「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 祝勝会(前篇)・惨劇の幕開け」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 祝勝会(前篇)・惨劇の幕開け」(2011/03/30 (水) 22:41:25) の最新版変更点
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―――前回までのおさらい―――
美しくも謎めいた妖怪・八雲紫の力によって不思議な世界<幻想郷>へと迷い込んだ天体戦士サンレッド御一行。
かつてこの地を訪れた伝説の吸血鬼<賢者イヴ>の遺産を巡って開催された<幻想郷最大トーナメント>に参戦した
レッドさん。
彼は望月ジロー・コタロウの吸血鬼兄弟、そして宿敵である悪の将軍ヴァンプ様と友情を深めたりしつつ、神奈川県
川崎市溝ノ口では使い道のなかった戦闘力を存分に発揮し、一回戦では鬼族最強の星熊勇儀を倒す。
そして二回戦において幻想郷最強の一角と称される風見幽香との死闘を制し、見事に準々決勝へと勝ち進んだの
であった。
これより待ち受けるは、更なる強敵。
頑張れ、僕らのヒーロー・サンレッド!
とりあえず、全ては祝勝会でヴァンプ様の愛情と殺意たっぷりの御馳走を食べてからだ!
と、いうわけで、幻想郷最大トーナメント初日から一夜明けて。
其処は転生を待つ死者達の世界・冥界。
昼間でも薄暗く、まともな感性の持ち主であればどことなく陰鬱な気分にさせられる事であろう。
夕暮れ時は更に欝蒼とした雰囲気を醸し出し、道行く者の背中をゾクリとさせる。
そんな冥界を管理する亡霊姫・西行寺幽々子が座する白玉楼にて。
「フンフフフフフーンフフフッフーン♪」
―――冥界の空気をブチ壊す陽気な鼻歌を口ずさむ…もとい鼻ずさむのは、そう、ヴァンプ様。
白玉楼の台所に立つ彼は、今夜の<レッドさん祝勝会>の準備の為に、料理の仕込みで忙しいのだ。
出席者は主役のレッドさん。望月兄弟。幽々子に妖夢。そしてヴァンプ様自身。
「紫様にも声をかけたんですが<これでも忙しい身なのよ。ま、行けたら行くわ>だそうです」
「うーん。となると、料理は多めに作った方がよさそうですね」
「まあその辺の計算は大丈夫ですよ。幽々子様を基準にすれば、他の面子は誤差みたいなもんですから」
レッドさんとジローは成人男性の標準程度には食べる。
コタロウは小さい身体の割に食いしん坊だが、まあ理不尽なまでの大食いでもない。
ヴァンプ様は残ったら<もったいない!>と食べてしまうオカン気質なので、意外に食べる。
妖夢は剣の鍛練と幽々子の為の雑用で結構動き回っているので、女子の平均以上には食べる。
紫は以前、一緒に食卓を囲んだ時には普通に食べていたので、平均的と見ていいだろう。
幽々子の胃袋は宇宙である。
というわけで、かなりの量を作らねばならない。
とはいえ、元が料理好きのヴァンプ様にとっては苦ではない。
むしろ楽しげに包丁を振るい、鍋の火加減を調節している。
「しかしヴァンプさん。もしレッドさんが負けてたらどうするつもりだったんです?」
隣で彼を手伝っていた妖夢は、そう尋ねる。
対してヴァンプ様は、ニコニコしながら平然と答えた。
「その時はまあ、残念会ということで」
「なるほど。もし不幸にも死んでたら抹殺記念祝賀会という事だったんですね?この悪党めぇ(笑)」
「いやあ、そう考えると残念ですね。勇儀さんも幽香さんもかなりいいトコまでレッドさんを追い詰めてましたし。
はっはっは」
物騒な話題を和やかな口調で交わしつつ。
ヴァンプ様はデザートにと作ったケーキの上に、お手製の砂糖菓子人形を置いていく。
レッドさんにヴァンプ様。ジローとコタロウ。幽々子と紫、そして妖夢。
その再現度は非常に高かったが、妖夢は不満げである。
「むう。私はもっとスリムでしょう。具体的には私の腰をもっと細くして、その分を幽々子様に回すべきかと」
「ははは、そんな事を言ってると怒られちゃいますよ」
なんて言いながら、チョコレートで字を書いていく。
<レッドさんおめでとう!そして死ね!>
「もう何を言ってんのか分かりませんよ。祝ってんですか、それとも呪ってんですか」
「いや。それはそれ、これはこれ、ですよ」
どんな時もレッドさん抹殺への執念を忘れない、それが僕らのヴァンプ様である。
「どれどれ、少し味見を…」
「あー、ダメダメ、妖夢ちゃん!つまみ食いは許しませんよっ!」
そこら辺は厳しいヴァンプ様である。
「さ、料理を運びましょうか。レッドさん達がお腹を空かして待ってますよ」
「全く、男衆はこういう時に手伝ってくれないのですから。これだからヒ○なんですよ」
「ははは、まあそんなグチグチ言わないで」
―――そして、ヴァンプ様も妖夢も消えた台所。
眼を肉食獣の如くギラつかせた影が其処に忍び込んだ事に、気付く者はいなかった―――!
ちゃぶ台の上には、湯気を立てた料理が並ぶ。
「おー、ヴァンプ。中々頑張ったじゃねーか」
へらへらしつつヴァンプ様をねぎらうレッドさん。久々にバトルスーツを脱いで、いつものTシャツ短パンスタイル
でくつろぎタイムである。
なお今回のTシャツ文字は<陰惨系魔法少女>だ。
「いやー、大した事はありませんよ。レッドさんの祝勝会なんですから、これくらいはしないと…しかし忘れるなよ
サンレッド!私はいつでも貴様の首を狙っているという事はな、ククククク…いたっ」
悪的発言をかますヴァンプ様とそれを小突くレッドさん。
もはやマンネリを通り越して安心感すら覚えるいつもの漫才。
それを見つめるジロー・コタロウ・妖夢の眼差しはとても暖かい。
具体的に言うと出しっぱなしにして小一時間経ったマグロの刺身くらい生暖かった。
「さ、後はケーキを持ってきて、幽々子様を呼んで、パーティーの始まりといきましょうか」
「わーい、ケーキ!ねえねえ、レッドさん。ローソクの火を消すの、ぼくがやっていいかな?」
「あー?別にいいよ、誰がやったって…」
「いやいや、ここはレッドさんが主役ですから、やはりレッドさんが吹き消すべきかと…いたっ」
気のない素振りのレッドさんに余計な事を言って、またも小突かれるヴァンプ様であった。
「うるせー!んなガキくせー事、やりたくもねーよ!」
「おや。そんな事を言う割に、実はやりたかったんじゃないかと思ってしまうのは、勘繰りすぎでしょうか?」
「混ぜっ返すんじゃねーよ、ジロー!」
「ふふ…」
そんな彼らの様子を見て、妖夢は微笑む。
「仲がよろしくて結構。皆さん方を見ていると、私の中の乙女コスモが満たされますよ」
「よせよ、気持ち悪りい」
「やはり基本のレッドさん×ヴァンプさんが一番萌えますね」
「えー、そんな。私とレッドさんはそんなんじゃないですよぉ(ぽっ)」
「頭カチ割られてーのかテメーら!」
「おお、怖い怖い…では、ケーキを取りに行くついでに幽々子様を呼びに行きますね」
―――幽々子の方がついでである辺りに、彼女の高い仕事意識と忠誠心が如実に表れているといえよう。
―――妖夢は台所に足を踏み入れた瞬間、違和感に気付いた。
言葉にはできない、嫌な予感。
何かがおかしい。何かが―――狂っている。
脳裏には某超大作サスペンスゲームで死体が発見された時のような恐怖感溢れるBGMが鳴りっぱなしだ。
バクバクと高鳴る心臓を押さえ、鉛のように重い足を引きずるようにして歩く。
「う…!」
台所の隅。
そこに、一人の女が蹲っていた。
「ゆ…ゆゆ…こ…様…?」
顔は見えないが、間違うはずがない。
その後ろ姿は、確かに己の主君である西行寺幽々子その人だ。
「ま…まさか…!」
最悪の可能性に思い至って。
愕然と。呆然と。
妖夢は、立ち尽くした。
「妖夢…」
ゆっくりと、幽々子が振り向く。スローモーション再生でもしているかのように、その動きは遅かった。
まるでゾンビのように、顔面から全ての表情が抜け落ちている。
口元が、べっとりと白いもので汚れていた。
周囲に漂う、甘ったるい香り。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「よ…よして下さい。何を…謝ってるんですか…?」
「ちょっとだけ…ちょっとだけの心算(つもり)だったの…だけど…我慢できなかった」
「は…はははは。冗談は、良子さんですよ。まさか、いくら幽々子様でも、そんな真似をするわけないと信じてます
とも。それくらいの自制心はありますよね?」
それには答える事なく、幽々子は胸元に抱えていた一枚の皿を差し出した。
ケーキが乗っていたはずの、その皿には、今は僅かにクリームがこびり付いているのみ。
「とっても…とっても美味しかったの!ヴァンプさんのケーキ!」
「あ…あんたって…あんたって人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
プチンッ
妖夢は知った。
本物の怒りは。純粋なる憤怒は。
むしろ、人を冷静にさせるのだと。
「幽々子様…否。西行寺幽々子!」
全身に、かつてない力が漲るのを、妖夢は感じた。
「許さねえ…貴様は私の心を裏切ったっっっ!」
額に浮かぶ青筋。
服を破りながら盛り上がっていく筋肉。
血走り、狂気に満ち満ちた眼。
迸る怒気と闘気、そして殺気。
もはや其れは、妖夢であって、妖夢とはとても言えない存在と化していた―――
「最終奥義(ラストスペル)―――<武血鬼裂妖夢(ブチキレヨウム)>!!!」
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その異形と化した超肉体から放たれた一撃は、この幻想郷にあって尚、常識を外れた破壊力を秘めていた。
ただ、力を込めて、下から突き上げるように殴る。
角度。タイミング。速度。全てが完璧なアッパーカットだった。
「これは貴様に食べられた…ケーキの痛みだぁぁっ!」
「ひでぶっっっ!」
屋根を突き破り、幽々子の身体は天空へと打ち上げられた。
「まだこれからだぁぁぁぁっ!」
それを追い、妖夢が飛び上がる。
いつものように魔力とかそういうのではなく、純然たる脚力だけで飛ぶ。
「これは…ケーキの悲しみぃぃっ!」
残像すら見えないスピードで幽々子に追いつき、音を置き去りにして怒涛の猛攻。
最後に、両腕を大きく振りかぶって。
「そしてこれは…ケーキの怒りだぁぁぁぁぁぁぁっ!」
振り下ろす。
幽々子の脳天がひしゃげ、次の瞬間には大地へと叩き付けられた。
「はぁっ…はぁっ…う…ううっ…!」
眼窩から溢れ出す涙。そこには、勝利の喜びなどない。
ケーキ。嗚呼、ケーキ。
皆が楽しみにしていたケーキ。
もはや幽々子のお腹の中で消化されるのを待つだけとなったケーキ。
妖夢の慟哭はただ虚しく、物悲しく、宵闇へと消えていった―――
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