「戦闘神話51-4」(2007/10/05 (金) 18:12:57) の最新版変更点
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part.4
act.3
結論から言えば、風間虎太郎ことオリオンの同僚、月闘士リュカオンは星華を守り通している。
しかし、彼の主の秘密裏に行えという命令は全く果たされては居ない。
彼自身の弁を借りるのであれば、それをそうと認識していないので、ばれてはいないと成るのだろうが。
「それじゃ、私これであがります」
星華さん、お疲れ、といった挨拶を受けて彼女は職場を後にする。
児童養護施設・星の子学園。
東京都銀成市にあるカトリック系の児童養護施設であり、星華星矢姉弟もここの出である。
この姉弟の幼馴染であり、今年十七になる美穂は、だいぶ早い時期から手伝いなどしていたが、
このたび本格的に児童介護福祉について学ぶ為に進学を決意し、目下勉強中である。
貴鬼にオシャレが足りないなどといわれちゃいるが、勉強に年下の子供たちの世話と、
今の美穂にオシャレする間などないのだ。
そんな美穂の手伝いと、育ててくれた恩返しにとばかりに、星華はここ星の子学園で働いている。
四年前の世界的大洪水によって、親をなくした子は多いのだ。
「さぁ、帰るわよ?」
二・三年前から施設に住み着いている一頭の大型犬に声をかけて、星華は家路に着く。
星華が面倒をみているその犬は、犬というより狼に近い野性味溢れる外見に反して、意外なほどおとなしい。
子供たちが居る関係上、あまりこういった大型犬の存在は好ましくないのだが、
穏やかな気質なのか、子供たちがじゃれて来てもうなり声一つあげないので、
学園の大人たちは子供たちの情操教育の一環と、大目に見ている節がある。
巨大な体躯のその犬は、言うまでも無くリュカオンの変身体だ。
正規の月闘士は、その出自をアルテミスの猟犬に求めることが出来る。
60頭の猟犬になぞらえて最大定数60人の戦士だが、数々の戦乱を経て、
今やリュカオンとオリオンの只二人だけである。
アテナの聖闘士やアポロンの天闘士、ポセイドンの海闘士やハーデスの冥闘士と異なり、
人間に対しての召集権限を持たないアルテミスは、自陣営の増強が出来ないのだ。
厳密に言うなら、地上管理権限を有するアテナ以外の神が自陣営の戦力増強・再編成を行うことは出来ないが、
ポセイドンもハーデスもオリンポス三貴神としての地上干渉権によってそれを可能としていた。
因みに複雑な履歴をもち、月闘士筆頭であるオリオンは、正確にはその60人には含まれないのだが、
もう二人しかいないのでどうでも良い。
「星矢…は、そういえば食べてくるって言ってたわよね…。
ちょっと贅沢しちゃおっかな?」
星華の贅沢といっても、せいぜいがコンビニでのお菓子くらいなのだから、彼女ら姉弟は倹約家といえるだろう。
生涯の大半を国外、それも治安の余り宜しくないギリシアですごしたので、
自然とそういう風になったという面もあるのだが。
鼻歌交じりで家の近所のコンビニ、銀成駅前にある、に入る時、彼女は黒髪の少女とすれ違った。
小柄だが、武道かなにかをやっているのか、歩きひとつとっても体がブレていない。
凛とした相貌を横一文字に裂いた傷跡がその印象を強めていた。
星華に武道のたしなみは無いが、普段弟を見慣れているせいか、彼女はそういった点に妙に目ざとくなっている。
だからといってどうという事も無いのだが。
強烈な印象のある傷跡だが、星華にとってはたいしたものではない。
弟の本業はそれこそ、傷ついてナンボの戦士であるし、彼の肉体は「傷は漢の勲章」とばかりに傷が絶えない。
因みに、ふだんは頭髪で隠れているが、星華の右コメカミの上あたりには大きな傷跡が存在する。
言うまでもないが、星矢を探しにギリシアを歩き回った際に崖から落ちて負ったものだ。
姉弟そろって傷が絶えない生涯というのも、何か問題が在るような気がするのだが…。
しかし、星華のような人間は全体的にみて少数派なのだろう。
少女とすれ違う人間は、おおっぴらに見ないものの、その傷跡に視線を飛ばす者が多かった。
無粋な連中だ、と星華は思った。
ちなみに、リュカオンは行儀良コンビニ出入り口脇にある公衆電話の下に座り込んでいた。
まるで忠犬である。
店内はこの時間にしてはまばら、
というよりは星華ともう一人、携帯電話で会話している金髪の少年だけだった。
その金髪の少年は、言うまでもないが、銀成市に潜伏中のエドワード・エルリックである。
戦士・千歳とやりあった後、ほうほうの態で銀成駅前のビジネスホテルに逃げ込んだのだ。
肉体的なダメージはたいした物ではなかったのだが、
エドワードにダメージを与えたのは女戦士から奪い取る形になった蝶野次郎の日記であった。
兄への愛憎入り混じった日記の内容は、
敗走という事実に暗鬱になっていたエドワードを更に消沈にさせた。
元の世界でドクターマルコーの研究内容やら、
狂愛の果てに国をも滅ぼしたダンテなどに比べたらマシともいえるが、
それでも兄として「弟」の愛憎というのは骨身にしみるものがある。
一時期、弟・アルフォンスは自分の事を恨んでいるのではないか?と思っていただけに、
こうした強烈な怨嗟は堪えた。
傷の治りは速いほうであるのに、
今回の打ち身だけは妙に後をひいたのはそのせいだったのかも知れない。
それでも手がかりを求めて読み進める内に、気になるキーワードを拾った。
銀成学園高校、蝶野家所有の洋館、高祖父さま、この三つ。
銀成学園高校自体に何もおかしいことは無いのだが、創設者の名が気になった。
創設者の名は蝶野爆爵。
蝶野家の財を築き上げた祖とも言うべき敏腕の実業家なのだから、
教育業界に興味を示し、将来的な人材育成を考えても何の不思議も無い。
だが、銀成学園竣工の主要出資者である蝶野家が、同時期に別宅を新造する都合が存在しないのだ。
次に不可解だったのが、学園と洋館の位置。
近すぎるのだ。
何かしらの理由があって学園の近くに置いたとしか思えない。
元の世界でも賢者の石を作る為に似たようなことをやった連中が頭になければ、
見過ごしていただろう違和感。
それは三つ目のキーワードで更に濃くなった。
次郎の父・刺爵が度々その洋館へと足を運んでいた事だ。
僅かな供回りを連れ、一族内の重要ごとや、事業の諸問題に悩んでいる際には洋館へと足を運んでいた。
彼が理由を問いただせば、高祖父さまにお伺いを立てている、
お前が正式に蝶野家を継ぐ段になったら詳しく説明をする。
蝶野刺爵はそう説明していた。
その記述を読んだ瞬間、なにか途轍もなく不吉な予感に、失った右腕と左足が疼いた。
元の世界でイヤというほど味わった感覚である。
そこまで思い至った頃、エドワードは空腹を覚えた。
時計を見れば、水分以外丸一日何も口に入れていないことに気が付き、
駅前になにか口に入れるものを探しに出た。
コンビニエンスストアだけでなく、町並みをみると、
錬金術など無くても人は発展していけるのだろうと思う。
だが、この世界の人間も無いものをねだるのだろう、
なぜ、あるものだけで満足できないのか、
そうも考えてしまう。
それが人間だとは考えたくない。
そんな事を考えていると、危うく前を歩く女性にぶつかりそうになった。
黒髪のショートカット、年齢的には自分とほぼ同年代、少女といっていい女性だ。
その相貌を真一文字に引き裂く傷痕が、エドワードには何故か数日前に闘った女戦士を思い出させたが、
それを表情に出すことはせずに、ぶつかりそうになった非礼を詫びた。
彼女の行き先も同じコンビニだったらしく、
なにか気まずい思いを抱きながらコンビニに入るエドワードだったが、
そこでいきなり携帯電話が震えた。
相手は、ソレント。ジュリアン・ソロの懐刀である。
すわお小言かと思って出てみると、
ジュリアン・ソロが来日するとのことだった。
日時は来月だったが、つまりはそれまでに一定の成果を出しておけとのことだ。
彼は明日にでも洋館を訪ねる覚悟を決めると、腹が減っては戦は出来ぬとばかりに食品棚のほうへ向かった。
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