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「魔法少女みやこ☆マギカ 第一話 「魔法少女になってよ」」(2011/07/02 (土) 18:10:24) の最新版変更点
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―――此れは魔法と奇跡の物語である。
―――但し、そこに夢と希望が溢れているとは限らない。
<登場人物>
大倉都子(おおくら・みやこ)………………少女―――そして魔法少女見習い
永井輝明(ながい・てるあき)………………少年
佐倉杏子(さくら・きょうこ)………………魔法少女
キュゥべえ………………魔法の使者
第一話「魔法少女になってよ」
とある街の小さな公園。
夕陽が差し込む中で、その少女は力なくブランコに座り、俯いていた。
キィ、キィ、と錆びた音を立てて、古びたブランコは少女を乗せて揺れている。
紺色のブレザーとスカート、胸元には黄色のリボンという服装からして、高校生なのだろう。
長く伸ばした黒い髪は艶やかだが、風に吹かれるがまま散々に乱れている。
端正な顔立ちは悲しみに暗く沈み、瞳には彼女が本来持っているであろう輝きが失せていた。
頬に残るは、大粒の涙の痕。
その全身から発散されるのは、今にも壊れそうな危うさと、それ故の儚い美しさ。
―――彼女の名は、大倉都子という。
悲嘆に暮れるその理由は、人によっては些細な、青春時代の思い出と一言で片づけてしまうようなものかもしれない。
それでも彼女にとっては、今までの自分全てが否定されてしまったような苦痛だった。
都子には、幼馴染の少年がいる。
隣の家に住む、同い年の男の子―――永井輝明。
生まれてから今に至るまで、ずっと傍にいた二人。
男と女なんて関係のない、気の置けない友達だったはずなのに、いつからだろうか?
ゆっくりと、けれど確実に。気が付けば都子は、輝明の事を好きになっていた。
向こうは鈍感で、こちらの気持ちなんて全然察してくれないけれど。
それでも、恋をするというのは、それはとっても嬉しいな、って。
そう思っていた―――だけど。
「お弁当をね…作ってあげたの、彼に」
都子は誰に聞かせるでもなく、一人呟く。
午前の授業が終わって一息ついた昼休み。
学校の屋上で、二人きりで。
「喜んでくれたわ。美味しいって。料理上手だねって…」
されど。その後に続いた言葉は、都子を打ちのめした。
―――きっと都子は、いい男を見つけて、素敵なお嫁さんになるよ。
―――結婚式にはさ、俺も幼馴染代表として呼んでくれよな。
輝明は、何の屈託もなく、悪意もなく、そう言った。
それが都子をどれだけ傷つけるかなんて、思いもせずに。
「それって、さあ…要するに、あたしなんて、単なる幼馴染でしかないよって…そういう事じゃない…」
女として見ていない。
恋愛対象になんて、入ってない。
そう思い知らされた気がして、都子の中で何かが壊れた。
―――輝明のバカ!もういい!もう、あなたなんか知らない!
そう泣き叫んで、走り去った。
教室に戻るやいなや鞄を引っ掴み、学校からも逃げるように出ていった。
その後、何をしていたのか自分でもよく覚えていない。
我に返ってみれば、こうして一人、黄昏(たそがれ)ていた。
「…バカみたい、あたし」
もしかしたら輝明も、自分の事を好きなのかもしれない。
そうだったら、どうしよう。
感情に歯止めなんか利かなくなるかもしれない。
それはそれで、望む所だったりして―――
そんな甘酸っぱい期待と想像は、空虚な妄想に過ぎないと知って。
「もう…ダメだよ、あたし」
両手で顔を覆っても、再び溢れる涙と嗚咽を隠す事はできなかった。
「あたし…もう、消えちゃいたい…!」
その時。
「悲観するのは、まだ早いんじゃないかな?」
奇妙な声が、響いた。
「大倉都子。キミにはまだ、チャンスが残されている」
その声は、朗々と言い募る。
「命を懸けてでも叶えたい願いがあるなら―――ボクがそれを一つだけ、叶えてあげる」
そして。都子は、目の前の景色が一変している事に気付いた。
さっきまで、確かに夕暮れの公園にいたはず―――なのに。
例えるならそこは、サッカースタジアムというべきか?
しかして、周囲の風景はグチャグチャに歪んでいる。
精神に破綻をきたした画家が、手当たり次第に絵具をブチ撒けたような異常な空間。
明らかに、現実とはまるで違う。
「こ…ここは…?」
「魔女の結界さ」
背後からの声。振り向くとそこには、不可思議な生物がちょこんと座っていた。
まっ白い毛皮を持つ、つぶらで真っ赤な瞳の四足歩行生物―――
一見しての印象でいうなら、そう。
漫画やアニメで魔法のヒロインが連れ歩くような、マスコット。
そんなモノが、人間の言葉で喋っている。
「ボクの名前は、そうだね…キュゥべえとでも言ってくれればいい」
謎の生物―――キュゥべえは、小首を傾げる。
表情は変わっていないが、笑ったのかもしれない。
「初めまして、大倉都子」
「は…初めまして」
いや、呑気に挨拶している場合ではない。
疑問は、山ほどある。
あたしはどうなったの?魔女の結界?あなたは何者?
「それについては、まあ、ゆっくりと説明していこう」
キュゥべえは都子の横を通り過ぎ、曲がりくねった階段を昇っていく。
都子も慌てて後を追いながら、その背に話しかける。
「ちょっと待ってよ。本当に何なの、これ」
「都子。この世にはね、絶望と呪いを撒き散らす<魔女>と呼ばれる存在がいる」
「ま…じょ?」
「そう。ヤツらは普段は己が創った<結界>の中に閉じこもり、人前に姿を見せない―――けれど、時に現実世界
に現れては、人間に危害を加えるんだ」
「そんな話、聞いた事ないわ」
「そうだね。魔女による被害は、人間には理解できない。大抵は理由なき自殺や殺人事件として処理されてしまう」
「…本当なら、恐ろしい話ね」
「信じ難いだろうけど、本当の事さ」
階段を昇り切った二人は、だだっ広い観客席に出た。
席を埋め尽くすのは、真っ黒い影。
人間の形をしているけれど、微動だにせずに座り込んでいるその姿は、ただ不気味。
「そして、魔女と戦い、無力な人々を守る使命を背負った少女達―――」
そう語り、キュゥべえはグラウンドを見下ろした。
極彩色のカクテル光線に照らされた、不正に歪んだグラウンドの中央。
―――異形の存在が、そこにいた。
青いユニフォームを着たそれは、けれどサッカー選手なんかでは決してなかった。
異常な程に長い戯画的な手足を持ち、無数のサッカーボールをお手玉のようにリフティングしている。
頭部はそのものズバリ、サッカーボールだった。
どこか滑稽で、ユーモラスな風情すら感じさせるが、現実にそんなモノが蠢く様はひたすらにおぞましい。
「あれが魔女…この世界に仇なす、呪われた存在」
そして、魔女に対峙する、もう一つの存在。
真っ赤な長髪をリボンで束ねてポニーテールにした、都子とほとんど変わらない年齢と思しき少女。
真紅の装束に身を包んだその姿は凛々しく、戦場に立つ女騎士を連想させる。
その両手で、華奢な身体には不釣り合いな程に大きな槍を構えている。
「そう。彼女こそが<魔法少女>の一人…佐倉杏子」
「魔法少女…佐倉、杏子」
瞬間、戦いが始まる。
魔女が無数のボールを蹴り出すと、それは物理法則を無視した動きと速度で杏子へ襲い掛かった。
「しゃらくせぇんだよっ!」
しかし、杏子は怯む事なく槍を振り回す。ボールは次々と破壊され、残ったものも軽く身を捻ってかわす。
そのまま魔女へ向けて突撃。魔女は長い手足を鞭のように振り回すが―――
切断。更に断裁。
そして―――断罪。
「はあぁーーーっ!」
気合の咆哮と共に繰り出された一閃が、魔女の胸部を突き破った。
魔女は耳をつんざくような悲鳴を上げながら消えていき―――
―――都子は、元の公園にいた。
目の前にはキュゥべえと、そして魔法少女・佐倉杏子。
先程は遠目で分からなかった彼女の顔だが、今ははっきり見える。
少々キツい印象を与えるがすらりとして引き締まった目鼻立ちで、十分に美人と言える。
口元から覗く八重歯が、ともすれば冷たく見えかねない彼女の美貌を和らげるのに一役買っていた。
そして、胸元で輝く、大きな紅い宝石―――
その美しさは、まるで。
まるで、命そのものの煌きのようで。
杏子は怪訝な目で都子を見据える。その眼光の鋭さに、都子は少したじろいだ。
一体どんな経験をすれば、年端もいかぬ少女がこんな目をできるというのだろうか。
「やあ。久しぶりだね、杏子」
「…キュゥべえか。誰だよ、この子」
「大倉都子―――魔法少女見習い、といった所かな」
「ふーん。それで?何だってあたしの所に来たわけさ。言っとくが後輩育成なんてガラじゃないよ。そういうのは
マミとかの方が適任だろ?」
「別にキミに会わせたかったわけじゃないよ。魔法少女について都子に説明するには、実地体験してもらった方
が手っ取り早くて分かりやすいと思ったまでさ」
「チッ…それにあたしを利用したってか。相変わらず気に食わない野郎だ」
舌打ちしながら。
紅の魔法少女は懐から棒付きのキャンディーを取り出し、口に含むとそっぽを向いた。
「で、都子だっけ?どうすんの、あんた。魔法少女になんの?」
「え…」
そう問われて、都子は答えに窮する。
「いや…でもあたし、まだ何にも分かってないし…」
「そうか」
ちらりと、都子を横目にする。
そんな杏子の目からは、先ほどの厳しさは影を潜めている。
気のせいかもしれないが―――どこか、都子を案じているような瞳だった。
「どうしようとあんたの勝手だけど、忠告だ…魔法少女になんか、なるもんじゃない」
その言葉には、たっぷりと嘲りが含まれていた。
都子に対してではない―――己に対しての、侮蔑。
「それって…どういう」
「言葉通りさ。魔法少女ってのは…救われない存在なんだよ」
杏子はそれきり口を閉じて、都子達に背を向けて歩き去っていく。
その後ろ姿を見つめながら、キュゥべえはやれやれ、とため息をついた。
「優秀なんだけどね。困った子だよ」
「キュゥべえ…教えて」
「ん?何をだい」
「何もかもよ。魔法少女だの…魔女だの…こんなの、絶対おかしいわ」
「そうは言ってもキミの見た通りさ。世界を侵そうとする魔女と、世界を守ろうとする魔法少女―――
漫画やアニメとやらで、御馴染じゃないのかな?」
それはまあ、言ってしまえば分かりやすい。
正義の味方の魔法少女と、それに対する悪い魔女。
わざわざ説明されるまでもない事なのかもしれない。
「それで…どうしてあたしが、その見習いなのよ?」
「こればかりは、素質というか才能としか言えないよ、都子。キミは、魔法少女としての才能を秘めている」
だからボクが、スカウトに来たんだ。
真意を見せぬ瞳で、キュゥべえはのたまう。
「ま、そうだね…あと一つ、最も大切な事を教えよう」
「最も大切な事…?」
「見返りだよ」
見返り。
「魔法少女は、命を賭して魔女と戦う―――その代償としてたった一つ、どんな願いも叶うんだ」
「たった、一つ…どんな、願いも」
「そう。それがどんな、不条理な祈りであろうとも」
―――都子の中に浮かぶ、幼馴染の笑顔。
今の都子が願うとしたら…それは、たった一つで十分。
―――彼が…輝明が、あたしに振り向いてくれますように―――
それを見透かしたように、キュゥべえは目を細めた。
「一人の人間の心を変えるくらい―――簡単さ」
「…………」
だから、都子。
「ボクと契約して、魔法少女になってよ」
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