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解説:兵馬俑について
出典:百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B5%E9%A6%AC%E4%BF%91 より。
>兵馬俑(へいばよう)は、本来は古代中国で死者を埋葬する際に副葬された俑のうち、兵
>士及び馬をかたどったものを指す。秦九代目の王穆公が死去した際に177名の家臣たち
>が殉死することになり、殉死を防ぐために兵馬俑が作られることになった。
「割符は奪還したな。そして──…」
無銘がくわえてきた物をつまみあげると、総角は微苦笑を漏らした。
「こらこら無銘。核鉄まで持ってくる必要はなかったんだがな。俺たちの手にこういう希少な品
が渡ると、戦団の連中は血眼になって俺らを追ってくるぞ」
手にあるのはシリアルナンバーIVIV(44)の核鉄。斗貴子の物であるのはいうまでもない。
「……失策」
「いやいい」
女性のようにすき透った頬に楽しげな笑みを浮かべた総角は、チワワの両脇に両手を入れ
て、肩のあたりまで持ち上げた。
「安心しろ。こっちは解決済みだ。どうせこの武装錬金で潜伏している限り、俺たちが追撃を
受けるコトはまずない。なぁ貴信。香美。負けた上によく考えもせず核鉄を奪ってきた熱血飼
い主とアホ猫。まぁなんだ。そうそう。勝敗は兵家の常だから気にするな。お前たちはむしろよ
く戦った方だ。もっとも負けたのは頂けないがな。あぁ、俺は悲しいなぁ~」
えらく楽しげにからかう総角に、名を呼ばれた二人──実質一体だが──は座りながら必
死に抗弁する。
「う……。でもあんた、核鉄のあつめるの趣味じゃん」
『ははは!! それを思ったからこそ僕は取ってきた!! それが不都合あればあらかじめ
いっておけばいいのでは!?』
いま表にいるのは香美で、衣服はボロボロ。タンクトップの肩が派手に破けて、もともと良く
見える胸元がなかなか危なげに見えている。ハーフパンツもしかりで、破れた個所から膝小
僧とか太ももの健康的な瑞々しさが覗いている。交番に駆け込んでそれらしいコトをでっち
あげれば、とある犯罪の被害者として記録してもらえるだろう。
むろん傷は癒えていない。さっきのセリフだって本当は総角を見上げていいたかったが、振
動で首とか足とか取れて傷口が開きそうなのでやめている。
ただジト目で不機嫌そうに壁をにらんで、「助けてくれたのはうれしいけどさ、もっといいかた
ってもんがあるでしょーが!」と、ふーふー唸っている。
「まー、それもそうだな。でも、俺の部下なら少しは機微も考えて欲しいがな」
「無理。あたしはね、いわれたコトすらできるかどーかわかんないし!」
「やれやれ。俺は永遠に猫派になれそうもないな。どちらかといえば犬派」
無銘を高い高いしながら総角は上機嫌だ。
「師父。我に対するこの扱いは好みにそぐわず」
柔らかな三角の顔が迷惑そうに歪み、じたばたともがいた。
「フ。犬派の道も断たれたか。まぁいい。どうせ本命はロバ派だしな」
つれないチワワは地面は置かれると、ちょこんとお座りをしてうるんだ瞳を総角めがけて持
ち上げる。可愛くはあるが、どこか神妙だ。
「閑話休題。先ほどの戦士、特に手当せず放置しましたが、不都合は如何に? 核鉄を奪う
コトが火種なれば、戦士の殺害はそれ以上に甚大。されど何ゆえ放置を命ぜられた?」
黒豆のような瞳を見る総角は、実に心地よさそうだ。
「さすがお前は物分かりがいいな。香美。お前も少しは無銘を見習え」
「……うぅ。考えとくけどさ、鳩尾のいうとーりあのおっかないのほっといていいの?」
『はーっはっは! ひどく怯えてるくせに心配はするんだな!!』
「だってさ。いきものが死ぬのって、すごくやなのよあたし。でもアイツはこわいケド」
といいながら香美は瞳孔を見開いてがくがくがくがく震えている。
猫は怖がりなのだ。例えば車に轢かれてからその道路には出たがらなくなったり、獣医
へ行く途中でケージを落としたら、ケージを見るだけで逃げ出したりするようになる。
「鐶(たまき)だ」
へ? という気の抜けた声が総角以外の三人から同時に漏れて、ヒンヤリとした地下道に
木霊した。その中で無銘だけは、ちょっと歯を剥いて軽く唸った。
「……彼奴? 彼奴が近くにいる? なれば一秒でも早く合流の是非をお教え頂きたい。合
流するのであれはさっさと退散する所存。彼奴などと同座同席するは死にも並ぶ苦痛……!」
「フ。そう露骨に嫌そうな顔をするな無銘。事後処理はあいつに任せておけばまず問題はな
いぞ。少なくてもお前たち三人が出ていくよりは話もこじれない」
「そだけどさ。あたしはあのコ苦手。話つづかないもん」
『僕は尊敬している!! 彼女ほど強く機転の利くホムンクルスはそうはいないからな!
それに熱い歌を崇拝しているのがいい!!』
「あ、それから無銘」
「合流の是非は如何に!」
意気込む無銘に総角はくすくすと笑いをこぼし、告げた。
「少しだけだが合流するぞあいつ。良かったな」
無銘が地下道の果てまで突っ走ったのは余談として書き留めておく。
さきほどの真・蝶・成体の土台がぱくりと割れ、中から名状しがたい物体が漏れた。
基本的な形状はホムンクルスの胎児のようだが、背中のあたりからヘビのような尾が五十
センチばかり伸びており、長い体をくねらせながら地面を疾駆しはじめた。
向かうのは……血みどろで倒れている斗貴子。
レウコクロリディウム。
これは寄生虫の一種だ。主な宿主の一つは鳥。ただし寄生する手段が少々変わっている。
まずカタツムリの触覚に寄生する。寄生してから触覚をたとえば緑一色などのカラフルな模
様に変化させる。するとそれを目印に鳥がカタツムリを見つけやすくなり、捕食する。
捕食すればレウコクロリディウムはめでたく鳥に寄生できるという寸法だ。
更には鳥の糞にも彼らはおり、食べたカタツムリにまた寄生する。
結論から書く。
ホムンクルス浜崎は生きていた。
(俺はレウコクロリディウムのホムンクルス! この『本体』を寄生させた生物を操る能力の
持ち主よ! そして『本体』さえ無事なら依代が破壊されようと痛痒なし! 以前は大損壊を
受け、真・蝶・成体に寄生してその回復力を頼らざるを得なかったがなァ!)
浜崎は斗貴子のすぐ近くに到達した。物言わぬ斗貴子は、そのスレンダーな肢体をまったく
無防備なままに投げ出している。
スカートから伸びるすらりとした白い足は、傷を少々帯びてはいるが、それだけに一種の男
性的衝動をかきたてる何かがある。
(よくも真・蝶・成体を破壊してくれたなァ。まぁいい。次は貴様だァ。貴様の体さえ乗っ取れ
ばこちらは核鉄以上の戦力を得るだろう! そしてそれはァッ!)
ヘビのように長い体が、斗貴子のふくらはぎの下を潜り抜け、緩やかに巻きついた。
ぬらりとした感覚に嫌悪を催したのか、斗貴子の寝顔から軽い呻きが漏れる。
(ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの連中が引いた今ァ、た・や・す・いコト!)
「などというモノローグの元、浜崎どのはセーラー服美少女戦士どのの足を登っていくので
あります。その動きはらせん状、じわじわと確実に蝕まんとする意志に溢れております。あぁ、
その目をご覧ください。この血走りは果たして復讐心のみに起因するのでしょーか! ややも
すると、えぇと、その……なんでしょう。こほん。実況人として意を決して申し上げますれば、
淫靡! その一言に尽きまする。……その、どこへ侵入なさるおつもりか…… 聞きたくはあ
りますが、どうにも気恥しく……不肖はしばし口ごもるしだい……いやはや……」
立て板に水な声に、浜崎の頭が反射的にそちらを見た。
八メートルほど先、広場と竹藪の境目にいるのはシルクハットの小柄な少女。
頬に紅差し、口をもにゅもにゅした波線にしている。
「小札零かァァ~! この戦士を斃しに来たのかァ? それとも介抱かァ~?」
「いえいえ不肖は任務を終えてたまたまこちらを通りすぎたという次第。何の任務かは秘中の
秘ゆえ伏せたく存じますが……ただ」
小札は目を細めると、カマボコみたいな口でえへへーとはにかんだ。
「結果は大・成・功! もりもりさんも喜んでくれるコト受け合い!」
「……話にならんなァ」
「そう思われるのであれば、そうであるかも知れませぬ。されど浜崎どの!」
小さな手からロッドが現われ、浜崎をびしぃっと指し示した。
「不肖の話、実は囮だとすればそこに話の種は生まれるのではないでしょーかっ!?」
分類すれば短剣だろう。銀色の刃が斗貴子の足のそばに突き立ったのを合図に、浜崎は
素早くその場から跳躍した。同時に手近な竹(へし折られて節穴を露にしてる奴)へ潜り込
んだ。
「おお。さすが! 寄生の条件はすなわち穴への侵入なのでありますね! ……そしてっ!
セーラー服美少女戦士どのへの寄生はとても恥ずかしいお話ですので割愛!!!!」
竹が変貌を遂げた。丸い形から六角形の柱と化し、青々とした肌は幾何学的な装甲へ。
そして穴から浜崎の顔(人間形態だったころの岩のような)がろくろ首みたいににゅらりと
覗き、小札に濁った眼光をふりまいた。
「今、短剣を投げた奴は誰だァァァ~!!」
「私、です」
斗貴子の足の間から短剣を拾い上げた影がある。ひどく奇襲に慣れているらしく、拾う前も
拾った瞬間も拾った後も同じ速度で走り、呆れるほどの手早さで浜崎との距離を詰めると
彼の顔めがけて銀光をほとばしらせた。
浜崎は首を引っ込めすんでのところで回避した。影は返す刃で残り短い竹を逆袈裟に切り
捨てた。それが地面にせり上がった根に当たって「からん」と乾いた音が一瞬響いたのを最
後に辺りは静まり返り、月も雲にさっとけぶって無音無明の緊張に満ち満ちた。
「リーダーからの伝達事項その三。間隙を縫う者は必ず現れる。予想通り、です」
止まった影は小札よりはやや大きい。声は十代半ばだから、年齢がそれ通りとすればほぼ標
準通りの身長か。
暗がりのせいで正確な姿は分らないが、後ろ髪をリボンでくくって下に垂らしているのは分った。
「むむ。やはり鐶副長が仰せせつかっておりましたか。ならば不肖は手だしせずとも大丈夫!」
「ええ」
小札を振り返り言葉身近に応答した鐶。
その背後をしなった竹が襲った。
「なァ……?」
呆気の声を漏らしたのは、攻撃を仕掛けた方。浜崎だ。
鐶は振り返りもせず短剣で竹を二股に切り裂き、しかも鐶から見て七時方向の竹の一本へ
短剣を投げていた。
そこは浜崎の『本体』がある場所のほぼ真上。
彼は筒の中で頭上を見上げ慄然とした。短剣が突き刺さっている。避けてこうなったならま
だ良かった。しかし彼は投擲自体に気づいておらず、頭上の物音を反射的に見て事態に気
付いたにすぎない。
つまり、鐶の失敗によって命を救われた形になる。
「……遙かな大空に、光の矢を…………放ってみました。でも一撃必殺は無理でした……」
浜崎は大声を張り上げたかったが、自らの所在をバラす愚行なので必死に耐えた。
耐えて竹の茎や根の中を移動しながら(一体化しているので可能)も、恐慌をきたしはじめて
いた。
なぜ自分の本体の位置を悟られたか。
声か? いや、声を漏らしたのは短剣を投げられた後だからそれはない。
(まぁいい。分はこちらにある。奴は武器を手放したァ。しかも竹は)
「……竹は……地下でつながってます。だから一本の竹に寄生すれば……その一帯の竹す
べて、あなたの味方。囲まれて、いますね……」
影の周囲にはいうまでもなく竹が充満している。
「……あなたが私に求めているのは絶望、でしょうか。星さえ見えないほど深い、絶望……」
口調は淡々としてまったく焦燥をはらんでいない。むしろ一言も発していない浜崎が、その
無言の理由からして追い詰められているようでますます惨めだ。
彼は激高した。
寄生した竹をすべて一気に操作し、鐶めがけて撃ち放った。
尖った根が鐶の腹部を。しなった竹が頬を。刃と化した幾枚もの笹の葉が到るところを。
それぞれ狙い打つ。
筈だった。
根が縮んだ。しなった竹も同じく。
奇異なるコトに笹の葉は……飛ばなかった。
刃が入り組んだような紫の物体と化している。
「さて皆様ご存じでしょーか!! 実をいいますれば竹にも花は咲くのです!」
いつの間にやら学校の会議室にあるような長い椅子とか椅子を取り出して、小札はロッドを
マイク代わりに解説を始めた。もちろん机上には「特別解説っ! 小札零!」と下手な字が
書かれた白い紙製の三角錐。
「一般には数十年から数百年に一度の割合で咲くのであります! 地下でつながってますか
ら、咲くときは竹藪一帯これ総てお花満開!」
彼女のいうとおり、頭上では前述の紫の花がひしめきあい、自重ゆえに心持ち垂れさがって
先ほどより夜空を多く露出している。
「おお、見えざる花咲かおじーさんが来訪したかのごとくでありますね! ちなみに開花後は
実をつけて枯れますゆえに不吉な現象といいますが、しかし人間の人生とて長い目で見れば
そんな感じではないでしょーか! 漢の高祖とか豊臣秀吉とか一花咲かせてからもう一花咲
かせた方は歴史上ちょっとおりません。後はもう枯れ、時には老害とのそしりを受けたりも。
つまりは大成を秘めた人生とは不吉に近いものなのでしょーか? それはさておき浜崎ど
の。この開花は浜崎どのにとっても不吉な予感で死兆星! さぁ、さぁさぁ、退却のご用意を!
ここで引くなら鐶副長も引きますよーぉ!」
「引きません。このままごーごー。ただひたむきに……」
「え!?」
「リーダーからの伝達事項その二。禍根を残すべからず。残念ですが彼の死は……決定稿」
「むむ……もりもりさんがそうおっしゃるなら不肖には口出しのしようも……なーむー」」
(どういうコトだァッ!)
浜崎は竹の中で震えだした。彼のいる竹までもが徐々に縮み、狭くなりだしている。
(奴はふれもせず、いったいどうやって!!)
「短剣…… 別に本体へ当たらなくても良かったのです。あなたの体の一部にさえ当たって
しまえば……もうすでに私の武装錬金の特性の餌食。運命に戸惑う嘆きのロザリオ……」
影が淡々と呟いた。飛んだ。
「……所詮あなたはレウコクロリディウム。エサの気配は簡単に察知できます」
手を巨大な翼と化し、竹藪を機械的に切断しながら一直線に。
五十メートルは滑空したか。彼女の通った後の竹はことごとくなぎ払われた。
「鳥型ホムンクルスの私の敵では……ありません。『特異体質』を使うまでも、ありません」
(ああ、確かに敵ではないなァ)
影のあとをとことこ付いてきた小札は「ぬおっ!」と寄生を漏らした。
鐶の耳元に、ホムンクルスの幼態へ長い尾ひれをつけたような特異な物体が張り付いている。
浜崎だ。いつの間にやら飛んでいた彼は耳の穴から今まさに侵入しようとしている。
彼は叫ぶ。恐怖からの解放を喜び、ひきつりながら。
「油断したなァ! 倒せずとも元の生態を思わば寄生するコトこそ本懐よ! あの女戦士など
もはやどうでもいい! 貴様はおそらく奴以上の強者ァァ! おとなしく我らに!」
「あ、無駄です。ぶいあいしーてぃおーあーるわいてぃ、すりーつーわんぜろ無銘くん……♪」
鐶の声が脳内に伝達するより早く、浜崎の体一面とボコボコと膨れ上がり、弾かれるように
彼女から離れた。
(~~~~~!!!)
意図したものではない。体が勝手に動いている。地面をのたくっている。
随意筋な意味でも不随意筋な意味でも。細かな手足がてんでばらばらな方向へとじたばたし、
しかも内側から新たな肢体を無責任に量産している。腹からは新たな口が発生し、不規則で
不細工な鋭い牙を幾重にも伸ばしながら大口をガチガチ打ち鳴らして異臭まみれの粘液を
地面に降らす。尾ひれ一面は鱗が生えては剥がれおち、生々しい肉の赤肌が異常な熱と痛み
を放ち、眼窩ときたらそれこそレウコクロリディウムに寄生されたカタツムリのようにカラフルに
肥大して、床屋さんにある回転灯のように赤とオレンジの色をぐるぐる螺旋させている。
「どうなっている! ど・う・なっているゥゥゥゥゥゥゥ~!」
「無駄、です。あなたはすでに無銘くんの攻撃を……受けています」
影は浜崎など顧みず、先ほど刺した短剣を回収しにいった。
「彼の敵対特性は…………武装錬金だけでなくホムンクルスに及びます」
(何をいっているコイツはァ! 奴の武装錬金の発動条件は俺だって聞いている! 攻撃
を受けるコトだァァァ! が、俺はあの黒装束の人形や忍六具の攻撃などは……!)
無茶苦茶な狂騒に持って行かれそうな状態で、彼は一つの事実を思い出した。
(まて、あの時まさか。あの時、まさかァァァァ!!)
斗貴子が黒装束の自動人形を倒した直後だ。
不意打ちと共に姿を現した浜崎はチワワに遭遇した。
>その足もとにやわらかい感触が走った。
>見ればチワワがまとわりつき、浜崎の足元を噛んだりひっかいたりして遊んでいる。
チワワは無銘の本体。鳩尾無銘そのもの。
(あの時! 噛まれた時! 奴はまさかァ自動人形の一部を口に含んでいた、か!!)
「あの時……噛まれた時……彼はちゃんと自動人形の一部を口に含んでいました……
具体的にはあの鱗のような物体……です。それが足の傷から入って……こうなりました」
無慈悲な足音が浜崎の近くでした。同時に銀の刃が彼を貫いた。
「少し……可哀想な斃し方をこれからします…… だから最後に一つだけ……」
刃が突き立った浜崎はどういうワケか縮んでいく。
どころか肌の質感も若くなり、異常をきたしていた体も、元のように戻っていく。
彼はその現象に確信した。
サッカーボール大で留まったまま仮死状態になっていた幼体ども。
これだけの実力を持つ鐶が、敢えてホムンクルスを殺さずに留め置いた理由。
「お前の能力は……目論見はァァァァ!」
「私の武装錬金は──…」
叫ぶ幼体から引き抜かれた短剣の形状を記す。
全長は約三十センチ。刀身はその内二十センチメートル。
鍔はその両端を刃先に向かって小さく直角に折れ曲がっている。
特筆すべきはその直下。柄の先端部分。
小さな球状の物体が二つ、柄の両側についている。
名の由来がとかく淫靡な武器である。なぜなら二つの球と一つの柄を「男性器」に見立てて
いるのだ。そしてついた名前がボロック(睾丸)ナイフ。
別名。
「キドニーダガー。名はクロム クレイドル トゥ グレイブ。特性は年齢のやり取り……です」
影はずいぶんと小さくなった浜崎を踏みつぶし、ぐしゃぐしゃと事務的に地面へなすりつけた。
「リーダーからの伝達事項その一。殺す者には親切に…… キドニーは『親切』なので……」
この晩の戦いはひとまずこれによって幕を閉じた。
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