何がだ、と聞こうとした斗貴子の首が、微かに痛んだ。針か何かの先端が触れたように。
触れているのは、黄金の光を絡めて白熱している剣の先端。山崎のネクタイ=ブレードだ。
「核鉄を鈴木氏に渡して下さい」
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