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「乙女のドリー夢 52-1」(2007/11/06 (火) 22:20:38) の最新版変更点
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「松本さん、範馬君とどういう関係なのっ?」
ある日の休み時間。トイレにでも行くらしい刃牙が教室を出たのを見計らって、
隣のクラスの女の子が一人、梢江の席に鼻息荒く駆けて来た。
この子の名は浅井留美。これといって特徴のない、というか今時珍しいくらい地味な
三つ編み眼鏡っ子である。梢江とは中学の時に同じクラスだったので顔見知り。
梢江としては『浅井さん、ちょっとお洒落に気を遣ったら、もっと可愛くなるだろうになぁ』
とか思ってしまうような、そんな子だ。でも本人はどこ吹く風のマイウェイを貫いている。
そういえば昔から、留美が男子と会話しているところなんて殆ど見たことがない。そんな
留美が、何でいきなりよりによって刃牙のことを?
「ど、どういう関係って言われても」
「確か前に言ってたよね。範馬君、松本さんの家に下宿してるって。範馬君の家とは
家族ぐるみでお付き合いしてて、範馬君とは幼なじみとか?」
「ううん。そんな古い付き合いじゃないわ。刃牙君のお母さんが亡くなられて、お父さんは
海外出張が多いとか何とか……あたしも詳しくは知らないの。刃牙君自身に聞いても
何も教えてくれないし」
と梢江が答えると、留美は何やら腕組みしてふむふむ頷く。
「そっか。立ち位置的には幼なじみキャラもありかと思ったけど、そこは違ったと」
「? でも浅井さん、刃牙君のこと、あたしに聞かれても大したことは答えられないわよ。
刃牙君、毎日やたらと激しいトレーニングしたり、ぷっつり姿を見せないと思ったらひどい傷
だらけで帰ってきたりでね。あたしも何が何だか? だもん」
「……!」
梢江の説明に、留美は目を見張った。その目には驚愕と、そしてなぜか歓喜が溢れている。
「謎の傷だらけで帰宅……どこで何をしてきたかは秘密……そうよ、そりゃそうよね……」
「あ、あの、浅井さん? もしも~し? 何か見えるの?」
遥か彼方を見つめて異様に幸せそうな留美の目の前で、梢江がひらひらと手を振ってみる。
だが留美に反応はない。虚空に向かって何かを夢想、いや妄想している様子。それもかなり
濃密なものを。話の流れからすると刃牙絡みっぽいが、梢江にはさっぱりわからない。
その時、刃牙が教室に戻ってきた。と留美はあからさまに慌てて梢江に礼を言い、そそくさと
教室を出て行く。まるで刃牙から逃げるように。
その様子を見送った梢江の席に、同じく留美の慌てっぷりをしっかり目撃した刃牙が
のこのこやってきた。
「何かあったの? 今のは確か、浅井さんだよね。随分と動揺してたみたいだったけど」
「何かあったの? は、こっちの台詞っぽいわよ刃牙君」
「へ?」
「反応がオーバーだったから不覚にも思い至らなかったけど、よくよく考えてみれば単純な
展開よね今のは。浅井さんにとってあたしは刃牙君の同居人、そのあたしに刃牙君の
ことを聞きにきた。動機は何か? もちろん刃牙君のことを知りたいから。つまり、」
梢江は立ち上がって、刃牙に囁いた。
「ちょっと信じ難いけど、まず間違いないわ。浅井さん、刃牙君のこと好きなのよ」
「っ!? オレのことを? なんでまた、まさかそんな」
「あたしだってまさかと思うけど、それ以外考えられないもん。さあ白状しなさい刃牙君、
浅井さんと何かあったんでしょ? 車に轢かれそうになったところに飛び込んで助けたとか、
それとも不良に絡まれてたところを」
「いやそんなベタなことはしてないよ。というか浅井さんとはろくに喋ったこともないし」
「……」
「だからそんな目で見られても、オレには何の心当たりも」
と主張する刃牙の言葉を遮って、梢江が言った。
「振り向かずに聞いて。……浅井さん、今も廊下の窓から顔出して刃牙君のこと見てる」
「え」
「入学もクラス替えも転校もないんだから、今ごろ急に一目惚れってこともないでしょうし。
となると、やっぱり何かあったに違いないわ」
「って言われても、ホントに浅井さんとなんて何の接点もないんだってばっ」
賑やかに騒ぐ刃牙と梢江を、いや刃牙の背中だけを、廊下から留美が見ていた。
『ふぅ~む。こうやってよく見ると、範馬君ってあれで意外といいガタイしてるみたいね。
解りにくいけど、多分結構筋肉ついてる。まぁいいガタイって言っても、あたしとしては
もちろん筋肉極薄の華奢な男の子の方が好みなんだけど。この際、そこまで贅沢
言ってちゃダメよね。なんてったって範馬君は、範馬君こそは…………!』
留美の瞳に、アツい炎が燃えていた。だがそれは、梢江が考えているようなものではない。
興味、関心、そして好意ではあっても恋ではない。なにしろ芸能人といえば声優か
特撮俳優しか知らず、漫研がないからと仕方なく美術部に在籍する彼女、浅井留美は、
『でも範馬君、クラスの男の子とはあまり親しい様子がないのよね。一緒に戦ってる仲間
は学校外にいるのかな? あ、普段は異世界にいる? あるいは小動物に化けてるとか?
とするとネコミミにしっぽ、いやイヌ耳も捨て難いし、もちろんウサ耳ってのも』
と、こういう子なのである。
なぜに彼女が、あの刃牙に対してこんなことになったのか。その原因は今朝の、些細な
できごとにあった。
と言っても刃牙や勇次郎のような強いんだ星人とは違う、ごく普通の一般人(……か?)
である留美にとっては、とんでもない光景だったのだが。
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