「:やさぐれ獅子 ~二十四日目~ 53-2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「:やさぐれ獅子 ~二十四日目~ 53-2」(2008/02/11 (月) 00:16:59) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「けっ、タネが分かりゃどうってこたァねぇ。ギリギリで避けなきゃいい話だ」
猪突猛進。神経を研ぎ澄まし、つららを早めに見切り、一気に魔法使いに迫る加藤。
「やはり原始人。学習能力に乏しいようだ」
瞬間移動。文字通り一瞬で背後に回った魔法使いは、加藤の背中に数万ボルトの雷撃を
炸裂させた。
「がっ!」
たまらずダウンし、のたうち回る加藤。
「あれで気絶しないとはさすが無駄に鍛え込んでいるな。魔法の試しがいがあるよ」
「この……ッ」
「さてそろそろリクエストタイムだ。どんな魔法で死にたい?」
「死ぬのはてめぇだッ!」
立ち上がって魔法使いに飛びかかるが、案の定直前で瞬間移動される。傷ついた足では
踏ん張りが利かず、まだ焼けている木の残骸に手をついてしまった。
「熱ッ! ぐわあぁぁっ!」
「──よし決まった。焼き殺すことにしよう」
加藤の顔が恐怖に染まる。
放射される炎に混乱してか、狂ったように木を蹴り倒す。草や枝を手に取り、あらぬ方
向に投げつける。
涙ぐましい努力も、火を止める術にはならない。ただ空しく可燃物が増えていくだけだ。
狂喜し、生みの親の手を離れ、踊る炎。
癌細胞の赤が、瞬く間に島を塗り潰していく。
「たかが武が魔に挑むなど、おこがましいにも程がある。焼け死んだ君には、君を愛する
者たちの夢枕に登場してもらおう。悪夢が君の友人や恋人たちに絶望を与えるのだ!
ハハハハハハハハ、ハハハ、ハ、ハハ……ハ……ハ、ハ……。
──ハ!?」
笑いが止まった。
いつの間にか完成していた火炎に包まれた戦場。加藤と魔法使いを、夥しい炎が囲んで
いた。抜ける隙間はない。
狼狽する魔法使い。
「なんだこれは?!」
「おまえが造ったんだろうが。いや、俺がおまえに造らせたんだよ。面白ぇように引っか
かってくれたぜ」
焼けただれた掌を見せつける加藤。魔法使いに炎を確実に選ばせるため、犠牲にしたの
だ。他に燃え移った炎は、すでに主の手を離れているので消すことはできない。
「おのれ……! だが私には瞬間移動がある!」
「無理だな。多分おまえの瞬間移動は短距離しか移動できない。……せいぜい数メートル
が限度ってとこか。それじゃ、この火炎地獄は抜けられねェよ」
「………!」
「形勢逆転だな。俺にぶちのめされるか、逃げて焼かれるか、二つに一つだ」
慢心から、虎の子の瞬間移動を自ら封じる形になってしまった魔法使い。ところが、意
外にもすぐに平静を取り戻す。
「何か勘違いしておるようだな。瞬間移動などなくとも、私が、魔法が、貴様如き原始人
に後れを取るわけなかろう」
魔法使いはステッキを天に掲げた。
「肉体の比べ合い──実に下らぬ、程度の低い争いだ。……筋力増強(パワーアップ)」
筋肉が膨張する。魔の力は、華奢な紳士をコンマ数秒で肉を纏った異形に変えてしまっ
た。
「これほどの筋肉、君たちでは会得するのにおそらく永い永いトレーニングを必要とする
だろう。だが魔法は君らの数十年をほんの一瞬で与えてくれる! 魔法こそ万能、魔法こ
そ究極、魔法こそ最強!」
巨大な逆三角形が、のしのしと間合いを詰める。
大きく拳を振り被る。一撃で決めるつもりらしい。
「潰れろッ!」
鮮やかな一撃であった。
人差し指と中指が、根本まで敵の両目に浸かった。
「ヒイイィィィィィィッ!」
巨大な体をよたよたと後退させながら、絶叫する魔法使い。加藤はまったく表情を変え
ることなく歩み寄る。
「どうした、そんくらい魔法ですぐ治せるだろ」
「………! すぐに回復呪文で──おごっ!」
次は睾丸だった。激痛で発声もままならない。
股間を抑え、血涙を流し、魔法使いはダウンを喫する。加藤は右手、左手、右足、左足、
を順に踏みつけて潰す。
「魔法は万能で、……えぇと、究極で最強なんだよな。じゃあこれくらい何ともないよな」
魔法使いは声にならない悲鳴を上げ続けている。
つま先で鼻に蹴り込む。魔法使いの顔面が真っ赤になった。
耳に足刀を入れる。ざっくりと耳たぶが取れた。
踵で背骨を真っ二つにする。
枯渇した喉でまだ叫んでいる魔法使いを、加藤は道端に落ちている石に対するように炎
の中に蹴り込んだ。
──決着。
魔法使いの敗北とともに、炎は丸ごと消え去った。焼けた木までは元には戻らなかった
が。
約五分の一の熱帯林が黒色に染められた。加藤にとっても、島にとっても、痛い一日だ
った
砂浜でぐっすりと眠る加藤。
そして明日、この島は最大の危機に晒されることとなる。
風神と雷神の手によって。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: