「『待ちぼうけ』」(2011/03/06 (日) 20:31:11) の最新版変更点
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セルゲーム当日──戦士は誰一人現れなかった。
リング中央で待ちつつ、苛立つセル。
「もうとうに時間は過ぎている……一体どういうことだ」
セルゲームに招かれた孫悟空たちはというと、すでに地球にはいなかった。
十日間ではメンバーがセルを超えられなかったと悟った悟空が、確実にセルを打倒でき
る実力を身につけるまで、界王星に避難することを提案したのだ。ベジータは当然猛反対
したが、ブルマの説得もありしぶしぶ了承し、悟空と親しい者は皆地球にはいないという
状況になっていた。
「どういうことだ……。奴ら、どこにも気を感じられん」
考えられるのは二つだけ。彼らが気を消しているか、それとも──どこにもいないか。
「奇襲など私には通じないことくらい分かっているはずだし……。となると、やはり逃げ
たということか」
セルには心当たりがあった。悟空が彼の前で二度披露した瞬間移動。あの技ならば、い
くらセルが速くとも到底たどり着けない領域にまで逃げることが可能だ。
失望と怒りで、拳を握りしめるセル。
「いいだろう、孫悟空。貴様ら腰抜けは不戦敗だ。私は約束通り、地球人どもを皆殺しに
するとしよう」
思考を止め、殺戮のため飛び立とうとするセルに、やかましい声が飛んできた。
「コラーッ! セル、私を無視するんじゃなーい!」
リングの上でわめき立てているのは、ミスター・サタンであった。ずっとセルを挑発し
ていたのだが、悟空ら不在の推理をしていたセルには全く聞こえていなかった。
「なんだ貴様は……」
「だはははっ! 私は天下一武道会チャンピオン、ミスター・サタン様だ! 貴様を倒す
ためにテレビクルーを連れて乗り込んできたのだ!」
リングの外には、怯えるアナウンサーとカメラマンがあった。
「さあ、セルよ! 私にはトリックなど通じんぞ、かかってこ──」
「うるさい」
セルは手刀をサタンにぶつけた。といってもほとんど触れただけに等しい。が、サタン
はこの一撃で空高く吹っ飛び、近くにあった岩山に激突した。
「あ、あがが……」
「ゴミめ、殺す価値もない」
血だらけになったサタンを見て、もはや人類は終わりだと悟ったアナウンサーとカメラ
マンはサタンを置いて逃げてしまった。
「さて手始めに、西の都あたりで人間どもを血祭りに……」
「待てぇ~い!」
セルが振り返ると、なんとサタンが再びリングに上がっていた。
「さっきのは油断しただけだ! さあもう一度、勝負しろ!」
「レベルの違いが分からんのか……。確かに世界チャンピオンではあるようだ、バカのな」
「き、貴様、許さぁ~ん!」
セルの頭脳はすでにサタンの生命力を計算し終えていた。こんなゴミに余計な力を使う
のはもったいないとばかりに、セルはサタンの生命をちょうどゼロにする威力にて、手刀
を放った。
「げへっ!」
リング外に叩きつけられるサタン。この時点で、サタンは死体となった。
──はずだった。
「うぐぐ……トリックだ……」
よろよろと、起き上がるサタン。
「なんだと……?」
驚くセル。といってもサタンの根性にではなく、計算を間違えたことに対してであるが。
いずれにせよ、全てがパーフェクトであるはずのセルの目論みを外したというのは大き
かった。セルはサタンに興味を持った。
「素質は、あるやもしれん……。地球人を殺したところで、どうせ生き返らせてしまうだ
ろうし、いずれは孫悟空も戻ってくるはずだ……。こいつで暇潰し、といくか」
するとセルは気をわざと大幅に下げ、サタンに向かって叫んだ。
「ミスター・サタンとやら! もう少しで負けるところだったよ。さあもう一度、かかっ
てくるがいい!」
負けるところだった。すなわちサタンは勝てそうだった。この言葉にあっさり騙された
サタンは、怪我も忘れてセルに襲いかかった。
「だははははーっ! ダイナマイトキック!」
セルはサタンを鍛えようと考えたのである。
こうして、サタンにとっての試合、セルにとっての指導が本格的に始まった。
練習嫌いの身で、低レベルではあるが天下一武道会の頂点に立った才能は伊達ではなか
った。あらゆる達人の細胞を持つセルの指導もあり、めきめきと実力を伸ばしていった。
食糧はピッコロの細胞による魔術にて調達し、ほとんど朝から晩まで寝る時以外は闘っ
ていた。
軍隊が壊滅した過去からか、誰も寄り付かないこの地にて、いつしかサタンは己の限界
を超えていた。気を操り、空を飛び、セルからあらゆる技術を吸収した。
いくらかの年月が経ったある日、ついにあるはずがない日が訪れた。
荒野で向かい合うセルとサタン。
「セルよ、今日こそ倒してやるぞ!」
「ふん、返り討ちにしてやる!」
音を置き去りにした超高速での拳の打ち合い。攻撃と防御が目まぐるしく展開されてい
く。
両者、一度間合いを取った。
「ダイナマイトキャノン!」
「かめはめ波!」
ダイナマイトキャノンとは、気功波の原理からサタンが開発した独自のエネルギー波で
ある。威力は五分、しばらく押し合いが続くが決着がつかないので、二人とも肉弾戦へと
移る。
一進一退。わずかなミスも許されない。
だが──
「きええええええっ!」
──サタンが先んじた。かつては瓦を割るくらいがせいぜいだった手刀で、セルの右腕
を切り落としたのだ。
「ぬぅっ!」
すぐさま右腕を再生させるセル。が、これで生じた隙と消費した体力が決定的な差とな
り、徐々にサタンが優位になってゆき──
ついに──
ついに──
ついに。
サタンの右拳が、セルの頭部にある核を貫いた。
「ぐはっ……!」
「や、やったぞ!」
地上へと落下するセル。サタンが笑顔で駆け寄る。
「だははははーっ! どうだセル、これが私の実力だっ!」
「あ、ああ……見事だ……。まさか、このような日が来よう、とは……」
「ざまあみやがれ! さあ、とっととくたばっちまえ!」
「そう、だな……私は地獄、に行くだろう……」
「当たり前だ! この──」不意に、サタンの目から涙がこぼれた。「この野郎、頼むっ、
死ぬなぁーっ! 死なないでくれぇーっ!」
自分の拳で破壊した核を、必死に元通りにしようとするサタン。しかし、もはやセルの
命は風前の灯であった。
「バカめ……。いくら、強くなっても……バカは変わらなかった、な……」
「おい、待てぇーっ! 死ぬな、死ぬんじゃあーいっ!」
セルの気が消えた。サタンの五感全てが示す。宿敵であり師匠であり親友であり自分自
身ですらあったセルの死を。
サタンはあらん限りの声で絶叫した。
「セルーッ!」
セルの亡骸を抱え、サタンは泣き続けた。いくら泣き止みたくとも、涙と鼻水が止まっ
てくれないのだ。セルと過ごした日々は、失うには余りにも大きすぎた。
しばらくして、サタンは背後に巨大な気がいくつも現れたのを感じた。
振り返ると、孫悟空、孫悟飯、ベジータ、トランクス、ピッコロ、クリリン、ヤムチャ、
天津飯が勢ぞろいしていた。
「なんだ、貴様らは……」
「オラ、孫悟空ってんだ。セルを倒せる実力をつけたから、帰ってきたんだが、おめぇが
倒しちまったみてぇだな。サンキュー!」
ほがらかに笑い合う戦士たち。
悪気はないのだろうが、サタンにはセルの死を冒涜されたような気がしてならなかった。
サタンはうつむき、決意した。彼らはセルの敵なのだ。すなわち──ミスター・サタン
の敵でもある、と。
「うおおおおおおおっ!」
全パワーを解放し、サタンは悟空に突撃した。完全体のセルをも上回ったパワー。セル
から逃げていた戦士たちでは到底敵わなかった。
──はずがなかった。
「おめぇ、セルの仲間だったんか。しょうがねぇな~」
悟空はあっさりと超サイヤ人3に変身すると、サタンに向けてほとんどチャージなしで
かめはめ波を放った。サタンとは比べ物にならない天才である悟空が、今さらサタンに後
れを取るはずがなかった。
エネルギーの塊に呑み込まれたサタン。最後にこう言い残し──
「セル、すぐに追いつくぞ」
消滅した。
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