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「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 花の妖怪達」(2011/01/28 (金) 19:50:52) の最新版変更点
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―――メディスン・メランコリー。
精巧に作られた人形が魂を持った、付喪神(つくもがみ)に属する妖怪である。
その記憶は、アンティーク・ショップのウインドゥに飾られていた頃から始まる。
母親に手を繋がれてやってきた、一人の少女に抱かれた。
「あなたはメディスン。メディスン・メランコリー!すてきなお名前でしょ?」
名前を貰って、その子の家族になった。
何年かすると、自分と遊んでくれなくなった。
―――ねえ。どうしたの?
―――もう一緒に、おままごとをしてくれないの?
「もう、いらない」
そして、ゴミ捨て場に置き去りにされた。
だけど、迎えに来てくれると信じてた。
信じてた。それから時間が経った。
それでも信じてた。季節が移った。
まだ、信じてた。年が過ぎた。
理解した。自分は<いらないモノ>になったんだと。
それでも、僅かな希望に縋って、待って、待って、待って、待って―――
気付けば、辺りは一面の鈴蘭だった。
―――後で知った事だが、現世で忘れ去られた生物や物質は、この世界―――
幻想郷に流れ着く事があるのだという。
そこでも、自分は待ち続けた。待って、待って、待って、待って―――
どれだけ待ったか分からなくなった頃、自分が動けるようになっている事を知った。
鈴蘭の毒を吸い、魑魅魍魎渦巻く幻想郷の空気に触れて、いつしかその身に魂を宿していた。
そして、自分にはどうやら<毒を操る程度の能力>があるらしい事を知った。
その頃にはかつて人間を愛し、愛された記憶なんて、すっかり色褪せていた。
そのくせ、捨てられた悲しみと怒りの記憶だけは、まるで消えなかった。
―――自分は、命を手に入れた。じゃあ、どうする?
―――いらないモノと言われて、身勝手に捨てられた。
―――だったら。私だって。
―――人間(おまえら)なんか、いらないモノだ!
鈴蘭畑を離れて、人間を襲う事に決めた。
襲って襲って襲って襲って、全滅させてやるつもりだった。
何人か襲った所で…メディスンは、彼女に出会った。
「誰よ…あんた」
「なに。新顔に、ちょっと世間というものを教育してあげようかな、と」
それは、少女の姿をしていた。
優雅に日傘を広げた彼女は、一見して危険な空気はない。
だが、メディスンには分かった。
こいつは、人間じゃない。自分と同じで―――妖怪だ。
「妖怪が人を襲うのは、当然の事よ。それ自体はとやかく言わないわ」
「なら、放っておいてよ」
「そうもいかないの。そんな調子でやってたら、人間がいなくなっちゃうわ。そうなれば、我々妖怪だって共倒れ。
人間と妖怪は敵対しつつも癒着し、馴れ合いながらも闘い、いがみ合いつつ手を取り合う。
そういうバランスで、幻想郷は成り立っているのよ」
「それがどうした。私一人が暴れてどうにかなる世界なら、その程度だったって事でしょう」
「それはとても困るの。だから、貴女のようなはねっかえりが出てきて<異変>を起こした時は<博麗の巫女>
が解決する事になってるんだけど…今回はたまたま私が貴女を見つけた事だし、同じ妖怪として、幻想郷での
生き方を教えてあげようかな、ってね」
「余計なお世話よ…私こそ教えてやる。今の私は、何だって、誰だって殺せるくらいに強いんだ―――!」
「鬱陶しい子ね…正直ウザくなってきたけど、まあ、いいわ。首を突っ込んだからには、面倒見てあげる」
「私はメディスン・メランコリー!人間だろうが妖怪だろうが、私の毒で溶かして侵して腐らせてやる!
まずはお前だ!名前くらいは覚えてやる―――名乗れ!」
「私は風見幽香…人間だろうが妖怪だろうが気に喰わなければ問答無用でブッ飛ばす女として知られているわ。
メディスン・メランコリー。貴女の名前、覚えたわよ」
―――教えられたのは、メディスンの方だった。
勝負以前、戦闘以前の問題だった。
強さの次元が違い過ぎた。
何よりも屈辱だったのは―――自分が、怪我一つ負っていないという事だ。
風見幽香が本気なら、一瞬でメディスンを粉々にも出来たのに。
彼女はむしろ、メディスンが傷一つ負わないように細心の注意を払いながら闘っていた。
一切の手を抜く事なく、念入りに手抜きされた。
その上で―――ありありと、実力の差を見せ付けられた。
苦渋にまみれて膝をつき、掌で地を叩く。
「くそっ…くそっ!」
「ほら、立ちなさい」
微笑みながら、幽香はそっと手を差し伸べた。
「弱い事も無知な事も、恥じゃないわ。最初は誰だってそう。これから強くなればいい。学べばいい」
「…何を、偉そうに」
「可愛くないわね?疎ましいわね?そんな態度じゃ、誰とも仲良くなれないわよ」
「仲良く…?そんな必要はないわ。私は一人で生きていく」
「無理よ。生きてるからには、一人じゃいられない。生きるというのは、どうやったって誰かと関わっていく事よ。
どうせなら、皆と仲良くやれた方がいいでしょ?」
「なら、お前はそうしてるっていうのか!?」
「いいえ。私は基本がいじめっ子だから、皆から嫌われてるわ…こう見えても、長生きしすぎた。もう手遅れ」
だからこそ、と。
幽香は笑みを消して、真摯な瞳でメディスンを見つめる。
「せめて、まだまだこれからがある貴女には、上手くやってもらいたい」
「…!上から目線で―――分かったような事を言うな!」
<毒を操る程度の能力>を発動させて、幽香の手を握る。
じくじくと。
その手を毒が侵食していく。爛れて、腐れていく。
「どうだ、風見幽香!そんなに強いお前だって、私の毒でそのザマだ!」
メディスンは、不敵に笑った―――そのつもりだったのに。
目から溢れたのは、涙だった。
「私はもう、妖怪だ…化け物だ!こんな…こんな私と、誰が友達なんかになりたがる!誰が愛してくれる!?」
「そうねぇ…」
考え込むように小首を傾げて。
彼女は、メディスンの小さな体躯を抱き締めた。
毒で、身体が爛れる事も意に介さずに。
「とりあえず、此処に一人」
「な―――!」
「貴女みたいな我儘な子。疎ましい子。弱い癖に吠えてばかりの…昔の私にそっくりな子を、放っとけない」
「むかし…の…?」
「私にも、今の貴女のような時期があった。我儘で、鬱陶しくて、弱い癖に吠えてばかりの子だった」
そして。
「私には、友達になってくれようなんて人も、妖怪もいなかった―――喧嘩の相手になってくれる奴はいたけどね。
自業自得とはいえ、それはそれは寂しい事よ…そうね。むしろ私の方が、友達が欲しいだけかもしれない」
「…………」
「お互い、友達がいない者同士―――仲良くしてみないかしら?」
「…ちぇっ。仕方ない、な」
負けた。
戦闘だけでなく―――心まで。
「そんなに言うなら…あんたの、友達になってあげても、いいわよ」
「そう。それはよかった―――それはそうとして」
幽香は拳骨を作って、振り上げた。
「暴れ回って幻想郷を騒がせたお仕置きだけは、しておくわ」
―――手加減はしていたが、強烈な一発だったという。
それが。
メディスン・メランコリーが魂を得てから、初めて出来た友達だった。
その後、色々と経験を積み、多くの人間や妖怪と出会い。
何人か、友達と呼べる存在も出来たが。
メディスンの原点は、風見幽香との出会いだった。
幽香がいなければ―――今のメディスンは、いなかった。
―――夢を見ていた。
目の前には、幽香がニコニコしている。
ちょっとどころでなく意地悪で、ちょっとどころでなく暴力的だが、本当は優しい所もたくさんある幽香。
メディスンは、実の姉のように慕う彼女の笑顔に、とても嬉しくなった。
…その手にしているペンキ入りのバケツが、異様に嫌な予感を醸し出してはいるけれど。
どこからともなくハケを取り出した幽香は、鼻歌交じりにメディスンにペンキを塗りたくり始める。
「はーい、茶色いメディ~♪」
「はーい、灰色メディ~♪」
「はーい、鉛色メディ~♪」
「はーい、真っ黒メディ~♪」
「はーい、ドドメ色メディ~♪」
「はーい、惑星ポポルのカエルのフン色メディ~♪」
「はーい、何かもう色々混ぜすぎて名状し難き色メディ~♪」
「七色ならせめて普通に虹色メディスンにしろやぁぁぁぁぁっ!」
寝起きも超スッキリ(か?)な美少女・メディスン。彼女が目覚めたのは、医務室のベッドの上であった。
「…夢見、悪いなぁ…」
そのせいだろうか、脳天と額がジンジンしている。
まるで頭頂部をぶん殴られ、その後激烈なデコピンを喰らったような痛みだ。
「って、それよりも試合は!?」
「終わったわ」
そう答えたのは、ベッドの傍にいた少女―――
「幽香!…終わったって…」
「二回戦、全部」
「えっ…」
絶句し、メディスンは力なく突っ伏した。
「うわあぁ…私、そんなに長い事気絶してたんだ…」
「全く。寝過ぎよ、メディ」
「幽香にだけは言われたくない気分なんだけど…私が気絶してた原因の半分は幽香にある気がするんだけど…」
「それは気のせいよ」
「そうかなあ…………あれ?」
メディスンは、そこで気付いた。
幽香は全身に包帯を巻かれている。如何にも<ついさっき殴り合いでもしてきたぞ>という具合に。
―――強大な妖怪は、回復力も治癒力も並外れている。幽香もその例外ではない。
「幽香…怪我、してるの?」
「…まあね」
常の彼女らしからぬ、何処か遠くを見るような目だった。
「…強かったの?あいつ」
「強いわ」
ふっと。
自嘲するように顔を伏せた。
「少なくとも―――私よりも」
「んなこたーねーだろ」
声のした方には、レッドがいた。
彼もまた全身傷だらけで医務室のドアにもたれかかり、タバコを吹かしている。
「強さだけなら、差なんてなかったよ。もう一度やったら、どうなるか分かんねー」
「勝った奴に言われても、嫌味なだけね」
「…ちっ。これでも褒めてるつもりなのによ。性格悪りーなー、ホント」
「自覚はしてるわ」
「してるのが余計に悪りーっての…ったく」
ちらりと、レッドはメディスンに目をやった。
幽香の敗戦を知り、ショックを受けたのか、言葉もない様子だ。
どこかバツの悪い思いをしつつ、レッドはフォローを入れようと語る。
「あのよ…マジで風見は強かったんだぜ?どっちが勝つかなんて、時の運―――」
「サンレッド!」
怒鳴るような剣幕に、レッドも思わずたじろぐ。
「な、なんだよ…」
「わ、私が…!」
「あん?」
メディスンは気持ちの整理を付けながら、言葉を選びながら。
それでも、きっぱりと言い放った。
「私がいつか、幽香の仇を討つから…それまであんた、誰にも負けるんじゃないわよ!」
「…………」
「それに、あんたがあっさり負けたりしたら、幽香が弱いって思われるんだからね!」
「…はー。ったく、皆してプレッシャーかけさせやがってよ」
憎まれ口を叩きながらも。
レッドは、決意を新たにしていた。
「俺は誰にも負けねーって…何度も言わせてんじゃねーっつーの」
ほれ、と小指を差し出した。
「嘘ついたら、針千本だって飲んでやらあ」
「…ふん!」
鼻を鳴らしながらも、メディスンは小指を絡めさせる。
それを見つめながら、幽香は嬉しそうに笑っていた。
「嬉しい事言ってくれるわねぇ、メディ。私、貴女が応援してくれてたのに負けちゃったから、嫌われたんじゃない
かって心配だったのよ?」
「別に…そんな事で、幽香を嫌いになんか、ならないよ」
「そのくらいで、友達を嫌いになんか、ならない」
「そう…貴女も、いつまでも我儘なだけの子供じゃないってことかしら?」
「…………」
照れたように、メディスンはそっぽを向いた。
レッドも、二人を静かに見守る。マスクの奥の素顔は、きっと笑っているのだろう。
「さて、メディ。サンレッドを倒すのは大変よ。少なくとも、私よりも強くならないといけないんだから」
「分かってる。強くなるよ、私」
「険しい道よ」
「分かってる」
「厳しいわよ」
「分かってるってば」
「よろしい」
幽香は、満足げに頷いた。
「なら、特訓ね。実は、前々からメディに対してやってみたかった虐待…いえ、修行があったのよ」
「え…ちょ、待って。今、普通に虐待って言った?」
「名付けて、一週間で最強妖怪になれる<USC(アルティメットサディスティックコース)>」
「何なの、その見るからに最悪な名前!?」
「うふふふ…まずはそこら中の妖怪集めて百人組手ね。それが済んだら日課として、まずは軽めに500キロの
バーベルで素振り一万回。指一本で大岩を砕いた後は幻想郷を兎跳びで一周。更に苦痛に耐える訓練として
油風呂、針の山歩きに火の輪くぐりも…」
「ちょっとー!?」
あまりにも不吉すぎる言葉の数々。メディスンの顔からは既に血の気が失せている。
レッドは、そろそろと医務室のドアを開けて。
「…じゃあ…俺は、これで…お前がいつか強くなって俺の前に現れる日を、楽しみにしてっから…」
Bボタンを押しながらダッシュで駆け出した。怪我人とは思えないスピードである。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ヒーローのくせに子供を見捨てるの!?お、置いてかないで!殺されるぅ~っ!」
メディスンの悲鳴は、会場中に響き渡ったという。
その後、彼女がどのような修行を受けたのか。
その成果はあったのか。
それは誰も、知り及ぶ事ではない…。
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