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「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊情の宴~ 幻想郷珍道中・紅魔館へ」(2011/06/17 (金) 20:18:24) の最新版変更点
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不気味に鬱蒼と生い茂る木々。
深く闇に沈む森。
日が落ちた世界を、天体戦士サンレッド率いる一向は紅魔館へ向けて進む。
しかして何とも、夜の世界というのはおどろおどろしい雰囲気だ。
おまけにここは幻想郷。夜は、妖怪達の時間。いつ彼等が牙を剥いて襲ってくるか分かったものではない。
―――しかしながら、ここにいる面子を見て、それでもなお襲い掛かってくる妖怪がいたとしたら、そいつは勇気
があるのではなくただの自殺志願だろう。
白玉楼の主―――西行寺幽々子。
その護衛役の半人半霊の剣士―――魂魄妖夢。
百年を生きる吸血鬼―――望月ジロー。
そして幻想郷最強クラスの妖怪達とも互角に渡り合う最強のチンピラ―――サンレッド。
向かってくる低級妖怪などがいれば、数秒で消し炭にもミンチ肉にもできるような連中であった。
「あわわ…レッドさ~ん」
「ひええ…兄者~」
そんな中、戦闘力的にはみそっかすなヴァンプ様とコタロウは震えながら、それぞれにレッドさんとジローさんの
服の裾を掴むというヒロイン行動に出た。
こいつらは多分、妖怪に襲われたら普通に喰われる。
「どうしましょう、私、とっても怖いです!今にも何か出そうじゃないですかぁ」
「ぼ、ぼくを絶対守ってね、兄者!」
レッドとジローは顔を見合わせて、はぁ~~~っ…と深い溜息をつくばかりである。
「ほらほら、あそこの暗がりなんて、今にも亡霊とかが出てきそうですよ!」
「あそこの細い道から、血塗れの刀を提げた辻斬りとか出たら…!」
うわあーーーっ!と自分達の空想上の恐怖に震える二人は抱き合って叫んだ。
レッドとジローは怒りすら覚えず、ゲンナリとした表情で無視を決め込んだ。
「あらあら、そんな心配しなくても大丈夫よ」
そんな彼等に対して優雅に、幽雅に微笑んだのは西行寺幽々子である。
亡霊姫の異名に恥じぬ耽美にして端麗な笑顔は、まさに不気味な森に咲いた一輪の花。
「ヴァンプさんやコタロウをいじめるような悪い亡霊が来たら、私がやっつけてあげるわ。ね、妖夢」
「そうそう。辻斬りなんぞ、この妖夢が斬って捨てて御覧に入れましょう」
妖夢も年頃の少女らしい笑顔で、しかしその瞳に刃のような鋭い光を覗かせつつ腰に提げた剣を誇示する。
「うわぁ~…ゆゆちゃんも妖夢ちゃんも、カッコいい~」
「いやあ、近頃の娘さんは強いんですねー」
コタロウはすっかり尊敬の眼差しである。
ヴァンプ様もほっと一安心、その顔には余裕が戻っていた。
「…おい、ジロー。ツッコめよ、お前ら二人こそ亡霊と辻斬りだろー、って」
「無茶言わないでください。この世界でツッコミ役に回ると大変なんですよ」
「それでも貧乏クジを自分から引く甲斐性を見せろよ。百歳の年の功を見せろよ」
「おやおや、こういう時だけ年長者扱いですか。そういうあなたこそ、自分が泥を被ってこそのヒーローでは?」
チクチク嫌味を交わし合う二人だが、そもそもこんな会話自体が不毛だと気付いてすぐに口を閉ざした。
こういう時は、黙っているに限る。
「どうしたんです、レッドさんもジローさんもダンマリしちゃって」
「何でもねーよ…つーかお前、今、スゲー鼻声だぞ」
「え?ああ。昨日お布団しかずに寝ちゃったから、風邪気味かもしれませんねー」
ズルズルっと洟をすするヴァンプ様。
「大丈夫なの、ヴァンプさん。声がなんだか<ばん○うえいじ>みたいだけど」
「ああ。こいつ、鼻が詰まってっと<ば○どう>そっくりの声になるんだよ」
「へぇー。似てる似てる!」
「えー、そうかなあ。怪人の皆にもたまに言われるんだけど…」
「そっくりだよ。ねえねえ、一度モノマネしてみてよ。<ばんどうえ○じ>の!」
「これ、コタロウ。ヴァンプ将軍は風邪で苦しんでいるのに、ワガママを言ってはいけません」
「ははは、いいんですよ、これくらい」
ヴァンプ様はにこやかに、そしてちょっとしかめっ面になって、言い放つ。
「…ぼかぁねぇ~、ゆでたまごがぁ大好きでねぇ~」
ドカッ!と一斉に笑い声が起きた。
渋い顔をしていたジローですら、一瞬吹き出しかけた程である。
「似てるー!似てるよ、ヴァンプさん!」
「ぼかぁねぇ~、のイントネーションなんてまるで本人でしたよ!」
「すごいわ、ヴァンプさん。これはもう<ばんど○えいじのモノマネが上手い程度の能力>だわ!」
皆に褒められ、ヴァンプ様も満更でもなさそうにポッと顔を赤らめる。
その後頭部をはたくレッドさん。
もはやお約束の光景―――それにレッドは、どこか安心していた。
幻想郷は、現世とはまるで違う世界だ。
その中にいれば、レッドとて油断すれば空気に流されてしまう所だろう。
だが、ヴァンプ様の存在が…ここに来てもなお一切変わらず、神奈川県川崎市溝ノ口の匂いを垂れ流す彼の存在
がレッドを現実に繋ぎ止めている。
こんな世界に来たというのに、そんなものは何処吹く風とばかりに何も変わらないヴァンプ様。
「ヴァンプ…お前ってよ」
「はい?」
「結構、スゲー奴なのかもな」
「え…」
照れ臭そうに頬をかき、レッドは小さな声で言った。
「なんつーか…ありがとよ」
―――その瞬間、仲間達は一斉に後ずさった。
その顔に浮かぶのは驚愕と衝撃、恐怖と呼んでも差し支えなかった。
「…なんだよ」
「い、いえ…あなたが急に、お礼なんて言うから…」
「レッドさん、絶対そんな事言わないと思ってたのに…意外な一面だよー」
散々な言われようである。普段の行ないというものが、如実に表れているといえよう。
「うふふ、でも何だかほっこりするわー。二人の間には、私達には分からない絆があるのね」
「やはり、この物語の本筋はレッドさん×ヴァンプ様という事ですね」
「えー、もう、やめてくださいよー(ぽっ)私とレッドさんはそんなんじゃなくて血で血を洗う壮絶な死闘を繰り広げる
血塗られたライバルなんですからねっ!…いたっ!もー、何で叩くんですか、レッドさん!」
「うるせー!気色わりー事ばっか言ってんじゃねー!」
もはやテンプレに入れてもいいくらいのいつものやり取りである。
「ほらほら。夫婦漫才はそこまでにして、行きましょう。ほら、紅魔館が見えてきましたよ」
妖夢の言葉に対しても、既に「誰が夫婦だ!?」とツッコむ気分にすらならず、レッドは顔を上げる。
―――深い霧がかかった湖の畔。
鮮やかな深紅で統一された色調の、古めかしい洋館。
巨大な時計台が、重々しく時を刻んでいる。
何よりも館そのものが発する、ただならぬ妖気。
まさしく<紅き悪魔の舘>―――まともな神経の持ち主なら、近づこうともすまい。
「ふわ~…レミリアちゃん、こんなすごい所に住んでるんだね」
コタロウが首を思いっきり伸ばして見上げながら、感嘆する。
「姫様のお屋敷と、どっちが大きいかな?ねえ、兄者」
「あん?<姫様>って、誰だよ」
「北の黒姫」
ジローが語ったのは、レッドの初めて聞く名前だった。
「<真祖混沌>の名は、知っていますね?」
「ああ。何度か聞いたよ。史上最も偉大な吸血鬼だかなんだか」
「北の黒姫とは、真祖が直系の一人…私とコタロウは川崎に移住する前は、彼女の世話になっていたんです」
「あー、なるほど!」
その説明にポン、と手を打ったのは、ヴァンプ様である。
「つまり、ミミコさんの前にジローさんを養ってくれていた人って事ですね!」
「…………」
間違ってはいないのだろうが、言い方が悪すぎる。
まるでジローさんが女をとっかえひっかえしてる最低の<何か縛るモノ>だと言ってるようなものだ。
その場の空気がちょっと冷えたのに気付かず、ヴァンプ様は続ける。
「そう言えばレッドさんも、かよこさんの前にお付き合いしてた女性がいますよね。ほら、ちょっとキツイ感じの
ホステスさん。それと同じですね、ははは」
「おい、ヴァンプ…」
「…ヴァンプ将軍」
「は…は」
二人の鋭い眼光は、もはや物理的な圧力さえ備えている。
やっとこ、ヴァンプ様は自分が地雷を豪快に踏み抜いた事に気付いたのであった。
レッドさんとジローが、ヴァンプ様の身体を両側から挟むようにして、持ち上げる。
腰を屈めて、力を込めて。そして。
ヴァンプ様を、真上へとブン投げた。
「「ダブル・ファルコン・アロー!」」
異様なまでに息の合った、謎の合体攻撃。
ああああああああ…!と、ドップラー効果によってヴァンプ様の叫びはどんどん遠くなり。
最高地点に到達し、落下を始めた瞬間に近づいていく。
そして、地面に墜ちた時、漫画的な<ヴァンプ様の形をした穴>が大地に穿たれた。
ダメージは150000。
画面には斜め線が入り、左上と右下にそれぞれレッドさんとジローさんのどやっとしたカットインである。
<解説>
ダブル・ファルコン・アロー
合体攻撃(天体戦士サンレッド&望月ジロー)
気力制限130 攻撃力7000(フル改造時9000) 射程1~4 EN消費60 地形適正全てS
やや火力に難のあるジローにとってはありがたい合体攻撃。
消費ENの割に高い攻撃力と優れた地形適正を持つので、強敵相手にドンドン使っていこう。
ただし、ジローはサンレッドに隣接していると、太陽闘気によって毎ターンHPが削られるので注意。
なお、元ネタは<BLACK BLOOD BROTHERS>短編集第一巻にてジローがコタロウに対して行なった折檻。
賢者イヴの血統に代々伝わる奥義、その名も<ファルコン・アロー>…らしい。
ジローさんは時々コタロウを殺す気としか思えないから困る。
閑話休題(それはともかく)。
紅魔館へと赴いた一行。
門番に招待状を見せて、庭園へと足を踏み入れて。
上方からの視線を感じて、二階のバルコニーを見上げる。
―――宵闇に合わせたような、黒のイヴニングドレス。
―――対照的に、両手には純白のレースの手袋。
―――ヒールの高いブーツ。
<紅い悪魔>レミリア・スカーレットが、柵にもたれかかって、こちらを見下ろしていた。
ジローが帽子を取って会釈し、コタロウが笑顔で手を振ると、それに応えてレミリアも優雅に手を振る。
そして、レッドと目線がぶつかる。
太陽の戦士と、夜の申し子。
瞬間的に見えない火花が散り、熱風が吹き荒れた。
だが、この場でそれ以上の競り合いをするつもりはないらしい。
フン、と肩を竦めて、館の中へとその姿が消えていく。
それを見送り、レッドも肩の力を抜く。
やはり、幻想郷の強豪妖怪と向かい合うのは、レッドにとっても相当の緊張を伴うものだ。
特にそれが、凶悪極まりない真紅の吸血姫ともなれば。
「ねえ、レッドさん」
「あ?何だよ、コタロウ」
「レミリアちゃんって、ホントにレッドさんの事が大好きなんだね」
「はあ…?」
突然の珍説に、怒るより先に呆れてしまう。
「あの態度見て、どうやったらそう思えるんだよ。隙あらば殺してやるって面構えじゃねーか」
「だってさあ、レミリアちゃんって、本当に嫌いな相手だったら、そもそも無視するタイプだと思うんだ。なのに
レッドさんには、ああやって突っかかるじゃない」
「はあ…」
「つまり、レミリアちゃんはツンデレさんなんだよ!」
「ありえねえ…」
「いや…ツンデレかどうかはともかくとして、一理ある気もします」
と、ジロー。
「吸血鬼にとって、太陽とは基本的に触れてはならない天敵であり、仇敵です…されど吸血鬼とて、かつては人間
であり、陽光を受けて生きていたのです。もはや手の届かなくなったその輝きは…あまりに眩しい過去の光だ」
「…………」
「レッド。吸血鬼にとって―――恐らくはレミリアにとっても―――その太陽の輝きを持つ戦士であるあなたは、
怨敵であると同時に、憧れなのでしょう」
「…どーでもいいよ、んなモン。少なくとも俺は、あのクソ生意気なガキが気に入らねー」
言い捨てて、レッドは紅魔館をもう一度眺め眇める。
血のように紅き屋敷は、何も語らず、静かに―――そして不気味に佇んでいる。
こんな所にやって来て、何も起こらない方がおかしかろう。
「へ…嵐の予感、って奴だな」
ちょっとニヒルでハードボイルドな男を気取るサンレッド。
「え!?嵐が来るんですか!?どうしよう、傘持ってないし、洗濯物取り込んでないですよ!」
天然でボケて、小突かれるヴァンプ様。
―――緊迫感があるのかないのか分からない一同は、悪魔の巣窟へと今、一歩を踏み出すのだった。
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