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序章・3 予兆
鬼ヶ島。
かつては人間にとって恐怖の象徴であった鬼族の巣窟―――そこもすっかりと様変わりしていた。
険しい山々に毒の沼と、いかにもおどろおどろしかった大地は生まれ変わり、草木や花が咲き乱れる美しい場所になって
いる。ふと歩けば自然と鼻歌でも飛び出てきそうな平和な眺めだ。
そんな鬼ヶ島の一角。海が見渡せるなだらかな丘の上に、一つの墓標がある。派手ではないがしっかりした石造りの墓は、
そこに眠っている者が高貴な血筋に連なる者であることを示している。
墓前には、一人の男がいた。長身痩躯の身体に纏った白装束。どことなく憂いを帯びた中性的な美貌。女性でさえ羨む
ような、長く伸ばした艶やかな黒髪。頭から二本の角を生やした異形の姿でありながら、彼は例えようもなく美しかった。
そんな外見からは、彼の内面の強さと熱さを窺い知ることはそうそうできないだろう。
彼の名はアジャセ。バサラ王と月の民との間に生まれた、鬼族の第二王子。
アジャセは手にしていた花を墓前に供え、細い指先でそっと墓石を撫で、悲しげに笑った。
「ダイダ兄上・・・もう五年になるか」
―――そこに眠っているのはアジャセの兄、鬼族の第一王子であったダイダ。
鬼神とまで呼ばれた武勇一筋の男だったダイダと、本質的に争いを好まないアジャセ。
仲のいい兄弟とは言えなかった。互いに鬼の世を憂いながらも思想・立場の違いから反発しあって―――
分かり合えたのが、最後の最後だった。
ダイダは幾度にも渡る桃太郎との戦いの果て、桃太郎に打ち負かされ、そしてその曇りなき剣と心に打たれ、彼と共に
戦うことを誓ったその直後、カルラの凶刃によって斃れた。
弟のアジャセと妹の夜叉姫に看取られながら―――彼は静かに息を引き取ったのだ。
「この平和な世界を、あなたにも見せたかった・・・」
「―――そうだな」
背後からの声に、反射的に振り向く。そこにいたのは、長身のアジャセですらも見上げるほどの大男だった。
巨大な角にいかにも頑固そうで無骨な強面。その逞しい腕は、比喩抜きで丸太ほどにも太かった。
彼こそはアジャセの父親にして鬼族の王―――バサラ王。
人間の年齢でいえばそろそろ初老であろうが、それを感じさせない覇気を発散させている辺りは流石に鬼族の大将と
いったところだ。
彼は墓に向けてそっと手を合わせ、ポツリと言った。
「わしは・・・愚かな男だった」
「父上、そのようなことは・・・」
「よい、気を遣うな。そのせいでお前たちにも苦労をかけさせた」
バサラ王は墓標に視線を落とした。
「そして―――死ななくてもよかった者たちまで、大勢死なせてしまった。せめて、同じ過ちだけは二度と繰り返したく
はないものだ」
そのまましばし、墓前で二人は黙したまま佇む。失われた命を悼むように。
やがて、バサラ王があえてそうしているのか、明るい口調で話題を変えた。
「―――そうそう、桃華から手紙が来てな」
「桃華から・・・」
その名前を聞いて、アジャセも顔を綻ばせた。桃太郎と夜叉姫の間に生まれた桃華―――バサラ王にとっては孫であり、
アジャセにとっては姪っ子だ。三歳になったばかりで可愛い盛りの彼女のこととなると、無骨なバサラ王も途端に優しい
祖父の顔となる。
「新しい友人が四人もできたと喜んでおったぞ。それに、近々祭りに行くそうだ。そこでこんなものを拵えたのだが、
どうだろうか?あの子に似合うと思うか?」
バサラ王が取り出したのは、子供用の小さな浴衣だった。薄い青色の生地に桃の花をあしらったもので、中々品のよさ
を感じさせる。アジャセは桃華がこれを着た姿を思い浮かべてみた。
―――うむ、中々いい感じだ。そう率直に伝えると、バサラ王も満更でもなさそうに笑った。
「うむ、それはよかった。何せわしの手作りなもので不安だったのでな」
「あんたの手作りかよ!」
思わず言葉使いが崩れた。
「親に向かってあんたとはなんだ、あんたとは」
「この際言わせて貰う!」
彼がせっせと子供用の浴衣を拵えているというのは、そのくらいヤバげな光景だと思えた。
「ちなみに守備力は数値に直すと80はあるぞ」
「その浴衣には一体どんな伝説が!?」
原作じゃ最強の防具だって精々60だったというのに。
「はっはっは、大げさなことを・・・ただわしの愛をたっぷりと込めて拵えただけだ」
嫌なもんまでこもってそうだ、とまでは流石に言えないアジャセだった。
何しろ桃華が生まれてからというもの、彼女のこととなると落雷を受けたあげく頭の螺子が外れ、更に頭を何度も激しく
打ちながら超上空から落下したのかと思うくらい行動が常軌を逸してくるのだ。
桃華が流し素麺が食べたいと言ったら自ら麺を打ち、竹取の村に出向いて竹を勢いよく伐採し、万里の長城の如き雄大な
竹樋を作り上げた(折角だから素麺は皆で美味しく頂いた)。
桃華が病気になったと聞いた時には三日三晩不眠不休で滝に打たれながら桃華が元気になるようにとお経を唱え続けた
(ちなみに桃華の病気とは単なるおたふく風邪だった)。
他にも枚挙に暇がない。だがアジャセはそんなバサラ王を呆れつつも、微笑ましく思った。こんな風に笑えるくらいに、
平和な時代が来たのだと。
―――桃太郎には、本当に感謝しないといけないな。
今はアジャセの義弟となった男を思う。彼がいなければ、今のこの平和はなかっただろう。そして、桃華だって生まれ
なかった。彼が妹を―――夜叉を選んでくれてよかったと、心からそう思う。
アジャセは妹に対して過保護すぎるきらいがあった(歯に絹着せぬ言い方をするとシスコンという)が、桃太郎ならば
文句の付けようがなかった。妹を任せるにあたって、彼以上に相応しいと思える男などいなかったからだ。
だからバサラ王への挨拶(娘さんを僕にください)の時には、桃太郎の側に立って父を説得したものだ。
―――詳しくは言わないが、あの時の父の目にはマジで殺気が宿っていた。それもまあ、いい思い出である。
そんな彼も桃華が生まれてからは、先述の通りの孫馬鹿ぶりを発揮している。
世は全てこともなし。この平和はきっと、いつまでも続いてくれるだろう―――
と。二人は丘を登ってくる人影に気付いた。近づくにつれてその姿が明らかになってくる。
それはこの世の者とも思えぬ、美しい女性だった。いくら美麗辞句を重ねたところで、それを正確に表現することなど
できないだろう。月も恥じらい、花も閉じるような美貌には一点の瑕疵もない。
「―――かぐや姫!」
「お久しぶりです、アジャセ王子、そしてバサラ王様・・・」
―――彼女はかぐや姫。神の末裔である月の民、その女王にして、アジャセとは従兄弟の関係にあたる。
彼女はカルラの手にかかり、一度は命を落としたが、奇跡的に蘇り、以後は月世界の復興へと力を注いでいた。
そんな彼女が、ここに何用だというのか。
かぐや姫は墓前にそっと手を合わせた後に、アジャセたちをしかと見つめた。
「私は・・・夢を見ました」
「夢?」
「はい。とても恐ろしい夢を・・・私にはそれが、ただの悪夢だとは思えません。近いうちに現実のものとなってしまう。
それはもう・・・確信といえるほどに、私には思えるのです」
アジャセもバサラ王も、それを聞いて笑ったりはしなかった。
神の末裔であるかぐや姫には不思議な力がある。それは、天地を支えるほどの強大な力だ。そのかぐや姫が、これほど
に確信めいた警告を送っているのだ。ならばそれには何らかの意味がある―――そう思えた。
そしてかぐや姫は静かに語り始めた。
「数多ある、この世界とは空間を隔てた場所に存在する平行世界―――その中の一つから、恐るべき侵略者がやってくる
のです。彼らは見たこともない武器や道具を用い、この世界を、ひいては全ての世界を支配せんと動き出すのです」
「なんと・・・」
信じられないような内容だった。異世界からの侵略者―――普通ならば、与太話と一笑に付してしまうところだ。
だが・・・。
「それが本当のことになるのなら・・・」
―――この平和な世界が、再び乱されるということだ。
思わず手を握り締めるアジャセを見て、かぐや姫は続けた。
「―――けれど、私の見た夢は悪夢だけではありません。そこには希望も、確かに存在していました」
かぐや姫は青い空を見上げた。その果てに、何かを見出そうとするかのように。
「私の見た希望―――それは青き神獣と、その仲間たち・・・」
「青き・・・神獣?」
「そう。彼らと桃太郎さん、そしてこの世に生きる皆が力を合わせ―――再び平和を取り戻す。そんな夢を」
そこまで言って、彼女はふっと笑った。
「・・・ごめんなさい。不安にさせてしまいました。けれど、どうしても伝えなければならないと思いまして」
「いえ、そんなことは・・・しかし」
アジャセは思った。青き神獣とは―――一体なんなのか?
考え込むアジャセを尻目にかぐや姫は、すっと踵を返しながら、にこやかに言った。
「いずれ月にもいらしてください。皆で盛大にニンニクで宴会を開きましょう」
「いや・・・それはどうかと・・・」
「大丈夫です。無臭ニンニクを使いますから」
そういう問題ではなくて、そう、あなた自身の神秘的なイメージとか、その辺とかも考えて欲しい。
アジャセはそう言いたかったが、結局言わなかった。
「それでは―――またお会いしましょう」
―――かぐや姫は去っていったが、その後もアジャセとバサラ王はその場を動かなかった。
「アジャセよ・・・今の話を、どう受け取る」
「は・・・ただの悪夢だ、というのは簡単ですが・・・」
だが・・・そうは思えない。ただの悪夢で騒ぎ立てるなど、かぐや姫がするわけがない。
ならば・・・。
「本当にそんなことが起きるというならば・・・私は戦います」
決意を込めて、アジャセは言い放った。
「敵を殺すためではなく、この平和を守るために」
―――その数日後。
かぐや姫の悪夢は、現実のものとなる。
異世界よりやってきた未知なる敵が、ついに侵攻を開始したのだ。
ならば―――希望は。
青き神獣たちは、いつ舞い降りるのか―――
ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 序章は終わり、いよいよ開幕―――!
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