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「北斗の拳 ラオウ外伝『そこに正義は無い』」(2011/01/22 (土) 21:48:31) の最新版変更点
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199X年、地球が核の炎に包みこまれてからは、世界は、暴力が支配する時代となった。
核によってもたらされた甚大な被害。人はその日食事をすることですら手一杯だった。
そんな狂気の時代に、一人の男が出現した。
その男は、1800年の歴史を持つ、至高の暗殺拳の伝承者になりそこなった男。
幼少の頃より既に『天』を掴もうと追い続けた拳王がいた。
その男の名は、ラオウ。北斗三兄弟の長兄である。
彼は、義父リュウケンの殺害後、自分の力量一つで拳王軍を作り、天を掌握する為に動き出した。
信じられる物は自分の力のみ。他人の情けなど恥辱意外の何物でも無いと考え、生きてきた。
その考えはこれからも変わることは無い。ラオウの元に集まった者達は、その思想に恐怖を覚え、
ラオウの言う儘に征圧前進あるのみと考えた。
その日も、拳王軍は小さな村を襲おうとした。
その村は過疎地であった。食糧も儘ならないのではないかと思われるような土地であった。
崩れ落ちた廃屋、砂塵が吹き荒れ、子供達は痩せこけている。
男達は必死の思いで働き、女達は数少ない食糧で飯を食べさせている光景が窺える。
だが、村人達の眼が死んでいる訳では無かった。
苦しい生活の中でも彼等は強く生きていた。
その証拠に、村を駆けまわる子供達は、苦難を乗り越えたような、輝きに満ちた顔で笑っていた。
この恐怖の時代に、この貧困な村は、心だけが豊かであった。これもまた一種の『平和の象徴』と言えるだろう。
ラオウは愛馬、黒王号と共に、村に乗り込む。
「これはこれは、どの様な御用件でしょうか?」
年老いた老人が笑顔で更に皺を刻んだ顔を見せて、拳王に近づく。長老であった。
優しい、顔だった。乱世の時代に身を落としているとは考えられないような顔だった。
「オラオラ! 命が惜しくば食糧を明け渡せ~!!」
モヒカンの男達が重火器を持って村人を襲う。
拳王軍の領土を拡大する為、この様に村を制圧し、領村にすることは多かった。
昼下がりのこの時刻、家事から離れ、休息をしていた主婦も、老後の人生を安泰に過ごしてきた老人も、
汗水垂らして働いてきた男達も、朗らかに笑い、遊んでいた未来ある子供達も……
皆等しく、紅く、美しく、燃え上がる。
「ギャハハハ! 消毒されてえか~!」
モヒカンの男たちが下卑た笑顔を浮かべながら殺戮を繰り返していく。
「な…何ということを……」
長老は急いで、今生きている女子供の避難を優先した。
無論、その都度、殺されていく人もいた。
しかし、男達の、決死の補助により、逃げ切れた人も多かった。
だが、それでも、彼等は抵抗することは無かった。
単に、武力が無いだけなのかとも考えた。だが、抵抗をしてこない村人にラオウは憤りを感じた。
「貴様、何故抵抗せぬ。これほどまでに村を焼きつくされ、子供まで殺しているのだぞ?」
ラオウが長老に近付き、問いかける。
「わ…私達は、抵抗する気はありません…ただ…今生きている者だけでも助けなければ…」
長老は声を震わせていた。握っているその拳からは、紅い雫が零れ落ちていた。
「ぬう、それ程までに怒りと哀しみを露わにして何故抵抗せぬ!? 其れほどに哀惜の念に駆られておるならば、この拳王に立ち向かって来い。
うぬには抵抗する牙すら無いのか!!」
額に血管を浮かべ、長老の首根っこを掴む。
長老の細い首は、握ればそのまま折れてしまう程にか細く、弱いものだった。
「抵抗をしなければ死ぬ。生き延びたくばこの俺の腕を食いちぎってでも脱出してみろ。抗わねば、戦わねば貴様は死あるのみだ!!」
「ち…長老!!」
村人達が涙を流しながら駆けよる。その顔は、今にも拳王に殴りかからんばかりの表情であった。
「フフ、そうだ。それで良い。戦わねば何も得ることは出来ぬ!」
ラオウが村の男達に対して微笑む。自分にとって先程までの無抵抗は虫唾が走るものであった。
特に、無抵抗を武器と考えるような者などカス以下の以下である。
だが、ラオウの目論見とは裏腹に戦いが起こることは無かった。
「や…やめんかぁ!! 君達は、戦ってはいけない。君達には子供達を次代へ導かなければならない男達! 死ぬ者は、この老いぼれ一人で充分…
さあ、逃げろ…」
喉を掴まれたままの状況だが、あらん限りの力を振り絞り、声を出した。
村人は歯を食いしばり、血の涙を流して逃げた。その先に、光が待っているのか闇が待っているのか、それさえ分からぬまま…
「貴様何故男達を逃がした? うぬは命が惜しいとは思わぬのか? 脳ミソがクソになっているのか?」
ラオウは依然として喉を握る力を緩めない。もう一息で首の骨を折ってしまうだろう。
「闘争は……悲劇を呼ぶ…ばかりです。私…は、この小さな村で……乱世の煽りを受けても耐えしのぎ……日々の幸せを守って参りました。
闘争をしてしまっては、日々の生活など送ることは出来ない。私はこの命を犠牲にしてでも、村人や子供達を戦火の元に晒したくは無い!!」
肉体的なダメージが強くなり、吐血をしたが、それでも、長老は抵抗をしない。
「ぬうう!! 気に入らん。戦えばこの苦しみからも逃れられるというのに、何故戦わぬ?」
「私は戦いたくは無い…ただそれだけのことです。戦いとは、勝った者を幸せにするとは限ら無い。戦いに正義など無い!!」
長老が叫ぶ。ラオウは長老から手を放す。長老はすっくと立ってラオウを見る。
拳から血を流し、恐怖心からか、体を震わせながらも物怖じせず、拳王を見上げていた。
「この拳王を前にして物怖じせぬその態度でありながら頑なに戦闘を拒むその姿勢。圧倒的な死の恐怖を前にしてのその行動に敬意を評そう」
巨象程もある巨大な馬、ラオウの愛馬、黒王号から降り、ラオウは老人の前に立つ。
「戦いに正義は無い、と言ったな。元より戦いに正義などと言う抽象的な物など求めてはおらぬ。戦わなければ全ては手に入らぬということだ。
このラオウが目的とする物はただ一つ、天だ!! 天を掌握する為ならば神とでも戦える」
ラオウがその右拳を老人に突く。象の脚程もある巨大な腕が、老人に目掛けて突き進む。
「だが、この拳王を相手に臆さずに自分の主張を貫いたことに敬意を持って答えよう。これが天をも掌握する世紀末覇者、ラオウの拳だ!!」
ラオウの拳によって、老人はその肉体を二つに裂かれた。即死だった。
ラオウは黒王号に乗り、軍を率いて、村を制圧した。
先日まで平和だったこの村も、拳王の支配下に置かれ、恐怖の日々を過ごすことになる。
やがて、そのラオウの覇業にも終止符が打たれることになる。
原因は、圧倒的な力を持った世紀末覇者ラオウの敗北であった。
その男は胸に北斗七星を模った七つの傷を持つ男にして、北斗神拳の正統後継者である。
その男の名は……
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