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「戦闘神話・幕間 Dawn 」(2007/03/12 (月) 13:46:26) の最新版変更点
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にぃっと、彼は笑う。
悪戯小僧のような顔だと、ヴィクターは常々思っている。
「ぃよぉ~しっ、ヴィクター!
いぃ~か!絶対にアレクを悲しませるんじゃねぇぞ!」
だが、今日のその笑みは、泣き笑いだった。
戦友にして恋敵。錬金の戦士となる、いや訓練生時代からヴィクターと共に戦い、
共に泣いて笑った男・アルトリウス・ファスケス。
実直で寡黙なヴィクター、奔放で饒舌なアルトリウス。
戦斧と剣という近接戦闘という点以外は全くもって正反対だった。
だが、不思議と気が会った。
錬金の戦士としてコンビを組んで数多くのホムンクルスを屠ってきた。
全ては、力なき人々が錬金術によって傷つかぬ為に、
全ては、力なき人々を錬金術によって幸せにする為に。
「アレクがよぉ、アレクがさぁ、アレクがなぁ…。
お前を選んだんなら、なぁ。しっ…仕方ねぇ、仕方ねぇよな。
なぁ…」
ヴィクターに背を向け、途中から泣き笑いに、洟を啜り上げながら、
アルトリウスはまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
短い金髪頭をゴリゴリとかき、黒い瞳に涙をためて、アルトリウスは漸くそれだけ言葉に出来た。
「す…」
「謝るんじゃねぇ!」
思わず謝罪の言葉が付いて出たヴィクターに、アルトリウスは鋭く一喝する。
「アレクがお前を選んだ!お前はアレクを愛してる!ならそれでいいじゃねぇか!
俺なんぞに気にしねぇで幸せになっちまいやがれ!」
ばんばんと、力強くヴィクターの背を叩きながらアルトリウスは叫んだ。
手荒いが、彼なりの祝辞なのだと、ヴィクターは思った。
友だ。
得がたき友だ。
「だから誓え!」
そうだな、とあたりを見回したアルトリウスは、いい物を見つけたらしい。
「あの夕日だ!
男同士の誓いだぜ?絶対に破るなよ!
真っ赤な誓いだ!」
「あぁ、アルトリウス。
オレは誓う。アレキサンドリアを護り続ける!」
そして、二人して血ゲロ吐くまで痛飲した上で朝帰りして
アレキサンドリアに叱られた。
「なぁ、ヴィクター。
俺ぁ、あン時お前にいったよな?」
憎悪、嚇怒、狂気、敵意。
それらのどれでもなく、それらのどれでもあるどす黒いどぶ川の腐ったような瞳で、
アルトリウスはヴィクターを見ていた。
漆黒の感情の渦が、エネルギードレインの震源地で尚、彼を支えていた。
快活に笑って未来を見ていたはずの男の瞳は、もはや過去しか見ていない。
アレキサンドリアの死が、彼らの友誼を破綻させていた。
「なんとか言えよこの野郎!」
アルトリウスの右手に握られていた筒、いや、柄のようなものが発光すると、光り輝く刃を生んだ。
ライトセイバーの武装錬金・エクスカリバーである。
かつて蒼い清浄な刀身であったそれは、今の彼を表すかのように、血のように赤黒い刀身だった。
刀身は伸縮自在、相手に間合いを覚らせない非常に厄介な剣であり、
触れたもの全て尽く両断するその切れ味は、まさしく空前絶後。
重力を自在に操るヴィクターの武装錬金と並び、近接戦闘型の武装錬金では戦団双璧である。
「俺ぁ、なぁ、手前のそういう何でも分かってますって澄まし面が大ぇ嫌ぇなんだよ!」
激昂するアルトリウス。それを受けてなお沈着なヴィクター。
スペシャリストであるアルトリウスよりも、
ゼネラリストであるヴィクターのほうが戦士としての戦術に幅がある。
それが不幸にも彼を此処まで生き延びさせていた。
ロシア・ウラジオストクにてヴィクターを捕捉するも、追手の戦士、
彼はかつてヴィクターに命を助けられて錬金の戦士となった、を振り切って逃亡。
ついに東の最果て、日本へまで流れ着いていた。
地獄だった。
戦友同士で殺し合う。命を助けた相手の命を奪う。師弟同士で殺しあう。
錬金術が世の発展に、
人の目から涙を拭う術だと信じて闘ってきた者同士にとっては地獄だった。
のどを引きつらせるように笑うアルトリウス、
そんな笑い方などヴィクターの記憶の中の彼はしなかったはずだが。
「これをみても、その澄まし面が持つかねぇ?」
指を鳴らすと、クレーターと化した戦場を取り囲むようにしてホムンクルスの群れが現れる。
「馬鹿な…オレを倒すためだけに錬金戦団がホムンクルスの製造を行うなどと!」
「オイオイ、お前さんらしくねぇなぁ?
戦闘での洞察力はお前のお家芸だろぉ」
何処かからかう様な声は昔のままなのに、込められたのは純粋な悪意だけだ。
そしてヴィクターは見てしまった。
「貴ッ…貴様ぁあああああああああああああ!」
「バケモンの子はバケモンだろ?
あのロシア人、いぃ~い仕事してくれたぜぇ…」
ホムンクルスへと変えられた娘の姿を!
「かわいそぉになぁ…
知ってるか?あのホムンクルス共な、お前さんの知人友人の皆さんだ。
同期のフィッツジェラルド、イッコ下のアレックス、
お前がウラジオストクで殺し損ねたミゲルもいるなぁ…
お前を殺したら開放してやる、元に戻してやる。っつってるが、そんな訳はねぇ」
アルトリウスの挑発に乗る形で、ヴィクターは彼に踊りかかる。
だが、激昂したヴィクターの単調な攻撃である。
回避などアルトリウスにとっては容易いことだ。
「だいぶッかた減っちまった戦士の練習台になるンだよ、お前の娘もな!」
エクスカリバーがうなりを上げてヴィクターに迫る、が、彼はそれを紙一重で避ける。
互い、奥の手まで知り尽くした戦友だ。千日手は必須といえた。
常ならば。
「…ッ!!?」
エネルギードレイン。
アルトリウス一人ならばまだ憎悪によって拮抗していただろう。
だが、このホムンクルス軍団がその拮抗を崩していた。
錬金術の魔人となったヴィクターの『生態』であるこれは、それ故にヴィクター自身制御は出来ない。
無論、アルトリウスもエネルギードレインを知らぬわけではなく、
ヴィクターに対峙する際には常に一人、もしくはエネルギードレインの圏外からの攻撃を選択していた。
だが、エネルギードレインの影響圏は、
その心神の状態に著しく左右されることを彼ら戦団は知る由も無かったのだ。
皮肉なことに、アルトリウスは己の策に落ちたのだ。
だがそれでもアルトリウスは折れない。
「アルトリウスゥううううううううう!」
「ヴィクタぁああああああああああああああ!」
二人の戦士のうちに燃えるのは、只一つの憎悪だけだった。
ヴィクターの武装錬金がアルトリウスのわき腹を抉り飛ばし、
アルトリウスの武装錬金がヴィクターの左腕を切り飛ばす。
憎悪で憎悪を拭い、殺意で殺意を覆う。
もはやどちらかが斃れるまで終ることのない戦い。
しかし、ヴィクターはエネルギードレインによって見る間に快復して行く、
傷が増えていくのはアルトリウスだけだ。
だが、それでもアルトリウスは斃れない。
創傷はもはや臓器に達し、死は免れない。
左腕は砕け散り、柄にただ添えられているだけだ。
重力場を纏った斧を避け損ね、右目は顔の右半分ごと潰れた。
血溜りと化した顔で、それでもアルトリウスは吼える。
怨敵の名を、親友の名を。
斧の一撃がアルトリウスの胴をなぎ払う。
ぶちぶちと臓腑がちぎれて舞い、脊髄から髄液がこぼれ、大地に転がったアルトリウスの上半身。
何かに懺悔するかのようにアルトリウスの下半身がヴィクターの前に膝をつく。
それでもアルトリウスは生きていた。
上半身だけになってしまったが、剣を口にくわえ、
ヴィクターを殺すべく這いずりながら、憎悪に身を焦がしながら。
砕けた左手はあらぬ方向へと向き、もはや腕の機能を成さない。だが這いずるくらいなら出来る。
嘗ての親友のその姿に、ヴィクターは耐え切れず背を向けて逃走を再開する。
そんなヴィクターの姿を、アルトリウスはにぃっと哂ってみていた。
屍山血河の果てに、再び出会うことを理解しながら、わらっていた。
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