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「その名はキャプテン 53-6」(2008/02/11 (月) 00:14:16) の最新版変更点
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バファル帝国首都メルビル、港は商船で賑わい、城下は人々で埋め尽くされていた。
それは今日も同じように続いていた、ただ一ヶ所を除いては。
浮浪者の隠れ家、子供達の格好の遊び場となる空家、廃屋地帯。
近寄ってはいけないと、親から何度注意を受けても決して効かない。
そんな少年達も、今日は何故か近寄ろうという気さえ起こさなかった。
子供は危険を察知する能力では大人よりもずっと敏感である、渦巻く闘気が見えずとも、
その場所へ近寄るべきでないことを本能で悟ったのだろう。
ここに住む浮浪者は幸運だっただろうか、不幸だっただろうか。
恐らく不幸なのだろうが、世界中の武道家は羨ましがるだろう。
外から何かがぶつかり合う音が聞こえる、同時に叫び声も。
廃屋とはいっても柱に寄り付く虫も少なく、撤去されなければ数年は過ごせた。
だが、崩れた部屋には風が吹き荒み、もう雨よけにしかならない。
何故、崩れたのか?
誰に言っても信じないだろう、二人の男が繰り広げた殴り合いでこうなったとは。
しかも直接殴ったのではない、衝撃の余波だけでここまでの損壊に至った。
全ての衝撃が拡散した今でも、握り拳をピッタリと合わせたまま立ち尽くしていた。
唖然とした表情でシンを見つめるケンシロウ。
シンが口元を釣り上げニヤリと笑うと、拳を伝って肩の肉が吹き飛ぶ。
疲労と出血、流し込まれた闘気によって限界が来た肉体は、
意思とは関係なく倒れ込む事しかできず、ケンシロウはそれを傷だらけの両手で受け止めた。
「クックックッ・・・笑えケンシロウ・・・・・死ぬ寸前までお前の拳を否定し続けた俺が・・・。
力を得てもまた貴様の拳に負けたのだ・・・前の様な怒りの拳ではない、哀しみの拳で・・・・。」
「シン・・・まさか、わざと!?」
釣り上げた口元を結び、鋭い眼差しでケンシロウを射抜く。
「見損なうな・・・俺も拳法家、出せる力は全て出した。
それよりも・・・見えたか・・お前の進むべき道は?」
「確かに伝わった・・・俺はユリアの為、天に輝く北斗七星に掛けて誓う!
この世界を決して混沌と破壊で覆わせはしない、俺達の世界の様にはさせない!」
「そう・・・それがユリアの望み・・・・・。」
「ケーンっ!」
ホークの雄叫びが聞こえる、ベアとゲラ=ハの傷を癒し終えた様だ。
二人とも息をするのもやっとの様で、立ち上がろうとはしなかったが。
「速く秘孔を解け!そいつも水術で治してやる!」
「いらぬ世話だ・・・サルーインに操られた俺の末路は、冥府で罪を悔いるのが相応しい。」
「・・・・いや、お前にはこの世界で罪を償ってもらおう。」
秘孔をつき、闘気を流し込み血液の流れを止めて止血を済ませる。
シンは感じ取ってしまった、荒野を突き進み世紀末覇者を下したケンシロウの真の実力を。
体中を熱気が駆け巡る、死にかけの細胞が目覚めていく。
これが真のケンシロウの闘気、溶岩ですら遠く及ばない熱気からは最早、迷いは感じられなかった。
(敗者には何も残らぬと思っていたが、倒れた後に見る大空がこんなにも美しいとは・・・。
ユリア・・・お前が選んだ男は間違ってはいなかった。)
ホークを新胆中から解放する為に声をかけようとしたその時。
ケンシロウの目の前で黒い風が吹いた、いや、風は目に見えない物。
では何が横切ったのだろうか、気になったがそんな疑問も吹き飛んでしまった。
ケンシロウに起こった惨劇、首を真一文字に切られている。
口を動かしているが当然、声はでない。
風の行く末に目を向けると一人の男が立っていた。
筋骨隆々とした逞しく黒光りする肉体、しなやかな弁髪。
その男が顔中を、しわくちゃにしながら笑う悪魔の形相のまま口を開いた。
「待っていたぞ、北斗の使者に本来の力が戻るこの時を。
アミバ如きに敗れるクズのような拳士の魂では拳王は蘇らん。
シンは実に上手く機能したと言えるだろう。
同じ女を愛した男としての友情、闘争において不純物でしかないが実に美しかった。」
男の健康的な黒い肌が、ドス黒い色へと変貌していく・・・いや、違う。
シンから噴き出ていた暗黒の力が生み出す霧、それが男を包んでいたのだ。
「名乗らないのは無礼だったな。
私は『烈 海王』と申す者、君等と同様クンフーに身を捧げた者。
私に本物の『力』を授けてくれたサルーイン殿の為、ここで死んで頂く。」
そう言うと男は構えを取った。
腕を上げ、肘を曲げると手が頭の位置にくるようにする。
もう片方の手を前に突き出す、防御の為ではない。
腕を引いた際の関節の連動を考えた、攻撃の為のベストポジション。
恐らくは頭の位置まで掲げた拳を加速させる一撃必殺の構え。
これは明らかにカウンターの為の構えである。
「不意打ちの無礼は謝ろう、だが万全を期すためだ。
それに何時如何なる時も闘いである武道家が、奇襲を受けて油断していたでは済まされない。」
尤もらしい事を語ってはいたが、顔は不気味に歪んだ笑いを含んだままだった。
噴き出す霧も濃さを増しており、執念に燃えたシン以上に闇に取り込まれていた。
何がこの男をここまで駆り立てるのか、シンの想いの程は拳を通じて知っている。
一騎打ちにも負け、ズタズタになった己のプライドのため愛を封印した。
勝つ為の執念、怨念、憎しみ、負の念が渦巻いていた。
では、それ以上に深い闇を心に持つこの男は一体・・・。
「言っておくが、治療用の秘孔は無駄だ。
その傷は破壊神サルーイン殿の持つ剣の欠片で付けたもの。
斬り付けた場所には如何なる治療を施しても闇の力が傷口を広げ続ける。」
腰に帯刀されている小刀らしき物の事だろう。
このまま立っていれば出血多量で死に、立ち向かえばカウンターで仕留められる。
闘いの疲労、引き裂けた拳、喉からの出血。
このままでは命が危ういという状況なのだが、ケンシロウの目から闘志が消えることはなかった。
ニヤニヤと不気味な薄ら笑いを浮かべていた烈海王だったが、その笑いはすぐに消えることになった。
ケンシロウの身体に膨大な量のオーラが纏わりつく。
何をするかと思ったら、なんと闇の力をオーラだけで剥ぎとってしまった。
その何ということは無いという態度に怒りと困惑を交えながら烈が叫ぶ。
「バカなッッ!欠片とは言え神の力だぞ!」
驚愕する烈を見据え、歩を進めるケンシロウ。
裂けた拳や喉からの流血も、既に止まっていた。
「他者の力を借り、己が強くなったと勘違いしている哀れな拳士よ。
北斗神拳は神の拳・・・その力、貴様に見せてやろう。」
喉を切ったというのに、秘孔を一突きしただけで全快している。
予想外だった、秘孔の知識を知り尽くし生命エネルギー溢れる闘気を用いる。
それがこれ程の奇跡をいとも簡単に作りだすとは。
更に歩を進めるケンシロウ、相手はカウンターの構えを取り待ち受けている。
本来ならば、廻り込んでからのフェイントを駆使して構えを崩してから挑むのがセオリー。
だがそんな気配は見られなく、真っ向から打ち破る気でいる。
それが何を意味するか烈海王は感じ取った。
侮られている、格下と見下されている、中国四千年の叡智を身に納めた自分が。
「・・・ッッ!貴様は中国拳法を嘗めたッッッ!」
ケンシロウが間合いに入るなり、怒号を浴びせる烈海王。
北斗神拳とは違う純粋な中国拳法。
肉体の造り、技の構成、戦場の中で変化していった北斗神拳は既に別物。
戦場だけではなく、あらゆる状況下において『進化』したのが中国拳法なのだ。
その進化の系譜を余すことなく集めた集大成にして完成形こそ、『海王』の名を継ぐ者。
凄まじい踏み込みは大地を震撼させ、烈風を生み出す。
関節の連動による加速が人智を超え、烈火を生み出す。
その拳が、死の星に向けて放たれた。
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