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「神曰く、七つである必要はない」(2008/02/10 (日) 22:40:35) の最新版変更点
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雑居ビルが立ち並ぶ大通り。学校を終えた学生二人が、菓子パンを頬張りながら会話に
花を咲かせている。
「おっ、こんなところにも落ちてる」
「よせよせ、おまえ拾う気かよ」
「だってよ、これ全部集めたら願いが叶うんだぜ?」
「全部って……これが何個あるか知ってんのか、おまえ」
拾おうとした学生も、それを咎めた学生も、答えを知らない。
全てを集めると龍が現れ、どんな願いでも叶えてくれるというドラゴンボール。
直径十センチにも満たない球体に込められた得体の知れない伝説。ロマンをかき立てら
れずにはいられない。
だが、伝説とは希少価値がなくては成り立たないものだ。
「あそこの木にも引っかかってるぜ。おまえ、あれも取ってくるか?」
「……やーめた。バカらしくなった」
「だろ? んなもん、適当に放置しておけばいいんだよ。吸い殻より多いくらいなんだか
ら」
この伝説は街中にありふれていた。
街だけではない。人がいるいないに関わらず、世界中どこにでも転がっている。砂漠で
は水を見つけるよりドラゴンボールを見つける方がたやすい、という諺がある国すらある
ほどだ。
「この後どうする?」
「俺、今日バイトなんだよ。店長が人足りねぇから出ろとかいってきてよ」
「そっか、大変だな」
「まったくだ。早く辞めてぇよ、マジで。くそっ!」
ローファーに蹴り飛ばされたドラゴンボールが別のドラゴンボールに当たった。
気に留める者は誰もいない。
国際会議にて、とある事項が採決された。
「──よって、これより全世界は協力し、ドラゴンボール収集に動くことを採択いたしま
す!」
「異議なしっ!」
「異議なし」
「異議なし!」
満場一致。大喝采のもと、会議は無事閉幕した。
雑草よりも価値の薄い伝説。ついに公的に「伝説を確かめよう」という動きが起こされ
た。いい加減ドラゴンボールをどうにかして処理して欲しいという世論による後押しがあ
ったことも事実である。
この日より、全国民が徹底的な伝説狩りを開始することとなる。
会議で決定したからというより、会議をきっかけにブームが起こったという方が正しい。
ドラゴンボールを拾い政府に届ける。薄謝がもらえる。
「よう、今日いくつ拾った?」
「調子悪いな。五十個くらい。カラオケ代くらいにはなるな、行こうぜ」
「おいおい、いつも月曜はバイトだろ?」
「先週辞めた。本気でやればこっちのが稼げるしな」
これはいつかの学生の会話である。
政府に届けられたドラゴンボールは公海にある名もなき無人島へと運ばれる。
地上に存在する全国家がこのサイクルを遵守した。
あの学生たちがそれぞれ食品メーカーと区役所の課長になった頃、全人類を巻き込んだ
ドラゴンボール収集がついに終わりを遂げた。
無人島に神龍が出たのである。
「さあ、願いをいえ。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」
各国政府から島に集められる、ドラゴンボール管理を委任された担当者たち。彼らは知
っていた。最近国同士の争いがないことを。その理由がどこにあるのかを。
迷いはなかった。
「全国民から、ドラゴンボールに関する記憶を消してくれ。全て集めると願いを叶えられ
るという点以外を」
「たやすいことだ」
龍は無数の球に戻り、空に舞った。──またこの願いか、という思考と共に。
願いを叶えた管理人たちが呟く。
「あれ、我々は何をしていたんだ?」
「いや……全く覚えていない」
「よく分からないが、何か良いことをしたような気分だけ残ってる」
「私もだ」
余談だがこの惑星では、ここ数百年戦争が一度として起こっていないという。
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