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「その名はキャプテン 54-1」(2008/02/11 (月) 01:09:16) の最新版変更点
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中国の長い歴史、幾千、幾億の格闘家が身を粉にして積み重ねてきた金字塔。
烈海王のクンフーは、現段階での完成系と言っても過言ではなかった。
崩れ去った、彼の拳は何時からか金字塔ではなくバベルの塔と化していた。
傲慢にも暗黒の力を頼り天を目指した彼の拳は、神の怒りに触れて粉砕された。
ベキィッ!
つい先程まで憤怒の表情を催していた烈の面に、再び笑みが戻る。
完全なタイミング、踏み込みにも今までになかった手ごたえを感じた。
全ては闇の力が自分にもたらしたもの、次にこの力が自分に与えるのはこいつの苦痛に満ちた表情だ。
海王の称号を持つ自分が侮辱されたということは、中国拳法への侮蔑に他ならない。
眼の前に居る身の程知らずな男の苦悶を目に焼き付ける為に目を爛々と光らせながら凝視する。
笑みが止んだ、男の顔は全くの無表情だ。
男が突きだした手を引くと、ヌチャ・・・という粘性の音が聞こえた。
男の拳はシンには乾いた血しかついていない、何故乾いているのか、今へし折ったばかりなのに。
もしや、あのベキィッ!という丁度人骨サイズの太さを持った枯れ枝を思い切り踏みつけたような音は・・・。
自分の拳へと目を移すと、指が滅茶苦茶な方向へ曲がっており、中指が千切れ飛んでいた。
拳の内側から赤身を帯びた肉が飛び出している、先端に白く尖った棒が見える・・・骨だ。
相当な激痛ではある、だが中国拳法の鍛錬では拳一つ砕けるのも珍しくはない。
修業時代の経験が、もっと激しい痛みを覚えている、痛みは問題ではなかった。
身体の震えが止まらない、まだ片腕も足も残っている、戦えないことはない。
だが恐怖にすくむ身体は戦闘を拒んだ、無理だ、こいつは人間じゃない。
震える脚を必至に動かし、後ずさりする。
背は向けられない、向ける勇気はない。
自分に訪れる確実な死を予感する烈海王だったが、転機が訪れた。
「ぐっ・・・!」
ブシュッ、と液体の噴き出す音がケンシロウの拳から聞こえた。
烈海王の拳を受け止めるには傷痕を残した拳では十分ではなかったのだ。
その姿を見て精神に若干の余裕が出来た烈、武だけではなく知にも秀でている彼は一瞬で打開案を練りだした。
ここで死ねばデスが自分を蘇らせる、アミバ如きを助けて自分を助けない筈がない。
ここで逃げればどうだ?サルーインはきっと自分を殺し、強力な力を呼ぶための呼び水にするだろう。
奴の片手、それだけでも奪えば十分な功績となる筈だ。
シューズをケンシロウの顔面へと脱ぎ飛ばす。
当然回避されるが、烈への反応が一瞬遅れる。
狙いは既に壊れている拳、怒涛の蹴りがケンシロウを襲った。
一見単調な蹴りでも、彼には足指を用いた豊潤な技がある。
紙一重でかわしても、足の親指を立て爪で皮膚を切り裂く。
足指を握り拳のようにして固め、正拳による突きのように鋭い蹴りを放つ。
負傷した拳から、血が蛇口を捻った様に流れだす。
もう一息で破壊できる、最後の蹴りを入れようとした瞬間だった。
ケンシロウの闘志を秘めた眼が野獣の輝きを放った。
誇り、愛、怒り、ケンシロウの気高さと合わせ見れば神獣とも見える眼光。
血塗れの拳から熱気が噴き出し空間が歪む。
同じだ、闘わずして屈辱を味わった・・・あの男と同じ拳。
憎しみと恥辱が闇の闘気を暴走させる、そしてお互いに向けて放たれた。
ぶつかり合う瞬間に、色のない花火のように真っ白な光が飛び散った。
二人は拳を外していた、お互い避ける気もなく全力でぶつかりあう筈だったのがお互いに外した。
第三者の介入、ふと見ると白光の闘気に包まれた男が二人の間に立っていた。
軌道をずらした上で腕を掴み、ブレーキをかけて二人を止めていた。
ホークがニヤニヤと面白そうに笑っていた、水の魔素がまだ男に纏わりついていた。
水が男の白光を屈折させ、やわらかで温かい光を生み出していた。
「ケン・・・もういい、ここまでやって分からないのならこいつに武道家の資格はない。」
「貴様ッッ!私を侮辱す・・・!」
「何故、破壊された拳で貴様の拳を受け止ていたのか分からんのかぁ!この・・・三流武道家めが!」
握り拳で顔面を殴打する。
拳法ではない、南斗の拳ではない平凡な殴打。
シンの攻撃するチャンスを無駄にする行為は、侮辱にしか思えなかった。
「ケン、貴様への借りを引きずって生きる事など俺にはできぬ。
早速だが、今この場で返させてもらうぞ!」
怒り狂った烈海王の拳を次々と捌いていく。
動きは大味だが、守りに入る時にも獲物に襲いかかる鷲の爪の鋭さを失わなかった。
真空の刃に触れる度、烈の腕に痺れと細かな裂傷が走り抜ける。
「くっ・・・腕さえ・・・この砕かれた拳さえ動けば貴様なんぞッ・・!」
「ふぅぅ~・・・!」
烈の言葉が終わる前に、自分の腕に手刀を打ち込むシン。
「これでお互い片腕だな、この期に及んで文句はあるまい?」
これで平等だ、という意味ではない。
元々が平等ではないのだからこのくらい問題ない、本気で平等にするなら片足でやっている。
そんな見下した眼を向けている、海王である自分に。
許せない、許す訳にはいかない。
南斗聖拳など、所詮は中国拳法の技術の一部を寄せ集めた物だということを思い知らせてやる。
身体をリラックスさせ、握っていた手を開きゆるりと舞踏を始める。
リラックスした状態からインパクトの瞬間に力む、力を最も効率よく伝導させる方法。
一見すると頼りなく見えるこの構えも、本質は身体を楽にした状態を維持できる理想的な打撃フォーム。
拳をゆっくりと突き出す、だが届く距離ではない。
反撃の構えを取るシン、その瞬間に烈の思惑に気づいた。
反撃の構え、カウンターを狙う以上は相手の一挙一動を見逃す事が許されなくなる。
その為、相手の状態、動作を完全に把握する事に全神経を総動員させる。
だが異変に気付いた頃にはもう遅かった、既に烈は四肢への力の伝達を終えていた。
「破ッッ!」
覇気と共に放たれたのは、烈の肉体に蓄積された汗だった。
烈を中心に全方向へ、スプリンクラーから噴き出す水のように汗が吹き飛ぶ。
熱気を帯びた汗はシンの目を直撃し、視界を塞いだ。
その瞬間を逃すまいと、腹部へと指を伸ばす。
狙いは、『へそ』である。
腹部の窪みであるへそは、皮下脂肪や筋肉が全くないので如何に鍛練しても簡単につら抜けてしまうのだ。
そして今の烈は多少だが闘気を操る術を身につけている、内臓へ気を放出する事も可能なのだ。
服の上から窪みに指が入る感覚を感じ取る、勝利の余韻に口元が笑みで歪む。
ズボッ!薄っぺらな紙に、尖った鉛筆を突きたてたような音が響く。
烈の顔が歪んでいた、勝利を確信した笑みから絶望の嗚咽に。
シンの拳が烈の腕を貫き、内臓に到達する手前で止めていた。
骨を貫かれていた、おそらくヒビ一つなく、比類なき貫通力なくしては不可能な芸当である。
「貴様と俺では戦いの年季が違う、俺もケンシロウと同じく、生まれた時から暗殺者としての道を歩んだ男。
眼に頼っている者が眼を失った時どう戦う?生きる限り修羅である事が我等、南斗が運命よ!」
手首を捻り、傷口を抉り骨をへし折る。
両腕を失った烈へ、腕を差し出すシン。
「まだやる気があるなら折れ、足技が自慢だろう?
同じ土俵で勝負してやると言っているのだ、さっさとしろ!」
狂っている、勝てる筈がない。
何も考えられなくなった烈には逃走しか残された術はなかった。
「救命阿ァ!」
助けて、自国の言葉で喚きながら背を向ける烈海王。
それを見ていた赤いローブに身を包んだ怪しい男が居た。
「使えぬ・・・異世界の武術、過誤な期待だったようだな。」
男が不気味な目をギラリと光らせ、怪しい呪文を唱えると、
巨大な轟音と共に、烈の足下から大地が消え去ってしまった。
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