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第四話<そして、外れていく日常・2>
とある世界────日本、某市の小学校の裏山。
そこは普段ならば、子供たちの遊び場になっていたり、鳥や狸(決して、ドラえもんのことではない)などの住家となっている、のどかな場所だ。耳を澄ませば小鳥や小動物の鳴き声が、さまざまな所から聞こえる。
人間の手による地球環境の破壊が様々なところで騒がれている中、一切人の手がかかっていない珍しいところだ────
それも、普段、の話であるが。
今は、その普段の状態では─────ない。
雑草や小さな花などが生えていた地面の所々は抉られ、中の土を露出させている。太陽の光を少ししか通さないほど生い茂っていたはずの木々が、何十本も根こそぎ倒されている。まさに、目を覆いたくなるような惨状だった。
小鳥や小動物の鳴き声など、聞こえない。
代わりに聞こえるのは────まるで花火の音を近くで聞いたような、凄まじい爆発音である。
そんな爆音、それに伴って発生する爆炎、そして砂煙を被りながら、のび太たち4人+一台が、一人の男と対峙している。
のび太たちは、一人残らず大小問わずとにかく傷を負っているが───男は、傷一つ負っていない。それどころか、その紫色の髪の毛も、身にまとう服に汚れすらついていない。
「いっ……たい─────」
ドラえもん────頭部に、少し傷が見られる────が、途切れ途切れな声で、言う。どうやら、さっきからの戦闘のショックで、言語機能が破損したらしかった。
「お……前は何────がしたい、ん……だ?」
「ん?」
と、男はあくまで軽く────しかし、内面に虚ろな何かを隠して────ドラえもんの問いに答えた。
「まあ、さっきも言ったけど、君の道具を貰う事かな……あと、顔を見られたからには、皆とりあえず殺しとかないといけないし────」
「そ、うい……うことじゃ────な、い」
「ん?」
と、突然の言葉に、首を傾げる男。
それに構わず、ドラえもんは続けた。
「な──ん、でわざ、わ……ざ僕、か…ら道…具を、奪、う……んだ?」
それは、彼だけの疑問ではなかった。
最近起きている、さまざまな時代で暮らす、未来の世界のロボットを襲い、そしてそれらが所有する未来の道具を奪う事件。
そのことを教えてくれたタイムパトロールの隊員も────彼に限らず、ほかの隊員も────、
なぜ犯人が未来デパートから盗むのではなく、わざわざ未来のロボットから、奪うのか────
理由が一切わからなかった。
不可解だった。
ただ単に秘密道具が欲しいのなら、未来デパートから直接盗んだほうが明らかに効率がいい。量にしても質にしても、ロボットから奪うよりも遥かに高いからだ。
その質問に対し、男は軽く答えた。
「まあ、簡単なことさ。未来デパートから盗むと、どうしてもタイムパトロールに見つかる可能性が高いからね。はっきり言ってあんな奴ら、僕らにとってはどうってことはないけれど、まあ……やっかいではあるからね」
「「僕ら」、ね………」
ドラえもんの後ろに隠れながら、右腕に軽い怪我を負った静香が、言った。
「つまり、貴方には仲間がいるってこと?」
「おおっと!」
頭に手を当て、「なんてこった」っていう感じのジェスチャーをする、男。どうやら図星だったらしい。しかし、別に困った感じはなく、ただ軽く、言った。
「中々鋭いね、お嬢さん」
「いや、あんたが口を滑らせたんじゃないか」
と、律儀に突っ込むのは結構深く左足の膝を擦りむいた、スネ夫である。けっこう出血は多いが、その割りにあまり痛くはないようだ。
男は、その突っ込みは無視して、そして言った。
「まあ、別にそんなことはどうでもいいんだ」
そこで、急に、声のトーンを落とした。目つきも、先ほどからの軽い感じからは一転、非常に……まさに、獲物を駆る鷹の目のように、鋭くなった。
その目に睨まれて、ドラえもんたちは、まるで見えない鎖で縛られたように、動けなくなった。
男は、さらに続ける。
「………君たちは、ここで死ぬのだから」
「ふ、ふざけるなよ!」
男の異常な威圧感を振り払い、そう叫んだのは、頭部からかなり出血している、ジャイアンだった。スネ夫のものとは違い、かなりの痛みも伴っているが、それに関わらず、叫ぶ。
「だれがお前なんかに殺されてたまるか!」
「ふぅ、ん?」
「そうだぞ!」
と、ジャイアンに続けていったのは、軽く頬っぺたにかすり傷ができている、のび太だ。
「ぼくたちだって、今まで何回も冒険をして、それを乗り越えてきたんだ!お前なんかに、まだ冒険も始まってないのに、負けたりなんかしない!」
「ふん、冒険、ね……」
男は、先ほどまでの威圧感を放ったままで、言った。
「……残念だけど、君たちはもう冒険に出ることはできない────少なくても、生きている間は、ね」
そう、言っていく間に、男の威圧感は、どんどん強くなっていた。それに圧倒されたのび太たちは、反論したくても、口が開かない────男がしゃべっているうちに逃げようと思っても、体が、動かなかった────
「─────君たちの人生は、ここでゲームオーバーだ」
男は、その右手を、のび太たちに向けた。
時空管理局には、秀一と刹木が乗っているハガネのように、最初から戦闘が目的に造られた船もあれば────ただ単に時空と時空を渡り、魔導師を効率よくさまざまな世界に運ぶために建造され、最小限の武装だけされた巡航艦もある。
時空管理局・巡航L級8番艦────アースラも、その内の一機である。
ただ、この艦には色々とほかの艦と区別されるだけの理由、功績があり────それ故に現在は本来だったら戦闘母艦などで対応すべきであろう事件に、駆り出されているのである。
そして、そのアースラの搭乗員の一人が、言う。場所は、メインブリッジの近くの、廊下であった。
「まったく、なんで私たちまでこんな仕事に出る必要があるんだよ───」
身長はかなり低く、せいぜい130センチくらい。髪の毛は赤。時空管理局武装隊のアンダースーツを着ている、というより着られている感じの────八歳くらいの少女だった。
その明らかに愚痴っぽい口調で言われた言葉に、返すのは、一人の女性である。
「仕方があるまい」
背は女性にしては高め。髪の毛はピンクがかった紫で、ポニーテールにしている。前髪から覗く顔は、凛々しかった。少女と同じく、武装隊のアンダースーツを着た、20歳弱くらいの女性である。
「我々が犯した罪の罰は、管理局に従事すること。管理局の命令には、絶対に従わなければならないからな」
「………まあな」
と、とりあえずそう答えたが、口調はどこまでも不機嫌である。
そんな少女の様子に、女性は「ふっ」と笑った。
「実は主はやてが今居ないから、寂しいのではないか?」
「な!?」
女性の言葉に、少女は顔を真っ赤にしながら過剰反応した。そして、手を振りながらあたふたする。明らかに動揺しているのがよくわかった。
「そ、そんなことな…」
と言い訳をしようとするが、途中でその言葉を止められる。
突然、艦内に木琴を叩いたような音が響いたからである。
「おい……これって」
「ああ、艦内放送の合図であるチャイムだな……」
二人は、なんとなく、近くにあるスピーカーの方を見てみる。意味のない行動に見えるが、意識をスピーカーに集中させるには、いい方法である。
それに続いて、メインブリッジから、聞きなれた声が流れてくる。
「艦内の武装局員の皆さん、メインブリッジに集まってください、繰り返します……」
なんとなくのんきな言葉を何回か繰り返して、そしてもう一度チャイムを鳴らして、それから艦内放送は切れた。
女性は、少女の方を、真剣な面持ちで見た。その瞳に映る少女の顔も、同じく真剣そのものである。
「……どうやら何か起こったようだな」
「……ああ」
と軽いやり取りをして、二人はメインブリッジの方へ歩いていく。
その間、一枚の少し分厚い自動ドアをくぐると、そこはすぐメインブリッジだ。
彼女たちがもといた場所がブリッジに近かったこともあり、まだほかの局員たちは集まっていないようだ。
と、二人が到着したのに気づいた────先ほど艦内放送を流した女性────エイミィ・リミエッタが、回転椅子をその字の如く回転させ、二人のいる方を向いた。なんだか、この状況にそぐわない感じの、明るい顔である。
「お二人さん、早かったね」
「いや、たまたま近くに居たのでな」
「で、一体どんな状況なんなんだよ?」
と、エイミィは少女の言葉に「うん」と頷いた。そして、少女たちに背を向けて、メインブリッジのコンピュータを弄り始める。という間にも、ほかの武装局員たちも全員ここに集まっていた(とは言っても、少女と女性を含め6人しかいないのだが)。
そして、一枚の画像を画面に表示させた。それに書いてある内容は────
「?これは……」
「……管理外世界での、高魔力反応……だと?」
「うん」
管理外世界。
その名の通り、時空管理局が管理をしていない世界のことである。
その理由は単純明快。時空を超えるだけの魔法、あるいは科学技術が発達していないからだ(ちなみに、今表示している世界はこの後凄い勢いで科学技術が発達していき、100年後には時空管理局に管理されることとなる)。
「それでね……」
と、エイミィが言う。
「どうもこの魔力反応……‘例の事件’の犯人たちの魔力の波長によく似てるみたいなんだ」
「なんだと?」
と、女性が怪訝そうな表情を浮かべる。
‘例の事件’の犯人たちの魔力の波長に似ている……ということは……
「おいおい……」
と、少女が言った。
「てことは、まさか‘あいつら’の仲間なのかよ?」
「まあ、そういうことになるだろうね」
少女は眉間にしわをよせる。あの厄介な奴らの仲間なのかよ……
「つまり……」
女性が、真剣そのものな表情で、言う。
「あまり、大人数で臨むのは得策ではないということだな。奴らは、戦闘した相手の能力をある程度コピーできるからな……」
そう。その特殊能力があるからこそ、時空管理局は、物量に任せて解決……といういつもの手段を使うことができない。下手に数で攻めたりすれば、多数の魔導師の能力をコピーされ、文字通り手も足もでなくなる。
つまり、彼らを捕まえる、あるいは倒すには、少数で戦う必要がある。しかし、彼らの一体一体の戦闘能力はかなり高いので、かなりの実力を持った魔導師でないとその実行は難しい。
「そこで……」
と、エイミィがもったいぶった様子で、言う。
「この船、アースラでも指折りの戦闘能力を持つ魔導師である、二人に出撃してもらおうというわけなんだ」
と、少女と女性を指差した。
「そ、そんな!」
と、それを見ていた、今メインブリッジに集まっている武装局員(男)の一人が、叫んだ。
「なんで僕たちには出番がないんですか!」
「だって君たち……今までこの二人に模擬戦で勝ったことってある?」
「な────っ!」
笑顔のエイミィの言葉が、名もなき武装局員たちの心を容赦なく抉る。かわいそうだが、所詮脇役なんてこんな扱いである。
エイミィは、そんな彼らを無視して、二人の方をむく。
「なんだか、ジャミングがかけられているみたいで、魔力反応がしている場所の様子はわからないけど……」
「かまわん。とりあえず一連の事件の犯人がいるならば、見つけ次第捕まえるまでだ」
「ごちゃごちゃ考えてねーで、さっさと……な」
と、少女と女性は、顔を見合わせ、微笑む(というにはちょっと凶暴な笑みだったが)。まるで、互いが互いのことを、どこまでも信頼しているように見えた。
「それじゃ、決定だね?」
「ああ」
「おう!」
エイミィの言葉を口火に、二人は言う。
「ヴォルケンリッター、剣の騎士、シグナム」
と、女性が。
「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータ」
と、少女が。
そして、最後は声を合わせて、
「出るぞ!」
察しのいい読者の方ならばもちろん気づいたであろう。
時空管理局員、シグナムとヴィータが向かった先が、のび太たちと男が戦闘している学校の裏山であると。
しかし、二人は────否、アースラのクルー全員は気づかなかった。彼女らが裏山に向かった時点で、その場での戦闘行為は終了していたのである。
かといって、別にのび太たちが、あのまま男に殺されたわけではない。
─────そこに、第三者の介入があったのである。
その第三者は、まるで最初からそこにいたかのように、もとから物語の登場人物であったかのように、圧倒的な存在感を持って、そこに存在していた。
男が伸ばした右手と、のび太たちの間に。
「────なに?」
男が、怪訝そうな顔を、浮かべる。無理もなかった。その第三者は、突然、さきほどまではいなかったはずなのに、さっきまで物語の登場人物ではなかったのにも関わらず────そこに、出現した。
のび太たちや、男を飲み込むほどの、存在感を持って。
のび太たちは、怪訝そうな、というより驚いたような表情である。
ただ一体、ドラえもんだけが─────安心したような顔で、いた。
その第三者────は、女性だった。
背はすらりと長く、少なくても170センチ以上はあるだろう。おそらくオーダーメイドであろう真っ赤なスーツが、その長身にフィットしている。
顔はとても整っており、美人以外に表現できる言葉はない。ないが────ただ、その目つきだけは最悪だった。
スーツのように真っ赤な髪の毛は肩まで伸ばしていて、そして稲妻形の髪飾りをつけている。
あちこち原色の赤だらけなのと、目つきの悪さを除けば、非の打ちようがない、完全なプロポーションを誇っていた。
「おいおい────」
女性が、男に言う。その顔には場違いなシニカルな笑みが浮かんでいた。
「なぁに弱っちい子供とか虐めてるんだ?そこのお兄ちゃん」
「お前は、一体……」
男は、女性の言葉は取り合わずに、問い返した。
「お前は一体、誰なんだ?」
もうその声には、今までの軽さも、さっきまでの威圧感も、なかった。むしろ────怯えが、含まれていた。
怯えていた。
体が。
本能が。
その女性の、圧倒的な存在感に。
「あー、お兄ちゃん、今、あたしの名前を訊いたのか?」
と、女性はもったいぶって、男の問いに答える。
「名前は哀川潤だ」
「哀川────潤……」
男は、それを何回か繰り返した。そして、それから、言った。その声に、多量の怯えを含ませて。
「お前は、一体何なんだよ、突然現れて────」
「まあ、弱いものを悪人から護る、正義のヒーローってところかな?」
と答える女性の顔には、相変わらずシニカルな笑みが浮かんでいる。
正義のヒーロー。ということは、のび太たちのほうの、味方?
「あ、あの」
「んー?
さっきから台詞がなかったのび太が、口を開いた。相手は無論、正義のヒーローだという、哀川潤に。
「哀川さん」
「潤だ」
いきなり、呼び名を訂正された。
「潤でいい。あたしを苗字で呼ぶのは────敵だけだ」
哀川さん、もとい潤さんにものすごい形相で睨まれて、のび太はその場で動けなくなる。
そんな情けない彼のかわりに、静香が言った。
「潤さん、そのありがとうございま…」
「いいっていいって。お礼は─────あの弱いものいじめの色っぽいお兄ちゃんをぶっ飛ばしてからで───なっ!」
と言うと同時に潤は跳んでいた。
男に向かって、まさに弾丸の如く。
男は、それに反応することができずに、その弾丸のように突っ込んできた潤の体当たりを、まともに喰らった。
「ぐ、おおお!」
ただの体当たり────潤にとっては、ただ跳んで相手にぶつかっただけの体当たりで、男はまるでダンプカーにでも撥ねられたかのように吹っ飛び────後方の木々を薙倒して行った。
そのぶつかった反動で潤も後ろに吹っ飛んだが、すぐに着地して────吹っ飛んでいく男を追いかけるように、地面を足で蹴った。先ほど以上のスピードで。
その圧倒的な戦闘に、のび太たちは黙るしかない。
その後、何回か爆発音のようなものがして────そして、すぐに静かになった。
何があったのか、まだなぎ倒れていない木々に阻まれ、見ることはできない──────
「……どう、な…ったん、だ?」
と、ドラえもんが、切れ切れの故障しまくった声で、言う。
『あの彼女』が負けるわけはない……それだけは、確実に言えるのだが。
しかし、誰も、答えられない。
結果が、見えないのだから、当然だった。
だが─────
さっき男が吹っ飛んでいったほうから────真っ赤なスーツを着た女性、哀川潤が、まったくの無傷で、歩いてきた。
さっきまで自分たちが苦戦した相手を、こんな短い間に倒したのか────
と、ドラえもんは彼女が味方でよかったと、本心からそう思う。もし敵にまわしたら、大変なことになっていただろうから。
────《人類最強の請負人》、《赤き征裁(オーバーキルドレッド)》────哀川潤が、味方で。
シグナムとヴィータが到着したのは、戦闘行為が終了して、のび太たちが帰宅してからのことだった。
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