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「ヴィクティム・レッド 47-6」(2007/12/24 (月) 11:49:17) の最新版変更点
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キース・シルバー。
キースシリーズの次兄であり、戦闘型ARMS『マッドハッター』の適応者。
その両腕から放たれる『ブリューナクの槍』はあらゆる物を焼き払う。
全身をナノマシンで包み、どんな傷もたちまちに修復してしまう。
そしてなにより、キース・シルバーの性格は戦闘に適していた。
飽くなき闘争心はもとより、状況を有利に導くためならどんなものをも切り捨てられる潔さ、
そして無機的なまでに透徹された勝利への執念。
あらゆる観点からしても、彼こそが真の戦闘機械であることは疑いを容れなかった。
そんな強大な相手を目の前にして、
「ふ、ふふ」
レッドは笑っていた。
口の端をきゅう、と吊り上げ、挑戦的な目つきで『マッドハッター』を睨め上げている。
「レッド……このオレと戦うつもりか……!」
「そうだって言ったら?」
それに答えるように、『マッドハッター』の頭部の中心二点がぎらりと光った。
不気味に輝く両眼は、その視線だけでも人を殺せそうだった。
「う、うう……」
シルバーのARMS共振に捻じ伏せられるように、セピアは床にうずくまっている。
彼の発する殺気をその肌で直に感じ取っているように。
「逃がしはしない……たとえ兄弟であろうと……オレの邪魔をする者は許さん……!」
両手の付け根を合わせた『マッドハッター』の荷電粒子砲が発射されようとしている。
「死ね……!」
ばりばりと空気を切り裂く破裂音とともに、『ブリューナクの槍』が放たれた。
その照準は動きの取れないセピアに向けられていた。
複数の敵を倒すならまず弱い者から、という、どこまでも単純で冷徹な判断だった。
だがそれは、合理的過ぎるゆえに先読みも容易だということも意味している。
ゲーム理論が「必敗の理論」と揶揄される所以であった。
『マッドハッター』の両掌に集められたエネルギーが限界に達する直前、レッドは座り込んだままのセピアを突き飛ばし、
自身はそれと反対の方向に跳んでいた。
電磁的に加速された微粒子が、なにもない空間を焼く。転がるように着地したレッドは、右腕をシルバーに向けて伸ばす。
「『グリフォン』!」
一瞬で発動したレッドのARMS『グリフォン』の放つ指向性の超音波が『マッドハッター』を激しく揺さぶった。
それはもちろん、全身を武装化したシルバーにとっては致命傷になりえなかったが、
それでも『マッドハッター』の体表面に微細な亀裂が縦横に走る。
その過負荷に耐えかね、シルバーの動きが停止する。
それが単なる時間稼ぎに過ぎないことをレッドは熟知していた。
金属生命『ARMS』の自己修復機能により、罅割れた『マッドハッター』の傷が瞬く間に癒えてゆく。
『マッドハッター』がその全機能を回復するのも間近だった。
「セピア、しっかりしろ!」
レッドの呼びかけに応じ、恐慌状態に陥っていたセピアの瞳に意志ある光が戻る。
「……し、心配してくれてるの?」
「違ぇーよ馬鹿! 本当の意味で『しっかりしろ』っつってんだよ! そんな腑抜けた状態でシルバーと戦えるか!?」
その暴言に鼻白むセピアだったが、それより先に、
「レッド! 避けて!」
『ブリューナクの槍』が再び放たれようとしていた。
寸前のところで、レッドはセピアを抱えてその場から離れることに成功する。
その背中すれすれを通り過ぎた熱戦が、服を焦がす。
背中も焼けたような気がするが、さほどのダメージではないようだった。
「くそ、意外と重いな、あんた」と毒づきながら、レッドはセピアを腕に持ったまま瓦礫の隙間へと回り込む。
その持ち方はセピアの背中と膝を抱えるやりかたで、いわゆる「お姫様抱っこ」というやつだった。
「どこだ……レッド……!」
まだ本調子ではないらしく、シルバーはレッドの姿を求めて辺りを彷徨っている。
セピアがレッドの耳元に口を寄せ、シルバーには聞こえないであろう声量で囁く。
「ね、レッド。今のうちに」
「今のうちって、なんだ」
「いや、だから、クリフを助けに行くんでしょう?」
それは極めて真っ当な意見だった。
レッドもそう思うし、だからこそさっき自分でもそう提言したのだ。
──だが。
「さっきとは状況が違う。シルバーを叩く」
「で、でも」
「オレはあいつをこのまま放って逃げることはしない。絶対にな」
セピアは戸惑うようにレッドを見ていた。
それも無理のないことだった。
レッドの瞳は、爛々と燃えていた。その顔は敵意に満ちていた。
敵を目にしたときの、いつか「怖い顔」と評したときの、あの容赦のないキース・レッドがそこにいた。
「オレはあいつと戦う」
「レ、レッド……?」
「教えろよ、セピア」
なにを? と言葉にするまでもなく、レッドはセピアを正面から見据え、言った。
「お前はなにが出来るんだ」
「──なにやら騒がしいようじゃの、なにが起きているんだね?」
「大してことではありませんよ。ドクター・ティリングハースト」
「大したことではない、か。レッドに重症を負わせ、ワシのところにまで運び込んで来ておいて、
そんな深刻な事態が「『大したこと』ではないなら、いったいなにが『大したこと』なんじゃ?
その秘密主義も相変わらずじゃの、ブラック。そうやって自分の殻の中に全て閉じ込めて、それで世界を支配しているつもりかね?」
「分かりました。後ほど報告書を送りましょう」
「ふん、いらぬわ。貴様の都合の良いように改竄された事後報告など、なんの科学的根拠もない。さっさと本題に入るが良かろう」
「ええ。あなたをお呼びしたのは、この研究レポートについてです。大変興味深く読ませていただきました。
『モックタートルの特性と発展性について』と題されていますね」
「それがどうした。お前もワシの理論についてこれない馬鹿者なのか?」
「……直に、あなたからレクチャーを受けたいのですよ」
「ふん……殊勝なものじゃな。それで?」
「『モックタートル』は情報制御用ARMSとありますが、その情報制御とはどこまでに及ぶのでしょうか」
「全てじゃよ。理論上は、ありとあらゆる電子情報への介入が可能じゃ。
もっとも簡単なのは通信能力を備えた電子機器じゃな。
セピアの体表面から発せられるパルスが、直接的に対象と情報を送受信できる。
電子的な侵入を許さない閉鎖システムだろうと同じことじゃ。
散布された『モックタートル』のナノマシンが、物理的に対象と接触し、情報を送り込む。
言い換えればセピアは生きたリモートコントローラーであり、ワールドワイドウェブの端末であり、ロックバスターであるということじゃ。
彼女がいればペンタゴンのメインシステムをダウンさせることも出来るじゃろうて。セピアにその気があれば、じゃがの──」
「そこか……!!」
シルバーの『マッドハッター』の砲身がある地点に向けられる。
十の爪から奔る高圧の電磁波が一点に集中し、だが──
「なんだ……?」
そのエネルギーの収束が、弱まっていた。
ぶううん、と細い音を立て、エネルギーが徐々に拡散してゆく。シルバーはARMSのコアに命令を下し、出力を上げる。
それも上手くいかず、膨れ上がったエネルギーで逆に自分の手にダメージを受けてしまう。
なにかがおかしかった。まるで、なにか自分の感覚に靄がかかっている様な──。
「なにをした……!」
どこからか、それに答える声があった。
「あんたはハッキングを受けているんだよ、シルバー。キース・セピアによってな」
「なに……?」
「ARMSだって突き詰めればただの機械だ。前もって定められたプログラムによって、その形態や能力を発現している。
そこを阻害されれば、どんな無敵のARMSだって役立たずになっちまうって寸法さ。
もっとも、ARMS制御プラグラムを破壊するプログラムなんぞ誰も開発してないし、セピアも『そんなの組めない』っつーんで、
無意味な情報を大量に送り込んであんたを感覚的に混乱させているだけだがな」
「ふざけるな……これしきのことで『マッドハッター』が無力化できるか……!!」
おぞましい咆哮とともに、『マッドハッター』が全身を震わせる。
鈍る感覚を奮い立たせ、内部的に言うならその膨大なジャンクデータを駆逐させ、再び『ブリューナクの槍』を形成しようとしたとき、
「させるかよ!」
シルバーの死角から飛び出したレッドが、超振動を宿す『グリフォン』の刃で『マッドハッター』の腕を切り取った。
「ぐう……!」
唸るシルバーの眼前にブレードを突きつけ、レッドは宣言した。
「あんたには絶対負けねえ!」
「舐めるな……『ヴィクティム』……!」
キース・シルバー。
キースシリーズの次兄であり、戦闘型ARMS『マッドハッター』の適応者。
その両腕から放たれる『ブリューナクの槍』はあらゆる物を焼き払う。
全身をナノマシンで包み、どんな傷もたちまちに修復してしまう。
そしてなにより、キース・シルバーの性格は戦闘に適していた。
飽くなき闘争心はもとより、状況を有利に導くためならどんなものをも切り捨てられる潔さ、
そして無機的なまでに透徹された勝利への執念。
あらゆる観点からしても、彼こそが真の戦闘機械であることは疑いを容れなかった。
そんな強大な相手を目の前にして、
「ふ、ふふ」
レッドは笑っていた。
口の端をきゅう、と吊り上げ、挑戦的な目つきで『マッドハッター』を睨め上げている。
「レッド……このオレと戦うつもりか……!」
「そうだって言ったら?」
それに答えるように、『マッドハッター』の頭部の中心二点がぎらりと光った。
不気味に輝く両眼は、その視線だけでも人を殺せそうだった。
「う、うう……」
シルバーのARMS共振に捻じ伏せられるように、セピアは床にうずくまっている。
彼の発する殺気をその肌で直に感じ取っているように。
「逃がしはしない……たとえ兄弟であろうと……オレの邪魔をする者は許さん……!」
両手の付け根を合わせた『マッドハッター』の荷電粒子砲が発射されようとしている。
「死ね……!」
ばりばりと空気を切り裂く破裂音とともに、『ブリューナクの槍』が放たれた。
その照準は動きの取れないセピアに向けられていた。
複数の敵を倒すならまず弱い者から、という、どこまでも単純で冷徹な判断だった。
だがそれは、合理的過ぎるゆえに先読みも容易だということも意味している。
ゲーム理論が「必敗の理論」と揶揄される所以であった。
『マッドハッター』の両掌に集められたエネルギーが限界に達する直前、レッドは座り込んだままのセピアを突き飛ばし、
自身はそれと反対の方向に跳んでいた。
電磁的に加速された微粒子が、なにもない空間を焼く。転がるように着地したレッドは、右腕をシルバーに向けて伸ばす。
「『グリフォン』!」
一瞬で発動したレッドのARMS『グリフォン』の放つ指向性の超音波が『マッドハッター』を激しく揺さぶった。
それはもちろん、全身を武装化したシルバーにとっては致命傷になりえなかったが、
それでも『マッドハッター』の体表面に微細な亀裂が縦横に走る。
その過負荷に耐えかね、シルバーの動きが停止する。
それが単なる時間稼ぎに過ぎないことをレッドは熟知していた。
金属生命『ARMS』の自己修復機能により、罅割れた『マッドハッター』の傷が瞬く間に癒えてゆく。
『マッドハッター』がその全機能を回復するのも間近だった。
「セピア、しっかりしろ!」
レッドの呼びかけに応じ、恐慌状態に陥っていたセピアの瞳に意志ある光が戻る。
「……し、心配してくれてるの?」
「違ぇーよ馬鹿! 本当の意味で『しっかりしろ』っつってんだよ! そんな腑抜けた状態でシルバーと戦えるか!?」
その暴言に鼻白むセピアだったが、それより先に、
「レッド! 避けて!」
『ブリューナクの槍』が再び放たれようとしていた。
寸前のところで、レッドはセピアを抱えてその場から離れることに成功する。
その背中すれすれを通り過ぎた熱戦が、服を焦がす。
背中も焼けたような気がするが、さほどのダメージではないようだった。
「くそ、意外と重いな、あんた」と毒づきながら、レッドはセピアを腕に持ったまま瓦礫の隙間へと回り込む。
その持ち方はセピアの背中と膝を抱えるやりかたで、いわゆる「お姫様抱っこ」というやつだった。
「どこだ……レッド……!」
まだ本調子ではないらしく、シルバーはレッドの姿を求めて辺りを彷徨っている。
セピアがレッドの耳元に口を寄せ、シルバーには聞こえないであろう声量で囁く。
「ね、レッド。今のうちに」
「今のうちって、なんだ」
「いや、だから、クリフを助けに行くんでしょう?」
それは極めて真っ当な意見だった。
レッドもそう思うし、だからこそさっき自分でもそう提言したのだ。
──だが。
「さっきとは状況が違う。シルバーを叩く」
「で、でも」
「オレはあいつをこのまま放って逃げることはしない。絶対にな」
セピアは戸惑うようにレッドを見ていた。
それも無理のないことだった。
レッドの瞳は、爛々と燃えていた。その顔は敵意に満ちていた。
敵を目にしたときの、いつか「怖い顔」と評したときの、あの容赦のないキース・レッドがそこにいた。
「オレはあいつと戦う」
「レ、レッド……?」
「教えろよ、セピア」
なにを? と言葉にするまでもなく、レッドはセピアを正面から見据え、言った。
「お前はなにが出来るんだ」
「──なにやら騒がしいようじゃの、なにが起きているんだね?」
「大してことではありませんよ。ドクター・ティリングハースト」
「大したことではない、か。レッドに重症を負わせ、ワシのところにまで運び込んで来ておいて、
そんな深刻な事態が「『大したこと』ではないなら、いったいなにが『大したこと』なんじゃ?
その秘密主義も相変わらずじゃの、ブラック。そうやって自分の殻の中に全て閉じ込めて、それで世界を支配しているつもりかね?」
「分かりました。後ほど報告書を送りましょう」
「ふん、いらぬわ。貴様の都合の良いように改竄された事後報告など、なんの科学的根拠もない。さっさと本題に入るが良かろう」
「ええ。あなたをお呼びしたのは、この研究レポートについてです。大変興味深く読ませていただきました。
『モックタートルの特性と発展性について』と題されていますね」
「それがどうした。お前もワシの理論についてこれない馬鹿者なのか?」
「……直に、あなたからレクチャーを受けたいのですよ」
「ふん……殊勝なものじゃな。それで?」
「『モックタートル』は情報制御用ARMSとありますが、その情報制御とはどこまでに及ぶのでしょうか」
「全てじゃよ。理論上は、ありとあらゆる電子情報への介入が可能じゃ。
もっとも簡単なのは通信能力を備えた電子機器じゃな。
セピアの体表面から発せられるパルスが、直接的に対象と情報を送受信できる。
電子的な侵入を許さない閉鎖システムだろうと同じことじゃ。
散布された『モックタートル』のナノマシンが、物理的に対象と接触し、情報を送り込む。
言い換えればセピアは生きたリモートコントローラーであり、ワールドワイドウェブの端末であり、ロックバスターであるということじゃ。
彼女がいればペンタゴンのメインシステムをダウンさせることも出来るじゃろうて。セピアにその気があれば、じゃがの──」
「そこか……!!」
シルバーの『マッドハッター』の砲身がある地点に向けられる。
十の爪から奔る高圧の電磁波が一点に集中し、だが──
「なんだ……?」
そのエネルギーの収束が、弱まっていた。
ぶううん、と細い音を立て、エネルギーが徐々に拡散してゆく。シルバーはARMSのコアに命令を下し、出力を上げる。
それも上手くいかず、膨れ上がったエネルギーで逆に自分の手にダメージを受けてしまう。
なにかがおかしかった。まるで、なにか自分の感覚に靄がかかっている様な──。
「なにをした……!」
どこからか、それに答える声があった。
「あんたはハッキングを受けているんだよ、シルバー。キース・セピアによってな」
「なに……?」
「ARMSだって突き詰めればただの機械だ。前もって定められたプログラムによって、その形態や能力を発現している。
そこを阻害されれば、どんな無敵のARMSだって役立たずになっちまうって寸法さ。
もっとも、ARMS制御プラグラムを破壊するプログラムなんぞ誰も開発してないし、セピアも『そんなの組めない』っつーんで、
無意味な情報を大量に送り込んであんたを感覚的に混乱させているだけだがな」
「ふざけるな……これしきのことで『マッドハッター』が無力化できるか……!!」
おぞましい咆哮とともに、『マッドハッター』が全身を震わせる。
鈍る感覚を奮い立たせ、内部的に言うならその膨大なジャンクデータを駆逐させ、再び『ブリューナクの槍』を形成しようとしたとき、
「させるかよ!」
シルバーの死角から飛び出したレッドが、超振動を宿す『グリフォン』の刃で『マッドハッター』の腕を切り取った。
「ぐう……!」
唸るシルバーの眼前にブレードを突きつけ、レッドは宣言した。
「あんたには絶対負けねえ!」
「舐めるな……『ヴィクティム』……!」
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