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「バンカラメモリアル2~テメエの為に鐘は鳴る~」(2008/03/15 (土) 15:08:20) の最新版変更点
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どこにでもありそうな町、ひびきの市。
どこにでもありそうな小学校、ひびきの小学校。
だがそこに通う一人の少年は、世界のどこを探したっていそうもない少年―――否、<漢>であった。
小学2年生にして、180cmを越える筋骨隆々の鋼の肉体。三本角のような、威圧的な髪型。なによりも、凄まじい
眼力のこもった三白眼。そして、小学2年にして、学ラン。
彼の名は金剛晄(こんごうあきら)。人は畏敬の念を込めて、彼をこう呼ぶ―――金剛番長と!
そんな彼も、今日は2年生終わりの終業式。これからの長い休みをどう過ごそうかで、結構ウキウキしていた。
この辺りは、まあまあ普通の少年とそう変わらないだろう。そんな彼に、一人の女の子が声をかけてきた。
「あきらちゃ~ん。一緒にかえろー!」
―――光の加減で赤っぽく見える、腰まで届く、長い髪。左目には泣き黒子。将来美人になる素質十分の美幼女だ。
彼女はまるで太陽のような笑顔を振りまきながら、金剛に向けて手を振っている。
少女の名は、陽ノ下光(ひのもとひかり)。金剛とは家が隣同士、幼馴染という奴である。
「そうだな。帰るとするか」
小学校低学年とはとても思えないドスの効いた声であるが、光は怯えた様子もない。彼女にとって、<あきらちゃん>
は生まれた頃からの幼馴染。慣れたものである。
「じゃあ、かえろ~!」
そして二人は、仲良く家路に着くのだった。
―――三十分後。
「うわーん!あきらちゃ~ん!」
盛大な少女の泣き声に、ちょうど近くを歩いていた中学生の少女―――麻生華澄(あそうかすみ)は何事かと、泣き声
のする方へと駆け出した。
そして彼女が見たものは。ご近所に住む仲良し二人組―――正確には。
泣き喚く光と、血塗れの金剛。そして、拳銃や刃物で武装した、屈強な男たちが死屍累々と倒れている場面だった。
「…………」
華澄はカバンから頭痛薬と胃腸薬と精神安定剤を取り出し、流し込むように飲み込んだ。そして、努めて笑顔で聞いた。
「ど…どうしたのかしら?光ちゃん、晄くん」
「あ、かすみおねーちゃん!」
光は泣きながら華澄に飛びついた。
「あのね、あのね…この間、あきらちゃんが潰したぼーりょくだんの人たちが、襲ってきたの!それで…」
「…………」
先程大量に摂取した薬物の効き目は、全くない。金剛はそんな華澄に、詳しい状況を説明する。
「つい先日の話だ…こいつらのうちの一人が、イチャモンつけて光が描いた絵を破り捨てたんだ…スジが通らねえ、と
俺は思った」
「そ…それで?」
「組に殴りこんで、そいつには光にきっちり詫びを入れさせた。だが…逆恨みした連中が、ついさっき、俺たちに
襲い掛かってきたんだ。倒しはしたが、不意打ちで何発か銃弾を喰らっちまったぜ…」
「そ、そうなんだ…それで、あなた、怪我の方は?」
「フッ…」
とてもじゃないが小学2年は浮かべねー威圧感たっぷりの笑みと共に、金剛は言い放った。
「こいつらがチンタラやってる間に、全部治っちまったよ」
実際、撃たれた傷は既に塞がり、血も出ていなかった。
「…………」
ノーコメント。華澄は日本人の悪癖であるアルカイック・スマイルを浮かべることしか出来なかった。
「さ、帰るぞ、光。今日も岩山にトンネルを掘って遊ぶとするか」
「うん!」
金剛と光は、手を繋いで帰っていく。それを見守り、華澄は苦笑する。なんだかんだ言っても、微笑ましい二人だ。
「トンネル掘り、ね…そういうところは子供らしいんだから」
と―――華澄は、とあることに気づいた。金剛は<岩山にトンネルを掘る>と言っていた。
普通、幼児がトンネルを掘ると言えば、砂場で砂山を作り、スコップで掘るという意味だ。
だが、何故に岩山―――
「はは…まさか、ね…聞き間違いよ、うん…」
華澄は頬を引き攣らせつつ、再び薬物を過剰摂取した。
「ダメだ、光!そんな掘り方するんじゃねえ!」
数時間後、件の二人は、まさしく聳え立つ岩山の前で、激しく言い争っていた。
「えー?大丈夫だよ、これで」
ヘルメットを被った光はツルハシを振り上げつつ、トンネルを掘り進めていく。金剛の影に隠れて目立たないが、
彼女もまた規格外の存在である金剛と生まれた時から一緒だったのだ。一般常識というものは、基本的に通用しない。
彼ら二人にとって、トンネル掘りとは文字通りの岩山貫通作業である。
ちなみに金剛は素手であった。己の鋼の肉体以外の道具なぞ、この漢には不要である。そんな彼は、手書きの図面を
指差して、光に力説する。
「これ以上掘ったら、力点と支点の関係が崩れて、大崩落を起こしちまう。ここは一旦ひいて、別の穴を掘りなおす
べきだ!」
金剛晄。意外と頭脳派だった。対して光も、自分を曲げない。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!このまま行けば、すぐに向こうに出るよ!」
そう言ってツルハシを思いっきり叩きつけた―――が。
ゴォォォォォン…ッ!
「え?」
嫌な音が鳴り響き、岩山が盛大な落盤を起こし、崩れ落ちていく―――
「危ねえっ!」
突然のことに動けない光に、金剛が覆い被さった。その背中に、容赦なく岩のシャワーが降り注ぐ。
ようやく落盤が収まり、金剛と光は一息ついた。
「トンネル、崩れちゃった…」
「全く、考えなしに掘り進めるからだ。このバカ!」
「うっ…」
光は目に一杯涙を溜めて―――次の瞬間、わんわんと泣き出した。
「バカじゃないもん!バカっていう方がバカなんだもん!わーん!あきらちゃんのバカー!」
「お、おいおい…何言ってんだ、お前…」
慌てて宥めようとするが、光はバカバカ言いながら泣き喚くばかり。金剛は苦笑して、光の頭をくしゃっと撫でた。
「う…」
「ほら、泣き止め。トンネルなんざ、また俺が掘ってやるさ」
「…うん…」
涙を服の袖で拭いながら、光は金剛の姿を見つめた。
(怒られちゃったけど…バカって言っちゃったけど…あきらちゃん、わたしを助けてくれたよね)
えへへ、と笑いながら、光は金剛に抱きついた。
「あきらちゃん…大好き!」
「へっ…褒めても何も出ねえぞ」
そう言いつつも。金剛もまた、嬉しそうだった。
結局のところ。どれだけケンカしたところで。二人とも、お互いのことが大好きだったのだ。
―――その日。二人が掘ったトンネルは。某キャンディ大好きな海王が掘ったものにも劣らない、見事な人力トンネル
だったという。
次の日。
「わーん!」
光はまたも泣いていた。
「…いや…悪かった…大丈夫だと思ったんだ…」
金剛は神妙な顔で、焚き火を熾していた。
ここは、森―――もっというなら、富士の樹海である。
「今日は少し遠出をしようぜ」
と、珍しく金剛の方から光を誘い、光も二つ返事で承諾したのだ。
今回の遊びは<探検ごっこ>。しかし、この規格外の二人が、そこらの森で満足できるわけもない。だったらどうする?
樹海へ行くしかないじゃないか!<石田彰の声で再生してください>
で、迷った。遭難した。
金剛は唸りながら、手に持ったBIGプッ○ンプリンのカップを見つめた。
「道にプリンを少しずつ置いていったから、帰り道の心配はないはずだったんだ…」
「そんなの鳥さんたちに食べられちゃうに決まってるじゃない!えーん!」
光は泣き喚くが、金剛は首を捻っていた。彼にとってプリンは至高にして究極の存在だ。プリンさえあれば、如何なる
状況でも、全て打破できる。彼はそう信じて疑わなかったのである。
しかし、現実はこれである。金剛は、世間の厳しさを思い知ったのだった。
「あきらちゃんが大丈夫だって言ったのにー!うそつきー!おなか減ったー!おうちに帰りたいよう!」
流石の光も駄々をこねる。金剛も、今回は自分のせいだという自覚があるのか、申し訳なさそうに立ち上がった。
「そうだな…今回のことは俺が悪い。このまま何もせず、助けを待つばかりじゃ、スジが通らねえな…分かった。俺が
道を探すついでに、何か食うものも取ってくる。光はここを動くなよ」
そう言って、金剛は焚き火を離れ、樹海へと足を進めた。
―――そして、すぐに。金剛は、巨大な影に襲われた。
「くっ…!」
直撃は避けたものの、背中がぱっくり裂けて、血が流れ出している。しかし金剛はそれには気を留めず、目の前の相手を
冷静に観察する。
まるで、神話にでも登場するかのような蛇だった。その口からは、禍々しい牙がいくつも並んでいる。
「ハブロード…!」
金剛は口を厳しく引き結び、解説を始めた。
「直訳すれば<ハブの支配者>…!元来沖縄にのみ生息するはずの幻の珍獣…!その正体は異常成長を遂げた
ハブたちがお互いを喰い合い、更に進化を遂げたものだと言われている…!しかし、何故この富士の樹海に…」
だがそんな金剛に構わず、巨大な蛇―――ハブロードは、その口を大きく開けて、金剛を一呑みにしようと迫る!
「…推測するなら、沖縄のエサは喰い尽くしちまって、他のエサを求めてここまで来たってところなんだろうが…
悪いな。俺は喰われるわけにはいかねえ…!」
金剛は両の拳を握り締めた。力を込めるに従い、その腕はまるで、鉛のように赤黒く変色していく―――!
そして金剛は、文字通り鉄拳と化したその剛腕を、ハブロードに叩きつけた!
「打舞流叛魔(ダブルハンマー)ァァァァァアッッ!!!」
「ギャアアアアアアアアッ!!!」
断末魔の雄叫びと共に、ハブロードは空高く吹っ飛ばされた―――
「おいしい♪」
光はニコニコ顔で、丸焼きにされたハブロードの頭に齧り付いていた。ほっぺた一杯にお肉を詰め込んだその顔は、
まるでリスのようで中々可愛らしかった。
「フッ…現金な奴だぜ。まあいい。ひとまずスジは通したぜ!」
金剛もまた、満更でもなさそうな顔で、尻尾からハブロードをむしゃむしゃ食べていた。
―――そこへ。
「ふ…二人とも…無事…だった…?」
あんたこそ大丈夫か、と誰もが思わずにいられない弱々しい声と共に、ライトが二人を照らし出した。
その向こうにいたのは、二人にとって優しいお姉さん―――麻生華澄であった。
「かすみおねーちゃんだ!」
「よう、華澄さん。来てくれたのか」
二人は笑顔で華澄を出迎えた。華澄もまた、二人に笑いかけようとしたのだが、上手くいかなかった。
何しろこの二人を探すため、富士の樹海を、延々と彷徨ったのだ。用意した装備や道具も底を尽き、世にも恐ろしい
猛獣やら何やらを掻い潜り、やっとこ金剛たちを見つけたのである。
そんな苦労をしてでもお騒がせな二人をほっとけない辺りに、彼女の人格が滲み出ているといえよう。
ともかく、意識が凄い勢いで阿頼耶識の方へかっ飛んでいき、華澄はその場にばったりと倒れてしまった。
「あれ?かすみおねーちゃん、寝ちゃった?」
「やれやれ…世話の焼けるお姉ちゃんだぜ。まあいい。ほら、華澄さんの腰を見てみろ。命綱だ。これを辿れば帰れる
はずだぜ」
そう言って金剛は、あっさりと華澄を抱え上げ、ついでに光を肩車して、悠々と命綱を辿って樹海を突き進む。
「わーい!あきらちゃんの肩車、すごくたかーい!」
はしゃぐ光の声を聞きながら、金剛は、こんな日々がいつまでも続けばいいな、と思っていた。
その思考を読み取ったのかどうか、華澄は言い知れぬ悪寒に身を震わせるのであった。
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