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「バンカラメモリアル2~あの鐘を鳴らすのは俺たちの拳だ~」(2008/03/15 (土) 15:08:08) の最新版変更点
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今日は縁日。金剛と光は、仲良く出店を見て回っていた。
金魚掬いや型抜きの屋台は出入り禁止だ。去年、力を入れすぎた金剛たちが、屋台ごと破壊してしまったせいである。
なので二人とも、大人しく普通にうろついているのだ。
「あ…」
光が小物屋の前で立ち止まり、売り物の一つを手に取った。
「どうした、光?」
「うわあ…ね、これ、かわいい!」
ん、と金剛は首を伸ばして光が手にしているものを見た。
それは、小さな指輪。先に赤いガラス玉がついた、玩具の指輪だった。
「…そういうのが、欲しいのか?」
「うん!…でも、ちょっと高いね」
光は値札を見て、ちょっとがっかりしている。ちょっと小学2年生のお小遣いでは手が出しにくい。
「分かった…俺が何とかしてやろう」
「ほんとう!?」
「ああ。だから、ちょっと付き合え」
そして、24時間後。二人はヴェネチアにいた。目的は勿論、本場のヴェネチアン・グラスである。
「よし、少年!君の望む最高のガラスの指輪を創ろうじゃないか!」
「押忍!」
「あきらちゃん、がんばって~!」
マエストロに弟子入りした金剛は、自作の指輪を光にプレゼントするために、一生懸命だった。
何度も失敗し、その度に怒鳴られ、そして―――
「完成だ…素晴らしい!少年よ、君はやったんだ!」
「押忍!ありがとうございます、親方!」
金剛は、ついにガラスの指輪を完成させた。そしてそれを、光の指にそっと嵌めてあげた。
「わあ…素敵!きれい!」
「そうか…よかった。はるばるヴェネチアまで来た甲斐があったな」
「うん!」
光はその名が示す通りの、太陽が光り輝くような笑顔を浮かべた。それを見て、金剛も笑った。
(ヴェネチアまでの旅費で小遣いはすっからかんだが…ま、いいさ。光が喜んでるんだ、ケチなことは言いっこなしだ)
―――誰も突っ込まないので、僭越ながら、筆者が突っ込んでおこう。
ヴェネチアまで行く小遣いがあるなら、それで縁日の指輪を買ってやれよ、と。
さて、それはともかく、今日は遊園地に来ていた。
今回は二人だけではなく、近所のお姉さんである麻生華澄も一緒である。
―――彼女は早速、頭痛薬と胃腸薬と精神安定剤を致死量ギリギリまで服用せざるを得ない状態であった。
コーヒーカップとメリーゴーランドは塵一つ残さず消滅させられた。
ジェットコースターは脱線し、観覧車は大爆破大脱出ショーと化した。
ヒーローショーでは攫われて泣き喚く光を助け出すため、金剛が戦闘員たちに全員スジを通してしまった。
お化け屋敷のお化けたちも勿論スジを通され、本物のお化けとなる一歩手前だった。
「中々面白かったな」
「うん!すっごく楽しかった!」
無邪気に喜ぶお子様二人。微笑ましい光景のはずだったが、華澄は頭痛と腹痛を堪えるので精一杯だった。それでも
保護者としての責任感から、無理矢理笑顔を作って二人に語りかける。
「ほ…ほら。もうこんな時間だから、そろそろ帰りましょうか」
「えー、もう帰っちゃうの?もっと遊びたいなー」
ごねる光だが、ここは金剛が諌めた。
「こら、光。華澄さんを困らせるんじゃねえ。この人だって自分の休みを潰して俺たちに付き合ってくれてるんだ。
その上にわがままを言うなんざ、スジが通らねえぜ!」
「…うん。ごめんなさい」
「ふふ、いいのよ…」
華澄は苦笑した。
(全く晄くんたら、こういう所は真面目なのよね…)
そんな彼だからこそ―――多少やりすぎな行動も、どこか憎めないのかもしれない。
「さ、それじゃあ最後に三人で写真を撮りましょ。すいません、そこの人。シャッター押していただけませんか?」
「ええ、構いませんよ」
そう言ってにこやかに華澄からカメラを受け取ったのは、高校生くらいの少年だった。
「ほらほら、三人とも、もっと寄って寄って…はい、笑って」
そして、少年はシャッターを押す―――
「はい、チーズ…そして…」
カシャッ
「さよなら」
同時に、遊園地が爆発と爆音と爆炎と爆熱に包まれた―――
(…あれ?どうなったんだろ)
(遊園地であきらちゃんやかすみおねーちゃんとあそんで…最後に写真を…)
(…あきらちゃん!)
「あきらちゃん!」
「おう、起きたか、光」
すぐそこに、金剛と華澄の顔はあった。ほっとする光だが、すぐに異変に気付く。金剛の姿は―――血に塗れていた。
「あきらちゃん…けが…わたしやかすみおねーちゃんを、守って…?」
「…そうじゃねえよ。そこで転んだだけだ」
事実は光の言った通りなのだが、金剛は笑ってそう答えた。華澄は金剛の気持ちを慮り、何も言わなかった。
パチ、パチ、パチ…場違いな拍手の音が響き、三人はそちらへ振り返った。
そこにいたのは、先程カメラのシャッターを押した少年―――だが、その姿は一変している。その肉体を包むのは―――
爆弾のアップリケが節操なく貼り付けられた異様な学ラン。そんなシロモノを、彼は恥ずかしげもなく着込んでいた。
「いやあ、流石に金剛番長などと呼ばれるだけのことはある―――この<爆破番長>梵場亜万(ぼんばあまん)の仕掛けた
爆弾から、女の子二人を守った上で生き残るとは、驚愕だよ」
「番長…!まさか<組織>の一員か!」
<爆破番長>はそれに対し、ただ笑った。それは、肯定を意味する。
「金剛番長…<組織>は敵対者を許しはしない。君に残された道は<死>のみだ」
そう言い残して―――爆破番長は姿を消した。後には燃え盛る遊園地と、逃げ惑う人々が残された。
「くっ…」
金剛は男を追うべきかどうか迷ったが、今は光と華澄を助けることが優先だと判断した。その両腕で二人を抱え上げる
と、金剛は怒涛の如くに遊園地の出口へと向かって走り出した―――そして、その最中。彼は考えていた。
(ついに奴らが動き出した―――ならば)
彼は―――悲しい決意を固める。
(俺はもう、ひびきのにいることはできねえ―――ここにいたら、光たちにまで危害が及んじまう)
その夜。光と華澄を無事に自宅まで送り届けた後に、金剛番長と爆破番長は雌雄を決した。その詳細を知る者は誰も
いないが、勝者は―――金剛番長。
後始末をつけた彼は、悲しい別れを経験することになる。
翌日。
「やだ…なんで!なんでいっちゃうの、あきらちゃん!」
「光ちゃん…」
泣き叫ぶ光を、どうにか宥めようとする華澄。だが、光の涙が止まることはない。
「すまねえな、光…俺だってこんな、慌しい別れ方はしたくなかったんだが…<組織>が動き出した以上、俺がこの町に
いれば、お前たちにまで迷惑がかかっちまう。だから…ごめんな。お別れだ」
金剛はそう言って、自分の学ランを脱いで、光にそっと覆い被せた。光はその暖かさに、少しだけ泣き止んだ。
「あきらちゃん…」
「その学ラン、大事にしてくれよ。いつか取りに戻ってくるぜ…その時まで…あばよ!」
「やだ…やだよ、あきらちゃん!行っちゃやだ!わたしも…わたしもあきらちゃんと一緒に闘うよ!」
「無茶言うな…泣き虫のくせに」
「う…ひっく…泣き虫じゃ、ないもん…わたし…泣き虫じゃ…!」
「光…」
「いや…いやだよ…行かないで…」
しかし、金剛は。誰よりも大切な幼馴染に―――背を向けた。そして、そのまま歩き出す。
「あきらちゃん…あきらちゃん…!わたし、強くなるよ!」
光は遠ざかる背中に向けて、叫んだ。
「今度会った時は、あきらちゃんの隣にいられるくらい強くなるから…いっしょに悪い人たちと闘えるくらいになってる
から…だから…いつか…きっと戻ってきて!」
その声が聞こえたのか、金剛は振り返り、そして、笑った。
「ああ…その時を、楽しみにしてるぜ!」
そして―――金剛は、全力で駆け出した。
「あきらちゃーーーん!」
光はそれを全力で追いかけた。追いかけて、追いかけて―――追いつけずに、地面に転げた。
後はただ<あきらちゃん>の名を呼びながら、ひたすらに泣きじゃくった。
華澄もまた―――泣いていた。どうしてだろう。彼といると、とことん酷い目にあうわ、薬物中毒一歩手前になるわ、
ろくでもないことしかなかったはずなのに。
(…だけど…)
だけど―――本当は、そんな金剛を気に入っていた。破天荒で、非常識で、どこまでも痛快な、金剛番長を―――
(いつか…ひびきのに戻ってきなさいね、晄くん…)
泣きじゃくる光をそっと抱きしめながら、華澄は涙を拭い、消え行く金剛の背中をずっと見送っていた。
そして、7年後―――陽ノ下光は、ひびきの高校入学の時を迎えた。
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