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「最強伝説の戦士 黒沢 50-2」(2007/07/25 (水) 18:46:17) の最新版変更点
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返り血にまみれた体で、クモ男が走った。トレーラーに取り付くなり簡単にドアを壊して、
運転席にいたひろみの喉を掴んで引きずり出し、その巨体を地面に叩きつける。
更に追撃を加えようと爪を振り上げるクモ男に、頭上から拡声器越しの大声が轟いた。
《させるかああああぁぁっ!》
イングラムに乗っている野明の声だ。横殴りに拳を振るって攻撃をしかける、がクモ男は
身軽に跳躍してそれをかわすと、口から糸を吐き出した。糸、と言っても登山用ロープ
ぐらいの太さがあるそれは、まるで意思ある蛇のように伸びてイングラムにまとわりつき、
両腕両脚の間接部に絡みついた。
糸を引きちぎろうと、イングラムが四肢を踏ん張る。それと綱引きをする形で、クモ男も
糸を手に持ち替えて握り、踏ん張る。身長2mと8mの力比べだが、
《っ! き、切れない……? どころか、あいつを全然引っ張れない!? そ、そんな、そんな!》
クモ男は動かない。驚愕のあまりイングラムの操縦席で野明がパニックに陥る、と糸が
絡んでいるイングラムの肘・膝・足首の関節から一斉に火花が散った。あっという間もなく
それは爆音と共に火柱に変わって各関節部を壊し、焼く。クモ男が糸から手を放すと、
イングラムは地響きを立てて仰向けに倒れ込んだ。破壊された各所の亀裂が広がり、
衝撃で頭部のアイカメラが歪む。
クモ男は、動かなくなったイングラムの胸板に跳び乗った。そこで高らかに足を踏み鳴らし、
勝利の雄叫びを上げる。
その足の下、胸板の下には操縦席があり、野明がいる。歪んだアイカメラが映す、
ノイズだらけの映像で、クモ男を見ている。板一枚隔てた自分のすぐ目の前で、
その板を踏み鳴らして狂喜し跳ね回る殺人鬼を。想像を絶する力をもつ怪物を。
「……う、ぅ……ぁ…………」
恐怖に凍りつく野明。今自分がここにいることを、知られているのかいないのか。
知られていて嬲られているのか、知られてないとしたら知られた途端に襲われるのか。
だがそんな野明に負けず劣らず、黒沢たちとて絶望のどん底だった。ほんの数分前まで
平和で退屈な職場で弁当喰ってたのに、今や揺れる炎に照らされて、肉塊の群れに
囲まれているのだから。
やがて、クモ男はイングラムの上で跳ね回るのをやめた。その場でしゃがみ込み、ハッチの
凹みに爪をかけ、持ち上げようとして……開ける気だ、やはり野明に気付いている!
「やめろおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
叫び声にクモ男は振り向き、そちらを睨みつけた。
つい、勢いで叫んでしまった黒沢は慌てて逃げ出そうとする、が、腰が、腰で、立てない。
「く、黒沢さん、し、し、しっかりっ……!」
浅井が、膝を揺らしまくりながら根性で立ち上がった。そして黒沢に肩を貸そうとする。
だが自分一人でさえまともに立つのが厳しい状態なので、ただよろめくばかり。
「お、おい、お前……その……の、ののの」
舌がもつれる黒沢。
『……ここで、「オレのことなんかほっといて、お前一人でも逃げろ!」とか言えりゃあ
カッコいいんだろう……けど、それを言って本当にそうされたらどうなるっ……?
間違いなくオレ、あのバケモノに殺されるじゃねえかっ……!』
「僕、昔、言われたんです、ほ、ほら、例の、化石の、初恋の、先生に」
浅井は膝と声を筆頭に全身を震わせながら、必死に黒沢を立ち上がらせようとしている。
やはり怖いのだろう、ボロ……ボロ……と涙をこぼして。いや、黒沢もこぼしている。
『あ、浅井……っ! お前って奴は、お前って奴は……お前のこと、ただのバカだと
思ってたオレは、大バカっ……天下無双の大バカ野郎だった……っ!』
「先生は、いつも、言ってました、お年寄りには、親切にしなさいって、だから、」
「って、ちょっと待て! オレはまだ44……」
ドン! というのは着地の音。
「リグスギギバ」
(見苦しいな)
クモ男だ。イングラムのところからひとっ跳びで、ここまで……
「ひ、ひいっ!」
クモ男が、顔面蒼白な浅井の襟首を掴んで引き寄せた。浅井の全身から力が完全に抜け、
クモ男に掴まれている襟で首吊りをするような状態になる。当然、黒沢は支えを失って落下。
その目の前で、ボロボロ泣いてる浅井が左手一本で吊られている。クモ男は右手の爪を
カチカチ鳴らしながら、それをゆっくりと浅井の目の前に翳した。
『あ、浅井……っ! く、くそっ、何とかしないと、何とか、何とか……っ!』
その時。クモ男と浅井の向こう側から、ひと筋の光が伸びて大きく広がって、黒沢を照らした。
その光の中、また謎の映像が黒沢の脳裏に浮かぶ。光を放っているもの、あのベルト状の
装飾品を身に着けた若者が、異形の怪物たちと戦っている姿が。
『まただ……何だ、何なんだ? もしかして、オレに何か伝えたいのか? だとしたら……』
「バンザ・ボセバ?」
(何だ、これは?)
クモ男も手を止め、光の方をじっと見ている。……今しかない!
「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
黒沢は叫び、腰が抜けて立てないので四つんばいのまま、ゴキブリのように駆けた。
浅井とクモ男の脇を抜け、エサに喰らいつくノラ犬のように装飾品に跳びついた。そして、
「何が何だか全然わからねえが、わかったよっ! 着けてやる、着けりゃいいんだろっっ!」
装飾品を、ベルトのように腰に当てる。するとその輝きがより一層激しく、強くなった。
クモ男は堪らず浅井を放して顔を覆う。地面に落とされた浅井は、何とか薄目で黒沢を見た。
「え!? う、嘘……あのベルト、黒沢さんの中に吸い込まれ……入っ……ちゃった?」
光が消えた時、石でできていたはずのベルトは消えていた。ただ黒沢が一人、苦しそうに
腹を押さえて呻いているだけで。
「ガセザ……!」
(あれは……!)
クモ男が突然、顔色を変えて(浅井にはそう見えた)黒沢に駆け寄った。
そして、まだ転がっている黒沢をサッカーボールのように蹴り上げる!
「ぅおぐうぅぅっ!」
悲鳴を潰されながら黒沢は飛び上がり、地面に叩きつけられ、転がった。間髪入れず
クモ男がまた駆け寄り、蹴り上げる。落ちてきたところを殴りつける。
抵抗も逃走もできずボコボコにされながら、黒沢の意識は段々と薄らいでいった。
『な……なんだよ、これはっ……あのベルト、何の意味もなかったのか? じゃあ、あの
意味深な映像は何だったんだっ? こう、パアーッとスーパーヒーローに変身して、手から
ビィィーム! でこのバケモノをやっつける……とか、そういうのじゃないのかよ……っ!』
だが黒沢は気付いていない。このクモ男は全高八メートルの戦闘用ロボット、警察用レイバー・
イングラムと綱引きをやって勝つ。一発、二発も殴れば人間を肉塊にできるバケモノなのだ。
で今、黒沢はそのバケモノに「ボコボコにされている」。
そのことに、浅井は気付いた。
『さ、さっきのベルト……か? 黒沢さんの何かが、変わったのか……?』
【心清く 体健やかなるもの これを 身に着けよ さらば 戦士クウガと ならん】
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