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「BATTLE GIRL MEETS BATTLE BUSINESSMAN 55-2」(2008/04/06 (日) 22:10:01) の最新版変更点
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今回の任務についての連絡を斗貴子が受けた、その数日後の夜。
斗貴子は待ち合わせ場所として指定された喫茶店に向かっていたのだが、
今は方向転換、全く違う場所へと駆けていた。
彼女の耳にはよく慣れた、馴染んだ声が聞こえたのだ。……死の恐怖に染まった悲鳴。
戦士として鍛えられている斗貴子の聴覚が捉えたのは、彼女のいた場所からはかなり
遠い、町外れにある建築中のビルの辺り。
体力もまた常人ではない斗貴子なので、数分で現場に到着した。もう夜更けなので
工事関係者もおらず、辺りは静まり返っている。月と星と僅かな常夜灯以外の明かりは
なく、虫の声以外は何も聞こえないここにあるものといえば、
「捕食の跡……なのか、これは?」
まだ新しいと思われる死体が一つ。だが、素人が見てもそれは死体とは思えまい。
というのも、原型を全く残さないレベルで潰れているのだ。よくよく煮込んだトマトシチュー
を床にブチ撒けたかのように。刃物で切り刻んだとか、鈍器で叩きまくったなどでは、
こうはならないだろう。すぐそばのビルの屋上から突き落としたとしても、せいぜい
十数メートルだ。高さが足りない。
そんな謎めいた死体の状況からすると、人間の仕業とは考えにくい。やはりホムンクルス
がいるのか、と斗貴子が考えたその時。
斗貴子の耳に、新たな悲鳴が聞こえた。それは遠くから、高くから、そして尋常ではない
速さで街の方から接近してくる。
視線を上げた斗貴子の目に映ったのは、星空をバックに屋根から屋根へと、目測で
20メートルほどの高さ・距離の跳躍を繰り返す人影二つ。実際に跳躍しているのは
その内の大きい方で、体格からして男だ。もう一つの小さい方は、おそらく斗貴子と
同じくらいの年頃の少女。大きい方に抱えられ、悲鳴を上げている。
一目瞭然だ。男の方はホムンクルス、そして捕らえられている少女はそのエサに
違いない。
やがてホムンクルスは、斗貴子の眼前に建つビルの屋上に降り立った。
そしてそこから、楽しそうな嬌声を上げて少女を投げ下ろす。ホムンクルスの怪力は、
重力加速を遥かに越えた速度で少女を落下させた。このまま地面に激突すれば、
大型トラックに轢かれたのにも勝る衝撃をその肉体に与えるだろう。確実に骨や肉
などは潰れきって、人間の形を一切留めぬグチャドロなモノと化す。
先に見つけていた死骸の謎は解けた。今、同じ死骸がもう一つ増えようとしている。
「そうはさせるか!」
斗貴子は己の核鉄を取り出し、発動させた。核鉄が輝きと共に分解、再構成、
物理法則を突き抜けて質量増大し変形し、武装錬金「バルキリースカート」となった。
それは機械的なフォルムをもつ四本の長い腕。斗貴子自身の腕の倍以上ある
その先端には、手や指ではなく鋭い刃が装備されている。
両脚の大腿部に二本ずつ、計四本で一組のバルキリースカートを備えた斗貴子が、
少女の落下予測地点へと駆ける。バルキリースカートは速度と精密さに優れているが、
その反面パワーには欠ける武装錬金だ。隕石もかくやという勢いで落下する
少女の体を、切り裂くならともかく、受け止めるというのは無理だろう。
ならば、と斗貴子はバルキリースカートの刃を立てて四本揃えて薙ぎ払い、刃の側面で
少女を強く打った。軌道が曲がり、垂直落下が水平飛行を経てアーチ状落下へと変わり、
下方へ向かう勢いは大幅に落ちる。
そうしておいてから追いかけ、バルキリースカートの腕の部分で受け止めようとしたのだが、
「そうはさせるか!」
少女を追って垂直落下、ではなく垂直疾走。少女を投げ下ろしたホムンクルスが、
ビルの壁面を信じ難い速度で駆け下りてきた。
そしてその壁を蹴って跳躍、まだ打ち飛ばしたばかりでバルキリースカートが届かない
少女に向かって、
「やめろおおおおぉぉっ!」
斗貴子の叫びも虚しく、連続20メートルジャンプで実証済みの強靭な脚力による、
殺人蹴りが決まった。少女の体は再び下方への加速を得て、地面に激突する。
が、今度は流石に高さがなさ過ぎたので、死骸は潰れてはいない。潰れているのは、
蹴りを直接受けた顔面だけだ。頭蓋骨も残っている。それを丼にしてのトマトシチュー。
場所は先の全身シチューのすぐ隣、これで異様な死骸が二つ並んだ。
ホムンクルスはその真ん中に降り立つ。そして斗貴子を見た。
「ふん。お前、錬金の戦士とやらか? このバヅー様の食事の準備をジャマしたから
には、こんな風に楽には殺さんぞ」
バヅーと名乗ったホムンクルスは両手を下に向けて、二つのシチューを掌にある
口から吸い込み、啜り込んだ。ゴクン、と美味そうな音を立てて飲み込む。少女の方は
顔面しか潰れていないからか、顔面以外は残している。
そのホムンクルスは、シルエットだけならほぼ人間と変わらない。だが、流麗な筋肉
に包まれた全身は緑色で、額から二本の触覚が生えている。粗末で布地の少ない、
未開の地の民族衣装のようなものを身にまとい、黒い複眼をもつその貌はまるで昆虫。
わざわざ潰さないと人間を食えないというのはよく解らないが、何にせよとりあえず、
動物型ホムンクルスの一種だ。額に章印もある、間違いない。ならば殺すだけだ。
何より、むざむざ目の前で少女を殺されてしまった無念と怒りが斗貴子を奔らせて、
「楽には殺さない、のは私の方だっ!」
バルキリースカートをバヅーに向け突進! ……しようとして踏み止まった。
ゆっくりと、つまり徒歩で、接近してくる者の足音を聞いたからだ。この状況で悲鳴も
上げず逃げもせずに向かって来るとなれば、敵である可能性が高い。足音がはっきりと
聞こえるまで気配を感じさせなかったことから考えても、常人でないのは確実……
「!? 何だ?」
それどころではなかった。足音の主は灰色のスーツにネクタイを締めた白髪混じりの地味な
中年男、と明確に視認できている今でさえ、全く気配がない。まるで死体か人形のようだ。
斗貴子は混乱と警戒で動きを止めているが、バヅーもまた一歩も動かない。男はバヅーの
元へとのんびり歩いてきて、その肩にぽんと手を置いた。そして斗貴子の方に振り向く。
「困りますねえお嬢さん。お買い上げ前の商品に手荒なマネをされては。しかもこいつは
まだ値札もつけてない、そもそもつける予定もない試作品なんですよ。ですからご覧に
なられた通り、柔らかくした離乳食しか食べられないような子で……おっと失礼」
男はニコニコしながら名刺を取り出し、斗貴子に差し出した。
「わたくし、人材派遣会社パレット日本支社、新規事業開発本部の」
鈴木仁洋と書かれたその名刺を、斗貴子はバルキリースカートで打ち払った。
鈴木は眉をひそめる。
「おやおや。最近の若い子は全く、礼儀というものをしりませんねぇ。困ったものだ」
「ふざけるな」
「ふざけてなんかいませんよ。今だって仕事の最中なんですから」
鈴木は笑みを絶やさずに語った。
「当社は昔から、優秀な人材を様々な企業に派遣することを生業としておりましてね。
この度、同業他社との差別化を一気に推し進めるべく、画期的な新事業に着手した
のです。このバッタ型ホムンクルス・バヅーはその試作品というわけでして。只今、
この街全体を試験場として最終調整を……」
「ふざけるな、と言ったはずだぞ!」
斗貴子が踏み込み、バルキリースカートを繰り出した。鈴木とバヅーはまっすぐ下がって
間合いの外に逃れる。斗貴子が追う。二人は下がる。休みない斗貴子の攻撃をかわし
ながら、鈴木は答えた。
「ふざけてなんかいませんってば。私にも高校生になる息子がいて、家計は楽ではない
のです。何としても社の収益アップに貢献して、出世せねばならない。ですが、あなたには
理解できないでしょうけど、企業間の経営戦争とは、それはそれは激しいもの。これぐらい
の仕事をしないと勝ち抜けないのです」
「経営戦争で人材派遣会社がホムンクルスを造って、一体どうする気だ!」
「もちろん、派遣するのです。それを望むお客様のところへね。まだまだ研究段階ですが、
いずれは大工場で安く早く多くのホムンクルスを造れるようにと、只今鋭意努力中でして」
その光景、大工場で大量生産されるホムンクルスの図を想像した斗貴子が、顔色を変えて
動きを止めた。
「ま、まさか、お前たちはホムンクルスを軍事利用する気か!? ホムンクルスは人類全体の
敵、人食いのバケモノなんだぞ! それを、そんな……狂ってる!」
「あ~、違います違います。わたくしどもは、決してそんな、物騒なことは致しません」
鈴木はぱたぱたと手を振った。
「お嬢さんのところ、錬金戦団さんみたいな、裏社会の怪しげな秘密結社とは違うんです
から。きちんと登記して公開して内部統制してISOも取得して個人情報保護に気を遣う、
れっきとした大企業です。ですから当然、やることといえばお金儲け。ホムンクルスは
造って売るだけで、当社自身では使いません。つまり軍事利用ではなく商業利用ですな。
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