「るろうに剣心ー死狂い編ー51-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「るろうに剣心ー死狂い編ー51-1」(2007/09/14 (金) 10:40:20) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
第一話「予兆」
金岡虎眼流の起源は江戸初期にまでさかのぼり、その源流は、慶長以来、「濃尾無双」と謳われた無双虎眼流である。
無双虎眼流とは、かの柳生新陰流の達人にして総帥、柳生宗矩すら凌駕すると恐れられた、剣豪岩本虎眼が、
遠江の国、掛川に道場を開いて創始した流派である。
金岡虎眼流は、この岩本虎眼の弟子の一人であった金岡雲竜斎が、免許皆伝し独り立ちして建てた流派であり、
明治の世まで伝わったのは、こちらのみである。と、言うのも、本家虎眼流は、頭首岩本虎眼が斬死し、
その後継も尽く絶えたからである。岩本虎眼の死に関しては、現在では記録が少ないためどうもはっきりしない点が多く、
一説によると破門した当道者(盲目の人間)に斬られたと言うが、定かでは無い。
また、彼の血縁者、中目録以上の優秀な弟子たちは、後の世で残酷無残と称せられたあの駿河城御前試合に関わり、
尽く横死している。大目録術許しであり、尚且つ御前試合以降も生存していたのは(すくなくとも記録に残っている上では)金岡雲竜斎ただ一人であった。
彼が、虎眼流宗家を襲った惨劇より何故ただ一人生き延びたのかは、それが単なる偶然なのか、
それとも何か他に要因があったのかは杳として知れない。
ただ、雲竜館に代々伝わる「金岡相伝書」では、岩本虎眼の名は何故か“宮本”虎眼となっており、
単なる間違いの可能性もあるが、虎眼流宗家との繋がりを曖昧にしたいという、
何らかの意図があったとも考えられそうではあった。
しかし、宗家との関係性はどうあれ、金岡の伝えた虎眼流の業(ワザ)は、決して宗家には引けを取ることは無い。
事実・・・・・・・
「死んだ・・・・だと」
「へぇ、何でも、例の蜂須賀以外、その場にいたそいつの取り巻き八人が全部・・・」
牛鍋屋「赤べこ」の席上で、一緒に鍋を囲んでいた舎弟の修の切り出した話の、
その血生臭い内容に、元「喧嘩 屋斬左」こと相楽左之助は顔をしかめた。
修の話に依れば、このあたりの若い不逞の輩の集まりであった「菱卍愚連隊」の頭目、
蜂須賀と、喧嘩の腕の立つその取り巻き八人が、何者かに殺されたというのである。
「そいつぁ、いつの話だ?」
「へぇ、昨日の夜あたりだって、話ですけど・・・」
「あいつらは見境無く暴れてやがったからな・・・・ヤクザにでもやられたのか?」
「いえ・・・・それが・・・・どうも、行き摺りの男にやられたらしくて・・・」
「何だそりゃ・・・」
左之助が再び顔をしかめた。「赤べこ」で下働きをしている、神谷活心流(唯一の)門下生、
明神弥彦も、仕事の手を止めて、修の話に耳を傾けた。
「生き残った蜂須賀が言ったらしいんですけど、白髪頭の素浪人風の男に喧嘩売って返り討ちにあったらしいんすよ」
「白髪頭の素浪人・・・ねぇ・・・・」
「しかもやられた連中は全員が殴り殺されたらしくて・・・顎がそぎ落とされてたり、
顔が文字通り潰されてたりと、どいつもこいつもろくでもない死に方してたみたいすっ・・・」
「そりゃまた・・・」
「蜂須賀もあばらをへし折られて、半殺しだって話です・・・」
修はおっかない、といった感じに、身震いしながら言った。
左之助達が「赤べこ」で鍋を囲んで話し込んでいた日の、先日の夜。人気のない河原。
「ひぃっ・・・・・・ひぃっ・・・・・・・・」
年若い不逞の輩どもの群れである「菱卍愚連隊」の頭領、蜂須賀は、喉からかすれた悲鳴を上げた。
彼の眼に前にはつい先ほどまで彼と群れていた彼の舎弟どもの物言わぬ躯が転がっている。
何れも、体の何所かを原型を留めぬまでに破壊されている。
あるものは下顎を削ぎ飛ばされ、顔面を破壊され、頚椎をへし折られ、胸部を陥没させ、死んでいた。
そんな躯どもの真ん中に、一人の年若い男が立っていた。
奇妙なことに、彼の頭は、まるで老人の様に白い。
そして、男の右手には、今しがた彼が殺したごろつきどもの歯が幾つも突き刺さっていた。
何故、こんな事になったのか。
蜂須賀は、既に恐怖で機能停止寸前の己の脳みそを何とか動かして考えた。
彼らが、この白髪男に絡んだのには別に深い意味はない。ただ、その若白髪が目に付いただけである。
そして、男が大事そうに背負った、太刀袋のようなものが気にかかっただけのことであった。
適当にいたぶって、身包みはがして置き捨てる積りであった。それが・・・・・
「ひぃぃ・・・・ひぃぃ・・・・」
恐怖のため、呼吸がうまく出来ない。汗が滝のようにあふれだす。太腿の辺りが生暖かい。
蜂須賀は既に失禁していた。
「・・・・・・・」
男がこちらを向く
「・・・・・・・」
男がかすかに動いた、と蜂須賀が認識した瞬間。右胸部に凄まじい衝撃を感じ、
蜂須賀は意識を手放した。
金岡虎眼流大目録術許し、雪代縁は、自分の右手に刺さった歯を引っこ抜いた。
彼が、彼らの喧嘩に応じたのは別に深い意図があってのことでは無い。
ただ、彼の仇どもと死合う前の準備運動ぐらいにはなるかと思っただけの話である。
実際には、こんな野良犬、否、蛆虫ども相手には、表道具はおろか、裏の道具もほとんどつかうまでもなかったのだが。
「・・・・・・・」
今しがた右胸の肋骨を砕いた男はまだ生きている。
別に縁が仕損じた訳では無い。
皆殺しにせず一人残すのは、言わば癖のようなものであり、
「生き残った者を虎眼流の剣名を世に広めるための生き証人とする」という、宗家がまだあったころからの伝統であった。
男、蜂須賀の肋骨を砕いたのは、「虎拳」という手首を用いた当て技である。
虎眼流大目録術許し、すなわち三尺七寸の太刀を神速にて操る剣客の腕ならば、
たとえ無刀であっても、容易に人体を破壊しうるのだ。
左之助は、「赤べこ」を出て(無論、勘定は払わない)真っ直ぐ普段から入り浸っている神谷道場へと向かった。
修の話を聞いて左之助の考えたこと、それはこの話を、緋村剣心に話すことである。
相手はたかがごろつきどもとはいえ、九人同時に相手にして、それを易々屠る男である。
なんとも得体が知れず、警戒をしておくに越したことは無いと考えたからだ。
いまだ「赤べこ」にいる弥彦もまた同じことを考えていた。
彼らはまだ知らない。その白髪頭の男が、自分たちを探してこの東京までやって来ていたことに。
_
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: