「氷の一族」(2007/02/11 (日) 14:37:55) の最新版変更点
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煙を吐き出しながらふらふらと飛ぶ小型宇宙船。
中に入っているのはフリーザただ一人。単独で支部を視察に出ていた最中であった。
「厄介なことになりましたね……」
独りごちるフリーザだが、さほど深刻さはこもっていない。宇宙空間でも生存可能な彼
にとって、この程度の事故はとうてい恐れるに値しないからだ。
ただし、気にしてないというわけではない。今、彼の思考はこの宇宙船を整備した役立
たずをどう処分するかで一杯だった。
そして、どうにか宇宙船はとある天体に不時着した。
不機嫌な面持ちで宇宙船を出るフリーザ。
もっとも近いフリーザ軍支部と連絡を取ったところ、救助に訪れるにはどんなに早くと
も三日はかかるらしい。よほどの辺境に来てしまったようだ。
自力で適当な支部に向かうという手もあるにはある。だが、もし宇宙で迷ってしまえば
フリーザとてどうにもならなくなる可能性が高い。SOS信号を放つ宇宙船とともにここ
でしばらく過ごすことこそが、広大な宇宙においてはやはりベストな解決策。
「しかし、ふざけた星ですねぇ……」
ため息をつき、辺りを見回すフリーザ。
空に浮かぶ恒星が、光と気温をもたらしている。重力は小さい。
「土と泥しかないとは……まったく」
フリーザが口にしたとおりの光景が彼方まで広がっている。地平線まで、ずっと。
加えて、生物も植物も存在している様子がまったくない。
灰色な三日間を想像して、フリーザはげんなりした。
ところが、この退屈で荒涼とした大地は思いもよらぬ副作用を生じさせる。
フリーザは母を知らなかった。
幼い頃より彼らの一族は強大な父により鍛えられ、宇宙の支配者となることを強制され
る。兄弟もいるにはいたが、ほとんどは訓練の中で死亡、生き残った者同士も強さと領地
を競い合うという殺伐とした間柄。
今でこそ、彼は宇宙一の実力を持つ帝王となった。父は立派に育った息子に対し、うっ
てかわって余りある愛情を与えてくれるようになったが、これはあくまでフリーザが一族
に恥じぬ人材であるがゆえに過ぎない。つまり、役立つ道具に対する愛情と大して変わら
ない。
もっともフリーザは自らの境遇を恨めしいと感じたことは一度もない。彼にも一族に対
する誇りがあるし、また彼自身、支配や陵辱を生来の気質から好んで行っている部分もあ
る。
だが今日、彼はほんの少し疑問を抱いた。不時着によって抱く時間を与えられた。生後
まもなくから刷り込まれた、“宇宙の支配者”としての生い立ちに。
「ふうっ……私らしくもない」
戦闘ジャケットを脱ぎ、大地に寝そべるフリーザ。叩きつけられたことこそあれ、寝そ
べるなど初めてだ。
地面は温かかった。
体をくっつけると、ほわっと柔らかな温もりがフリーザを包み込んだ。
初めて訪れたはずなのに、どこか親しみが感じられる地。
フリーザは母を知らない。ゆえに推測の域を出ないが、彼はこれこそが母に抱き締めら
れた感触なのではないかと思った。
「もしかしてこれが……」
永久凍土にも匹敵する残虐な心に、今たしかにわずかな変化が表れた。
三日後、フリーザのもとに予定通り救助隊が到着した。
きっと苛立ちながら待っているにちがいない。もしかしたら殺されるかもしれない。隊
員たちはまるで死地に赴くような覚悟で任務に当たっていたのだが──。
「おう、よしよし。待っていましたよ、皆さん」
気味が悪いほどに、にこやかに応対するフリーザ。呆気に取られる救助隊の面々。
「フリーザ様、申し訳ありませんっ! 我々もかなり急いだのですが……」
「いえいえ構いませんよ。私も貴重な体験ができましたし」
「え……?」
さらに呆気に取られる面々。実はフリーザは二重人格で、今は穏やかな方が表面化して
いるのではないか、と思ってしまうほどだ。
「それより、あなたがたに頼みがあるのですが」
「な、なんでしょうか」
「実は私、この星を大変気に入りましてねぇ。すぐにでも植民地としたいのですが──い
ったいここはどういった惑星なのかを調べて欲しいのです」
頼まれた隊長は一瞬「こんなつまらない星のどこがいいんだ」と考えたが、すぐに部下
に調査をするよう命じた。
さっそく救助船に備えられたコンピュータで、部下たちが作業にとりかかる。
すると、まもなく結果が出た。部下から隊長へ、コンピュータ端末からプリントアウト
された紙が渡される。文字に目を通した瞬間、隊長は目をぎょっと丸くさせた。
「なっ……! え、あ、フリーザ様、調査が終わりました」
「ほう、お早いですね。で、ここはどういった星なんです?」
ごくりと生唾を飲み込み、隊長が言葉を続ける。
「実は……えぇと、ここは厳密には星ではありません」
「星ではない? どういうことですか?」
「いや、え、あの……。おそらく、どこかの星の住民が蓄積したものを、まとめて宇宙空
間に放逐されてできてしまった塊ではないかと考えられます」
どうにも回りくどい説明にイライラし、口調を荒くするフリーザ。
「いい加減になさい! もっと分かりやすくおっしゃいなさい!」
怒号に押されるかたちで、隊長はおそるおそる喉からある三文字を絞り出した。ずばり、
今彼らが立っている場所は──。
「う、うんこです……!」
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