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「永遠の扉 第096話 (4)」(2011/12/23 (金) 18:54:23) の最新版変更点
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【銀成学園】
「……という訳だ。ここまで何を話したか、ちゃんと把握したか?」
「ああ」
「まったく。まひろちゃんのためとはいえ少し遅いぞ」
プリプリと怒りの蒸気を噴く斗貴子を秋水は少し不思議そうに眺めた。無愛想で血の気が多い癖に妙なところで親切だ。
「なんだ」
「いや、教えてくれて感謝する」
その横をエンゼル御前が独特の飛行音を奏でながら通過した。ピンク色の饅頭を思わせる不格好な人形はしばらくふら
ふらと上下していたが、やがて止まった。どこからともなく取り出した煎餅は顔とほぼ同じ大きさだが、一齧りで半分ほどが
口へ消えコナゴナと咀嚼された。そして食事が終ると彼女は
「つーかよー、なんで10年前負けたんだよマレフィックども」
といった。その頬が内部からぼこぼこと滑らかに隆起しているのを見ながら秋水は──時々本当にこれが姉の内面なの
かと疑いたくなる。もっとも桜花は弟の疑念をただちに嗅ぎつける。そして意外な一面をあたかも下着の紐のように覗かせる。
ますます弟を惑乱させそのさまを楽しむのだ──ふと瞳を細めた。
「確かに……なぜ負けたんだ?」
10年前居合わせた幹部を指折り数える。
触れた物を何でも分解できる神火飛鴉(しんかひあ)の所有者。
蘇生さえ可能な衛生兵の使い手。
ついぞ戦士の誰にも顔を見せず逃げおおせた伝説の忍び。
ウィルにいたっては時間を自在に操れるという。
「なお10年前の戦いに置かれましてはマレフィックどの3名ほどご落命されましたが内お2人の能力もまたいずれ劣らぬ
ものばかり!! 残りお一方につきましてはただなるレーション、攻撃力は絶無であります!!」
「そんな連中がなんで負けたんだよ? おかしくね?」
剛太も垂れ目を更に垂らして総角を見た。
「フ。ついでにいうが盟主は武装錬金特性じゃ殺せんぞ」
「はあ!?」
「マレフィック連中の分解能力や時間操作では絶対死なん。火渡戦士長の火炎同化や毒島のガス操作といった『特性』で
も無理だ。絶対に」
もう言葉もなくしたという風だ。剛太は顔面のあらゆる筋肉を引き攣らさせた。氷がひび割れるような音がした。
「しかも俺以上の剣腕!! バスターバロンの右腕ぐらい簡単に斬り飛ばせる!」
すかさず総角は端正な顔を剛太のそれギリギリに近づきおどけた調子で叫んだ。やられた方はとても顔をしかめ
「だから何で負けたんだよそいつら!!!!」
叫んだ。かすれた声が膨れ上がり秋の空へと木霊した。
「単純な話だ」
総角は小札に目くばせした。あどけないお下げ少女はうっすら頬を染めるとしばらく大きな瞳を左右に揺らしていたが、やがて
意を決したように頷いた。それを見届けた総角が一瞬寂寥の影に染まるのを秋水は見逃さなかった。
「奴らよりもっと強い存在が、あの戦場に居た。ただ、それだけだ」
「念のために聞くけど……バスターバロンのコトじゃないわよね?」
桜花の質問に「そうだ」と総角は頷き肩口の髪を跳ね上げた。
「彼は……強かった。人間の身ながらディプレスとイオイソゴを同時に相手どり見事に退け、一時は盟主さえ追い詰めた」
「……名前は?」
腕組みする斗貴子の顔に微かな動揺が走ったのは「人間の身で」という部分に反応したせいか。
総角は紡ぐ。その名前をゆっくりと。
「アオフシュテーエン=リュストゥング=パブティアラー」
「我が音楽隊の雛型たる秘密結社……リルカズフューネラルの社長にして」
「小札の、兄だ」
同刻。ウマカバーガー。
「奴は強かった。うぃるめが歴史改変を繰り返しこのわしが籌筴(ちゅうさく)計略の限りを巡らしてもその勢いはわずか
しか弱められんかった。結果奴と戦うはめになったわしとでぃぷれすは敢え無く戦線離脱……すでにぐれいずぃんぐめが
半壊していたのもマズかった」
『他に方法はなかったんですか?』
と書いたのはリバース。いつもの笑顔でいつものスケッチブックだ。
「ひひっ。無理をいうな。正史はもっとひどかったらしいぞ」
『どういう風に?』
「小札の兄め自らをほむんくるすにしおった。そして木星、でぃぷれす、ぐれいずぃんぐ、当時の冥王星海王星天王星に
盟主様を加えた幹部7人を悉く討ち取ったあと、自刎して果てた」
リバースの手からスケッチブックが落ちた。慌てて拾い上げた彼女はあせあせと
『チートすぎる……』
と書いた。イソゴは愉快げに肩を揺すり「いやいや」と笑った。
「戦闘力自体も非常に高かったがそれ以上に戦いの段取りがうますぎた」
「戦略的不利は戦術的勝利で覆せない……自分があらかじめ有利に戦える枠組み作るのがうまかったと?」
「そーそー。あおふめは戦団と綿密に連携しておっての。小癪にも我々の動きを逐一報せ先手を打たせた。それを断つため
にも小札の方をほむんくるすにする必要があった」
ひとしきり息を吐き終えたイオイソゴの前でリバースの笑顔がわずかに傾き、そして曇った。そんな彼女が何かを書かんと
した時
「? 正史じゃお師匠のおにーさん、ホムンクルスだったんすよね? じゃあどうして──…』
とブレイクが声を上げた。ややわざとらしい調子だがリバースは何事かを感じたらしく微妙なはにかみを彼に向けた。
「ひひ。貴様自身は分かっているのに代理質問ご苦労ぶれいく」
大事にしてやれりばーすよ……貫禄のある物腰で若い男女を見比べながらイオイソゴこう告げた。
「答えは簡単。小札の兄めは連携を取り終えてからほむんくるすとなった。それは我々を斃すために用意した最後の手段ら
しく、勝つにしろ負けるにしろ最初から死ぬつもりだったようじゃ」
『だからこその連携』
「そーじゃな。どうせ死ぬ以上、確実に勝たねばならん。幹部どもをほぼ同じ箇所に集めたうえ、盟主様に防人をけしかけると
いった──各幹部の弱点をついた──戦士の波状で着実に弱らせおった」
「そこへ人間の枠ブチ破ったおにーさんの攻撃! そりゃあ7タテもできるってもんでさ」
「ひひ。自分という奴に何ができ何ができぬか知悉し抜いた上での段取りよ」
人間という奴の良さであり恐ろしさ。
「なるほどなるほど。ただホムンクルス化防ぐだけじゃダメすねそりゃあ。聞けば人間の状態でも馬鹿強かったらしいすし、
戦団とのつながり断ち切れただけでも御の字でしょー」
シェイクをちゅらちゅら啜るのはウルフカットの恵比須顔。
「ちなみにうぃるとわしと総角は正史にはおらんかった。じゃらからま、今の歴史と共通して存在していたのは」
『土星。リヴォルハイン君の前の……。強いけど化け物丸出しだったとか』
「戦団でも始末できるれべるじゃった。ひひ」
「そーいや遠目すけどお師匠のおにーさん、見たコトありやすよ」
ブレイクはぽんと手を打った。
「えらいシスコンでしたねぇ」
「ちなみに決戦のどさくさにより死骸はまだ見つかっておらん」
「実はまだ生きているのでは……わしが一番恐れている事じゃ」
「ところでだウィル君。もしこの先我々が負けた場合、キミはまた歴史改変するのかな」
「あー。それは無理だよー」
けだるげな少年はテレビに向かったまま答えた。振り向きもしない。握ったコントローラーがせわしなく鳴っているところを
見ると佳境らしい。
「それはできへん相談やでお兄ちゃん。ウィルの性格ぐらい何となく分かってきたやろ?」
曖昧な返事を漏らす。なんとなく部屋を眺める。床には色とりどりな巨大なピースが敷き詰められている。右手には滑り台、
左手にはさまざまなゲーム機。乱雑に転がっているそれらの一つと思しきものが真正面5mほどに鎮座しバーチャルな興奮
をウィルに提供している。声がしたのは彼の左からで、赤い筒がでんと居る。どうやらゲームの様子を眺めているらしい。
(いや、見えるのかい? それで?)
突っ込みたくなったがよく見ると筒とテレビの間には無数の小さな渦がある。風が軋んでいるような空間のぼやけ。それは
確かデッドの武装錬金特性で視覚情報も送っている……ムーンフェイスがそんなコトを思い出していると……………………
渦の中に”目”が現れた。瞳の両側に大きな傷のある、怪物のような眼差しが。聞くところによれば、デッドのものらしい。
「ウィルの性格なら10年前レティクルが負けた段階で歴史改変するやろ? でもまだこの時代におるっちゅーコトはや」
「できなくなったのかい? 歴史改変」
「時間操作も限定されとる。ま、それは武藤ソウヤ抑えるのにパワー使ってるせーでもあるけど」
「一番の原因は音楽隊の一人……あのコのせーや」
「ねえ戦部。もし音楽隊の中から1人だけ好きな相手を選んで戦えるとしたら誰にする?」
待機時間のヒマ潰しにと円山がそんなどうでもいい話題を提供すると、戦部はしばらく思案顔をした。
「そうだな…………鐶はもちろん総角や栴檀どもも悪くはないが」
彼は意外な人名を上げた。そのとき犬飼はやや離れた場所でキラーレイビーズの毛づくろいをしていた。
そんな彼が思わず面を上げブラシを取り落とすほど意外な名前だった。
「へー。意外。まさか」
.
「小札ちゃんを御指名だなんて」
逢ったコトもないのに馴れ馴れしい。そんな円山をよそに犬飼はまくしたて始めた。
「なんでだよ。おかしいだろ! 聞いた話じゃそいつあまり強く──…」
「7色目。禁断の技」
「!!」
「聞けば10年前の決戦のとき、時間を操る幹部を無効化したという。ぜひとも見てみたい」
「あの技はね、本当、すごいよ」
「反射、探索、追撃、回復、射撃、絶縁破壊……小札の持つ他の6色なんてのはあの技を分解し、意図的に弱体化させた
にすぎない。強すぎるコンボから弱Pとか中K×2だけ抜き出したといえば分かるかなー? ただの派生さ」
「逆にいえば小札君の6色の技を同時に発動させるのが……禁断の技かい?」
「更に超必殺技の補正つき」
テレビに向いたままウィルは指を滑らかに動かした。ボタンがカタカタと小気味よく鳴った。すると画面全体が暗くなり、
プレイヤーキャラクターを中心に金色の光が爆発した。無数に蠢いていた敵らしきオブジェははたしてダメージエフェクトを
盛大にまき散らしながら爆発し、全滅した。戦闘終了を告げるファンファーレにデッドは「おー」と叫んだ。
「破壊や悪意とは対極にある。だからこそ、恐ろしい。恐ろしいんだ。僕のような浮ついた歴史改変者にはね」
「どんな技なんだい?」
「複雑な仕組みなんだけど、一言でいえば因果律に関わる技だね。この世界の時間をだね。一本の太い管の中を流れる
無数のタキオン粒子みたいなものとしよう。タキオンは何となく思いついたアレだから別のでもいいけど……とにかく粒子み
たいなのが大小様々な球体因子を押して前進させている。ボクは時間をそう解釈している」
「むん? 何だか口調が違わないかいウィル君」
「因子自体も自らの意思で動くコトはできる。人間でも動物でも戦士でもホムンクルスでもいい。或いは肉体的な枠を取り
外した意思そのものと見てもいい。ぶつかりあって混ざり合い、大きくなったり小さくなったり、或いは砕けることで世界は
変わっていく」
「歴史改変ゆうのはその因子みたいなのの動きを変えていく作業らしい」
「だが小札零の技はその上を行った……。彼女は、あの実験体は!!」
「時間のみならず因子そのものを追尾した!!」
コントローラが異様な音を立てた。砕けた。実態を確かめたムーンフェイスは「おー」と笑った。
「哲学的だね」
「時間の作用で押され続けてきた因子に『線』を引くんだ。流れを無数のグリッド線で解釈して……矯める」
訳わからんやろ? デッドはけたけた笑った。テレビ画面の中ではコントロールを失った主人公が敵にボコボコにされている。
ゲームオーバーは間近だ。
「小札をホムンクルスにしたのは不和と誤解を呼ぶためだった。彼女の兄と戦団との間に軋轢を生むためには……同時進行
で起こっていた鳩尾無銘誕生の経緯と同じくらい良い手段だった。連携を阻止する最良の手段の1つだった……なのに」
ウィルはコントローラを投げ捨てた。そしてただ一言呟いた。
「失敗だった」。声は暗かった。後悔というものがたっぷりと滲んでいた。
「彼女やその兄をホムンクルスにしたあの幼体……あれは他のものと違っていた。盟主様でさえ作れるかどうかだ。そして
ボクは思っていた。思い込んでいた。『強者に与えるべきではない』。そうだろ? 高出力なんだよ。ホムンクルスは。だったら
弱い奴に与えた方が安全って、普通だれでも思うだろ……?」
すするような吐息を洩らしながらウィルは肩を抱えた。少年の体は震えていた。もよおそ悪寒は後悔と絶望の副産物だった。
「なのに……なのに……実は妹の方こそ適合者だったなんて…………ないよ。ありえない」
体育ずわりで頭を抱えるウィル。すっかり自分の世界に入り込んでいる。赤い筒は呆気に取られていたようだが、すぐさま
姿勢を正し明るい声を張り上げた。
「小札が禁断の技とかいうムチャクチャなワザ発動できるんはー、使とる幼体が特別製やから。たぶんやけどアイツの御先祖
さまがマレフィックアースに対抗するために生み出したんちゃうかな?」
その割にはただのか弱い少女にしか見えないけど。ムーンフェイスは皮肉めいた笑みを浮かべた。
「正史でどんな生涯を送ったかはともかくだ。ウィル君いわくの『今回の歴史』だと私は何度か逢っている」
音楽隊はしばしばL・X・Eを訪れた。最初こそ戦いが勃発し金城や陣内といった連中が傷を負ったりもしたが……。
総角と爆爵が何事か密約を取り交わしたらしく、関係は以後良好だった。
「メルスティーン君のクローンたる総角君やキミたちが特異体質とやらを与えた栴檀君たちや鳩尾君、そして鐶君」
彼らに比べれば小札という少女はとても弱い。武装錬金なしでは太や細にさえ劣る……いささか見くびった評価を
つけるムーンフェイスにデッドは
「弱いからや。戦いを嫌い戦いと縁薄い性格やからこそ出来るコトもある」
けたけた笑い、視線を移した。ムーンフェイスも底を見る。すっかり肩の煤けたウィルが何かボソボソと呟いている。
どうやら小札に何をされたか言っているらしい。
「しかも僕が時間と定義する筒の外部からも線は来る。他の世界というべき次元からさえ……武藤ソウヤの時間飛翔と僕の
歴史改変のせいで時間の管はただでさえ不安定に膨れ上がり、外郭を薄く、そして脆くしていた。そこに小札零は異様な線を
呼びこんだ」
「そしたらどうなったんだい?」
膝頭が一層強く抱きしめられた。
「筒の外郭が壊された。時間を移動するとき僕が道標にする外郭をだ。因子とよぶ球体や時間とみなす粒子が……壊れた
箇所から、穴から、流出を始めた。世界の枠を外れた場所を流れ始めたんだ。それだけじゃない。時の流れや因子の動き
の持つ歴史自体の圧力が時間という筒の形をぐんぐんと歪めた。平坦で面倒くさくなかった一本道の時空がとてもややこし
くなったんだ。時空の流れが滝のように外部へ落ち込んでいく個所もあり巨大な僕の武装錬金でさえ流されそうだった。ここ
から歴史改変をやろうとするのは普通に生きて偉業を成し遂げるぐらい難しい。でもそれがやりたくないからこそ歴史改変
してた僕だ……。どうすればいいんだ。どうすれば」
「ディケイドゆうのが本来まったく組成の違うこの世界に引き寄せられたのはそのせーかも知れんな」
「僕自身もまた破壊された。彼女が自らの技を恐れ途中でやめたからこそ……ひどい破壊を受けた。未来からきた僕だ
からこそ常人以上のおぞましい線を張られた。凄まじい質量を背負わされた」
「彼女はそこまで気付いていない。ただ本能的に自分の技に怯えた」
「それでも薄々は感じているだろう。7色目がどれほど危険な技か」
「あれは世界そのものを変質させる力だ」
「時空を渡り歩く者でなければあの恐ろしさは分からない」
「虹色にギラつく60兆の線分が時空の彼方からギザギザ折れくねりながら飛んでくる様は圧巻さ」
「ただ1つの因子を正しくするためだけに時空を何万か所も爆発させるビリヤードのキューさ」
「観測できただけでも6つの文明と58の王朝、283種の哺乳類が絶滅した」
「いや。絶滅という言い方さえ生ぬるいね」
「彼らは……発生さえできなかった」
「抹消されたんだ。歴史から。ボク1人襲撃するためだけに……あらゆる奇跡と偶然と絆を無きものとして」
「とにかく、このさき時間がどう流れていくかは僕にさえ分からない」
──「おんぶ」
──「は?」
──「ほらこの前、武藤と防人戦士長が戦ったときに俺、斗貴子先輩をおんぶしてモーターギアで
──走ったでしょ」
──「そーだったか? 手を繋いで横浜を自力で走っていたような気がするが」
──斗貴子は記憶を辿ってみるがどうもはっきりしない。
──ひょっとすると剛太のいう「おんぶ」もされていたかもしれないし、剛太の勘違いかも知れない。
「ひょっとしたら修正前の歴史が混ざってる部分……あるかもね」
.
.
「ボクが辿ってきたいくつもの歴史が消え切れず、混ざり込んで」
──「人斬り抜刀斉。京都や東京で活動した後はどういう訳か ぷつりと闘いをやめている。島原へもう一人の継承者を倒
──しに行ったとか北海道でも活躍したとか日清戦争の折に大陸に渡り、帰国後に妻ともども病没したという文献もあるに
──はあったが…… こちらの真偽は分からない」
「影響が出ているとしたら一番モロなのは鐶のクロムクレなんたらかな? 時間を操る以上、その歪みの影響はモロさ」
──「……あれ? リーダーと…………早坂秋水さんが戦っているなら……クロムクレイドルトゥ
──グレイヴだけじゃなくて……もっと色々使ってる筈……です。短剣を解除して……他の物に……
──だから私がいなくても……年齢のやり取りが解除されて……さっきの沼は元の……枯れた場
──所になるのでは……? なんだか……不思議な話です……。込み入りすぎて……難しいです」
──「ボソボソやかましい! というか戦士長に抱きかかえられたままでいるな! 走れ!」
── 長い煉瓦造りの廊下をひた走りながら斗貴子は怒声を張り上げた
──a.クロムクレイドルトゥグレイヴで年齢を『与えた』場合
──『死』を除くあらゆる状態変化は武装解除ともに『消失』する!
──(対象が本来の年齢より未来の時間軸にあるため)
──. ┌ 本 来 の 年 齢 ┐ ┌ 与えた年齢 ┐
──┣━━━━━━━━━━━━━━━━┿ ━ ━ ━ ━ ━ ┥
──
── この状態の対象に対する破損・決壊・治癒・成長などの諸々の変化は総て「与えた年齢」の
──方へと生じる。そのため武装解除または年齢の吸収によってこの状態から年齢が減少すると
──諸々の変化は消滅。(なお、吸収した年齢が与えた分を下回る場合、つまり
──「吸収分<与えた分」
──の場合は後者に対する前者の比率分だけ効果が薄まる。
── 単純にいえば10歳年齢を与えた相手へ10cmほどの切り傷をつけた後に年齢を4歳分吸
──収すると、相手の傷は4cm分消滅する)
──(なるほど。街が直っているのは合点が行った。確かに年齢を与えられ、銀成市だけ時間が
──進んでいたからな。というコトは学校も直っているだろう)
── 秋らしく床の感触はなかなか涼しい。貴信はきょろきょろと落ち付きなく周囲を見る。一部やけに真新しい床板と
──鉄柵が設けられている──屋上につくなり剛太が開口一番指差した。曰くこの前鐶にやられた。1階からここまで吹き飛ば
──された。修理の跡だ──以外とりたてて特徴のない屋上だ。
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