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「大長編イカ娘 栄子と山の侵略者 7」(2012/09/16 (日) 11:51:19) の最新版変更点
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「大変……でゲソ! 狼娘が溺れてしまった……でゲソ!」
イカ娘の声が河原に響いた。
「た、大変だ!」
「くっ、悟郎呼んでくる」
悟郎を探してその場を離れようとした栄子の目に、必死で水を掻き分けるイカ娘の姿が映った。
「ああ、もう」
このときの栄子の判断は――
「なんでお前がッ」
正しかったとはいえない。
「溺れてるんだよ!」
結果論で語れば、完全に間違っていたと言える。
栄子は知らないことだが(とはいえ、予想はできたはずだが)、
磯崎はこのとき、悟郎と一緒にいた。
だから助ける対象が『二人』であっても、
ライフセーバーの二人は、的確に対処できたはずである。
そうでなくても、助けるべきものが増えたにも関わらず
自分で助けに向かった栄子は間違っている。
とはいえ、目の前で苦しんでいるイカ娘の姿は、栄子の判断を曇らせた。
「ほれ、触手使え、触手!」
栄子も泳ぎは達者だ。イカ娘が小柄なのも手伝って、
意外とあっさり、深みから体をひっぱりあげることができた。
「ほ、本当だワン、触手を使えば、泳げるだワン」
『イカ娘』が言った。
「……だワン?」
短い沈黙があって、『イカ娘』が口を開いた。
「そうだワン、わたしは狼娘だワン。
お前たちの敵、樹海からの侵略者だワン」
イカ娘=狼娘は、栄子の瞳を見据えて笑った。
「だからこんな裏切りも、たいしたことじゃあないのだワン」
ひゅっという音がして、栄子の意識が暗くなった。
「姉貴……!」
「とはいえ、利用させてもらった礼だワン。
お前たちの命は助けてやるだワン」
相沢千鶴=狼娘が、低い声で言った。
「冗談じゃない。こんなところにいられるか!」
大きな声がテント内に響いて、イカ娘は目を覚ました。
「あの千鶴さんが操られちまったんだぞ!
千鶴さんだぞ!
化け物的な逸話の数々、五本の指じゃ足りねえぞ!」
「千鶴さんを化け物とか言うな」
悟郎が言った。
「いやいや、現実見ようぜ」
「現実……そうだな、千鶴さんの力は人間離れしたものがある。
だがだからなんだ? 放っておいて帰るのが現実なのか?
俺たちは人を助けるのが仕事じゃないのか」
「しょい込みすぎなんだよ、お前は!」
「お前が軽すぎだ」
「じゃあいいぜ、お前は帰らないってんだな。
俺は帰る、怖いからな。
一緒に来るやつはいるか?」
沈黙。
「じゃあいい、一人で行く!」
「あーあ、護送車は使えそうだったのに」
シンディがぽつりと言った。
「さっきから何の話でゲソ?」
「千鶴さんが狼さんに操られてしまったんです」
鮎美が説明した。
「話をまとめると、イカさんを操ってみんなの気を引いて、
助けに来た千鶴さんの隙をついたということのようです。
イカさんが(触手なしで)泳げないということを狼さんが知らなかったので、
状況がますます混乱して……」
鮎美は人外相手だとよくしゃべる。
「っていうか、『ゲソ』って語尾だからイカちゃんはイカちゃんね!
よかった~」
「わたしも操られたのでゲソか……」
「わたしたちは見逃されたんだ。イカ娘」
栄子が言った。
「頼みがある」
つづく
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